スタートアップ × デザインによる価値共創のリアル——ビー・インフォマティカとフォーデジットが拓く、東南アジア金融サービスの未来

2025.07.23 10:30
「すべてのスモールビジネスが金融にアクセスしやすい世界をつくる」というミッションのもと、マレーシアでマイクロファイナンス事業を展開する
は、2025年4月に自社開発のデジタル融資プラットフォームを正式にローンチしました。その挑戦に、サービスデザインの知見を活かしてサポートしているのがフォーデジットです。
今回は、ビー・インフォマティカ代表の稲田様、CBO/CPOのサイード・アシフ様をお招きし、事業設立の背景からデザインとの協業、そして今後の展望まで、国境を越えた価値共創のリアルに迫りました。(以下敬称略)
稲田 史子 - Fumiko Inada
ビー・インフォマティカ株式会社
Founder & CEO
サイード・アシフ - Syed Asif
ビー・インフォマティカ株式会社
CBO / CPO
田口亮 - Ryo Taguchi
株式会社フォーデジット
代表取締役CEO
末成武大 - Takehiro Suenari
株式会社フォーデジット
取締役COO
横山大志 - Taishi Yokoyama
フォーデジットマレーシア
代表取締役CEO
社会貢献への想い、金融の世界へ
——まず、ビー・インフォマティカ代表の稲田さん、その事業の原点についてお聞かせいただけますか?


稲田
学生時代にベトナムやカンボジアのストリートチルドレン向けのシェルターでボランティア活動をする中で、将来は途上国の社会課題を解決する仕事に就きたいと思うようになりました。まずは専門性を身につけようと金融セクターに進み11年ほど経験を積んだ後、グラミン銀行のムハマド・ユヌス博士のノーベル平和賞受賞のニュースを見て、「これだ!」と。自分の金融経験と社会課題への関心がクロスするマイクロファイナンスの道に進むことを決意しました。
その後、日本のIT企業との出会いをきっかけに「マイクロファイナンス×テクノロジー」の可能性に着目しました。そして2018年、スタートアップ支援が手厚く、デジタルインフラが整っているマレーシアでビー・インフォマティカを設立しました。


——様々な国の中から、なぜマレーシアを最初の拠点に選んだのでしょうか?


稲田
バングラデシュ出身のCTO(最高技術責任者)とどの国で事業を始めるか検討した結果、マレーシアはスタートアップへの政府の支援が手厚く、デジタルインフラも整備されています。英語が通じ、物価も比較的安く、起業には申し分ない環境でした。既存のマイクロファイナンス企業はいくつか存在していましたが、デジタルによる利便性を高めることで、より多くの人へサービスを届けたいと考え、マレーシアでの設立を決めました。
——事業設立から数年が経ち、チームを強化するフェーズに入ります。ここでCBOのサイードさんがジョインされるわけですが、どのような経緯だったのでしょうか。


サイード
私が稲田さんと出会ったのは、事業が軌道に乗り、シードラウンドでの資金調達が見えてきた2024年頃でした。当時、稲田さんのアドバイザーをしていたケニーからの紹介です。話を聞いたとき、「東南アジアで小さくビジネスを頑張っている人たちが、お金の面で苦労している」という、彼女が解決しようとしている課題に強く共感しました。私がフィンテック業界でずっと感じていた課題意識とも重なる部分が大きく、「この人のビジョンに賭けてみたい」と直感しました。マレーシアの既存サービスがまだデジタル化されていない点にも、大きなビジネスチャンスを感じました。
デザインとの出会い—スタートアップだからこそ「伴走者」としてのパートナーシップ
——事業が成長する中で、フォーデジットと出会います。どのような経緯だったのでしょうか。


横山
2024年7月、マレーシアのイベントで稲田さんとお会いしたのがきっかけです。稲田さんのお話を伺い、その社会的なミッションの大きさと情熱に惹かれました。


末成
私たちフォーデジットは、日系大手企業のプロジェクトを中心にサービスデザインを担当する一方で、デザインの力で社会課題を解決する取り組みにも力を入れています。フォーデジットは金融関連のプロジェクトも多く経験していますし、稲田さんの考える「金融包摂」というテーマは、まさに我々が貢献できる領域だと直感しました。


稲田
本当に運命的なタイミングでした。ちょうどシードラウンドの資金調達が大詰めの頃で…お話をしてから、わずか1週間で出資を決めてくださった。そのスピード感には心底驚きました。


田口
フォーデジットもスタートアップを立ち上げた経験から、その資金やリソースの制約はよく分かります。顧客にとってデザインがどれだけ重要か理解していても、現実にはそこに十分な力を注げなかったり、専門のデザイナーをチームに迎えるのは難しかったりする。だからこそ、単にデザインを請け負うだけの関係では意味がないと思いました。
末成が言ったように、私たちもデザインで社会課題を解決したいという強い想いがあります。ビー・インフォマティカのビジョンに共感し、出資者として、そしてデザインパートナーとして、事業の成功に深くコミットしたいと考えての決断でした。
——稲田さんは当時、「デザイン」をどう捉えていましたか?


