【積水化学グループ】超高齢化社会の課題に、積水化学独自のセンサー技術で挑むANSIEL

2024.07.18 10:00
人手不足が叫ばれる介護業界。厚生労働省の試算では、2040年にはさらに約69万人の介護人材が必要になってくるといわれている。
介護する側の負担軽減をいかに図るか、そして介護される側の安心・安全をいかに守るかが求められている。


介護施設では、人手不足の背景から、夜間の定期巡視を職員1人(※1)で行うことも多いという。
「職員の夜間定期巡視は1人が担当、1~2時間に1回程度のペースが多く、肉体的業務負担だけでなく、何かあったらどうしようという精神的負担もあります」
積水化学工業 高機能プラスチックスカンパニー 開発研究所 SDプロジェクトヘッド荒浪亮


そう話すのは、積水化学の高機能プラスチックスカンパニーの開発研究所、SDプロジェクトヘッドの荒浪亮だ。入居者が安心して眠れているかを確認し、異変があれば即座に対応する夜間の定期巡視。認知症などの入居者がいる場合は、突然の起き上がりもあるため気が休まることはない。また、入居者も1~2時間おきに確認されることで、熟睡できないケースもある。


そこで荒浪らはANSIEL(アンシエル)を開発した。ANSIELはベッドのマットレス下に設置することで、ベッド上の要介護者の動きを検知・解析し、介護士のスマートフォン、パソコンなどの端末に通知する介護支援用品だ。荒浪らが所属するSDプロジェクト(SD=センシング&データ)はこの新事業ANSIELのために生まれた部署である。
ANSIEL(アンシエル)


ANSIELに内蔵された独自開発の高精度圧電センサーにより、ベッド上の要介護者の体動・起始・起上を含む10項目の動き・状態を検知・解析し、起上の場合は介護者に5秒程度で通知できる。
「ANSIELは、要介護者の夜間の1人歩きや、立ち上がり動作に伴うけがリスクの低減の支援および健康管理に貢献するとともに、介護士の負担軽減を図ります」
センシング技術でデータを取得する


認知症利用者の夜間の見守りや利用者がどれだけ睡眠をとれているか、起き上がりをしているかなどを一元管理できるため負担は大幅に減る。今では介護施設からの引き合いが日々あるというANSIELはどのように生まれたのか?


(※1)ユニット型特別養護老人ホームの場合は20名を1人で担当することが多い。
センサーの利便性を高めるためサービスとして全体設計をする
「すべてが初めてのことでした」。そう話すのは、ANSIELの開発担当の葛山裕太だ。ANSIELで使っているセンサーは独自技術で生み出されたものだ。電気をかけたフォーム材に圧力をかけると電気信号として検知し表示することができる。積水化学は薄膜化技術で薄いフォーム材を作ることができ、それを帯電させることにより圧力をかけると電気信号として取り出せる圧電センサーとなる。


「これを見守りセンサーとして使えるのではないかと企画開発を始めたのですが、そもそも積水化学として素材を提供することが多く、最終製品まで作ることはこれまでありませんでした。ANSIELの取り組みは社内でも経験がないということで、開発することに対し、多くの反対意見があったと聞いています」


しかし、一人の執行役員が「これは社会に必要なものである」と強力に支援。開発に承認が下りたという。完成までの道のりは未経験ゆえに険しかった。


「まず見守りセンサーはICTで管理する必要があり、ハードウエアからソフトウエア、サーバー、アプリと幅広い技術を取り入れて開発を行う必要がありました。マットレス下に敷いた状態で脈や呼吸を測ることができる薄くて高感度なセンサーから取得した信号を、どのように判定し表示に反映するかが肝でした。中でもANSIELの強みとして反応の早さがあり、これを実現するための判定方式の開発、そしてチューニングには苦労しました」
アンシエルの仕組み(https://s-ansiel.com/specification/use.php)
積水化学工業 高機能プラスチックスカンパニー 開発研究所 SDプロジェクトの葛山裕太はオンラインで取材に参加した


介護業界はDXが叫ばれているが、現場では手書きの記録などアナログな作業が根強く残り、職員もICTが苦手というケースもある。そこで葛山たちは、操作性や使いやすさにもこだわった。


「私たちのアプローチはとにかく簡単に扱えることを目指して、機能を必要最低限に絞っています。また画面もイラストを使って分かりやすくしています。介護業界で新しくICTサービスとしてANSIELを使う人の立場で開発当初から注意して設計してきました」


葛山たちの狙い通り、これは介護施設に高評価を得たという。まるで普段使っているスマホのアプリのようにイラストなどを使い分かりやすい画面表示だ。
取得したデータは誰が見ても分かるようなユーザーインターフェースで表示する
苦労したソフトウエアの開発、しかしそこで信頼を勝ち得る
ANSIELを発表したのは2020年5月20日。新型コロナウイルス感染症の流行を受け、1回目の緊急事態宣言が国内で出されていたまさにその時だった。「このようなプロダクトをつくったこともなく、どのように販売していけばいいのかも手探りだった」と営業企画を担当した和田篤は、当時の苦労を振り返る。


