配送ドライバーの採用支援サービスを展開する株式会社LIGO(リーゴ)。2020年に長妻潤社長が設立し、5年目となる今、40人以上の従業員を抱える企業へと成長しています。LIGOは、残業時間制限などの法改正によってドライバーの人手不足が深刻な運送業をメインに、顧客企業の悩みに寄り添い、採用・営業支援を展開しています。長妻社長はどんな思いでLIGOを設立し、成長させてきたのか。また、どんな会社を目指しているのか、話を聞きました。
誰かの人生を背負って生きる「社長という職業」に、いつか挑戦したい
埼玉県川口市で生まれ育った長妻社長。最初に起業を考えたきっかけは高校時代、倉庫作業のアルバイトをしていたときに、食事会で聞いた社長の一言でした。
「俺は30人の従業員と、その家族を含め100人の人生を背負っている。だから、絶対に死ねないんだ」
この言葉を聞き、「誰かの人生を背負って生きるなんて、カッコいいな!」と感動した長妻社長。当時はまだ「起業」と言えるほど明確な夢ではなかったけれど、自分もいつか、そんな社長業に挑戦してみたい、と考えたのでした。
▲長妻潤(ながつま・じゅん)社長。1982年、埼玉県川口市生まれ。在家中学校、本郷高校、神奈川大学卒業後、人材サービスを手掛ける株式会社クイックで15年間働き、2020年に独立。LIGOを立ち上げた
大学を卒業後、就職活動は苦戦(50戦、49敗1勝)したものの、第一志望だった人材サービス事業を担うクイックの内定を奇跡的にいただく。
採用された理由は2つある、と入社後に採用担当から聞きました。1つは、面接で特技のラップを披露したこと。
「履歴書に『即興でラップができる』と書いていたので、面接官に言われてラップで自己紹介をしました(笑)。」
さらに、集団面接で『自分は営業に向いていると思いますか?』と問われ、他の7人が手を上げる中、長妻社長だけが手を挙げませんでした。理由を問われ、長妻社長は次のように答えたと言います。
「僕は話すのが上手ではなく、見た目も好印象とは言い難いと思うので、営業には向いていないと思います。でも、将来商売をしたいので、そのために営業力を身に着けたいと思っています」
自分を客観的に見ることができている点が評価され、内定をもらえたと聞きました。
今の営業スタイル、社会人として基礎、考え方はすべて株式会社クイックで学んだ
株式会社クイックで結果的に15年間働いた長妻社長。営業を担当した後、管理職やマネジメントも経験し、「クイックでの経験が今のLIGOを創っている」と言います。
株式会社クイックは約20年前にリクルートの営業代理店事業も展開しており、長妻社長が初めて任されたのは、求人サイト「リクナビネクスト」の新規営業でした。担当エリアである渋谷に朝早く行き、雑居ビルの上から下まで飛び込み営業。しかし、300件回ってもまったく相手にされず、苦戦する時期が1年半続きました。
「この時に、そもそも話を聞いてもらう事ってすごく難しいことなんだなと肌で実感しました。もっといえば、商談のテーブルにつかせてもらうことはそれだけで感謝でしかない、とんでもなくありがたいことだと学びましたね。その感謝の気持ちは今でもお客さまとの接点のベースとなっています」
営業を伸ばすために長妻社長が取り組んだのは、大きく2点。
1つは、とにかく営業先のリストアップに時間をかけること。新聞や業界紙、プレスリリースなどあらゆる媒体を毎日読み込み、注目の企業をリストアップし誰よりも早くアタックしていきました。中でも、ベンチャー企業のPRメディア「ベンチャーナウ」を毎朝チェックし、朝誰よりも早く掲載企業に電話をかけることを欠かしませんでした。
もう1つは、もらった名刺のアドレスに定期的にメールマガジン「ぼうず通信」を送ること。クイックを退職していった先輩の新しい職場の名刺なども集まり、結果的にそのメルマガがきっかけで、はじめて棚ぼた大型受注を取り付けることができたのです。
「おまえの“為”はどこに向いているのか」29歳で改めて、起業の意味を考えた
「30歳までに独立しよう」と考えていた長妻社長。29歳の時、あるお客さまの縁で起業のチャンスが訪れます。長妻社長は副社長に相談に行きました。
ここで副社長に「起業してどんな会社を作りたいんだ」と問われ、長妻社長はクイックを思い浮かべました。長妻社長にとってクイックは、人の可能性を信じ、人を成長させてくれる会社。自分の子ども3人をクイックで働かせたいと本気で思うくらい、この会社が大好きだったのです。
「クイックみたいな会社を作りたいです。」
胸を張ってそう答えた長妻社長。しかし、副社長の言葉は思いがけないものでした。
「今のおまえでは、絶対に無理だよ」
その理由はこうでした。
「おまえは自分のために独立しようとしている。『為(ため)』が自分にしか向いていない。そんな人には、誰もついてこないよ。もっと勉強した方がいいし、もっと自分を成長させたほうがいい」
副社長の言葉は、長妻社長の心に深く突き刺さりました。「副社長の言う通りだ」と考えた長妻社長は、独立を見送り、その社長に全力謝罪して今まで通り働き続けることを選びました。
7年目からはマネージャーとなり、営業活動の他にメンバーのマネジメント業務が加わりました。ここで長妻社長に心境の変化が起こります。
「なかなか受注できなかったチームにいた、威勢のいい新卒社員(ちひろ)をサポートしてはじめて目標達成できた瞬間に、ものすごく嬉しかったんです。それまで自分のためだけに頑張ってきた、それが当たり前だと思っていたけれど、誰かのために自分を使う事で喜びを共有できる感動と素晴らしさ、チームで成果を出すことの充実感を知りました」
