農家が空き時間に開発し続けた農作業管理アプリ「アグリハブ」。業界をDXする存在を目指し、国内最多の3万5千人に使ってもらうまで。

2024.02.20 10:00
栽培記録や農薬の管理など、農家が必要な作業記録がアプリ1つでできる農業日誌アプリ「アグリハブ」。2018年のリリースから5年、ユーザー数は国内最大の3万5千人を突破しました。さらに2021年にはJA・市場・直売所向けの業務管理システム「アグリハブクラウド」を販売開始。これまで紙媒体での管理が一般的だった栽培履歴のIT化が、徐々に進み始めています。
アグリハブを開発した株式会社AgrihubのCEO 伊藤彰一は、東京都調布市で自ら農業を営む農家でもあります。アグリハブは伊藤にとって「農家として本当に欲しかったアプリ」。本ストーリーでは、伊藤がアグリハブを開発した背景、そして全国の農家・事業者からアグリハブが支持される理由に迫ります。
【伊藤彰一 プロフィール】
株式会社Agrihub CEO、伊藤農園asobibatake 園主。
エンジニアとして勤務していたITベンチャー企業を退職し、東京都調布市で2016年に親元就農。農作業の傍ら自ら開発を進め、2018年9月に農業日誌アプリ「アグリハブ」をリリース。2021年2月にはJA・市場・直売所向けの業務管理システム「アグリハブクラウド」を全国販売開始。JAアクセラレーター採択。
農薬適正散布の難しさ解消を目指し開発に着手。
アグリハブは、「農家として本当に欲しかったアプリ」。
―アグリハブの特徴を教えてください。
農家さんが畑で直ぐに入力できるように考えたわかりやすい操作性と、まるで農薬コンサルタントが付いているかのように農薬情報を自動で整理してくれる機能が大きな特徴です。農作業後、事務所に戻ってからの事務作業は、農家にとっては大きな負担ですので、なるべく畑で記録が完結できるように設計しています。これは、私自身が農作業後の事務作業をサボってしまう傾向があり…そこから生まれました。


アグリハブは、私と同じような多品目栽培の個人農家が使いやすいシステムを主眼において開発を始めました。ただ、実は多品目栽培の栽培管理が一番難しいようで、その複雑な栽培管理が簡単にできるため、あらゆる農家さんのニーズも網羅できていたようです。このため、今では個人農家から大規模農家まで利用者が広がっています。例えば珍しい品目ですと、パイナップルの管理をされている方もいます。
アグリハブでは使用可能な農薬が自動で表示される。


―伊藤さんはご自身が農家でもあるとお伺いしました。
はい、私は東京都調布市で約400年続く農家の生まれです。大学卒業後、ITベンチャー企業でエンジニアとして5年ほど働いたのち、2016年に退職して就農しました。農園は約30品目を栽培する少量多品種栽培で、近年は体験農園にも力を入れています。現在も、父とともに畑に出て作業をしている一般的な農家です。


―どのような経緯で、アグリハブの開発をスタートされたのですか?
私が就農して最初に直面したのが、農薬を正しく適切に散布することの難しさでした。栽培している作物毎に、何の農薬が使えるのか、何倍に希釈すれば良いのか、収穫までの間に残り何回使えるのか、など複雑なルールが厳しく定められていています。さらに、私のような少量多品目栽培の農家の場合、品目が増えれば増えるほど、例えば「トマトとピーマンに同時散布できる農薬はどれだろう?」といった計算が複雑になります。そんなとき、農家は農薬に貼ってある小さなラベルを見て、作物ごとに一つずつ散布可能かどうか目視で確認し、電卓で使用量を計算していたのです。あまりの難しさに思わず茫然とし、この方法では正確に扱える人がどのくらいいるのか疑問を感じました。


