創刊55年を迎える月刊誌『食べもの通信』。新社長に就任した古家裕美が受け継ぐ想いと描く未来像

2024.12.20 11:00
2025年に創刊55年を迎える月刊誌『食べもの通信』。その発行元である食べもの通信社は、「公害から子どもたちの命を守りたい」「健やかな命を未来につなぎたい」という熱い想いを幹に、1970年にスタートしました。


今年、新社長として古家裕美が就任し、一つの転換期を迎えている食べもの通信社。新社長のもと、何を受け継ぎ、どう進化していくのか。このストーリーではその想いと未来を語ってもらいました。
外部スタッフとしてお手伝いの立場から始まり、葛藤を抱えながらも社長に就任
こう言っては元も子もないんですが、私が社長に就任したのはなりゆきだったんです。


私が食べもの通信社に参加した当初は、あくまでもお手伝い的立場の外部スタッフでした。と言っても、その当時、正社員という立場の人はおらず、月刊誌をメインで執筆、編集していたのも「家庭栄養研究会」という外部スタッフです。
その後、私を含めて徐々に正社員が増えていったのですが、その中で歴が長かったのがたまたま私で、その結果、お鉢が回ってきたというわけです。


そんな状況でしたから、私は社長に就任するにあたっていくつかの懸念がありました。
まず、食べもの通信社が掲げる理念やポリシーをしっかり継承していけるのか。そのうえで組織を存続させ、関わる人達の生活や仕事の場を守っていけるのか。そのために何をすべきか。何ができるのか。
そもそも、食べもの通信社に参加した当初はほんのお手伝いのつもりでした。だから、私の中ではずっと、外部の人間だという意識があり、その分、社長になることの葛藤は大きかったように思います。
システムエンジニアから編集者へ。出産と育児をきっかけに気づいた、食と健康の重要性
私は元々、システムエンジニアをしていて、プログラミングやシステム設計のプロではありましたが、編集に関してはむしろ素人でした。
そんな私が、なぜ食べもの通信社にやってきたのか。その経緯を少しお話させてください。


システムエンジニアとして、人事や給与関連のソフトウェアを開発する会社で働いていましたが、とある本との出合いから私の人生が変わり始めます。それが、あのベストセラー本『金持ち父さん貧乏父さん』です。あの本を読んで、思いきり影響を受けて「サラリーマン生活なんてリスクだらけだ」と退職してしまったんです。これが第一の転機。そして、40歳の時にもう一つの大きな転機が訪れます。子どもを出産したことでした。


まだ、妊婦だった頃、母親学級で「子どもは食べものでできている」と言われたことがとても印象的で、なるほど、と大いに納得したことを覚えています。
それまでは、どちらかと言えば食に無頓着でしたが、ここから食べものや健康に関心を持ち始め、いろいろと考えるようになったターニングポイントでもありました。
初めて子どもを抱いた時は、小さいのにとても重くて、これが命の重さなのかと実感しました。そして、「この命を大切に育てていこう。そのためには食べものに気を配らなくては」という思いが自然に湧き上がってきたのです。
この時感じた思いが、今の私のベースになっていると言えます。


子育て中は仕事を休んでいたのですが、ある時、知人に「ブラブラしているなら働いたほうがいい」と言われました。その人は私より年上ですが、独身でずっと働き続けている人で「女性も自立して、一生涯の仕事を持つべき」という考えの持ち主。その人に紹介されたのが、食べもの通信社でした。
小規模だからこそ「できることは何でもやる」。休刊危機を脱すべく単行本を出版し、広告やデザインも担当
最初は、電話対応や月刊誌の発送業務、経理などの事務作業が主な仕事で、システムエンジニア時代に得た経理の知識があったため、事務方として重宝されました。
とは言え、小規模な組織だったので、仕事に慣れるにつれて業務内容はどんどん広がっていって、単行本の企画や制作にも関わるようになっていきました。
ここ数年で発売した単行本の数々


私が食べもの通信社に加わった15年ほど前は、ちょうど月刊誌『食べもの通信』が休刊危機にある時でした。それまで1万部ほどだった購買数が、3千部にまで激減していたからです。


それでも、『食べもの通信』をなくしてなるものか! という強い思いを持った「家庭栄養研究会」のメンバーと共に誌面の大幅リニューアルなどで何とか存続を図っていましたが、これまでと同じことをしているだけでは未来はありません。月刊誌の他に、単行本の出版も積極的に行っていくことになりました。


けれど、経費はなるべく削減したい。ということで、組版を覚え、広告の制作やフライヤー作成、書籍のデザインやレイアウトなども手掛けるようになっていきました。これはもう、やれるとか、やれないとか言っている場合ではなく、やらなきゃならないという状況。制作スキルはイヤでも上がっていきました。


ちょっとしたお手伝いの事務方のはずが、気がつけば、制作部門の中核メンバーになっていました。単行本の出版を通じて、経営改善や新規読者の獲得などにも貢献できるようになり、業務全体の効率化や新規事業の推進など、あっちにもこっちにも首を突っ込むことに。けれど、「自分にできることは何でもやる」というスタンスで何事にも取り組む中で、周囲からの信頼を得ることができ、徐々に責任ある業務を任される立場になっていきました。


私自身、新しいことに挑戦するのが好きだったので、業務の幅が広がることはウエルカム。ただ、器用貧乏というか、いろいろな分野を一通りこなすことはできるけれど、なにか一つを極めることができないのが私の弱点でもあります。
社長という立場になっても、多様なスキルと経験を活かし、実務をこなす日々に変わりはありません。なにせ、万年人手不足の小規模出版社ですから。
心と体と社会の健康を高めるために。根幹の想いは継承し、時代に合わせた進化を
月刊誌『食べもの通信』の読者数は回復しつつありますが、新たな読者を取り込むための試みはまだまだ必要です。特に、若い世代へのアピールは欠かせないため、SNSやデジタルプラットフォームを活用した広報活動などの強化は必須。また、私自身の飽きっぽい性格をポジティブに活用して、新しいプロジェクトや課題にもどんどん積極的に取り組んでいこうと思っています。


人の身体は食べたもので作られています。食を大切にするからこそ、健康な身体と健全な精神、そして、平和な社会が守られると、私は確信しています。
食べもの通信社の根幹となる「心と体と社会の健康を高めるために」という想いはこれからも変わらず、変えることなく受け継いでいくものです。
その一方で、それを伝える手段は時代に合わせ、変化と進化を遂げていくもの。より多くの人に私たちの想いを届けるために、まだまだ私たちは前を、上を目指していきます。
社長として、その歩みをリードしていけたら、と思います。
月刊『食べもの通信』
2025年1月号から一部カラーに。新連載もスタート
会社概要
会社名: 株式会社食べもの通信社
本社: 東京都千代田区神田神保町1-46
代表者: 代表取締役 古家裕美
事業内容: 書籍及び雑誌の企画・編集・制作・発行
Webサイト: 
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