米国に本社を置くJ.D. パワーは消費者インサイト、アドバイザリーサービス、データと分析における国際的なマーケティングリサーチカンパニーです。1968年の設立以来、50年以上に渡って、自動車業界をはじめ様々な業界の企業に、業界インテリジェンスや消費者インサイト、アドバイザリー、ソリューションを提供しています。
このストーリーでは、J.D. パワー ジャパンのオートモーティブ部門で、営業マネージャーとして、自動車関連のシンジケート(業界ベンチマーク)調査、およびプロプライエタリ(個別受託)調査を担当する末重 秀哲に話を聞きました。
―末重さんのこれまでのキャリアと入社のきっかけを教えてください。
自動車好きが高じて、ドイツの自動車メーカーの日本法人でキャリアをスタートさせました。環境先進国ドイツでは2000年頃から燃料電池の研究や実車への搭載等に関する開発が本格化していました。こうした研究開発やリサイクル分野での先進的な事例の数々を目にし、ドイツ本国からの情報は大いに刺激になりました。先端技術、予防安全技術、環境対策を中心とする開発において、海外と日本でのギャップを感じ、特に日本国内での環境対策や法制化の遅れに大きな危機感を抱いたことから、環境対策や自動車リサイクルを扱う新部門の設立にも携わりました。その後も一貫して自動車業界の様々な業種や業務を経験してきましたが、根底にはこの当時からの環境問題や国内と海外での情報のギャップに対する意識が活きていると思います。
J.D. パワーの業界ベンチマーク調査は自動車業界内では以前から知られた存在で、私自身もキャリアをスタートした頃から認知していました。現在、J.D. パワーでは従来からの消費者インサイトのみならず、コンサルティングやアドバイザリー・サービスの提供にも力を入れていること、また、本国アメリカではデータ分析やソフトウェアにも重点を置きビジネスモデルを進化させていることを知り、この会社に興味を持ちました。100年に一度とも言われる自動車業界の大変革のタイミングで、消費者行動の理解におけるパイオニアであるJ.D. パワーに身を置き、精度の高い業界インテリジェンスの提供を通じてこの変革に携わることへの意義を感じて入社しました。
―J.D. パワーでの担当業務について教えていただけますか。
現在、VOC(Voice of Customers:顧客の声)を届けるために、日々、自動車業界をはじめとする様々な企業を訪問して弊社調査のご紹介をさせていただいています。お会いする方々との情報交換を通して、様々な立場のご意見をお聞きし、気付きを得られることに仕事の面白みを実感しています。私は主に国内のクライアントを担当していますが、弊社の海外調査に関するご質問やご相談をいただくこともあり、海外オフィスとの橋渡しをすることで、これまで知らなかった市場や情報にも接して新たな学びにもつながっています。
弊社の調査を活用し継続的にCS(顧客満足度)改善活動を実施されている企業やブランドの取り組みの成果が、その後の調査結果に表れていることを確認できたときは、とてもやりがいを感じます。
―今年、日本では初となる電気自動車の保有体験に関する調査をスタートさせるそうですね。
EVオーナーを対象にEV保有体験を聴取する、
です。同調査はアメリカでは2021年から実施されていますが、ここ数年日本でも国産・輸入車共にメーカー各社のEVラインナップに徐々に広がりが見えてきたことから、日本でもスタートさせることになりました。
昨年は導入として、EVの購入検討段階の顧客行動(認知→興味→検討)や購買行動を把握する
を実施し、EV(BEV:バッテリー式電気自動車に限定)の購入検討有無や、消費者の EVに対する意識や考えを明らかにしましたが、今年はEV(PHEVを含む)を購入(リースを含む)してから先の行動(比較→購入→保有→体感→推奨)を把握すべく、本調査を実施し発表します。
本調査に先立ち、昨年、EVイノベーター層を対象にEV保有に関するアンケート調査を実施し、言わば「モノ言うオーナー層」の生の声からEV普及の課題や細かな気付きを得ることができました。例えば、現在EVを保有している彼らのほとんどが次回の買い替えでもEVを検討していること、基礎充電よりも経路充電や目的地充電へのニーズが高いことなど、彼らの声で浮き彫りになった実態も本調査の設計に活かされています。
―調査の概要を教えてください。
今回J.D. パワーでは日本初となるEVオーナーを対象にEV保有体験を聴取する「
」を2024年12月に発表します。2021年から2024年式の新車・中古車の電気自動車(EV)またはプラグインハイブリッド車(PHEV)のオーナーを対象に、彼らのEV・PHEV保有体験を評価してもらい、 EVシフト初期段階である日本のEV市場の現状を把握し、EV普及に向けた課題を探ります。今現在の国内における主なEV保有層であるアーリーアダプター層やアーリーマジョリティ層がEVのどんな点に満足し、またどんな点に不満を感じているかを多面的に分析出来るような構成になっています。
また、EV・PHEVオーナー像や使用状況、EV・PHEV保有体験に影響を与える重要な要素を明らかにし、今後EVを幅広い層に拡大していく上での手掛かりとなる情報を業界に提供します。
日米市場の比較や、EV普及で先行する米国市場の状況を知ることで、日本の近い将来に起こり得る課題の予測にも役立ちます。
■J.D. パワー日本EVエクスペリエンス(EVX) -オーナーシップ調査℠の詳細は
―日本でのEVを取り巻く状況や市場環境についての考えを聞かせていただけますか。
近年EVのラインナップが徐々に拡大し、EVの購入検討者および保有者層も徐々に変化しています。「
」によると、新車購入時に検討したエンジンタイプとしてEVは10%となっています。EVは選択肢の一つになりつつありますが、充電インフラの現状や、個々の使用環境、購入価格と維持費のバランス等を考慮すると、今だ消費者の選択はEV一択とはならない状況で、市場に参入する各プレーヤーは複雑な課題を抱えています。
現状の選択肢の中から何を選ぶかはあくまで消費者の判断です。市場は、限られたプレーヤーの戦略や限定的な政策によってではなく、VOCを含む様々な要素により市場原理が働いて変化すると考えています。J.D. パワー調査を通じて業界にVOCを届けることで、モビリティやそれを取り巻く社会の発展に寄与できればと考えています。
―最後に、自動車業界において他に注目していることを教えてください。
2016年にドイツの自動車メーカーが中長期戦略として発表したCASE戦略は、今や一般用語化すると共に関連産業に裾野が拡大し、より便利で安全な移動環境が広く提供されることが期待されています。
そしてEVが普通の存在になった時、モビリティの新たな楽しみや喜びがどのようになっていくのかを、一人の自動車好きとしても大変注目しています。