さらに、農業の現場で、ITの導入があまりにも遅れている現実も目の当たりにしました。農家が記載する生産履歴は紙に手書きで記載され、出荷先のJAなどには手渡しやFAXでの受け渡しでした。さらに、生産履歴の農薬検閲は手作業で辞書を見ながら行われていました。これでは漏れや間違いが起こりかねず、しかも作業してから記帳まで常にタイムラグが発生していました。当時、IoTやデータの可視化などが言われていましたが、それ以前に、正確な記録をつけること自体、十分にできていないのが農業界でした。


そこで、私自身のITエンジニアとしての経験を活かして、まずは「散布可能な農薬を検索する機能」を自分のために開発しようと決めました。アグリハブは、私が農家として本当に欲しかったアプリを形にしたものです。
毎晩、農作業を終えたあとの空き時間でプログラミング。
ユーザー数3万5千人を超える国内最大の農業日誌アプリに成長。
―サービス開発の体制を教えてください。
アグリハブは、ほぼ全て私1名でプログラミングを行いました。当初は趣味の延長だったので、昼間は農園の仕事をして、子どもが寝てから深夜、毎日3時間ほどかけて少しずつ開発を進めました。7~8ヶ月が経って、ようやく実際に動くシステムが出来上がりましたが、とても農家さんが使える操作性にはなっていませんでした。そこで、妻が画面構成を再設計してくれ、1年半ほどでリリースにたどり着きました(笑)リリース後もアグリハブは、自分自身の農園の作業で実際に使い、気づいたことを日々アップデートして続けてきました。
伊藤自身も、農園の管理にアグリハブを活用している。


―お一人での開発は大変ではなかったのですか?
毎晩PCに向き合って開発を続けることで睡眠時間が減ってしまった時期もありましたが、逆にストレス発散になっていた部分もありました。昼間の農園の仕事は一人作業ですし、必ずしも成長産業ではありませんし、しかも東京の場合は農地の拡大を行うことも難しいので、できることの上限が見えている感覚がありました。アグリハブの開発は、それとは少し違って、世の中が少しでも良い方向に変わることを追いかけている気持ちになり、辛さを感じることはあまり無かったです。


そして、ユーザー数が増えていくなかで、アグリハブの成長を追いかけるように自分自身も成長していくことが必要でした。例えばBtoB営業、問い合わせ対応、プレスリリース執筆、サービス価格の設定、資金調達、助成金の申請、行政との連携など、仕事の幅がどんどん広がりました。これらはエンジニア出身の私にとってほとんど未知の仕事でしたが、まずは、全て自分一人で取り組んでみることで、自分自身が会社に鍛えられている感覚になりました。この経験ができたのは、一人起業から事業を成長させることの醍醐味でもありました。このような時期を経て、最近は、自分の得意分野が明確に見なり、そうではない分野は、サポートしてくれる方にお願いする体制に移りつつあります。


―リリース後の反応はいかがでしたか?
リリースする前は「良いサービスを出せば伸びる」と思っていましたが、いざリリースしてみると当初は誰も使ってくれませんでした。「世の中に知られていないものは伸びるわけがない」という当たり前のことに気がつき、まずはTwitter(現・X)のアカウントを開設して情報発信することからスタートしました。そのなかでメディアに取り上げていただく機会も徐々に増え、少しずつではありますが知名度が上がっていきました。


ただ、メディアを見ている多くの人は農家ではなく、農業関連の企業や団体の方であり、農家さんに直接情報を届けるのは思った以上に難しかったです。そこで、アグリハブを農家さんやJA、普及員さんなどに少しずつ知っていただき、紹介や口コミで広げていただくという流れが基本になりました。JAのアクセラレーター(2期)への採用も、農家さんの安心感に繋がり、利用者が一気に増えるきっかけになりました。


