防災サバイバルをアウトドアから学ぶ玉川学園

2024.08.28 11:52
 ⾃然の中で⽣き抜くため、中学⽣が学内キャンプで“防災サバイバルスキル”を磨く活動を体験――。
 玉川学園(東京都町田市)は7月23日-24日、中学1年生(7年生)の男女24人の生徒を対象に、緑豊かな学園のキャンパス内で1泊2日のサマーキャンプを開催しました。サマーキャンプは⽟川の全⼈教育の12の教育信条における労作教育の実践として毎年⾏われています。参加した⽣徒たちは、⾃然体験活動を通して「防災労作」を実践的に学ぶことができました。


今回は防災サバイバル(生き抜く力)の養成を掲げ、アウトドアライフアドバイザーの寒川一(さんがわ・はじめ)さんを講師に招いて、「自然の中で生き抜くためのキャンプスキル」をテーマに活動しました。そこで目指したのは、防災×アウトドアにより、自然の中で自分たちの力で身を守るための『想像力』と『協調性』、『防災力』を身につけることです。生徒たちは災害時などに必要な知識やスキルを学び、2日間でたくましく成長しました。
 玉川学園では小学6年生-中学2年生(6-8年生)の希望者に向けて、毎年夏休みにサマースクールを開講しています。語学やスポーツ、実験・工作、短歌、DJミキサー体験、玉川アドベンチャープログラム(TAP)といった多岐にわたる講座の中でも、キャンプは毎年人気のプログラムです。今年のサマーキャンプは、玉川学園の木の輪を広げる「Tamagawa Mokurin Project(タマガワ モクリン プロジェクト)」と、同プロジェクトと協定を結ぶ三菱地所ホーム株式会社の木造木質化推進プラットフォーム「KIDZUKI(キヅキ)」が連携する形で実施しました。
初日、8時に登校した生徒たちは、まず座学で寒川さんの講話を受けました。冒頭、「キャンプをしたことのある人?」との寒川さんの問いかけに、半分ほどの生徒が手を挙げました。寒川さんによると、こうした活動に参加する最近の学生たちは、6、7割がキャンプ経験を持つそうです。香川県出身の寒川さんは、中学2年生だった14歳の頃、親元を離れ、「四国一周、約1000キロメートルの距離を自転車で2週間かけて一人で旅した経験が、今の活動の原点になっている」と話してくれました。


 寒川さんは「キャンプなどのアウトドア体験には、人が生き抜くためのヒントがつまっている」と声を大にします。特に、自然の中では、創意工夫しながら臨機応変に対処することが重要だといいます。「例えば、キャンプに忘れ物はつきものだが、この忘れ物が大きなチャンスになる」と寒川さん。そうした時に“どう取り返すか”という姿勢が肝心で、木や土など身の回りのものを工夫して使い、本来の目的を達成すれば問題ないと考えればよいそうです。
 講話の中での「いざという時に人に必要なものは?」との問いに、生徒からは「水」「食料」「家」「洋服」「衛生用品」「スマートフォン」「火」「時計」「メンタル」など、思い思いの回答がありました。ここで寒川さんがとりわけ強調したのは、災害の多い日本において、昔から言い伝えられてきた「衣食住」の大切さです。人はこの世に誕生した時、すぐに身体をガーゼなどの柔らかい布に包まれ、次に母乳やミルクを与えられます。この二つがそろった上で、はじめて快適なベッドに寝かせられます。被毛で体温を調節する動物とは違い、人は衣服をまとうことで体温を保ちます。その上で、食事を摂り、住まいを確保するのです。こうしたことを説明した上で、寒川さんは、災害時は「衣食住、この順番に命を守れ!」との強烈なメッセージを生徒たちへ届けました。


 災害時は電気やガス、水道などのライフラインが途絶え、日常生活がままならなくなります。例えば、2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震の二つの例を見ると、復旧までに「電気は1週間」、「水道は3週間」、「ガスは5週間」ほどの時間を要しました。2024年1月1日に起きた能登半島地震においては、断水による影響が今なお続いています。
 こうしたサバイバルな環境下で生き残るには、人の時間的なリミットを知っておく必要があります。寒川さんは、「酸素がないと人は3分で死んでしまう」「体温が保持できないと人は3時間で死んでしまう(低体温症)」「安全な飲料水がないと人は3日で死んでしまう」「食料がないと人は30日で死んでしまう」という、『3の法則』を挙げ、生徒たちにその理由や重要性について力説しました。


