この記事をまとめると
■日本では下火だが世界ではステーションワゴンはまだまだ人気車種だ
■ステーションワゴンでも3列目シートを備えたモデルがかつて多く存在した
■狭かったり進行方向とは逆向きに座るなど実用性に乏しかった
3列目シートを備えたワゴンもじつは多く存在した
現在、わが国ではSUVの陰に隠れてしまったステーションワゴン。しかし国産車でもスバル・レヴォーグが頑張っているし、ボルボのVシリーズも根強い人気を誇っている。
欧州に目を向ければ、メルセデス・ベンツ、BMW、アウディ、フォルクスワーゲンのステーションワゴンは依然としてレジャーユースに向くクルマとして販売は好調と聞く。9代目にフルモデルチェンジしたVWパサートがセダンを廃止し、ヴァリアントと呼ばれるステーションワゴンのみになったのも、主に欧州でのステーションワゴン需要の高さの表れだろう。
そんなステーションワゴンだが、2列シート+大容量のラゲッジルームの5人乗りだけだと思ったら大間違い。じつは古くから、3列シート、7~8人乗りのステーションワゴンが存在していたのである。
意外かも知れないが、1955年に初代が登場した日本の高級車のパイオニア、トヨタ・クラウンには、1962年デビューの2代目から最大8人乗りの後方向き床下収納式の3列目席を備えたのワゴンがあったのだ。3列シートのクラウンワゴンは、その後8代目まで用意されていたのだから、多人数乗用車の草分け的車種といってもいいだろう。
当時のライバルである日産セドリックも、1983年登場の6代目に後ろ向き3列シート、7人乗りのワゴンをラインアップしたことがある。ただし、車酔いしやすい人に後ろ向きシートの走行は不向き。やはり、止まった状態でくつろぐためのシートと考えたほうがいいだろう。
近年の国産ステーションワゴンでは、ミニバン的でもあるトヨタ・プリウスα、ホンダ・ジェイドなどがあるのだが、そもそもミニバン全盛期に登場した2列シート用のプラットフォーム、ボディサイズに無理矢理3列目席を付けたような3列シートワゴン的車種であったため、3列目席の実用性は厳しく、緊急席的であったことは確か。
2015年デビューのジェイドについては、2列目席V字レイアウトの3列シートに加え、2018年にRSグレードを2列シートワゴンとして登場させ、一定の支持、人気を得ていたのだが……。
ワゴンの3列目は正直使い物にならない
で、それらの無理矢理3列シートワゴンの3列目席がどのぐらい狭かったといえば、身長172cmの筆者基準で、プリウスαは頭上に125mm、2列目席後端時の膝周り空間0mm、2列目席膝まわり空間を145mmにセットしたときの膝まわり空間60mm。ジェイドは頭上空間こそ210mmと不足なかったものの(思いっきり低く座らせるため)、膝まわり空間は100mm~(2列目席スライド位置による)と窮屈。
そもそも乗り降りすること自体が大変だった。やはり、3列シートミニバン全盛期の「3列シートにすれば売れそう」という発想のもとで生まれた非実用的3列目席をもつワゴン的車種だったのである。
欧州車、アメリカ車にも3列シートのステーションワゴン古くから存在する。
たとえばボルボ940エステートの3列目席は、普段はラゲッジルームの下にすっきりと格納することを前提とした、後ろ向きの超簡易的な3列目席を装備。なので、大人が座るのには無理があり、停車中にバックドアを開け、子どもがテラス席のように使うのが主な用途だったようだ。
メルセデス・ベンツのステーションワゴンでも、W124ミディアムクラスのステーションワゴンに7人乗りの3列シートが備わり、フォード・トーラスなどにもにあったものの、これもラゲッジルーム床下格納タイプの補助的シートそのものであった。
SUVにも3列シート仕様車があるのだが、ステーションワゴンとは違い、高めの全高、室内高を生かした3列目席であり、ワゴンの3列シートモデルとは別物の実用性があることは確か。たとえば、今はラインアップにないマツダCX-8の3列目席はシートサイズもたっぷりしていて、巨大なリヤドアや2列目席キャプテンシートによる2-3列目席スルー空間が225mmもあり、3列目席の乗降性はなかなかのもの。
なおかつ身長172cmの筆者基準で頭上に80mmはともかく、膝まわり空間に50~120mm(2列目席スライド位置による)のスペースがあり、SUVにして大人でもけっこうちゃんと座れる3列目席が備わっていたのである。
つまり、ステーションワゴンならではの低い全高、室内高から、あくまで「最大7~8名、法規を満たして座れます、乗れます……」という乗車定員稼ぎの床下格納型3列目席だと考えていい。SUV、ミニバンが一世風靡する昨今、安全基準の厳しさもあって、3列シートのステーションワゴンが絶滅危惧種となったのは当然といっていいかも知れない。