■なぜこの会社を起業したのか
私は医療機関で15年勤務したのち、突如退職、個人事業主としてフリーランスの理学療法士として地域で活動を始めました。
勤務している中で、医療機関ではそこに来院された患者しか診ることができないことに違和感を感じていたからです。
勤務中は訪問リハビリテーションという事業も担っており、在宅での支援もしておりましたが、休日を活用して自身でライセンスを取得したオーダーメイドインソール製作や少年団のクラブチームのケガ予防の支援やサッカーのコーチ、かけっこ教室、学校の教職員や未就学児の保護者向けの靴の選び方の講演を行っていました。
自身で創業すると様々な事業で小児から高齢者、健常な方からお困りの方すべての人に支援が出来、地域に貢献できる。これが創業の想いとなりました。
当時、コーチを務めていた札幌中央フットボールチーム
個人事業主からのスタート
いざ事業を行うと行動に移すも、今まで雇用されていた身、何から実行すれば良いか全く理解できなかったことを今でも覚えています。
知人に聞いたり、インターネットで検索したり(現代のように簡単に調べれなかった記憶があります)などをして、個人事業主の届出を提出しました。
届出後、さてやりたい仕事が沢山できると思っておりましたが・・・。
仕事がない! その通りです。
今までは医療機関に勤務しており、営業活動をしなくてもお客様(患者)から来たのですから。
退職が急だったために何の事業から開始するかも考えず、まずは知人に紹介していただいた市内のデイサービス、後志管内(車で3時間ほど)のデイケア、訪問看護ステーションとの業務提携、インソール製作事業(札幌市・室蘭市)、お世話になった先生にお願いして理学療法士養成校の非常勤講師の5か所で活動を始めました。
インソール製作事業に関しては、実家が元々小売事業をしていたので、日曜はその店舗も使用し開店、補助金で折込を入れたところ、毎回多くのお客様に来ていただけたことを覚えています。
当時運営していた店舗 インソールハウス貴恵夢(北海道室蘭市)
リトルシニア向けのシューズの選び方、インソールの重要性の講演
また、非常勤講師で勤務していた時、脳外科の医師と学校で会う機会もありそこから保険外リハビリテーションのお客様を紹介していただき、こちらのお客様がのちに装着型サイボーグHAL®を取り入れるための資金を提供していただけることとなり、現在の札幌ロボケアセンターの先駆的な活動となります。
当時、保険外でリハビリテーションのご依頼があり業務を行っている中で、ロボットスーツHAL®(現 装着型サイボーグ:CYBERDYNE株式会社 茨城県つくば市)を利用したいという希望があり、担当者と連絡を取りレンタル、利用し歩行やバランスの改善ができました。訪問看護でHAL®を利用者宅に持参し最先端のリハビリテーションを行っているとして、テレビ番組でも取り上げられることとなりました。
・個人事業主から法人化へ
訪問看護ステーションとの業務提携をしていく中で、当時はリハビリテーションがしっかりできるステーションが少なく、また、業務でお会いした方からケアマネジャー向けの講演依頼が数回あり、そこからあっという間に1週間のスケジュールが埋まってしまうほど利用者の紹介をいただき、毎日多忙な日々を過ごしたことを覚えています。有難いことに依頼は止まらず朝7:00から夜は22:00まで支援をしていました。
もうこれ以上は利用者を受けれないと思っていたとき、自分で人を雇用すればまだまだ受入れができると考え、法人化、訪問看護ステーションの開設を決めました。
・訪問看護ステーションの開設
この時が最も大変だった記憶があります。雇用するための届出、人材を探すこと、自治体への許認可届出、テナント探し、融資の手続きなど。
今思えば、個人事業主で届出をしたとき何故すぐに起業支援の融資を受けなかったのだろうと思いますが、”知らなかった”だけです。
幸いなことに人員基準を満たす要件の看護師も見つかり、オープンすることができましたが、軌道に乗るまでは5か月ほどかかりました。
その間、資金が底をつきそうになることや事務員不在の為、書類も自身で行うなど、帰宅が深夜帯、時には明るくなるまでオフィスにいる日もありました。
