筑紫哲也のDNA受け継ぐ映画監督、沖縄知事の苦悩と運命を描く

2025.07.16 18:30
2025.07.16 up提供:RKBラジオ
ドキュメンタリー映画『太陽(ティダ)の運命』は、米軍基地の負担と本土の無理解に苦しみ抜いた沖縄県知事たちの姿を通じて、戦後沖縄を生きた人々を描く作品です。7月15日放送のRKBラジオ『田畑竜介Grooooow Up』に佐古忠彦監督が出演し、同番組のコメンテーターを務めている、RKB毎日放送の神戸金史解説委員長と対談しました。
佐古監督につながる筑紫哲也氏のDNA
RKB神戸金史解説委員長(以下、神戸): ドキュメンタリー映画『太陽(ティダ)の運命』は、全国で公開され、話題になっています。福岡市でも、7月18日からKBCシネマで上映が始まります。監督のTBSテレビ・佐古忠彦さんにスタジオにお越しいただきました。

佐古忠彦監督(以下、佐古): おはようございます。よろしくお願いします。

神戸: この声を聞いて思い出す方も多いと思いますが、佐古さんは『筑紫哲也NEWS23』のキャスターを1996年から10年間続け、ドキュメンタリーのプロデューサーなどをした後に『報道特集』のキャスター。そして沖縄をテーマとした映画を手がけています。映画は今回で4本目。沖縄は、ライフワークですね。

佐古: そうなりました、結果的に。

佐古忠彦 1988年、東京放送(TBS)入社。スポーツ番組で中継やニュースを担当後、1994年から報道担当に。1996年~2006年、『筑紫哲也NEWS23』でキャスターを務める。沖縄、戦争、基地問題などを主なテーマとし、近年は『報道特集』で特集制作を続けている。
2017年、劇場用映画初監督作品の『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー』を制作。文化庁映画賞文化記録映画優秀賞、米国際フィルム・ビデオフェスティバル ドキュメンタリー歴史部門銅賞、日本映画ペンクラブ賞文化部門1位を受賞。続編となる『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯』(2019年)で平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞受賞。2021年に『生きろ 島田叡‐戦中最後の沖縄県知事』を監督。2025年『太陽(ティダ)の運命』が監督4作品目。著書に『米軍が恐れた不屈の男 瀬長亀次郎の生涯』(2018年 講談社)、『いま沖縄をどう語るか(共著)』(2024年、高文研)。

佐古: 1996年から参加した『筑紫哲也NEWS23』で、筑紫さんの横に座ったことが、沖縄と関わる大きなきっかけでした。

神戸: 筑紫さん、沖縄への思い入れがすごかったですものね。

佐古: 筑紫さんは、朝日新聞の記者時代、本土復帰前の沖縄特派員でした。筑紫さんの誕生日は6月23日。沖縄慰霊の日なんです。「そういう日だと知った日から、自分の誕生日を祝えなくなった」と言っていたんですよ。番組では本当に多くの先輩ディレクターたちが、沖縄に行ってさまざまな特集を作って帰ってきたのですが、いつの間にか自分もそんな存在になりました。

筑紫哲也 1935年大分県生まれ。ジャーナリスト。朝日新聞で政治部、沖縄特派員、ワシントン特派員、『朝日ジャーナル』編集長を務める。1989年にニュースキャスターに転じ、TBS『筑紫哲也NEWS23』メインキャスターに。2008年、肺がんのため死去。

佐古: 私が『23』に参加したのは1996年でしたが、その前年に少女暴行事件があり、基地の実像が大きく全国にも伝えられることになりました。そして、未だに続く普天間基地の移設問題の大きなスタートにもなった年だったのです。沖縄に行く機会がどんどん増えていって、気がつくと、30年近く経っていました。
「ティダ」はリーダーを表す言葉
神戸: 映画『太陽(ティダ)の運命』では、沖縄のリーダー、県知事たちの群像を描いています。特に、第4代知事の大田昌秀さん(1990~1998年)と、第7代の翁長雄志さん(2014~2018年)が主な登場人物です。予告編をお聞きください。

「ティダ」。それは太陽を意味し、その昔、リーダーを表す言葉でもあった。 第4代沖縄県知事、大田昌秀。 「沖縄なんですか? 沖縄、日本ですから」
第7代沖縄県知事、翁長雄志。 「沖縄だけに押し付けるのは、差別じゃないでしょうか?」
2人の県知事が、相克の果てにたどり着いたものとは。 『太陽(ティダ)の運命』。
佐古: 琉球王国時代、今の首長とは違いますが、リーダーを表す言葉でもありました。「これは象徴的な言葉だな」と思いました。「運命」という言葉も、初代沖縄県知事の屋良朝苗さん(1972~1976年)が書いた、本土復帰の日の日記にずいぶん出てくるのです。沖縄のリーダーはある種「民意の象徴」でもあります。まさにリーダーを描いているようですが、実はそこを通して見えるのは「沖縄の民衆の歩み」だと思っているのです。リーダーの運命は、沖縄そのものの運命である。そんな観点から、この映画を作りました。
大田知事を猛烈に攻撃した若き翁長雄志
神戸: 学者だった大田さんが周りから推されて、県知事になっていく。その知事を、自民党の若きリーダーだった翁長さんが猛烈に攻撃しています。

