メディプラス製薬が新成分を独自開発。医療界でも注目され、肌と体の健康管理に寄与する「オゾン化グリセリン」開発の軌跡を振り返る

2024.10.21 11:50
塩田剛太郎(しおた・ごうたろう)
昭和大学薬学部卒。薬剤師。日本医療環境オゾン学会理事、日本口腔機能水学会理事、日本オゾン医療学会常任理事
東京医科歯科大学「医療イノベーション推進人材育成プログラム」修了
東京工業大学 「知的財産戦略コース」修了
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 株式会社メディプラス製薬は、1973年の創業以来、医療現場におけるオゾン活用の応用技術(オゾネーション)の開発に取り組んで参りました。「オゾン化グリセリン」とは、メディプラス製薬が開発した独自成分。2004年に化粧品成分として登録された、世界初*の新規化合物です。


一般的には、まだよく知られていないものの、医療界で注目され、肌と体の健康管理のために利用されているオゾン化グリセリンについて、開発者である塩田剛太郎に話を聞きました。
※「」内はすべて塩田の発言 
50年間の集大成、安全かつ高い保水効果を誇る「オゾン化グリセリン」
「オゾン化グリセリンとは、オゾンとグリセリンを反応させた化合物です。
グリセリンは無色透明で低分子の物質です。水に溶けやすく非常に安定した性質を有しています。代表的な保湿剤のひとつで、化粧品の基材に多用されるほか、医薬品、食品添加物などの用途に幅広く使われています。
オゾンは分子式O₃の気体で、酸素原子Oが3つ結合した状態です。その性質は不安定で酸化力が強く、水溶性です。活性が高く化学反応を起こしやすいので“暴れん坊の性質”とも言われます。
このグリセリンとオゾンを化学的に反応させることで、今までになかった『安全なのに効く』『低刺激なのに効く』という特性を持つオゾン化グリセリンが誕生しました。オゾン化グリセリンは、グリセリンより水分保持効果、保水効果が高く、アトピー肌には特に重要な、肌の水分蒸散量を抑えるというデータも得ています」


オゾン化グリセリンができたことは、塩田自身も「想像を超えていた」と驚き、「我が社の50年間の歴史の集大成」だと語ります。幾度も難問にぶつかった開発のドラマを尋ねました。
◆取引先現場で目の当たりにしたオゾンの効果。1人の医師の疑問が皮膚再生の共同研究につながる
「メディプラス製薬の創業は1973年、昨年50周年を迎えました。私の父が創業し、オゾンをテーマにした研究開発を行なう会社です。オゾンは酸化力が強いので殺菌や漂白に使われます。酸化のプロセスで3つの酸素原子が1個離れて、オゾンは酸素O₂になります。つまり、オゾン殺菌やオゾン漂白は環境に悪いものは発生させない。それが大きな特徴です」


現在、日本の多くの水道ではオゾン処理でカビやニオイ成分除去をして、美味しい水を提供しています。プールの水も、肌や目に刺激を感じやすい次亜塩素酸の殺菌からオゾン殺菌に変わってきています。また、野菜もオゾン水で洗浄すると殺菌、鮮度保持ができて塩素臭がないことから、よく利用されています。
塩田は大学で薬学を専攻し、卒業後はメディプラス製薬に入社。「オゾン事業による医薬品開発で社会貢献を」という強い思いを持っていました。


「世界中の論文を片っ端から読んでいたとき、1980年のscience誌で『オゾンが選択的にがん細胞の成長を阻害する』という論文を見つけました。がん細胞は殺しても正常細胞にはダメージを与えない。そんな副作用のない抗がん剤が作れるかもしれない。世界最先端のオゾン技術を持っているわが社なら、他ではやれないがんの薬が作れる可能性があると思いました」
研究意欲に燃える塩田に対して創業者である父は厳しく、まずは営業、つまり取引先まわりを命じます(写真は創業者:塩田博一)。
「食品工場や医療機関をまわることで、現場のニーズにどう対応するかという意識、現場主義が身につきました」
さらに“現場”でオゾンの新たな性質に気づかされます。


