実例の少ない工場の「ZEB Oriented」を実現する新建屋が竣工
2024年8月6日、滋賀県東近江市にある
湖東工場の新建屋竣工式が行われました。同建屋の建設に携わったプライム ライフ テクノロジーズグループの
他、関係各社が勢ぞろいし、竣工を祝いました。同建屋は、国内の工場の中でもまだ実例が少ない「ZEB Oriented」を取得しています。今後、建屋の屋上には太陽光発電システムが、屋内には住宅部材の製造ラインが設置され、2025年春の稼働を目指しています。「ZEB Oriented」化に向けた取り組みについて紹介します。
グループ会社で取り組む工場の「ZEB Oriented」取得
カーボンニュートラルのさまざまな施策のうち、温室効果ガスを削減するスコープ1(自社での燃料の使用や工業プロセスによる直接排出の温室効果ガスの排出量)の取り組みについては、プライム ライフ テクノロジーズが主体となって推し進めることができる施策であり、グループ各社で知恵を出し合いながら、複数のプロジェクトが動き出しています。生産部門における施策の要となるのが、パナソニック ホームズ湖東工場のリニューアルに際して取り組む「ZEB Oriented」の認証取得です。国内の工場の中でもまだ事例が少ない「ZEB Oriented」をどのように実現していったのか。パナソニック ホームズ、松村組の関係者に話を聞きました。
湖東工場の新設に合わせ、「ZEB Oriented」の認証取得へ
滋賀県東近江市にあるパナソニック ホームズ 湖東工場は4つの工場棟で構成されています。一番古い建物で築60年近くが経過し、耐震補強を含めた改修を行うか、もしくは新たに建て替えるかについて議論がなされた結果、2021年6月、新工場を建設し、4棟ある工場を3工場に集約する方針が決まりました。2025年3月の完成を目指す新工場建設プロジェクトは「湖東イノベーション」と名付けられ、「CSNo.1」「ES改革」「事業継続可能な工場」とともに「カーボンニュートラル推進」がコンセプトの一つに掲げられています。
「カーボンニュートラル推進」の目標を達成するために、具体的な推進手法として浮上したのが「ZEB Oriented」の認証取得です。「ZEB」とは、「ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング」のことで、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指した建築物を指します。ZEB化にあたっては、4つの段階があり、最も達成難度の高いレベルでは、「ZEB」<省エネ(50%以上)+創エネで100%以上の一次エネルギー消費量の削減を実現すること>から、段階的に条件設定がなされ、最も取り組みやすいとされるのが「ZEB Oriented」<延べ面積10000㎡以上で用途ごとに規定した一次エネルギー消費量の削減(工場の場合40%以上)を実現するとともに、更なる省エネに向けた未評価技術を導入していること>です。
ZEB解説図
ビルなどのZEB化の普及が徐々に進む一方、工場でのZEB化はまだ、実例が少ない中で、湖東イノベーションでは、まず「ZEB Oriented」の認証取得を目指すことにしました。
「取り組みやすいレベルとはいえ、工場の「ZEB Oriented 」は国内でも認証取得事例がほとんどなく、どこから手を付けてよいか全く手探りの状態からスタートしました」と、「湖東イノベーション」のリーダーを務めるパナソニック ホームズ 湖東製造部 製造1課 課長の岡田行弘は説明します。
パナソニック ホームズ㈱ 湖東製造部1課 課長 岡田行弘
グループ横断プロジェクトを活用し、3社でアイデアを出し合う
