株式会社コムデザインは、コールセンター向けの電話システム(CTI)を、クラウドサービス「CT-e1/SaaS」として提供しています。「CT-e1/SaaS」は現代表取締役である寺尾憲二がエンジニアとして、基礎設計から開発したソフトウェアを基にサービス展開しています。従来は国内外の大手企業が開発したシステムを利用したプロダクトが主流であった市場の状況を考えると、完全自社開発のプロダクトを利用したクラウドサービスというのは異色と言えます。
またサービス提供の在り方も特徴的です。個別の開発対応やエンジニアの稼働に追加の対価を求めず、定額の費用でそれらを提供するサービスモデル「CXaaS(シーザース)」を展開しています。「CXaaS」は、クラウドCTIにとどまらず、ITシステム全般の新しいサービスモデルとして注目を集めています。「CT-e1/SaaS」は現在、業界の中でもトップクラスのシェアを誇るサービスへと成長しています。
今回は「エコノミスト未来賞2024 プロダクト部門」を受賞した「CT-e1/SaaS」について、マーケティング担当者の寺尾望氏にサービスの特長や今後の展望などを聞きました。
コンタクトセンターで利用される電話システム「CTI」をクラウドサービス化することで高額な設備投資が不要に
―コムデザインが「CT-e1/SaaS」として展開するCTIシステムについて教えてください。―
端的に言えば、コンタクトセンターで主に利用される電話システムです。普段皆さんが何気なく予約の確認や製品のサポートについてコンタクトセンターへ電話をかけた時、多くの場合裏側ではCTIが利用されていると思います。例えば、ダイヤルプッシュに応じて適切な窓口へ電話をつないだり、コミュニケーターが空くまで電話をつないだままお待たせしたりするなど、普通の電話機だけでは提供できない機能をCTIでは提供しています。またその他にも、コンタクトセンターの運営を助ける機能があります。例えば通話録音の保存や電話の入電状況やコミュニケーターの稼働状況などを統計情報として提供する機能なども一般的です。
電話は世の中で最も普及しているコミュニケーションツールである反面、非常にアナログなツールです。しかし電話そのものはさまざまな機能を持つことができません。そのアナログな電話をコンピュータと統合することで便利な機能を実現する。それがCTI:Computer Telephony Integrationです。
「CT-e1/SaaS」では、このCTIをクラウドサービスとして提供しています。クラウドサービスとしての提供が一般的になる前は、各コンタクトセンターが自前で設備を準備し、数千万円から億単位での費用が必要となっていました。これを、クラウドサービスとして提供することで高額な設備投資をおこなうことなく、利用できるようになりました。
―なるほど。これまではあまり意識したことはなかったですが、コンタクトセンターには欠かせない存在なのですね。今回「エコノミスト未来賞2024 プロダクト部門」を受賞したわけですが、評価されたポイントは何だと考えますか?―
私たちが提供しているサービスは、おっしゃるとおりコンタクトセンターに欠かせないシステムであることは間違いありません。一方で、これまでのご説明のとおり、非常にニッチな分野のシステムであると思います。2022年にはAPAC(アジア・太平洋)地域における「コンタクトセンターテクノロジー企業 トップ10」に選出いただいた実績もあり、ニッチな分野ながら自社開発の高い技術力と先進性は評価いただいていると思います。
それに加えて、今回の「エコノミスト未来賞2024 プロダクト部門」では、よりITベンダーとしての普遍的な取り組みが評価されたのではないかと考えております。これまでのITビジネスの定石を覆すようなサービスモデル「CXaaS」を実践していることです。
開発コストを社内で完結させることで、個別のカスタマイズの無償化を実現
―「CXaaS」とは、どういったサービスモデルなのでしょうか?―
IaaSやPaaS、SaaSなどの言葉をご存じでしょうか?これらはITシステムをサービスとして提供する在り方を表現する言葉です。例えば、SaaSは”Software as a Service”の略称となり、サービスとしてソフトウェアを提供します。これに対して、「CXaaS」は”Customer eXperience as a Service”の略称です。ユーザー(顧客)が理想とする利用体験の実現のために、必要となる機能だけではなく、活用に向けたITエンジニアによる開発やテクニカルな設定作業も含めて、全てをサービスとして提供するという意味があります。しかも、ITエンジニアによる作業について追加費用はいただきません。全て定額のサービス料金内で提供します。
ITビジネスの定石を覆すと表現しましたが、これまでのITビジネスにおいてエンジニアの作業による収入は、ITベンダーとして当然期待するものとなります。これを追加費用不要で提供する「CXaaS」は、従来のITビジネスの常識から外れていると言えます。
