Thinkingsでは、変化が大きい社会環境の中、より良い採用・組織づくりを実現するヒントを提示することを目指し、2023年より「採用トレンド予測」を発表しています。
第2回目となる今回は、2024年12月5日に開催された「2026年卒 採用トレンド予測 発表会」のイベントレポートを、新卒採用においてAI活用に踏み込む2社の事例を含めて紹介します。
■プロフィール
Thinkings株式会社
代表取締役社長 吉田 崇
■2025年卒 採用トレンド予測「採用3.0」
吉田:Thinkingsでは、2023年から「採用トレンド予測」を発表しています。昨年は「採用3.0」というキーワードでAIの台頭により採用市場の大きな変化を迎えることを予測しました。
今年はその予測をさらに具体化し、実際に採用活動でどのようにAIが活用され始めているのかという点にも触れながら、26年卒採用の予測をお伝えします。
― sonar ATSのデータから見る早期化の実態
吉田:現在、採用市場は売り手市場で、学生が優位な立場にあります。以前のような企業側が選ぶ時代ではなく、「企業が選ばれる」時代に突入しています。このため、企業は早期に学生と接点を持とうとし、採用活動の早期化が進んでいます。
sonar ATSのユーザーデータでは、経団連が定める広報活動解禁日である3月1日以前に、25卒採用の本選考エントリーを開始した企業が前年比7.5ポイント増加し、今後もこの流れは加速すると予測されます。
― 学生側の視点
吉田:25卒就活生へのアンケート調査では、「就活中に感じた不安」として「自分に合った企業を見つけることができるか」がトップとなりました。売り手市場で内定を獲得できることが前提となり、今は「自分に合う」企業かどうかという”納得感”が重要視されています。
また、選考を受けるモチベーションが上がった理由としては、「交通費負担の軽減」がトップで、2位以降は「リアルな情報提供」や、選考に関するフィードバックなど企業側の「個別対応」に関する内容が上位を占めています。
一方で、選考を受けるモチベーションが下がった理由では、「企業の評判が悪い」がトップでした。口コミサイトの一般化で情報の透明性が高まる昨今、普段からの企業姿勢が採用に大きく影響を与えています。加えて、選考の長期化に対する懸念もあり「スピード感」も求められています。
― 企業側の視点
吉田:一方、多くの企業では、採用コミュニケーションにおいて「個別対応が必要」という点に難しさを感じていることがわかりました。「個別対応」の具体的な課題としては、「マンパワー不足」や「学生のニーズの把握」に苦慮する声も多くみられました。
学生一人ひとりに合わせた「個別対応」を行うには多くのリソースが必要で、難易度も高い状況です。そのため、いかに戦略的にリソースを配分し自社に最適な「個別対応」を実現するかが、採用の成否を分けるポイントとなっています。
そこで本日は、25卒採用で内定承諾率を高めた2社の取り組みを紹介し、採用成功のヒントと潮流を読み解きます。
人事本部 第一採用局 局長 小林 実来 様
新卒で人材・教育事業を行うスタートアップに入社し、プログラミングスクールの
事業立ち上げに従事。その後、関心を持っていた人事領域にチャレンジするため、
株式会社ワンスターに中途入社。現在は新卒採用責任者として新卒採用の戦略設計
から実行、また新卒採用チームのマネジメントに従事
小林様:ワンスターは、デジタルマーケティングで企業を支援するインターネット広告代理店です。「理念経営」を掲げ”だれと働くか”を重視しており、採用活動にもそれを反映し、「理念採用」を実施しています。そのため、スキル面などだけでなくその人の価値観も重視した採用活動を行っています。
Q. 新卒採用における課題
吉田:まず、新卒採用における課題を教えてください。
小林様:母集団形成や選考離脱の防止など課題は多いですが、ここ数年の最大の課題は「内定承諾率」の向上です。新卒採用を開始した17卒から23卒までは内定承諾率50%以上を保っていましたが、24卒では市況感の変化や弊社の組織フェーズの変化などもあって30%にまで下がり、「このままの採用活動ではいけない」と感じ様々な改善を行ったところ、25卒では60%に回復させました。
吉田:内定承諾率が数パーセント変わるだけで、それまでの採用活動が報われるかどうかに大きく影響するので、重要な指標ですね。具体的にどのような取り組みを行ったのでしょうか?
Q. どんな取り組みを行ったのか
小林様:大きく3つの改善を行いました。1つ目は、学生との接点を増やし、できる限り個別対応できるよう最適化したことです。2つ目は伴走型コミュニケーションで、専属人事リクルーターが学生の就活を支援するような立場で伴走しました。3つ目は、採用管理システムでの自動化や、面接のフォーマット化、アシスタントの方に依頼するための型化などにより、質を担保しながら徹底的に効率化を図りました。
吉田:採用人数20数名に対して採用担当者3名体制で、それらを実現されたのは驚きです。
小林様:人事がすべき仕事に集中できる仕組みを構築したことで、座談会や面談など、学生の意思決定に大きな影響を与える”社員との接点”を増やすこともできました。
Q. 取り組みによって得られたこと
吉田:取り組みを通じて得られた成果について教えてください。
小林様:学生が会社の良い点・悪い点を理解した上で、納得感を持って意思決定してくれるようになりました。
吉田:今の学生はどのような状態になれば、この会社だと”納得”できると考えていますか。
小林様:まずはロジカルに、意思決定のためにどんな情報が必要か、何を重視するかなどを整理することが重要です。当社では学生と一緒に整理することもあります。しかし、最後の決断は感情面で行うと考えています。そのため個々の状況に合わせたコミュニケーションを徹底し、最終的に納得して意思決定できる状態をつくれるように努めています。
Q. 26年卒採用からの改善点
吉田:26卒以降に向けて、さらにどのような改善を検討されていますか?