このときの思いが今、LIGOでの社員との向き合い方にもつながっています。
「自分自身もまったく売れないダメだった時期があったからこそ、成果が出なくてもファイティングポーズをとり続ける限りは応援する。絶対に見捨てない、と決めています」
37歳で独立、20年越しの夢を叶える
最終的に長妻社長が起業を決意したのは、2019年。
『7つの習慣』という著名な啓蒙書の中の「人生の最期を想像する」というくだりを読んだ長妻社長は、「後悔のない人生を生きてきた自信はある。でも、もし今死んだら、1つだけ、自分で商売をしていたらどうなっていたんだろう?」と考えました。
覚悟を決め、会社に報告すると、創業者である和納勉会長は、長妻社長のために独立支援制度を新設し、起業支援金を用意してくれました。長妻社長とクイックの間には厚い信頼関係ができていたのです。長妻社長も「この期待に応えたい」と覚悟がますます強まりました。
2020年1月、長妻社長は高校時代からの想いであった自身の会社を設立します。社名は、「LIGO(リーゴ)」。その由来は「Life is Good」で、いつだって自分の人生の幸、不幸を決めるのは自分でしかない、だとしたならばいつだって自分の人生は最高だ!という思いを込めました。
創業から最初の半年は、クイックからの業務を請け負う形で飯を食わせてもらいました。そんなよちよち歩きでスタートしたのですが、3か月ほど経った時に初めてクイック以外の会社から業務を請け負います。
それが、ドライバー専門の求人サイトの営業コンサルティング業務でした。慢性的なドライバー不足、コロナ、そして2024年問題などでインターネット通販の需要が伸びドライバーの求人は増え続けていました。
運送業のドライバー不足は構造的課題がある。その特性に注目し、運送業への営業に力を入れ始めました。
「現在、LIGOの売り上げの約50%が運送業の人材支援(設立から2年間は100%)となっており、運送業のお客様のおかげで、今のLIGOがあります」
家族、友人、みんなに勧めたくなる会社を目指す
LIGOのビジョンは、「大切な人に働いて欲しい場になる」。
長妻社長が自分の子どもをクイックで「働かせたい」と考えたように、LIGOも「従業員が自分の大切な人に、このLIGOという会社で働いてほしいと思うような会社にしたい」という思いをこのビジョンに込めています。
このビジョンを実現するにはどうすればいいか。最初に取り組んだ事は、『大切な人休暇』を作り、大切な人と過ごすために、有給とは別に1日休暇を取れる制度(食事代として5000円支給)を作ったり、給料を同業他社より少し高く設定したりと社内の制度改革を出来る範囲で最大限に進めてきました。
「キャリアの選択肢も多い方がいいので、そのためには会社の規模を大きくしていきたい。このビジョンをベースに会社の制度や目指す方向性を考えています」
行動指針も明確です。
このビジョンや行動指針など、LIGOが大切にしていることは、誰かが実現してくれるものではなく、社員1人1人に体現してもらいたい。そこで、会議の場や、社内コミュニケーションに活用しているSlackなどで、ことあるごとに長妻社長から発信し、社内への浸透を図っています。
起業したからこそ、たくさんの「感謝」が生まれた
運送業に介在価値と商機を見出し、採用支援を手掛け始めた長妻社長ですが、クライアントと関わるうちに、運送業が抱える深刻な人手不足の現状を目の当たりにします。2024年には運送ドライバーの残業規制などの法改正が行われ、この先ドライバーの人手不足はますます加速し、2040年には約100万人規模の人材不足になると予想されています。今後、多重請負構造を変革し2次請けまでにするために、荷主、元請け業者への運賃などの適性化を求める動きなど時代の流れに合わせて、LIGOは8月に「ハコプロ」という新たなサービスをスタートさせました。
ハコプロは、運送会社と荷主が出会えるマッチングサービスを目指しています。スポット便ではなくな定期便を安心して任せたくなるようなホワイト物流への取り組みをしっかりと行う会社があることを紹介したい。そのために、生産性向上や物流の効率化を実現し、ドライバーの負担を軽減するための取り組みを紹介したり、社長やドライバーのメッセージ掲載をしたり、その会社ならではの特徴を深く知ってもらうためのPRメディアです。
▲社員は基本リモート勤務だが、月1回のオフライン会で顔合わせている
29歳の時、前職の副社長に「為(ため)が自分に向いている」と指摘された長妻社長。それから10年以上が経ち、長妻社長の『為(ため)』は今ハッキリと運送業界に向いています。
2020年に起業した当時には「今の自分は想像していなかった」と話す長妻社長。ここまで来られたのは、前職の上司や、家族、従業員、そしてお客様のおかげと語ります。
「間違いなく、起業に挑戦して良かったと思っています。自分で責任を持ち、何かを始めることによって、『感謝』が生まれます。会社を辞めて、何者でもないところからスタートしたわけですから、家族にも、仲間にも、自分に関わってくれたすべての人に対するたくさんの『感謝』と出会えたことが、起業して一番良かったことですね」
起業からの4年間は、いいことも悪いことも含めて、想像を超えた出来事ばかりだったと長妻社長は振り返ります。
「だから、この先もきっと、想像を超えた未来が待っているのだと思います」
挑戦はまだ始まったばかり。これからも 長妻社長は仲間たちとともに、ビジョンの実現を目指していきます。