「食品工場で野菜洗浄をしていた皆さんに『オゾン水で野菜を洗うとシャキッとするし、ニオイも刺激もないので、作業がしやすいよう手袋を外すようになった。すると、手が荒れないどころか、しっとりすべすべになってきた』と言われたんです。手を見せていただいて、驚きました。皆さんの声をヒントに、オゾン水の手洗い装置を製作しました」


この手洗い装置は「手が荒れずすべすべになる」と評判になり、ある病院に設置されました。場所は新生児の集中治療室、NICUに。菌管理が厳しく、看護師さんが1日に何十回も手洗いをするからと。あるとき、塩田はその病院の外科医に呼ばれました。


「何か問題発生かと思ったら、オゾン水には皮膚の再生効果もあるんじゃないか?と言われました。私は『いや、それは無いでしょう。オゾン水は抗菌剤です。脱脂をしないので手荒れはしませんが』と答えましたが、医師は『臨床の所見を見ればわかる』ときっぱり。その時点でオゾン水が皮膚の再生に関わるという論文はありませんでしたが、『だから面白いんですよ!』という医師に背中を押されて共同研究が始まりました」


臨床試験は、重度の火傷、床ずれ(褥瘡)に対して行われ、症状が改善するというデータが得られて、オゾン水が皮膚の再生に働くことが証明されました**。これも新たな発見。オゾン水の野菜洗浄から手洗い装置が作られ、医療現場で使われることで臨床研究に繋がりました。
「医師が偏見のない方で、『何かあるな』という視点がオゾンの新たな性質の発見に繋がりました。まさか、という思い込みを持ち続けていたら、こうはならなかったので感謝しています」
◆短時間で酸素に変わってしまうオゾンの半減期を延ばせる素材とは。100種以上を試して辿り着いた「オゾン×グリセリン」という組み合わせ
オゾン水による皮膚の再生効果が証明され、肌荒れや火傷、床ずれなどの難しい症状に貢献できると解りましたが、問題も現れました。オゾン水を作る装置は高価で、それを必要な医局やナースステーションに複数配置するコストが大きいこと。そして、オゾン水に含まれるオゾンが不安定な性質のため、短時間で酸素に変わってしまうこと。


「オゾンの濃度が半分になる“半減期”は30分くらい。オゾン水を作ってから1~2時間後には、含まれるオゾンは0。ただの水になるんです。医療現場で患者さんに役立ててもらうためには、オゾン濃度の半減期を延ばさないと。これにはオゾンを安定化することが必要で、世界中で成功した例はありません。正直無理かと思いましたが、オゾン水のまだ見ぬ可能性を信じて。医師と研究を続けました」
「研究開発とは“1000試して3つ成功すれば良い”という分野ですが、オゾンに関する参考資料はほとんどなく、最も研究をしているのが自社だったので、ともかく手を動かしてチャレンジし続けました」


そんな中でひとつだけ得た情報は、油をオゾネーション(オゾン処理)するという技術。
「以前から知ってはいたので試したら、油の色が変わるしニオイは出るし。肌に塗ると刺激もアレルギー感作性もありました。それで、オゾン処理を試すのは水溶性の基材に絞って、あらゆる水溶性のものを試していきました。100種類を超えるオゾン処理を試してもいい結果が出ず、追い詰められて『何でもやるしかない』と試したのがグリセリン、いわゆるグリセロールです。構造は、化学の知識のある方が見ればわかるんですが、オゾンが反応できる場所がないんですよ。低分子で安全な天然物で、うまくいく可能性など想定していませんでした」