佐古: 政党人としての振る舞いだったんだろうと思うのですが、とにかく県政を奪還するためには、この知事を引きずり下ろさなければと、猛烈に追及、攻撃していくのです。当時の構図では、県民が保守・革新揃ってとにかく大田さんを支持していく時代でした。翁長さんは攻撃の先頭に立っていたという時代です。翁長さんが安倍政権と戦っていた表情や姿を覚えていますから、沖縄の人でも「忘れていた」「知らなかった」と言う人たちがいますね。

神戸: 翁長さんは「政府と戦うリーダー」に見えたかもしれないけれど、もともとは政府と戦っていた大田知事を引きずり降ろした張本人だったわけですよね。

佐古: ところが、翁長さんが大田さんと同じ立場に立った時、それまで否定していたはずの大田さんの手法や考え方にどんどん則っていくのです。2人の歩みも、言葉も重なっていきました。それはなぜなのか。そこにこそ沖縄の歴史がある。もっと言えば「この国が沖縄にどう相対してきたのか、の答えがあるのだ」と思うのです。
「この国にとって、沖縄とは何か」
神戸: この映画は、琉球放送の創立70周年記念作品でもあります。佐古監督はTBSテレビ。本土の人間が、沖縄に対してどう向き合うのか。佐古さんなりの姿勢を見せているようにも感じました。

佐古: 今まで「沖縄の外から見る視点」を大切にしてきたつもりでいたんです。でも今回は、そこも大切にしながら、「沖縄からのメッセージ」という思いも実は込めたんです。「今の状態をずっと放置してきたのは一体誰なんだ?」と。常に、沖縄と沖縄県外、少数派と多数派の構図があるわけです。確かに、民主主義というのは多数決で決まるものですが、そうは言っても少数の意見を全く聞かずに、多数派がずっと少数派の上にあぐらをかき続けている状況が、民主的と言えるのかどうか。多数派に対して問いたい、という思いがありました。もちろん、私も含めてです。30年に及ぶ辺野古を巡る歴史を改めて見た時に、放置してきた多数派はこれをどう捉えますか。そんな問いかけのつもりでもありました。

神戸: 「この国にとって、沖縄とは何か」。本土側を照射する映画になっていると思いました。

佐古: それは、大田さんが学者時代からずっと問い続けてきたテーマでもあるんです。何かあると大田さんのところに行ってさまざまなことを取材し教えてもらってきたんですけれども、常に「沖縄というものはこの日本にとって何なんだ」ということをいつも問いかけられてきたような気がしています。
歴史否定の暴言を繰り返す本土政治家
神戸: 沖縄戦の悲惨な出来事。そしてアメリカの占領下に長く置かれたということ。その苦しみが保守も革新も含めて、沖縄にはあるわけですよね。そこに対する思い入れが、戦争をしていた世代の政府中央にはあったように感じているんです。

佐古: かつては橋本龍太郎首相や梶山静六官房長官のような、沖縄を理解してくれている人がいた。今はそういう人がいない。大田さんも翁長さんも、同じ名前を出したことがあるんです。さらに、翁長さんは、「政府が沖縄に対してやろうとしていることは昔も今も一緒だ。しかし、かつては、さまざまな歴史上のことを踏まえて、『沖縄に対して申し訳ない』と。そう接してくれるから、我慢ができたんだ。でも今はそれがない」ということを言っていたのです。

神戸: とんでもない暴言を自民党の西田昌司議員が言い、大騒ぎになりました。参政党の神谷宗幣代表も。

佐古: 歴史を否定する発言が、ずっと出続けている。沖縄にとってみれば、さまざまな住民の貴重な証言を長きにわたって積み上げてきた上で、例えば「軍隊は住民を守らない」という大切な教訓があるんですよね。歴史を否定する昨今の発言は、まさにその教訓を否定し、攻撃する発言としか言いようがないと思います。

神戸: 「ペシミズム」という言葉が、映画の中で出てきました。あまりにいい加減な本土の態度に疲れ果てて、展望がもう見えなくなっている悲しい現実も、一部描かれていたかと思います。

佐古: その言葉は、まさに筑紫哲也さんが残した言葉です。『NEWS23』で筑紫さんは毎日、「多事争論」というコーナーを持って、一つコラムの形でしたけれども、今回その言葉をこの映画にも残したいと思いました。

神戸: 当時私もテレビでこのときの「多事争論」を見て、ちょっと涙してしまいました。筑紫さんの思い、沖縄の人たちの立場が未だに解決されないまま来ていることを非常に考えさせられる、『太陽(ティダ)の運命』。7月18日、福岡市でも公開されます。

佐古: 今年3月22日に沖縄で先行公開をして、全国を回っている旅の途中でもあるんですが、ようやく福岡にたどり着きました。翌19日にはKBCシネマで舞台あいさつをすることになっています。劇場でお待ちしておりますので、ぜひ皆様にお目にかかりたいです。
田畑竜介 Grooooow Up放送局:RKBラジオ放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分出演者:田畑竜介、中井優里、神戸金史、佐古忠彦
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田畑竜介中井優里神戸 金史
※放送情報は変更となる場合があります。

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