日本企業の存在感低迷にテコ入れ 日タイ企業の架け橋プラットフォーム「TJRI」誕生秘話

2024.06.05 12:00
タイと言えば、日本人が観光地として親しむ国といったイメージが強いでしょうか。2024年度版「今年行きたい海外旅行先は?人気旅行先ランキング」(※1)ではハワイなど欧米に次いでタイは9位に輝きました。2022年10月時点の在タイ日本人は約78,000人(※2)と世界4位を誇り、「タイ日系企業進出動向調査2020年」(※3)にてタイで活動が確認された日系企業は5,856社にのぼります。


しかし近年「タイにおける日系企業のプレゼンスが急降下している」と言われていることをご存じでしょうか。


「2023年の外国直接投資、申請・認可額ともに中国が首位、日本は4位」(※4)によれば、日本は中国、シンガポール、米国に次ぐ3位に急落しました。2021年は申請ベース・認可ベースともに首位だった日本。2022年の認可ベースでは首位を維持したものの、ついに2023年、申請額・認可額ともに中国に首位の座を譲ってしまったのです。


タイにおける日本の存在感が薄れていく中、Mediator(本社:タイ王国バンコク、代表取締役社長:ガンタトーン・ワンナワス)​​は2021年、日系企業とタイ企業のB to Bマッチングプラットフォーム「TJRI(Thai-Japanese Investment Reserch Institute:タイ日投資リサーチ)」を立ち上げました。


Mediatorは2024年6月5日に設立15周年を迎えました。2009年の会社設立以来、両国の架け橋になることをミッションに掲げ続けるCEO ガンタトーン氏に、「TJRI」誕生の経緯と、2024年4月に新しく生まれ変わった運営メディア『THAIBIZ』について話を聞きました。
起業の原点は、花売りの少女
ガンタトーン氏は、銀行員の父親の影響で、幼い頃から日本や日本人に慣れ親しんでおり、高校卒業後は日本の埼玉大学工学部に留学しました。大学卒業後、タイ王国日本大使館にて5年間務めた後、タイへ帰国してMediatorを創業。起業を志したきっかけは「タイの路上で見かけた花売りの少女」だったと言います。


「日本から一時帰国していた時、車の中から路上で花売りをする少女が目に入りました。タイでは珍しい光景ではありませんが、当時の自分はなぜか見過ごせず衝撃を受けたのです。同じタイ人なのになぜこんなにも違う境遇なのか…と疑問が膨れ上がっていったことを今でも鮮明に憶えています。


当時はアジア通貨危機でバーツの価値が急落していました。自費で日本への留学を叶えてくれた両親は、相当な負担を感じていただろうと推測しています。自分は経済的に恵まれており、その環境に感謝をしなければならない…そういった実体験や想いから、これまでは目に入っていなかった少女の姿が自分の感情に突き刺さったのだと思います」


その日を境にガンタトーン氏は、「将来は社会貢献ができる人間になる」「そのために20代で起業する」と明確な目標を掲げました。その志通り、彼は2009年にタイにてMediatorを設立しました。
「タイと日本をつなぐ」をミッションに、コロナ禍も乗り越える
Mediatorのミッションは「タイと日本をつなぐ」。通訳や日タイ企業を繋ぐコーディネーターとして活動を始めたガンタトーン氏は、徐々に仕事の幅を広げていきました。


「商談会などイベント系の運営を多く手がけるようになったため、コロナ禍では他企業と同様、大きな打撃を受けました。このままでは資金繰りが立ち行かなくなってしまう…と、文字通りの危機でしたね。


それまでは受託仕事が多く、どちらかと言うと”待ちの姿勢”だった当社ですが、否応なしにその姿勢を変えなければなりませんでした。会社の中心メンバーと一丸となって”攻めの姿勢”へと切り替えていき、これまでの経験や知識を総動員して「こんな企画はどうですか」「こんな商談会はどうですか」と主体的に企画を提案するスタイルを確立していったのです」


営業スタイルの転換が功を奏し、Mediatorは新しい展示会のパターンも生み出すことができ、一皮むけた状態でコロナ禍を乗り切ることができました。
ガンタトーンCEO
ビジネスマッチングの精度を上げたい。突破口は?
創業以来、常に、日タイ企業のビジネスマッチング制度をさらに上げる方法を模索していたと話すガンタトーン氏。商談会の成約率を伸ばすための施策について考えを巡らせては「本当にタイ企業に満足してもらえているのか」「日本企業のタイ進出に、本当の意味で貢献できているのか」と悩む日々が続いたと言います。


