左:商品本部商品開発課 マネージャー 會澤勇紀、 右:商品本部 本部長 田中昭江
ノア精密株式会社は1979年より40年以上東京浅草周辺で、「ハカル」をテーマに「MAG」という自社ブランドにて時計や計器類のものづくりを続けています。お客様の「困った」「わからない」の声を「カタチ」にし、豊かな気持ちで「時」を過ごすお手伝いをさせて頂ける事をミッションととらえており「商品をつうじて社会奉仕」という企業理念を持ち続けています。
今回のストーリーでは、お客様の「困った」から誕生した無線LAN時計第2弾「MAG無線LANアナログ掛時計」の開発の裏側についてお話したいと思います。
時刻ズレ問題をスマホ時刻で解決。お客様の困りの声に応えて生まれた無線LAN時計の誕生経緯と実現へのプロセス
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以前より一部のお客様から「電波時計を購入したが時刻があわない」「電波時計なのに時刻がずれる」というお問い合わせに対し、原因のほとんどが送信所からの電波の受信に失敗によるものでした。
お問合せをいただけると解決策をご説明することができ、お客様の時計は正常に動作しそのままご利用いただくケースがほとんどです。またお客様自身でも解決いただけるよう動画等コンテンツの充実を図ってきました。
しかし、日中にお問合せできない、自分で解決ができる術がない等のお客様状況により販売店様や当社へクレーム品として返品されることや、場合によっては廃棄処分されることもありました。
このように、本来は製品に問題がなかったのに電波時計が受信しないと誤認されてしまい返品をいただく状況が多々あったため「お客様に電波時計をストレスなくご利用いただける方法」を考えておりました。加えて、SDGsへの取り組みやサスティナブルな社会への実現にも私達はどのような取り組みができるか?という課題をもって商品開発を進めておりました。
そのような状況の中、スマートフォンやPCの時刻(NTP情報)からヒントを得て誕生したのが無線LAN時計第一号となる「MAG無線LAN時計セットレス」(2023年7月発売)でした。
多くの方から「ありそうでなかった商品だね」「電波時計が使えなかった場所にようやく導入できそう」とのポジティブな声をいただき反応の高さを実感することができました。
無線LANで簡単接続。「デジタル時計」と「アナログ時計」を同時推進していた開発コンセプト
1号機にデジタル時計を採用した理由と狙い
1号機「MAG無線LAN時計セットレス」は卓上サイズのデジタル時計です。
スマートフォンの登場により、デジタル時計や置き時計の必要性は以前より薄くなっていると感じておりましたが、あえてデジタル置き時計での開発を選択しました。
理由の1つに、当時無線LAN時計という時計自体が市場には浸透していなかったということです。
まずはお客様が無線LAN時計を手に取った時に、「一般的な時計と同じように簡単に使える」と感じてもらうことが大切だと考えました。
時計本体と室内のインターネット環境との接続時のわかりやすさ、操作中の複雑さを解消するため、可視化のしやすいデジタル表示形式で進めることにしました。またスマートフォンの充電等で利用されるUSB電源を採用し、電池寿命の問題をクリアできる仕様にしました。
Wi-Fi接続は多くの人にとって日常となっていますので、上記のような工夫をすることで「MAG無線LAN時計セットレス」も他のデジタル機器のようにスムーズに使っていただけるようになりました。
しかし、需要が高いのは「掛け時計」で「アナログ時計」だと開発中から当然予想していた
当社は約40年以上の時計製造販売を経験する中で、目覚まし時計がガラケー/スマートフォンに移り変わってきた推移を体感しながらも、掛け時計においては一定の需要を維持していることから、時代が変わっても人が営む社会である以上、「時計」はリビングやオフィスなど「共用スペース」「人が多く集まる場所」へのニーズが衰えていないと考えておりました。
NTTドコモ モバイル社会研究所:2024年調査 スマートフォン比率97%:2010年は約4%(2024年4月15日) 参照
「置き時計」ではなく「掛け時計」を設置するのは、その場にいる人と「時刻」を共有しやすくし、限りのある「時間」を有意義に使うという目的から必要とされているのだと思います。
では「アナログ時計」が選ばれるのはなぜでしょうか?やはり「時間」を可視化しやすいことだと考えています。時計の文字盤に針の位置と目盛りで時間の間隔が可視化されているので、直感的にどれだけ時間がたったのか、あとどれだけの時間が残されているのか簡単に把握できます。
デジタル時計は現在の時刻をぴったり表示できる点は非常に便利ですが、「時間の間隔」や「時間の経過」を示すことはできません。