そこでプライム ライフ テクノロジーズ各社の知見を共有、集約して議論する場として活用されたのが、グループ横断でのプロジェクト制度、メンバーボイスチャレンジ※です。グループ各社のうち、パナソニック ホームズからは湖東製造部 技術課の木下顕宏、勝井洋介、営業推進部の岡本文孝の3人、建築設備の設計、施工を担当する松村組からは、大阪本店 環境・エネルギー統括部長 兼 建築部部長の亀山満、同課長の牧野知行、同担当課長の岡田一成、建築部設計担当の森本貞一の4人、そして換気・空調なども含めた生産設備の施工を担当するパナソニック建設エンジニアリング 環境特建事業部からは 西日本営業部 草津営業課 課長の玉城新士、エナジーソリューション営業部 エネルギー営業課課長の竜波好法、西日本営業部の助野優太、設備設計部の吉田菜穂子の4人がメンバーとして参加。2022年10月のキックオフ以降、月に1回ミーティングの場を設け意見を出し合ってきました。
※メンバーボイスチャレンジについて:
“自社の枠組み” ・ “業務の枠組み” ・ “職歴の枠組み”を超え、これまでになかった「新たな取り組み」「新たな企画」を、「賛同してくれたプライム ライフ テクノロジーズグループの仲間」とチームをつくり目的に向かって、いっしょに取り組み、いっしょに活動していくチャレンジです。
「現実に案を設計に落とし込む実施設計部隊とは別に、横断プロジェクトではコストの大小にとらわれることなく、カーボンニュートラルにつながる提案を自由に出し合おうというスタンスで臨みました。3社で話し合ったからこそ様々な角度から多様なアイデアを出すことができました」と木下は横断プロジェクトの効果について語ります。
パナソニック ホームズ㈱ 湖東製造部 技術課 木下顕宏
ミーティングを通じて合計73のテーマについてアイデアが出されました。「一つひとつのアイデアに対し、カーボンニュートラルへの貢献度・コスト・実現性を見極めるとともに、省エネ効果(消費電力)を算出し、費用対効果も見極めながら、重点施策を固めていきました」と松村組の岡田は設計、施工に落とし込んでいくための具体的な道筋について説明します。
㈱松村組 建築部 設備課 兼 環境・エネルギー統括部エネルギー推進課 担当課長
新工場建屋については一次エネルギー消費量を83%削減
そして、一次エネルギー消費量の40%削減を目指した具体的な取り組みとして主に4つの施策に取り組むことにしました。まず1つ目が、高効率空調機と換気設備の設置です。これにより9mの高さがある工場の上部にたまった熱気を外に出すことで、空調負荷を低減します。2つ目が、エネルギーマネジメントシステムの導入です。多回路モニターユニットにより、工場設備、生産設備の細部に至るまでのエネルギー消費量を見える化し、さらなる省エネ改善に役立てます。3つ目が、屋根の折板断熱工法です。山と谷を繰り返す折板の間に断熱材を挟むことによって日射を遮断し、室内の熱負荷低減する省エネ工法です。そして、4つ目が、オンサイトPPAの導入です。新工場の屋根に太陽光発電パネルを敷設することで、再生可能エネルギー由来の電力を生み出します。
また、「ZEB Oriented」で義務付けられている40%削減の計算の中には入らない追加的な取り組みとして求められる、「更なる省エネに向けた未評価技術の導入」については、工場面積の半分を占める物流スペースに人感センサーの照明を採用しました。これらの施策により「湖東イノベーション」のうち事務所等については、一次エネルギー消費量を45%、工場については83%、それぞれ削減できると試算。2024年5月には外部の検査機関に「ZEB Oriented」を申請し、無事、認証が得られました。
今後についてパナソニック ホームズの木下は「ZEB化のアイデアを出す過程でさまざま省エネ手法があることを知ることができました。蓄えた知識をグループ内に横展開できれば」と話します。松村組の岡田も「他現場にも活用できる訴求ポイントを幅広い分野で知識習得する機会になりました。工場の完成後も維持管理、ランニングコストの低減で貢献したい」と語ります。
また、新建屋の建設を約21ヶ月(2024年7月末時点)にわたり担当した松村組 工事事務所 所長の八木重利は、新建屋竣工を迎え、「現場としては計画された屋根や天井の断熱工事等の確実な施工に注意を払いました。担当者としての喜びは、施主検査や現場視察時に工場勤務の方々に、建屋の中に入ると、真夏なのにすごくひんやりして過ごしやすいと言われたことです。机上の計算だけでなく、実際に断熱効果が表れているのが良かったです」と語りました。今後、旧動力棟の解体など、10月末まで整備工事は続きます。