「荒浪も含めチームで介護事業者リストを持ち寄って上から順番に電話をかけていったのですが、時期が時期だけに『今ですか?』と言われることもありました。ただ、そんな中、九州の大手介護施設事業者様にお電話した際、その事業者の役員の方が出られたんです。その方に説明し、デモをする機会を得ました。実際にデモを見てもらうことで、これは経営に必要だと感じていただけました」
積水化学工業 高機能プラスチックスカンパニー 開発研究所 SDプロジェクトの和田篤


やはりニーズはあったのだ。介護施設の事業者側からリクエストがあれば、システムを改善することもあり、その対応の柔軟性、速度感も評価された。


「ハードウエアだけでなくソフトウエアもすべてマネジメントしているので、私が葛山にすぐ相談し、葛山がチームで検討している様子を見られるなど速度面でも品質面でも安心感があります。これは事業者様にも評価されているポイントです」


和田は今、営業だけでなく営業企画としてどのようにANSIELの魅力を伝えていくのか、どのようなパートナーと組んでいくべきかその戦略設計も担っている。


「介護は課題が多い業界。職員の皆さんも大変で、ANSIELを知る機会のないこともあります。セミナーなどを通じて多くの人に知ってもらい、負担を軽減してもらいたい」と話すが、「最初の電話営業は経験したことのない大変さだった」と苦笑いする。


葛山もANSIELを通じて「ありえないくらいの幅広い経験ができました」と和田に共感する。ソフトウエア、ネットワークの開発経験がなかった葛山は、この経験で「たいていのことには動じない心」を持てたと笑う。
センサーとデータで社会課題を解決する
荒浪は、和田と葛山の活躍について「狙い通り」とほほ笑む。「30代の人たちに責任感のある仕事をしてもらい、成長を促す必要があります」。荒浪はANSIEL以前に、そもそも企業には新規事業が必要だと話す。「私なりにさまざまな会社の歴史を学んだ結果、新陳代謝ができている会社が成長をしているという考えに至ります。新規事業に対する挑戦心を持ち続けなければなりません」


ANSIELは厚生労働省の「介護ロボット導入支援事業」をはじめ、各種補助金や助成金の対象となっている。国の後押しがあるからこそ、新規事業としてもチャレンジしやすい。なぜなら、新しいものを受け入れるにあたり、受け入れ側は国が補助をしてくれるなら安心と考えられるからだ。導入がしやすく、導入後に生産性が向上すればANSIELの評価は自然と高まっていく。また国が科学的介護を推進している中で、ANSIELのデータは今後最適な介護や自立支援にもつながっていくだろう。このような社会トレンドを踏まえながら、荒浪なりのプロジェクトチームを組成した。


「和田と葛山のように営業と開発をプロジェクトチームの中に入れることは絶対です。この2部門のコミュニケーションが円滑になって初めて新事業はうまくいきます。そして、できるだけ若手を抜てきすることです」


取材中も荒浪はできるだけ和田と葛山に話すよう促していた。「あとは私たちのチャレンジを応援してくれる上役がいることです」と話し、ANSIELについては前述の執行役員が応援してくれたことが大きいと振り返る。


この推進体制で、ANSIELは急成長を遂げている。相談や注文も多く、売り上げは右肩上がりの状態だ。


「導入成果が出ていることが、業界内の口コミなどでも広がっているようです」
実際、介護付き有料老人ホームの65床にANSIELを設置した際に、夜間定期巡視は5回から1回に、夜勤職員の時間外勤務は65%減、夜間職員の歩数も20%減になるなど、スタッフの負担軽減はもちろん経営の効率化も図れ、結果として質の高い介護を提供できるようになったという。介護課題の解決に寄与するANSIELというプロダクトをゼロから開発し、運用まで手がけた荒浪らのチャレンジは具体的な成果を出しているのだ。


荒浪たちはANSIELに続く事業の柱とすべく、「Smart Level」の拡販も進めている。これもセンサーを活用したプロダクトで、ゴミ容器の内側・天面に取り付けることでゴミの量を遠隔監視できるものだ。情報は管理者のスマートフォンやパソコンなどに通知する。これにより定期巡回から必要なタイミングでの回収への変更を可能とし、ムダ巡回の削減による作業軽減やゴミ容器周りの美観維持に貢献できるという。


介護業界にとどまらず、センシング技術やデータを活用することで、日本全体の人口減少による人手不足問題に対して向き合う姿勢。その挑戦心を荒浪たちの話しぶりから感じ取れた。そして彼らの取り組みは、「未来につづく安心」へと繋がっている。
【関連リンク】
■ANSIELサイト
■「入浴介助の負担軽減と高齢入居者の自立支援へ モノをヒトに合わせる可変性」
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