「アナログ時計」は「今なにをするべきか?」「これから時間をどのように使うか?」を考える際にとても有用です。
公私問わず人が集まる場所では、時間の使い方を考える場面が多いため「アナログ時計」が選ばれやすいのではないでしょうか。
このような考察から「アナログ時計」かつ「掛け時計」での無線LAN時計開発を進めるにあたり、デジタル時計とは異なり「設定中の時計の状態」を可視化できないことが当初の課題でした。アナログ時計で可視化できるものは『時計の針』しかありません。そこで時計の『針の動き』で時計の状態を表すことにしました。
秒針で接続状態を表現する品質検査の工夫と、針の動きにこだわった無線LANアナログ時計の挑戦
その後開発が進み、品質管理・検査においても、無線LANに接続した後の針の動作が今までのアナログ時計と全く異なるため、ムーブメントの検証段階から前例のない手探り状態でのスタートでした。
例えば10台のムーブメントを検証する場合、最初は「無線LANに接続できる機器が10台ないと検証できない」と思い込んでしまい、パソコンや社用のスマートフォンだけでなく、私用のスマートフォンまで総動員して検証を始めました。実際は、スマートフォン1台で何個でも無線LANクロックの設定はできるのですが、それに気付いたのは10台のムーブメントの設定が終わってからでした。
別の検証ケースでは、秒針の動きで時計の状態が判別できるが故に(2秒間隔で運針:接続失敗、3秒間隔で運針:接続中・・等々)、故意に無線LANに接続しない状況を作って2秒間隔で運針するかの確認、接続中に3秒間隔運針になるかの確認等、秒針の各動作に対しての確認が必要なため、通常のムーブメント検証に比べて工程が多く複雑に感じました。
また、取扱説明書の記載内容も一般アナログ掛時計とは違う表現をする必要がありました。様々な部署の社内スタッフへ実際に時計を使ってもらい、わかりづらい表現になっている箇所はないか確認し、修正する作業を繰り返し繰り返し行いました。
幅広い空間に溶け込むデザインと設置場所を選ばない利便性!「シグナルキーパー」無線LAN対応アナログ掛け時計の魅力
デジタル表示である「セットレス」は少しハードなイメージのデザインになっているかと思います。「シグナルキーパー」はアナログ表示の時計ですので、より多くの場所でご使用いただけると思い、少し柔らかいイメージをもつ数字フォントを選択し文字盤をデザインいたしました。年代もインテリアも問わない使いやすい設計になっています。
② 設置場所を選ばない
「セットレス」はPC等でも給電できる汎用性を考えUSB給電仕様となっています。言い換えると、電源の近くやPCの近くなど主に卓上での使用に限られている部分があり、「掛け時計」として使用する場合はデメリットとも言えます。
しかし「シグナルキーパー」は乾電池(単3型アルカリ乾電池2個)で駆動しますので、一般的な掛け時計と同じように設置場所に制限がありません。電池寿命も約12か月なので一般的な時計と同様です。
③ 購入いただく前にご自身の環境を確認いただく工夫
商品の箱に無線方式等についての対応について記載を入れました。店頭でご購入いただく際に、お客様自身で使用場所の無線LAN環境に適合しているかどうかをその場ですぐ確認していただくことができます。ご購入後も取り扱い説明書にFAQを記載し、コーポレートサイトに特集ぺージを準備しておくなどトラブルなくお使いいただけるようにしました。
スマホ時代における新たな価値。時代に寄り添う時計として無線LAN時計に込めたノア精密の工夫と新しい使い方
スマートフォンで簡単に時間管理ができる現在では、「時計」は必ずしも生活必需品とは言えない状況になりつつあります。通常、商品の新しいアイデアを検討する際は、スマートフォンにできないことを模索しアイデア展開することが多いのですが、スマートフォン等との連携により時計の時刻設定時のわずらわしさを解消することができる「無線LAN時計」についてはIoT技術を応用し利便性を追求した掛け時計です。
電波受信をしづらい場所でトラブルを抱えていたお客様でも、室内の無線LAN環境と接続機器があれば正確な時刻を刻む事ができるため、お客様のご不便(問題)解決のための提案商品として開発を推進いたしました。
デジタル機器に関して苦手意識がある方も多いとは思いますが、少しでも多くの方にご使用いただけるよう、前述の通り社内一丸となって、問題点を抽出し開発を進めた商品でもあります。より多くのお客様にご使用いただき、ノア精密の寄り添いの形がお客様に伝わればと幸いです。
ノア精密株式会社について
ノア精密株式会社は1982年の誕生から40年以上時計を中心に「ハカル」をテーマにモノ作りを続けてきた歴史を持つ、自社ブランド「MAG」をベースとした時計および計器類製品の企画製造販売を手掛けるメーカーです。
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