アグリハブはリリースから5年が経ち、ユーザー数3万5千人を超える国内最大の農業日誌アプリに成長しました(自社調べ)。アグリハブをお使いの農家さんからは、「アグリハブが無いともう何もできない」、「痒いところに手が届いてとても使いやすい」といった声が届いています。
▲「自分が考えているより一歩先のことをサラリと取り組んでくれるパートナー」と評価する農家さんも。(兵庫県 久田様)
段階的導入と既存システム連携も。
アグリハブクラウドが実現するJA・市場・直売所とのスムーズな情報共有。
―JAや直売所との情報連携も可能と伺いました。どのようなサービスなのでしょうか?
はい、JAや市場、直売所といった事業者様で業務管理システム「アグリハブクラウド」を導入していただくことで、農家さんがアグリハブに入力した栽培履歴データを自動で連携できます。近年、食の安全やトレーサビリティへの関心の高まりを背景に、出荷者に生産履歴の提出を求める事業者様が年々増えています。しかしながらその提出方法は昔ながらの紙媒体であることも多く、農家さんだけでなく生産履歴を検閲する事業者様にとっても大きな負担となっていました。


アグリハブクラウドでは、アグリハブに入力された情報に基づき農薬の適正使用を自動で確認するため、事業者様の検閲作業の負担を大幅に低減できます。あるJAとの実証実験では、農薬帳票の検閲作業にかかる時間が1/10以下に抑えられたという結果も出ています。しかも、紙での提出の場合と異なり、生産履歴をリアルタイムで閲覧することが可能なため、より的確な営農指導を実現します。


また、アグリハブクラウドは、IT化ができる農家さんから段階的にスモールスタートでシステム導入が可能です。このため、事業者様での大掛かりな投資を必要とすること無く、少しずつでも確実に、管理業務のデジタル化を進めることが可能になります。
▲POSレジの商品ラベル発行と連携しているケースもある(兵庫県 美菜恋来屋様)
アグリハブ、日本の農業をDXする、
日常業務から農薬注文、出荷管理の総合プラットフォームへ
―アグリハブの機能開発を行う際に、気をつけていることはありますか?
私自身が「農家として欲しかったアプリ」として開発をスタートしたこともあり、農業の現場の本質的な課題を認識し、その課題に対して的確にアプローチするように努めています。そして、「本質的な課題がはっきり認識できていない段階では新たな開発はしない」と決めています。


どんなサービスでも同じだと思いますが、アグリハブを使っていただいている農家さんから日々、ご意見や改善要望をいただきます。また、私自身が農家として実際に使う中での気づくこともあります。そのような1つひとつのアイデアを集めたときに、ただ1つずつ課題を解決していくために闇雲に開発を行うのではなく、「あくまで全体を通貫する本質的な課題は何なのか?」という視点を持つことを意識しています。一口に「農家」と言っても品目も経営規模もバラバラであり課題はそれぞれ異なりますし、農家さんがご自身で的確に課題を言語化できているとは限らないからです。


1つひとつのご意見やご要望の裏にある、「これだ!」と思える課題がイメージできたときに、初めて具体的な開発に着手する感覚ですね。


―アグリハブを実際に使っているという声も良く聞くようになり、ユーザーの広がりを実感します。今後、目指していきたいことはございますか?
いまお話しした観点で言いますと、正直なところ、まだまだ農業界には現場目線が足りないと感じています。アグリハブには、機能のなかで「これを開発すれば皆の役に立てるはず」ということがまだ複数あります。そういったところを作り込んでいくことにより、より農業の現場の課題を解決できる「痒いところに手が届く」サービスを目指していきたいです。


そのうえで、30万人の農家さんに使っていただき、日本の農業者が共通で使う「農業基幹システム」となることが目標です。冒頭でお話したような農業の現場の課題は、「皆が使っている共通の農業システム」があって初めて解決できると考えています。アグリハブはまずは農業日誌の延長として、そしてその先には農薬の注文や商品の出荷状況の管理などもできる基幹的なプラットフォームとして、農業界全体をDX(デジタルトランスフォーメーション)する存在になりたいです。


今後とも、アグリハブとアグリハブクラウドをどうぞよろしくお願いいたします。




・アグリハブ公式ホームページ:
・アグリハブ サービス紹介ページ:
・アグリハブクラウド サービス紹介ページ:
・サービスロゴの画像URL
企画・編集:株式会社しんめ 代表 下村彩紀子
聞き手:株式会社ぽてともっと 代表 モリタ男爵 森田慧

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