また「CXaaS」ではユーザー個別のカスタマイズ開発を受け入れることも、定石から外れていると言えます。普通のSaaSは、個別のカスタマイズはやらないことが一般的です。
SaaSでありながら個別カスタマイズを受け入れ、しかもその開発に必要なITエンジニアによる作業を追加費用不要、言い換えれば無償でおこなう。それが「CXaaS」なのです。
―個別のカスタマイズ開発を無償ですか? お金を取らなくて大丈夫なのですか?―
大丈夫です(笑)これは、機能追加などの開発コストが社内で完結する自社開発の強みといえますね。また一見、荒唐無稽にも見えますが「CXaaS」はITビジネスとしては高度に合理化されたサービスモデルであるとも言えます。というのも、ITシステムを提案する上でユーザーとベンダーの摩擦の原因となる要件定義とそれに基づく価格交渉のプロセスを大幅に簡略化できますし、機能開発の検討で求められるマーケティングコストも大幅に圧縮できます。
また、次々発生するユーザー要望を受け続けることになりますので、経験の蓄積量は大きなものとなります。結果として、ベンチャー企業であっても大手企業に負けないノウハウの蓄積と組織として成熟を果たすことができるのです。「CXaaS」成立のロジックについては、翔泳社から出版された『CXaaS 「攻めのIT活用」を実現する新しいクラウドサービスモデル』に詳しく記載がございますので、ご興味賜りましたら手にとっていただければと思います。
―CXaaSは、おもしろいビジネスモデルですね―
はい、そうなんです。中小企業であったとしても、成功できるチャンスがあります。また、「CXaaS」の普及はITベンダーだけではなく、日本企業の多くにとっても助けになる可能性があると考えています。DXの取り組みへの遅れが指摘される日本企業にとって、IT人材の不足は深刻な課題のひとつです。それをサービスとして補完する「CXaaS」は、多くの日本企業にとって大きな助けとなると思います。今回の受賞は、単にプロダクトとしてビジネス的な成功だけではなく、新しいビジネスモデルとして多くの企業に実践いただける可能性とそれによる社会的な影響も評価いただいたのではないかと考えています。
とはいえ「CXaaS」と共に「CT-e1/SaaS」が受け入れられ、いまのように多くの企業様に導入していただくには、時間もかかりましたし、紆余曲折がありました。
これらについては、「エコノミスト未来賞2024 プロダクト部門」受賞企業のWebページに弊社社長である寺尾憲二の記事がありますので、そちらも合わせて読んでいただけると嬉しいです。
AI技術を活用してさらなるコンタクトセンターのデジタル化を図る
―今後の展望について教えてください―
この質問については、再度クラウドCTIの提供ベンダーとして回答させていただきます。現状、多くの業種、業態においてDXをキーワードに一層のデジタル化と価値変容が進んでいます。これはコンタクトセンターも例外ではありません。
その潮流の中でAI技術の存在は、従来では考えられなかった体験を生む原動力になるのではないかと弊社としても期待を寄せています。コンタクトセンターにおいての活用例をあげれば、例えば顧客の発言に応じて自動回答をおこなうボイスボットや、問合せ内容に対して自動的に最適な回答を提案する機能、問合せ内容を自動要約して記録をおこないナレッジ化するなど、これまでのコンタクトセンターでは夢のような機能が登場しはじめています。このAI技術の活用に向けた取り組みは重要なテーマになると考えています。
―なるほど、AIですか。最先端ですね。―
はい、でも、これらのAI技術は、弊社が開発するわけではありません。世の中には、素晴らしい技術を持ったベンダーがたくさん存在します。そして、ChatGPTで急激に注目を集めたOpenAIのように、まだこれから頭角を現す企業もあることでしょう。そのような技術を持つベンダーさんのサービスをできるだけコストをかけずに、手軽に利用できれば、コンタクトセンターのDXの手助けになると考えています。
しかし、それらの先進的なサービスを利用することを考えると、CTIとの連携が必要になります。そして、そのためには相応の技術、時間、コストがかかるのです。
これらの先端技術サービスをもっと気軽にコンタクトセンターが利用できるようにするためには、電話システムのCTI部分がオープンなプラットフォームであることが重要だと思っています。弊社はこれを、「CCP(Converged Communications Platform)」という、コールセンタープラットフォームコンセプトとして提唱しています。
これから、さまざまな技術とアイデアを持ったAI関連のサービスが登場してくるでしょう。「CT-e1/SaaS」であれば、使いたいAIサービスとすぐに連携できるということです。CCPが浸透すれば、コールセンターは、本当に必要な機能を、高額な初期投資や運用負荷をかけることなく導入できるようになります。また、AI関連のサービスベンダーも、コールセンターというユーザーを得ることができます。
今後は、CCPを浸透させていきたいと思っています。