水溶性なら何でも、と試したグリセリン。オゾン処理の結果はすぐにはわかりません。1次スクリーニングでは色の変化と異臭の状態を確認し、2次スクリーニングでは菌に対する抗菌性や効果を調べます。それに要するのは1か月以上。
「グリセリンのオゾン処理が2次スクリーニングに入った1か月後、共同研究をしていた医師から電話がありました。『抗菌効果が出てるよ!』と。オゾン処理によってグリセリンに新しい機能が生まれたという事実に、医師は感動していました。予想もしてなかった僕は驚くばかりで」と塩田。研究者も想定しない意外な結果が、再び医療現場との熱意あるタッグで得られたのです。
◆「オゾンは医薬品にならない」と即断。治療薬から化粧品成分へ転換を図ることに
2001年8月にオゾン処理をしたグリセリン=オゾン化グリセリンの生成技術が完成、特許を出願し、医薬品開発も始まりました。しかしここからまた新たな展開が起こります。
「症例の経過は良好だったので、厚生省(現厚労省)に出向いて医薬品開発の話をしたのですが、担当者に『オゾンは医薬品にはなりません』ときっぱり言われました。そして『できたとしても、化粧品じゃないですか?』と。治療薬を作りたかったので落胆しました。その足で一緒に治験をした大学病院に行き、看護師さんに報告したところ、すごく叱られました。『薬剤師のあなたは薬の開発を目指すけれど、化粧品の方が多くの人に長く使ってもらえるんじゃないの?』そして『もっと化粧品を勉強してから出直しなさい』と、真顔で言ってくださったんです。本当にそうだなと、目が覚めました。処方箋薬だと医療機関でしか扱えませんし、医薬品は治療のために短期間使うもの。低刺激なのに効くという、新しい特性をもつオゾン化グリセリンは、化粧品にする方が受け入れられやすいという考えに切り替えられました」
◆2年間にわたる開発の末、世界初*の化粧品成分が誕生
何度目かの“覚醒”を経た塩田は化粧品をあらゆる方向から調べて、「オゾン」は美容では認知度が低いことも知ります。それでも、お世話になった医師や看護師の方々に『これなら!』と使ってもらえる化粧品成分の開発を決心。
オゾンの半減期を3年に延ばすことができ、2年間にわたる安全性試験、有効性評価、ひと通りのデータを取得して、オゾン化グリセリンという化粧品成分の登録も完了。こうして世界初*の化粧品成分が完成したのです。


「2004年9月に発表の場に選んだのが、医薬品開発でお世話になった日本褥瘡学会です。会員に看護師の方も多いここで、オゾン化グリセリン配合のサンプルをお披露目しました」。院内でのオゾン水の手洗い装置から、医薬品を目指した臨床テストまで、経緯も効果も知る方々は「褥瘡に効いていたから」とか「シミにも良さそう」などと話しながら、サンプルの配布場所に人だかりを作っていたそうです。
◆オゾン化グリセリンの好評を受け、量産工場や研究施設が完成。
医療関係者に臨床で安全性と効果を認められた、オゾン化グリセリンは関係者の間でも話題となり、会社の規模も大きくなりました。2022年には埼玉に量産工場が完成し、2023年には研究施設を併設した「オゾネーション・ラボ」が誕生しました。
「オゾン化グリセリンは医薬品側、化粧品側、どちらから見られても満足いただけるものに仕上がったと自負しています。荒れた肌、敏感肌はもちろん、どんな肌にも使えますし、刺激もありませんから、新生児から高齢者まで。世代を問わず全身にお使いいただける成分です」
◆まだ見ぬ特性を探り当て、オゾン化グリセリンの活用範囲を広げていきたい
新規化合物なので、まだ探り当てていない機能もあるでしょう、と塩田は語ります。


「ヒトの機能は年齢とともに衰えると言われていましたが、オゾン化グリセリンで機能を維持したり、引き出すこともできるんじゃないかと思っています。カラダに備わっている再生機能のサポートをすることは解りましたし、安全性が立証されているので活用範囲は広がるでしょう。
今後は、皮膚の外用剤、口腔内の適用も進めて、世界中の方々の健康管理にも使っていただけるように準備をしています。オゾンとグリセリンの出合いはセレンディピティ、まさに奇跡。オゾン化グリセリンをまだご存じない方には、ぜひ試していただきたいと願っています」。世界初*・日本発のオゾン化グリセリンの活用に、これからもご注目ください。




*化粧品原料として世界で初めて国際表示名称であるINCIに登録
**第6回日本褥瘡学会学術大会:オゾン水による広範囲熱傷の効果1)医療法人八木厚生会八木病院 外科 2)(株)ブイエムシー 八木誠司1)、塩田剛太郎2)


(関連リンク)
メディプラス製薬公式HP

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