新建屋1階作業室
新建屋の竣工が終わり、10月からは屋根部分にオンサイトPPAを活用した太陽光発電システムの設置も始まる予定です。また、2025年春の稼働に向けては、各種製造設備が運び込まれ、本格的な稼働が始まります。新建屋での製造ラインの整備を担当するパナソニックホームズの岡田は「カーボンニュートラルを推進するための器は整ったので、新建屋での生産活動においても、しっかりとカーボンニュートラルを進められるように取り組むとともに、人材も育てていきたい」と意欲を見せています。
創業130周年を迎え、他の現場でもZEB推進により環境貢献を目指す
湖東工場でのZEB化に向けて建設を担った松村組は、2024年7月に創業130周年を迎えました。同社は1894年の創業以来、建設業に従事し、時代時代の社会から求められるニーズに応えながらオフィスや工場、物流施設、医療福祉施設から文化・教育化施設など、様々な用途や規模の建築物を手掛け、環境や防災に配慮した建物を数多く提供してきました。多岐にわたる建築技術をいかした事業展開の中で、グッドデザイン賞や厚生労働大臣奨励賞なども受賞しています。
持続可能な企業として、脱炭素社会の実現に向けては、2025年度「ZEB化」件数を非住宅分野においては50%以上(設計案件中)、住宅分野においては2025年度「ZEH-M化」50%以上(施工案件中)と定め、ZEB化推進という新たな目標を定め、推進しています。2022年には、一般社団法人環境共創イニシアチブが公募する「ZEBプランナー」として登録されました。
パナソニック ホームズの湖東工場 新建屋の建設を担当した松村組の建築部 兼 自然エネルギー推進部 部長の亀山と岡田は、同社におけるZEB化推進の主担当として、取り扱い案件の拡大を図っています。
松村組 建築部 兼 環境・エネルギー統括部 岡田(左)亀山(右)
企業の事業活動において環境配慮が求められる昨今では、お客様の意向も変わってきていると亀山は言います。「2009年に開始されたFIT制度※を契機に、2012年より自然エネルギー推進部門で10年ほど、太陽光発電システムの設置などを担当してきました。従来ですと施設の建築においてはコストを重視する事業主が多かったのですが、近年は、お客様から環境に配慮した建物を建てたいと、最初からZEB化を目指してご依頼いただくケースもあり、以前よりも提案が進みやすくなりました」。
※FIT制度:
「再生可能エネルギー固定価格買取制度」再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が約束する制度。
ご参考:https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene
㈱松村組 環境・エネルギー統括部長 兼 建築部部長(設備担当)亀山満
亀山は「ZEB化に向けてはさらにスキルを持った担当者が必要あり、自分の立場としてはこれまで培ってきた知見を継承していきたい」と人材育成への意欲を語ります。また、岡田は、「時代の命題であるZEB化取り組みに向けて手法をマスターしてスキルアップを図りたい」と抱負を語ります。
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*プライム ライフ テクノロジーズグループ社員によるカーボンニュートラル宣言*
パナソニック ホームズ(株) 湖東製造部 技術課 木下 顕宏
㈱松村組 環境・エネルギー統括部長 兼 建築部部長(設備担当)亀山満
㈱松村組 建築部 設備課 兼 環境・エネルギー統括部 エネルギー推進課 担当課長 岡田一成
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次回は、プライム ライフ テクノロジーズグループのパナソニック建設エンジニアリング社のバイオガスの取り組みについてご紹介します。
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