この記事をまとめると
■高齢化社会では高齢者たちの移動が大きな課題となっている
■解決には自動運転テクノロジーを活用することが有効とされている
■サービス実用化を目前に控えた日産の自動運転テスト車に試乗した
日本の自動運転技術の最先端に迫る
高齢化社会に伴い、移動ニーズが多様化すると同時に、職業ドライバーが不足するという問題が起きているのはご存じのとおり。
タクシーのドライバー不足についてはライドシェアサービスの拡大という方向に向かっているが、あくまで都市部に限定した解決策であって、住民の少ない地域においては役立たないという見方もある。
高齢者に運転免許返納を求めるのであれば、高齢者の移動する権利を守るために公共交通サービスを提供することは表裏一体といえるが、前述したように慢性的なドライバー不足によりアンバランスな状況になっているのが実情だ。
バスやタクシーのドライバー不足を根本的に解決する手段として、以前からいわれているソリューションのひとつが、自動運転テクノロジーを活用することだ。ようはドライバーレスで運行できる“無人タクシー”の実用化が求められている。
自動運転テクノロジーといえば、日本の自動車メーカーは遅れているというイメージもあるかもしれないが、そうした認識は間違っている。とくに自動運転に積極的なのは日産で、2013年には初代リーフをベースにした自動運転実験車両でナンバーを取得、公道走行をしていたほどだ。
その後も日産は、自動運転の実証実験を積極的に進めてきた。
2018年には、横浜みなとみらい地区において2代目リーフをベースにした自動運転車両3台により単一ルートを走るモビリティサービスの実証実験が行われた。その後は、ワンボックスタイプの電気自動車e-NV200をベースとした実験車両にて、同じく横浜みなとみらい地区にて実証実験を実施、複数ルートを走行できるようにまで進化した。
この時点ではドライバーレスというわけにいかないが、これら実証実験の最終段階では運転席にこそセーフティドライバーが座っているが、基本的な操作はせず、また遠隔監視するところまで進化していたという。
とはいえ、これまでの実証実験はあくまでも“決まったルート”を走るというもので、多くのユーザーが「無人タクシー」に期待するような任意の出発地点から目的地まで最適なルートで走行する……というものではなかった。従来の自動運転技術では、住宅街のようなセンターラインのない道を走るのは難しく、特定のルートでの運用が現実的な解という面もあった。
不安がない自動運転実用化はもうすぐそこだ
しかし、日産の自動運転テクノロジーは着実に進化・進歩している。
2024年からドライバーレス自動運転「ロボシャトル」によるモビリティサービスの実証実験を開始するというのだ。当初はスタッフが同乗する状態での実証実験から始めるというが、2027年度には自動運転レベル4を実現、ドライバーレスのロボシャトルによるモビリティサービスを実用化することを目指している。ロボシャトルのベース車両となるのはミニバン「セレナ」で、最大20台を運用するというから、かなり本格的なサービスとなりそうだ。
というわけで、日産が目指すロボシャトルの実力は気になるところ。リーフをベースとした自動運転車両に試乗、その走りっぷりを体験してみることにした。
スタートして最初に驚いたのは発進加速が、それなりに元気なことだ。
筆者は約10年前に初代リーフをベースにした最初期の自動運転実験車両に乗った経験をもつが、そのときはおそるおそる発進している印象があった。10年ひと昔というが、現在の自動運転テクノロジーにおいては迷いのないしっかりとした加速を実現している。
無人タクシー的モビリティとしてロボシャトルを運行させるということは、一般車両と混合して走ることになる。そのときに明らかにソロソロ・ノロノロと走っていては周囲のドライバーに自動運転は受容されがたくなってしまう。制限速度や一時停止、徐行といったルールを守ることは絶対条件ではあるが、その範囲内においてはベテランドライバー顔負けの積極的かつ安心できる確実な走りを見せてくれた。
そうした性能を支える技術を象徴するものが、全身に配備された計30個のセンサー類だ。その内訳はカメラ14台、ミリ波レーダー10台、LiDAR6台というもので、つねに360°周囲を確認しながら走行している。カメラにより信号や先行車のウインカー点滅を認識できるので、赤信号では停止するし、青信号に変われば進む。先行車が路肩に止まろうとしたときには車線変更をしてよけるという振る舞いも可能になっている。
また、右折信号がない交差点でも対向車や歩行者を確認しながら上手に右折したのには驚かされた。左折時にも歩行者の有無を認識するだけでなく、先行車の挙動に合わせた走りもできるというから、かなり人間の運転に近い。
写真からもわかるように、今回の試乗はときどき霧雨と強風に見舞われるという悪条件下だった。こうした条件ではカメラの性能がフルに発揮できないこともあるが、前述したように複数のセンサー情報を利用していることもあり、非常にスムースな走行だった。唯一、強風によって道路上に街路樹の枝が落ちているというシチュエーションでは停止してしまったが、こうした問題点や課題を抽出することが実証実験の役割ともいえる。
現時点ではシステムを監視するセーフティドライバーが必要な自動運転レベル2ということだが、機能的にはドライバーレスかつ遠隔監視で走行できる自動運転レベル4相当に近い仕上がりになっているという印象だった。
遠い未来の話ではなく、数年後には日産の自動運転テクノロジーを活用した無人タクシーが、職業ドライバー不足という社会問題を解決することに期待したい。