稲田
正直に言うと、お会いするまでデザインのことは1ミリも考えていませんでした(笑)。当時はデジタル貸金業ライセンスの取得が最優先。政府の要件書にも機能の話しかなく、UI/UXという言葉は知っていても、優先順位は低かったのが正直なところです。


末成
それは多くのスタートアップが直面する課題だと思います。だからこそ、我々のような外部の専門家が早期に関わる意義がある。単に見た目を整えるだけでなく、事業戦略の段階からユーザー視点を組み込むことで、後々の手戻りを防ぎ、事業の成功確率を高めることができると考えています。
「失敗」から学ぶ。ユーザー中心デザインの実践
——そして2025年4月、プラットフォームがローンチしました。フォーデジットとの協業で、どんなことが起きましたか?


稲田
システムをリリースして初めて、現実を突きつけられました。それまでマニュアル対応だったので気づかなかったのですが、システムが顧客とやり取りする状況になった途端、多くのお客様が申し込みプロセスの途中で離脱してしまったんです。せっかくランディングページに来てくれても、先に進んでくれない。何が足りないのかを自分ごととして改めて考えたとき、初めて課題が見えてきました。


サイード
私たちのターゲットである零細企業の方々は、必ずしもデジタルリテラシーが高いわけではありません。彼らが求めていたのは、洗練されたデザインではなく、マレーシアの風景や家族の写真を使った親近感、そして「Quick and easy(迅速かつ簡単)」というキーワードに象徴される、究極の分かりやすさでした。


横山
フォーデジットとしてはまだツール面のデザインには手を入れていませんが、システムやツールのインターフェースに関しては、いきなり完璧に正解というわけにはいきません。 ユーザーの反応を見ながら、トライアンドエラーを繰り返していく。寄り添いながら必要な要素を提供していく、というステップが何より大事だと考えています。
末成
大企業とスタートアップの大きな違いは、意思決定のスピードだと思います。トップが「うまくいっていない」と判断すれば、すぐに方向転換できる。今までもそのスピード感に合わせ、デザインシステムを構築してUIコンポーネントを素早く提供したり、ピッチデックやPR資料のデザインをサポートしたりと、フェーズに応じて必要なデザインリソースを提供してきました。これは単なる受託開発では実現できない、パートナーシップだからこその動き方かなと思います。ユーザーの反応に合わせてスピーディに対応していくのは重要な要素です。


稲田
ユーザーの反応で言うと、もう一つ大きな発見がありました。マレーシアの方は、デジタルだけで完結すると、どこか怪しいと感じるようなんです。チャットボットだけで対応しようとすると、途端に離脱率が上がってしまう。せいぜい9割はデジタル化しても、どこか1箇所でいいから、人と直接やりとりするような「人の温もり」を残すことが、信頼に繋がるのだと学びました。
共創で描く、金融包摂の未来
——最後に、今後の展望をお聞かせください。


稲田
はい。これからは「第二フェーズ」です。私たちがプロダクトオーナーとして戦略を立て、その意図をフォーデジットに伝えて、より良いデザインを実現してもらいます。具体的には、UI/UXのさらなる深化、AI審査の効率化、ムスリム向けシャリア金融(イスラムの教義に準拠した金融)の認証取得、そして最大の挑戦であるインドネシア市場への進出、この4つに取り組んでいきます。


サイード
ビジネスデベロップメントの立場からすると、お客様とのギャップをデザインの力でどう埋めていくかという点ですね。やるべきことは山積みですが、そこにフォーデジットへの大きな期待があります。
末成
私たちも、この協業を通じて事業への解像度がどんどん上がっています。スタートアップとの仕事は、カチカチの計画通りにはいきません。明日状況が変わるかもしれない。だからこそ、一緒に転ぶことを繰り返しながら、その都度ベストな提案をしていく。そのプロセス自体に価値があると思っています。


田口
私たちはこれまでアジア各国で、ユーザーリサーチを通じてユーザーを理解するプロジェクトを数多く手がけてきました。その経験を活かし、これからもビー・インフォマティカのチャレンジを一緒にやっていければと思います。


——まさに「共に創る」パートナーシップですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

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