現在では、訪問看護事業所のスタッフは事務員、有資格者を含め30名ほどまで拡大しています。
・デイサービス(通所介護)の開設
訪問看護開設してから2年後、デイサービスの利用希望も多かったため、テナントを改修し、オープンとなります。当社のデイサービスはリハビリテーション特化で午前と午後の2クール制としました。
事業計画では7か月で定員(19名)に達する予定でしたが、12ヵ月後も定員が満たされず、また、要支援と要介護の割合も6:4程度でしばらく赤字が続いていました。オープン2年後に近隣に広い物件が空いたと情報が入り、訪問看護ステーションのオフィスとデイサービスを同一建物内に移転できる計画となり、デイサービスのフロアも2倍以上にできたため、入浴設備を導入、リハビリテーションと入浴ができるデイサービスへと変更しました。
現在は午前午後ともに定員30名に達して、多くの利用者が楽しく運動されています。
・札幌ロボケアセンター開設
前述した装着型サイボーグHAL®は訪問看護開設に伴い一度返却していたが、突然CYBERDYNE社の営業の方より連絡があり、札幌でHALを使用したフランチャイズ事業であるロボケアセンターを行ってみませんか?という内容でした。
詳細を聞くため一度CYBERDYNE社へ訪問すると、全国に展開予定の計画があるとのことでした。
レンタル料など負担はあるが、北海道内で医療機関以外でのHAL®を利用できる施設はなく、画期的なサービスとなり、困っている方へ貢献もできると考え契約を進め、2019年8月にオープンに至りました。
HALFITサービス通所型、訪問型の2種類のサービスで利用時間も60分~120分コースと希望により選択が出来るように幅広く設定を行いました。
利用者が徐々に増えていったときに新型コロナウィルス感染症が流行し、一時は当面の間利用者が低迷して時期もありましたが、現在は利用者数も安定し新規の問い合わせも増えています。中でも小児の相談件数が増えてきています。
・児童、障害分野への挑戦
2024年5月に保育所等訪問支援、相談室を開設致しました。
この分野は元々開設する予定はありませんでしたが、1つのストーリーがここにあります。
訪問看護や保険外での運営をしている中で、外部の事業所や企業など様々な方にと共に仕事をすることが多々あります。
この事業への参入は考えていませんでしたが、ある医療ケア児コーディネーターとの関りや後述するベンチャー企業の営業担当の方との出会いからでした。
訪問看護の患者の計画相談の担当者であるN氏は、私が訪問看護(リハビリテーション)で介入している時に出会いました。小児のリハビリテーションの現状、目標設定など理学療法士と相談員として会話をしていく中で意気投合するものがあり、他の患者の相談としても連絡をいただけるようになりました。
札幌市のみでなく近郊エリアからの相談も積極的に受け、お互いに信頼関係が構築できておりました。ある時、転職を考えていることの相談を受けお互いの今後の方向性、考え方も一致したため当社で雇用させていただく運びとなりました。これが相談室開設の始まりでした。
・mediVRカグラの導入
装着型サイボーグHAL®やIVES(電気刺激装置)、ポケットエコー(超音波検査機器)、TS-MYO(筋電計)などリハビリテーション分野における最先端な機器を導入宇してきましたが、どのような患者にも使用できる画期的なデジタルリハビリテーション機器を探しておりました。
ある時、ロボケアセンターのお客様が外来リハビリテーション通院している病院で特別なことをしていて、それでかなり動作が改善したとお話をしていただき、それが「medeVRカグラ」(株式会社mediVR社:大阪府)でした。
確かに歩行スピード、安定性の向上が認められていて、「おかしいな」とは感じていました。
早速、mediVR社へデモの依頼の問い合わせを行い、後日担当者のW氏より連絡があり、カグラをデモすることとなりました。
カグラのデモンストレーション