小林様:既に開始している26卒では、学生の意思決定が早まっている印象です。そのため、選考短期化への対応を進めるとともに、長くなる内定期間のフォロー施策を強化します。社内イベントへの招待や懇親会を増やすなど、内定辞退の防止にも力を入れる予定です。また、自社のマーケティング事業で既にAIを活用しており、それを応用する形で、採用でもAIを活用していきます。
吉田:非常に面白いですね。採用市場では、マーケティング業界の流れを1~2年遅れで追いかけ変化してきた歴史があります。かつての紙媒体からWEBへの変化などもまさにそうです。具体的にどのように活用されるのでしょうか。
小林様:過去の採用活動で取得したデータなどを活用し、特定の面接の合格可能性を予測するモデルの構築を進めています。
今回、採用活動の「個別対応」傾向について、大変ではありますが「理念経営」を行う当社としては良い側面もあると思っています。お互いに納得して採用・入社に至ることができるよう、今後もテクノロジーを活用しながらより良い採用活動を実現していきたいと思います。
― 株式会社北國フィナンシャルホールディングス 様
吉田:続いて、石川県金沢市の北國フィナンシャルホールディングス様のお取り組みを紹介します。
新卒採用における課題と成果
吉田:北國フィナンシャルホールディングス様では、UIターン学生の採用と、自社が求める人材だが業界に関心が無い学生に関心をもってもらうこと、の2点を課題とされていました。
25卒採用では、「志望度の高い学生をいかに増やすか」を目指した結果、24卒と比較し、本選考エントリー数が1.1倍、内定承諾率65%以上を維持、内定者数1.4倍という成果を上げられました。この成果の背景にある取り組みを具体的に紹介します。
新卒採用での取り組み
吉田:北國フィナンシャルホールディングス様では、特にインターンシップに注力されました。2日間の夏のインターンシップでは幅広い学生と接点を持ち、自社の事業を網羅的に体験できる内容に工夫されました。また、参加者限定で本選考の内容公開イベントを実施し、書類選考で「なぜその質問をするのか」を含め自社の考えを説明するなど、選考意欲を高める取り組みもされています。
さらに、インターンシップ参加者限定で東京での社員座談会を開催するなど、社員との接点を増やす取り組みも実施しています。まずは自社を知ってもらうことが必要ですが、スカウトサイトの活用を強化したことで、業界に関心のない学生にも接点を持つことができています。
3年生の夏には、学生がまだ幅広い業界の企業を見ている傾向があることから、夏のインターンシップに注力した取り組みを実施されました。そこから様々な施策で、自社への志望度を高めるような接点を増やしたことが、成功の要因だったのではないかと思います。
内定承諾率の高さの秘訣
吉田:内定承諾率65%以上を維持している秘訣は、人事が何をすべきかを突き詰めて考えられている点です。人事業務の特徴として、基本的に採用担当者は学生の個別フォローを担わず、社員が担う体制を整えています。採用管理システムなどを活用して工数を削減しながら、人事は学生との接点を企画・設計・調整することに注力し、社員を通して働くイメージを持ってもらう戦略です。
26年卒採用からの改善点
吉田:UIターンという選択肢もあることを早めに提示するため、26卒採用では3か月早めて2年生の3月からインターンシップのエントリーを開始されます。また、UIターンを志望する学生は、企業情報だけでなく地域の暮らしや環境も含めてリサーチするため、動き出しが早くなる傾向があることから、それに合わせて対応を早めるとのことです。
2つ目はエントリーシートの廃止です。ChatGPTやクチコミサイトの台頭により、各企業に適したエントリーシートが以前よりも簡単に作れてしまう状況になり、エントリーシート自体が無効化されてきています。北國フィナンシャルホールディングス様に関しても有効性に疑問を感じられており、より客観的で公平な評価という点でも改善されたいとの理由から、AI面接の導入に踏み切るとのことです。
■2026年卒採用 トレンド予測
吉田:最後に、2026年卒採用のトレンドについてお話しします。売り手市場の中、学生側では内定が得られることが前提となり、そのうえで「自分に合う」という”納得感”を重視する傾向が強まっています。
一方、企業側では、その”納得感”を生むために、より踏み込んだ「個別対応」が求められるようになっています。しかし、「個別対応」にはリソースが必要なため、自社のリソース配分をいかに最適化できるかが問われています。
売り手市場で企業側がここまで採用難に追い詰められていなければ、DXやAI活用はもっと遅れたのではないかと思います。しかし、採用の難易度が上がり「個別対応」まで必要となる今、リソース配分の最適化において、AI活用が有力な一手になってきています。企業は、自社の状況に合わせてより戦略的に、人が対応すべき部分とAIやテクノロジーが担う部分をすみ分けていくことが重要です。
こうした背景から、Thinkingsでは、「採用リビルド with AI」というキーワードで、2026年卒採用のトレンドを予測します。26卒採用では、リソース配分の最適化のために自社の採用活動を見直し、AIやテクノロジーの活用を踏まえた「再構築」をする動きが加速すると考えます。
採用活動でAIを活用できる状態になってきた今、企業側の状況から、必要に迫られてAI活用はさらに進むと考えています。 今後もThinkingsでは、より良い採用活動へのヒントとなるよう、採用市場の潮流を読み解き、お伝えしていきたいと思います。
【関連情報】
今回の採用トレンド予測に関連する、調査データやアンケート結果も公開しています。
・25卒就活生の選考に関する意識調査レポート
・「採用コミュニケーション」に関する採用担当者へのアンケート調査