「お前なんか“お父さん”じゃねえ!」男性里親と小学生…信頼あってこそ

2024.02.06 16:30
2024.02.06 up提供:RKBラジオ
「SOS子どもの村福岡」(福岡市西区今津)では、事情があって親元を離れて暮らす子供が、一軒家で里親と暮らしている。里親3人のうち、1人は男性だ。男性は4人の男の子から「お父さん」と呼ばれる暮らしを続けている。RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演しているRKB神戸金史解説委員長が男性にインタビューした。
「子どもの村」で里親になった理由
「お父さん」と呼ばれる里親
心を許しあうからこそ
「結婚願望は普通にありますよ」
「子どもの村」で里親になった理由
「SOS子どもの村福岡」には3棟の戸建て住宅があり、育親(子供の村では里親をこう呼ぶ)がそれぞれ住み込んで、3~4人の子供たちと一緒に暮らしています。「住み込み」であることが、普通の里親と違うところです。

※特定NPO法人「SOS子どもの村JAPAN」
本部は福岡市中央区赤坂。寄付をもとに2010年に住宅5棟を福岡市西区今津に建設して、「SOS子どもの村福岡」を開村した。現在、3棟に里親家庭が入居する。残る2棟では、虐待防止のため短期間子供を預かるショートステイ事業も展開している。https://www.sosjapan.org/profile

育親3人のうち、唯一男性の田原正則さん(44歳)は4人の男の子と暮らしています。以前は、長崎県にある施設に勤めていました。3交代制の勤務でしたが、「独身で時間もあるから」と、2か月ほど施設に自分も泊まり込んでみたそうです。

田原:施設に来たからとて、担当のスタッフとの関係性を築いていくのって、「朝からいるけど夜はいない」とか「2~3日休みだ」とか、(子供との)関係性を作りにくかったんですね。24時間一緒にいることで関係性って作れていけるんだろうなというのは、何となく頭ではわかるんですけど、1~2か月やってみて、子供たちの関係性もけっこう取れたりして、「24時間するのも面白いな」と思って、「何かできることないかな」って相談していたら、里親だと子供たちと一緒に生活する。「ちょっと面白そうだな」と。
田原:でも「自分独身だし、1人だから自信ないしな」…。そんな時に「こどもの村がある」と。スタッフも入ってもらえるし、専門家チームもたくさんいる。いろいろな相談しながらやれる。「あ、これだったらできるんじゃないかな」と思って、来てみて話を聞いたら「あ、理想に近いやん!」と思って。
「子どもの村福岡」では、例えば、育親の体調が悪い時や実家に用事があって帰るという時にはサポートスタッフに任せて、料理を作ることを頼んだりできます。それで「理想に近い」と思ったそうです。
「お父さん」と呼ばれる里親
田原さんには、子供が思春期になって、もし女の子だったら特有の問題が起きてきて、自分にはケアが難しくなるんじゃないか…という不安があったそうです。それで「男の子だけにしてほしい」と頼んで、いま4人の男の子と一緒に暮らしています。

先週紹介した松島智子さんは、自分のことを子供たちに「マッツって呼んで」と伝えたそうですが、田原さんは「お父さん」と呼ばれていました。

田原:幼稚園の参観に行くと、(ほかの子供たちが)「お父さん、お母さん」と呼んでるじゃないですか。その中で「田原さん」とか言うのは、僕の中でずっと違和感はあったんですね。子供たちも多分なんかムズムズ感はあったんだと思います。だから「お父さんと呼んでもいいし」という話はずっとしていたんですけど、なかなかそれがなくて。
田原:はっきりと覚えているんですけど、その年の運動会で親子競技があって、その日を境に「お父さん」になったんです。「お、お父さんと呼んだ!」と。そうしたら周りの子たちも「お父さん」と呼び始めて、そこからお父さんですね。多分、いろいろな思いがあったんだと思います。それが一番高まったのが運動会だったんじゃないかな、と。僕としては、生活する中で「自然だな」と思うんですね。
田原:僕自身が「父親としてできているか」と言ったら、そんなにはできてないと思うんですね。父親というよりは、どっちかと言ったら「お兄ちゃん」的な感じなのかな。本当に駄目な時はもうガツンと叱るけど、ビシビシやっていたら疲れるし。甘えは一番根本的に相手の信頼関係を築いていくのに必要なので、僕はそれを理由に甘えさせてばっかりなんです。多分、周りから見たら「もうちょっと甘えさせんでやれんかなあ」って思っているかもしれないです。「そこまでせんで良いっちゃない?」って。子供たちも「お父さん優しいよね」って。「優しいままでいさせて、怒らせんで」と。
他の2人の育親は女性ですが、「お母さん」という呼び方ではありませんでした。考え方はそれぞれです。