mediVRカグラは一人ひとりに合った難易度を設定できるだけでなく、自分の手や身体が見えないVR環境を利用することで通常の環境では引き出すことが困難な体の動きを引き出すことが可能であり、より個々に適したリハビリテーションが行えると考えております。また、座って行うため安全にトレーニングが可能で様々な適応と効果があります。姿勢の保ちやすさや歩きやすさ、運動の不器用さの改善などに対してもアプローチできます。
「VR空間上に出現する的に向かって身体や腕を左右交互に動かす、上から落ちてくる野菜をキャッチする」という一見ゲームのように思えるリハビリテーションですが、神経科学、行動科学の知見と20種以上の特許技術に基づいて開発されています。本機器を用いた支援によって歩行やバランスなどの運動機能や認知機能、日常生活動作の改善が報告されており、幅広い疾患や障害への応用可能性に期待が寄せられて
います。「姿勢が以前より良くなった」「目の使い方が変わってきた」なども
聞かれています。
デモの結果、効果が認められる利用者も多くカグラを導入することとなり、活用方法を検討している時、mediVR社のW氏より子どもたちにも支援をして欲しいという希望がありました。
訪問看護の小児の利用者は多いですが、自宅に持っていき組み立てて行うことは時間的にも難しく、色々検討した結果、元々ボランティアで小学校の支援級を診ていたのでそこで使用できないかということを考え、保育所等訪問支援を開設し学校に持ち込む方法を取り入れる形としました。
しかし、ここでも課題がありこの事業は「児童発達支援管理責任者」という有資格者の常勤雇用が必須でした。すぐに求人を出しましたがやはり問い合わせもなく諦めかけていた矢先、一人の方からの応募がありました。
早速面談を行いお話を伺うと、現職で密接に連携しているある人の話題となり、それが医療ケア児コーディネーターのN氏でした。雇用をすぐに決め開設の準備を始めました。この2名と繋がれたからこその事業所でありこれが一連のストーリです。
開設後はカグラ導入のプレスリリースにより現在利用者も増えており、次の展開へ繋がる事業となりそうです。
・カグラ導入の効果
札幌市内の小学校の特別支援学級へ「保育所等訪問支援」の事業(通所支援事業)として導入した結果、保護者や教職員よりバランスや歩く姿勢、歩幅が良くなってきている。とのお声も聞かれています。
子どもたちはゲーム感覚で行えており、自分の身体が見えない環境においての体幹筋の活動や上から落ちてくるものを待つこと、対象物を上下左右探すことによって「目をしっかり使う」ことが感覚や身体の活動、気持ちに効果があると考えています。
成人や高齢者への効果では、立位のバランス、歩行速度などに効果を示しております。ロボケアセンターの装着型サイボーグHAL®との併用で更に効果が期待できると思います。
・起業後9年を迎えて
介護保険事業2事業、児童・障害福祉事業2事業、保険外6事業となり拡大をしてきましたが、雇用問題、資金問題、人材問題など多くの課題がありましたが、多くの人に助けられ現在に至ります。
昭和から平成、令和と時の流れとともに時代の変革、ワークライフバランスの変化による働き方改革の変化もあり、雇用、人材育成には課題が残りますが、ひとつずつ課題と向き合い運営を行っていく次第であります。
・今後の展望
社会保障制度の変化、都心部での事業所過多、僻地での事業所減による介護福祉サービス難民の増加に歯止めをかけるべく、遠隔による地域支援や予防的活動、デジタルリハビリテーションの導入、必要とされる介護・福祉サービスの提供や未就学児や児童への発達支援など、小児から高齢者まで幅広い分野でお困りの方の支援を行いたいと考えております。
・リハ・イノベーションのビジョン
地域に必要とされる事業に成長するためには、世代を問わず、あらゆる疾患の対応や
支援を継続的に行うことと考えています。
中期的なビジョンとしては、
① 終末期の方への対応(複合型サービス)
② 発達障がいの方への支援の発展(フリースクール)
③ リハビリテーション専門宿泊施設(サービス付き住宅)
④ リハビリテーション特化の児童デイサービス・放課後等デイサービス・生活介護(福祉サービス)
これらのサービスを開始できるように整備していきたいと考えています。