この記事をまとめると
■5月の連休明けに4月入社の新人社員が退職するという報道がされていた
■自動車ディーラーも新入社員離職率が高く1年後には8割近くが退職している場合もある
■今後は「セールススタッフ型ロボット」との商談の時代がやってくるかもしれない
かつては新車販売のセールススタッフはかなり流動的だった
最近は新入社員が4月1日、つまり入社直後に「退職代行業者」を使って退職してしまうというトピックをメディアが相次いで報じていた。そして、今度は大型連休明け直後に新入社員の退職が続出するのではないかと報じはじめている。
まあ新入社員だけではなく、雇用した企業側も「ミスマッチ」状態を放置しておくのはけっしていいことではない。いまどきの企業なら、その辺りも「リスク」として含んで採用活動を行っているだろうから、「外野」が面白おかしく扱っているだけの話かもしれない。
過去には新車販売のセールススタッフはかなり流動的(転職を繰り返す)であった。新車を契約し納車となったあと、初めての無料点検の日程を決めようと店舗に電話すると、「担当セールススタッフは退職しました」ということもザラであった。昭和や令和初期では「個人情報」というものはあまり重視されず、セールススタッフが各々の顧客を管理し、同業他社へ転職するときには顧客名簿を持って退職し、転職先での販売促進活動に活用していた。転職を受け入れる側も「顧客名簿付き」で転職を受け入れていた。
最近の報道を見ていると、「希望部署に配属されなかった」とか、「事前に聞いていた話(思っていたのと)と職場の雰囲気が異なる」といった理由で入社早々に退職する新入社員がいるとのこと。新車販売の世界は就職活動中に説明を受けても、その仕事の本質を理解することはまず不可能(他の仕事も同じとは思うが……)。当時は入社後に最低限の座学を受け、入社後1カ月経過あたりで正式配属先にて新車販売活動を開始するのが一般的だったので、まさに「なんか違う」と思うのも当たり前であった。
それでも自分で選んだ仕事ということで一生懸命取り組むのだが、聞いた話では1年後ぐらいには、新卒で一斉採用したセールススタッフのうち8割近くが退職したといった話も聞いている。史上もっとも新車が売れていたバブル経済のころは、「セールススタッフがいればいるほど新車が売れた」というのもまんざら嘘ではない世の中だったこともあり、また新卒採用者の退職を考慮して、常時中途採用での募集を行っていたので、多くの新人が退職してもそれほど困らなかったという話も聞いている。
個人情報の取り扱いが厳密になると、そう簡単にセールススタッフも業界を渡り歩くことができなくなった。働き手不足が深刻とはいわれるものの、バブル期以降しばらくは新卒一斉採用人数もかなり多かったこともあり、その世代がボトルネックとなってここ最近は中間管理職以上に限ればやや「人あまり」なようで、若手や中堅はなかなか昇進できないといった話も聞いている。しかし、「昇進しても役職手当てがたいしてつかないのに責任だけ増す」と、管理職ではなく現場のセールススタッフのままでいいという傾向も目立っているようだ。
このように、働き手不足とはいうものの、それは販売現場最前線での話というのも正直なところ。また、新型コロナウイルス感染拡大、その後の納期遅延の混乱、そして諸物価高騰などによってディーラー収益がかなり厳しい状態でもあり、昨今の新卒採用は最前線で働くセールススタッフが十分ではないが、それを改善できるほどの規模の新卒採用もできず、定年退職などで抜けた穴をふさぐような、「人員補充」レベルという規模縮小気味の採用となっているようである(ある意味少数精鋭?/もちろんディーラー個々で状況は異なる)。
また、最低限の座学を経て独り立ちということもなく、数カ月かけて「インターン」のように、一定地域内の店舗への仮配属を繰り返し、そして数カ月後に正式配属先で販売促進活動を始めるといった流れになっているようである。
過去には新車販売業務に限った話ではないが、「教えてもらうのではなく先輩の仕事を見て覚える」といった職人気質のノリが広く一般企業でも目立っていたが、能動的な対応が苦手で、とくに仕事では受動的な対応に終始しがちといういまの若い世代には通用しない(指示された仕事はしっかりこなす)。先輩を指導教官役として新人につけることになるようだが、指導方法次第では指導教官役の先輩が「パワハラ」や「セクハラ」などで訴えられかねないので、新人育成を買って出るような先輩セールススタッフもなかなかいないようである。
