敵か味方か「タコグラフ」! トラックドライバーも運送会社も「監視する」運行記録計の中身

2024.11.02 20:00
この記事をまとめると
■トラックなどに装着される運行記録計がタコグラフだ
■現在はデジタコ(デジダルタコグラフ)が主流となっている
■タコグラフのメリット・デメリットを解説
ドライバーの行動を記録する「タコグラフ」
  荷物を運ぶ事業用のトラックには、タコグラフという装置の装着が義務付けされているのをご存じだろうか。タコグラフというのはトラックやバス、タクシーなどに装着されている、いわゆる運行記録計。つまり、ドライバーの行動がそのまま記録されるという管理者にとってはスグレモノのアイテムだ。ドライバーの動きをしっかりと知らなければならない運送会社にとっては、とても大きな意味をもつ存在なのである。
  そんなタコグラフは、国が装着を義務付けている。以前は車両総重量8トン以上または最大積載量5トン以上の大型トラックが対象だったのだが、平成26年に「貨物自動車運送事業輸送安全規則(国土交通省令)」が改正され、現在では車両総重量7トン以上または最大積載量4トン以上の事業用トラックへと拡大されている。
  筆者がトラックに乗って仕事をしていたのは、もう10年以上も前のこと。いまではSDカードにデータが数値化されて記録されるデジタコ(デジタルタコグラフ)が主流となっているというのだが、筆者はアナタコ(アナログタコグラフ)しか経験がない。そのため、まずはアナタコの特徴からお話したい。
  アナタコはデジタコのようなSDカードではなく、専用のチャート紙を速度メーターの内部にセットするという仕組みになっている。そうすることで、一日の運行状態がチャート紙に折れ線グラフでバッチリ記録されるのである。何時間走り続けたか、何時間停車したか。また、細かな速度までバッチリ記録されるのだ。会社で最高速度が定められているような大手運送会社のドライバーたちは、たった1km/hの超過も許されないと聞かされたことがある。わずかでも超過してしまうと給料や賞与に影響が出るため、つねに速度メーターとにらめっこ状態だというのだ。
  高速道路を走行している際、下り坂で前走する車両がいないにもかかわらず、ブレーキを踏んで速度を調整しているトラックを見たことはないだろうか。事情を知らないドライバーからすれば意味不明な行動であるのはいわずもがなだが、その行為には規則でがんじがらめにされたトラックドライバーの悲哀が隠されているのである。
  そんなタコグラフは、会社側からすればありがたい存在だが、ドライバーからすれば窮屈な存在にすぎない。すべてが監視されているため、自分のペースで仕事ができないケースも想定されるのだ。自身、過去にはブラックな運送会社でハンドルを握っていたことがあるが、アナタコの場合はチャート紙に運行状況が記録されるため、あとから自身の手で追加情報を記入する必要があった。つまり、停車時間になにをしていたのかを記入する必要があったのだ。
ドライバーを苦しめてしまうことも
  当時は、会社からの命令で高速道路は最低限しか使用できなかった。「寝る暇があるならば、下道を走れ」という会社だったわけだ。もちろん、そんな長時間の運行状況であれば業務停止という処罰の対象となるのは間違いない。タコグラフに運行状況が記録されてしまうため、会社としてはいい逃れができなくなってしまうのだ。
  そこで、アナタコの本領発揮である。荷物の積み下ろしに要した時間、つまり手積み手おろしの際はもちろん停車中であることがチャート紙に記録されるのだが、その部分に荷物の積み下ろしではなく、仮眠と「書かされて」いたのだ。当時はそれで問題なく通っていたのだから、恐ろしい話である。
  一方で、タコグラフはドライバーの味方になってくれることもある。きちんとした運行を毎日続けていると、会社からもきちんと評価されるからだ。しかし、多くのドライバーはタコグラフのことを煙たい存在だと感じているに違いない。4時間走行すれば30分の休憩を取らなければならない「430休憩」が施行されてからは、その窮屈さには拍車がかかっていることだろう。
  対するデジタコは、先述したようにチャート紙ではなくSDカードなどのデジタル媒体に情報が記録されるようになっている。速度や走行距離、走行時間などの基本的な情報に加えて、エンジンの回転数や急加速、急減速、ドア開閉の回数、GPSによる位置情報まで記録される(!)というのだ。
  アナタコではチャート紙に記録された折れ線グラフから情報を収集するほかなかったが、デジタコではきちんと数値化されるため、データの改ざんが困難になる。そのため、ブラックな運送会社がどんどん淘汰されるようになったのだ。さらに、運転日報を作成することも可能だという。この手間が省けるところは、ドライバーにとってありがたいことだといえるだろう。
  しかし、それを差し引いても余りあるほどの窮屈さに参ってしまうドライバーも、多いのではないだろうか。
  長距離ドライバーに対し、「ひとりだから自分のペースで気楽に仕事ができていいな」という皮肉めいた言葉を投げかける人たちは、かつて筆者が現役ドライバーだった時代にも数多く存在した。しかし、その内情はタコグラフによってつねに監視されている。そんな仕事をしていて、誰が快適だと思えるのだろうか。安全のためにタコグラフが必要不可欠な存在であるのは間違いないが、もう少しゆとりのある行程や適正なる運賃がトラックドライバーに支払われるような時代になることを、期待したいところだ。

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