 そこから分かるのは、飲料水さえあれば、人は30日間、一切食べ物を口にしなくても生き延びられるということです。水道の完全復旧まで3週間(21日)かかるとすれば、「安全な飲み水を自力で確保し、3日(生存の境目となるいわゆる“72時間の壁”)以内に水を摂れるかどうかが生死を分ける」(寒川さん)のです。寒川さんは「3日で助けは来ないかも知れない。でも、30日間もてば、その間には、きっと誰かが助けに来てくれるだろう」と語りました。
 やはり、人が生きる上で欠かせないのが「水」です。そこで今回は水にフォーカスし、フィールドワークでは、キャンプのための火おこしではなく、「防災時に、飲料水を自ら確保する」ための活動に取り組みました。玉川学園は、自然の豊富なキャンパス内に4つの井戸を整備し、学内のろ過装置で浄水した水をキャンパス全体に供給しています。学園の幼稚部から大学まで、広大なキャンパスの施設全体の水を自家水源の井戸水で賄っているという教育機関として大きな特徴を持っています。今回は学園の敷地内で汲み上げて、ろ過する前の井戸水を採取して、ペーパーフィルターでろ過して浄水し、さらに火をおこしてその水を煮沸することで安全な飲み水を作る体験をしました。
 35℃を超える厳しい暑さの中、生徒たちはまず井戸水を持参したタンクに汲みあげた上で、6人ずつ四つのグループに分かれ、豊かな自然の広がる玉川学園の森である「東山」の雑木林でたき火の燃料となる小枝や木の葉、たき火台となる土を仲間と協力しながら集めました。寒川さんは「樹木の種類が多く、豊富な土もあり素晴らしい」とキャンパスの環境について触れ、「燃料は鉛筆くらいの太さの小枝がよい」「スギの木や葉はよく燃える」「(燃えやすい)乾燥した枝かどうかは、折った時のポキッとした音で分かる」「シュロの木を手で丸め、鳥の巣のようなふわっとした形を作ると空気をよく含み燃えやすくなる」などといったさまざまな実践的なアウトドアライフのアドバイスをくれました。
 作業場に戻った生徒たちは、寒川さんの指導を仰ぎながら、和気あいあいと、採取した土でたき火台(マウンドファイヤー)を作り、その中に小枝などを敷き詰めた上でマッチに火をつけ、「ふーっ」と息を吹きかけながら、どのグループもスムーズな火おこしに成功しました。火おこしでは、「その時々の風向きを読みながら、どこに燃料を置いたらよく燃えるかなど、想像力を働かせることが大切。思うようにいかないことももちろんある」と語る寒川さん。その後、各グループでろ過した水の入った鍋を何とか時間をかけて煮沸しました。手間をかけ、苦労してようやく安全な飲料水を手にした生徒たちは、「大変だったけど楽しかった」「自然の水で作ったみそ汁はインスタントでもおいしい」と口々に話し、自然を相手に大きな手応えを感じたようです。
 昼食後、たき火により燃え切った灰は土に混ぜ、東山の森に還すことで、木の「循環」に向けた取り組みとなりました。午後は改めて座学で“土地探し”から始まるテント張りの極意を学び、その後、フィールドでのテント張りの実習を通して、生徒たちは自分の目で自然を観察することの重要性を体感しました。


 現代では、雨水や川の水を手軽に浄水できる携帯型浄水器など、便利な道具がたくさん手に入ります。しかし、「自分たちの手で自然界から飲料水を得て、自分の体に入れるという体験が財産となり、それがいざというときに役立つ」と寒川さんは考えています。火のおこし方やテントの立て方といったテクニックを学ぶことも大事ですが、それ以上に、現代人が大きく欠いている「状況を観察し、判断力を磨くこと」がより重要だと寒川さんは言います。


 「今後も大きな災害が起こりうる中で、これから長く生きる子どもたちはもちろん、全人類にとってこうした経験は必要ではないか。動画やネットからでも情報は得られるが、その感覚や感触みたいなものは、体験した人にしか分からない。自分たちでやり遂げたという経験が少しずつ自信となり、それが“生きる力”につながっていく」(寒川さん)。


 貴重な十代の夏休みに、玉川学園の生徒たちは防災への意識をより高め、自分たちが森で採取した燃料で火をおこし、自然の水から安全な飲料水を得るという経験を通じ、サバイバルスキル=「生きる力」を育むことができました。
○玉川学園の教育理念と環境教育
 玉川学園は創立以来の教育理念として「全人教育」があります。その教育信条の一つに「自然の尊重」を掲げており、現在、環境保全活動と併せて全学園をあげて環境教育に取り組んでいます。自然の尊重として、雄大な自然は、それ自体が偉大な教育をしてくれる。また、この貴重な自然環境を私たちが守ることを教えることも、また大切な教育です。

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