新車購入はセールススタッフとの人間関係構築が重要
何をいいたいのかというと、数カ月の研修プログラムを経たとしても、過去の簡単な座学で販売現場に放り込まれていたころと同じほど、「右も左もわからない」状態で新車を売ろうとしているのである。まずはとにかく多くのお客と商談を繰り返し、販売実績を積み上げていくなかで、自分の「商売スタイル」を確立させていくしかないのである。
筆者の経験で行けば、「この新人は将来の役員候補だな」とすぐに伝わる、スバ抜けて新車販売の世界への適正の高い新人もいれば、「いまどき」とはいいたくないが、世代間ギャップをモロに感じるような、オジサン世代としては対応に困るような新人もおり、昔に比べればそのパーソナリティは「多様化」しているのも現状だと感じている。
よく「新車を買うなら新人とベテラン、どっちがいいか」という議論があるが、値引きなど購入条件で好条件提示を重要視するなら新人セールススタッフがおすすめである。入社0年、つまり当該年度入社のセールススタッフには、いわゆる販売ノルマは設定されないようである。
たとえば、販売会社全体での年間目標販売台数について立地などを考慮して各店舗に割り振り、店舗に割り振られた台数を、経験年次などによって店舗のセールススタッフにそれぞれ割り振られることになるが、配属された新人は「カウント外」となるというのである。いまどきのセールススタッフは単に新車を数多く売ればいいというわけではない。月締めなどで一定の粗利が確保されなければ、セールスマージンが支払われないという「足切り」があるとも聞いている。
その足切りも台数や粗利だけではなく、下取り車入庫台数やローン利用の有無なども管理されるという。こうなると、経験2年次以降のセールススタッフはガンガン値引きを拡大させて乱売するわけにもいかない。ただし、そのような「足かせ」のない新人セールススタッフは例外となる。新人セールススタッフだけでは受注まで持ち込むのはなかなか難しい、マネージャーや店長などが商談に同席してくる。同席する上司も「新人の案件」とすると本部の決済も取りやすいので、条件拡大もスムースに進む。
ただし、いまどきは新車の車両価格も単純な改良を伴うものかを問わずに諸物価高騰により上昇基調にあるが、十分コストアップ分を吸収できるものではないので、車両本体価格からの値引きはかなり厳しい。条件アップの中心は下取り査定額の調整(つまり上乗せ)がメインとなっているようである。
新人セールススタッフは「早期退職(すぐにやめてしまう)」というリスクがある。また、世代間ギャップなのかもしれないが、ベテランほど納車後に親身につきあってもらえるかも疑問が残る。
担当セールススタッフが退職すると、とりあえず同じ店舗のセールススタッフが引き継ぐことになるが、それは形式的なものとなることが多い(自分が売ったお客の管理だけで手いっぱい)。基本は点検・整備目的の「サービス工場のお客」扱いとなってしまう。引き継いだセールススタッフも自分が売ったお客ではないので、それほど積極的にコミュニケーションをとろうとはしてこない。担当セールススタッフが残っていれば、タイミングを見て「いま好条件でご紹介できる新車があります」といったアプローチがあったり、それなりのメリットは期待できる。
セルフレジやファミリーレストランのネコ型配膳ロボットが普及するなか、いまでもひざを突き合わせてセールススタッフと商談しないと原則新車を買えないという面倒が残っているのは、そこ、つまり「セールススタッフとの人間関係の構築」があるのだ。趣味としてクルマ好きな人ならば、乗り換えるたびに他メーカー車を競わせて好きなクルマに乗るのも苦にならないだろうが、世のなかそのような人ばかりではない。
「面倒くさい」新車購入を可能な限り楽にさせる(乗り換える面倒)意味でもセールススタッフとの人間関係構築が重要となる。ただ、それ自体が面倒くさいと考える人が、若い世代を中心に増えている。とはいえオンライン販売は日本よりも加速度的に社会のデジタル化が進むアメリカでもいまひとつの様子。となると、働き手不足対策もかねて店頭で「セールススタッフ型ロボット」とドラスティック(形だけの)な商談をする時代がやってくるかもしれない。