実母にはシングルマザーも多いんですが、状況によっては会える子供もいます。実母が訪ねてきた時に、横にいる育親さんをもし「お母さん」と呼んだら、嫌な気持ちになるかもしれませんね。「お父さん」より「お母さん」と呼ぶ方がハードルは高いのかなと思いました。
心を許しあうからこそ
実は昨晩(2月5日)、田原さんのお宅で夕食を食べる時間にお邪魔したんです(田原さんへのインタビューは1月)。子供たちも「お父さん、お父さん」って。元気いっぱいで、面白かったですよ。しかも、やんちゃ盛りで男ばかり。大変みたいでした。

田原:親が育てられない間、責任を持って育てていくのが僕の役割だと思っています。でも気持ちとしては、“あなたたちを育てたお父さん”というのは、村を出てからも変わらない。思いとしては「育てたお父さんだよ」って。「お前なんかお父さんじゃねえ」とよく言われるけど(笑)
神戸:そんなこと言われるんですか?
田原:「お前の言うことなんか聞くか」みたいな感じで。エエーって言ってきたと思ったら、5分後に「お父さん、一緒にお風呂入ろう」とか言って。ワーワー言ったら、「嫌われないかな」と思って聞いてくるんですね。「お父さん、どうせ僕のこと嫌いやろう、嫌いやろう?」って。「だけん、いつも言いよるたい。あなたの言葉は好かんけど、あなた自身は嫌いじゃありません。あなたを最後までちゃんと育てるけん」て。最近はワーッて言って「お前が、クソが、こんちくしょうが、お前がいかんのやっかー!」みたいなこと言ってくるから、「え、ちょっと待って。どっちが悪いと思う?」「……僕です」って。少し冷静になれるようになってきた。でもまた、ワー。「お父さんもう疲れました、あなたのギャーギャーで」って。
神戸:どんなことを言っても全面的に認めてくれるという安心感がある前提の発言でしょうね。
田原:見放さないというか、安心感はあるんだと思います。「言っても大丈夫」って。「……わかった、もう言わんけん」と言った次の日に、ワー!。「昨日、言わんと言ったやん?」て(笑) そんな毎日ですね。
「結婚願望は普通にありますよ」
田原さんは独身。夢はあるのだそうです。

田原:まあ、結婚願望が普通にあるので、「どこかでいい出会いがあればいいな」と思って、今でもたまに婚活に行ったりとかするんです。結婚できればもっと楽しくなるだろうな、と思っているんですね。
神戸:もし婚活が成功したら、この里親生活の中に入ってもらうということになるんですよね?
田原:そうです、だからハードル高いんですよ。
神戸:結婚した瞬間に4人の子持ちになる、ということでもありますよね。
田原:そうそう。断られる文句としては「その後の生活の想像がつかない」。でも期待を持ちつつ、でも落ち込まずみたいな。出会いがあれば、「一緒にやってもらえたらいいな」とは思っているんですね。
なかなかハードルは高いとは思いましたけど、前向きでしたよ。「子どもの村」で子供たちと暮らしながら、自分もしっかり生きていかなければいけないし、子供たちもわかっていて「お父さん」に接し、そこに信頼が生まれ、日々深めているのでしょう。非常にほほえましく「良い親子関係だな」と思いました。
◆神戸金史(かんべ・かねぶみ)
1967年生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。報道部長、ドキュメンタリーエグゼクティブプロデューサーなどを経て現職。近著に、ラジオ『SCRATCH差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』の制作過程を詳述した『ドキュメンタリーの現在 九州で足もとを掘る』(共著、石風社)がある。80分の最新ドキュメンタリー『リリアンの揺りかご』は3月30日、TBSドキュメンタリー映画祭・福岡会場で上映予定。
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