「そこで私は、タイの上場企業800社以上に連絡し、実際に100社にヒアリングを実施することで、突破口を探りました。すると少しずつ、糸口が見えてきたのです。今のタイ企業が日系企業に求めているのは、高い技術でも高性能な品質でもなく、シンプルに『自社の課題を解決してくれる製品や技術』だったのです。逆を言えば、課題を解決してくれるのであれば、どの国の企業でも構わないわけです」


“日系企業だから”や”日本の製品だから”といった理由だけで日本が振り向いてもらえる時代は終わったようだ…それがガンタトーン氏の気付きでもあり、突破口でもありました。


それを機に、タイ企業のニーズを発信する自社ウェビナー「Open Innovation Talk」を開始。事前にタイ企業にヒアリングを行い、抱えている課題を把握し、それを解決するために必要なモノやサービス、プロダクトを日系企業に提案してもらう形に移行しました。プロダクトアウト型からマーケットイン型に転換したことで、日タイ企業のマッチングにも希望の光が見えてきたのです。


「例えば、ヒアリングを行ったタイ上食品会社のひとつ、タイ産のフルーツを輸出している企業からは『旬の時期に大量に収穫したドリアンを冷凍保存しておくための冷凍庫や保存技術が欲しい』といったニーズがありました。


性能の高い保存技術や冷凍庫は日系企業の得意分野です。ヒアリング結果を日系企業に伝えることで逆提案をもらい、タイ企業に打診するなど、その他の案件も含めると1000件ほどの商談が実現できました。
2023年に実施したEV企業交流会
タイ企業と日系企業をつなぐ「TJRI」そして「THAIBIZ」の誕生
タイ企業の抱える課題を把握し、課題解決策としての「日系企業との橋渡し」。ニーズ把握と提案機会創出のためにタイ企業とのネットワーク作りを支援する試みが「TJRI」です。


「タイ企業であるMediatorだからこそ提供できる3つの価値は、『Connection(キーパーソンとつながる)』『Requirement(日本企業に対する要求が分かる)』『Opportunity(実践機会が得られる」』だと考えています」




「タイ企業とのネットワーク作り、3年から3ヶ月に」


Value1:Connection(キーパーソンとつながる)
タイ大手上場企業、官公庁・規制当局など、決裁権限を持っている経営者や実担当者を知り、出会う機会を提供。


Value2:Requirement(日本企業に対する要求が分かる)
タイ企業の「ニーズ」が分かるセミナー・情報を提供。


Value3:Opportuniry(実践機会が得られる)
タイ企業に対する提案機会を提供。




この3つの価値を提供するための具体的手段としてTJRIは、タイ企業訪問、日タイ企業交流会、タイ企業との商談サポート、タイ企業ニーズ説明会、タイ企業のインサイト情報といった5つの機会を提供しています。


「TJRIは、タイにおける日系企業のプレゼンスを高めるためでもあり、同時にタイ社会のためでもあります。これからはタイ企業と日系企業とが”協業”することで、タイ社会に新しい価値を生み出していく時代だと考えています」
TJRI主催の交流会後、名刺交換を行う日本人とタイ人


TJRIはこれまで、日タイのビジネスに関するコンテンツの制作やニュースレターの配信にも注力。一方で2023年4月、GDM (Thailand) Co., Ltd.より、メディア事業(月刊ビジネス情報誌『ArayZ』及びArayZ ONLINE)の譲渡を受けました。


「2024年4月、ArayZとTJRIのメディア統合を行い、新しいメディア『THAIBIZ』が誕生しました。『THAIBIZ』ではオリジナル特集や新コーナー”在タイ駐在員の挑戦”も始まり、より一層充実したコンテンツをお届けできるよう編集部一丸となって取り組んでいるところです。


これまでのArayZは在タイの日本人ビジネスパーソンが主な読者でしたが、『THAIBIZ』は日本で働くビジネスパーソンにも是非読んでいただきたいと思っています。この媒体をきっかけに「タイでビジネスをしてみよう」「タイ向け事業に力を入れてみよう」「タイで働いてみよう」と思ってくれる日本の方が増えたら嬉しいです」


THAIBIZ ONLINE:
 THAIBIZ誌面 5月号


PDFのダウンロードはこちらから▼
(※1)
(※2)
(※3)
(※4)

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