戦後80年シリーズ①戦勝国・中国の対日姿勢は今「軟」か?

2025.08.04 08:50
2025.08.04 up提供:RKBラジオ
「戦後80年」という節目を迎える中、中国が日本にどう向き合っているのか? 8月4日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演した、東アジア情勢に詳しい元RKB解説委員長で福岡女子大学副理事長の飯田和郎さんが解説しました。多くの日本人が中国に対して好ましいイメージを持っていない一方で、中国の対日姿勢は今、「硬」か「軟」か、その背景を深掘りします。
「硬」と「軟」の間で揺れる対日姿勢
8月は日本人にとって「敗戦後80年の夏」ですが、アジアの国々にとっては「日本との戦争に勝って80周年」「日本の支配から解放されて80周年」という重要な節目です。中国は今、日本をどのように見て、どのように向き合おうとしているのでしょうか。

外交面において、中国は日本に対し、時に強硬に、時に柔軟に態度を変えてきました。2025年「戦後80年の夏」という今はどうかと問われれば、私は「軟」ではないかと感じます。その理由を、先月7月7日に起きた出来事から分析します。

7月7日は、日中戦争の発火点となった盧溝橋事件が起きた日です。1937年、北京郊外の盧溝橋付近で日本軍と中国軍が衝突したこの事件は、事件から88年経った今でも、中国にとって重要な記念日です。

この日、中国共産党の最高指導部の一人である蔡奇・政治局常務委員は、盧溝橋のたもとにある「中国人民抗日戦争記念館」を訪れ、記念展覧会の開幕メッセージを述べました。

一方で、習近平主席は、この日、首都・北京を離れ、山西省という内陸部を地方視察していました。山西省は1940年に中国共産党軍と日本軍が激しい戦闘を繰り広げた歴史があり、ここにも戦いを刻んだ記念館があります。習主席はそこで子供たちの前で、盧溝橋事件について触れ、「過去を忘れず、未来への教訓とする」と語りました。
習主席のメッセージが意味するもの
一見すると、習主席は「抗日」を強調し、日本に強い態度を示したようにも思えます。しかし、私は習主席が「その後の部分」を強調したかったのではないかと見ています。

習主席は、その発言に続けて「今日の若者は革命の伝統を受け継ぎ、強い国家建設に向けた遠大な志を育んでいただきたい。誇り高き中国人として、民族の復興という時代の責任を勇敢に担うべきです」と述べました。

日本との戦争終結から80年という節目において、過去の歴史問題で日本を牽制しつつも、日本に歴史問題を強く突きつける方針ではない気がします。言い換えれば、盧溝橋にある抗日戦争記念館に要人が足を運ぶのは、「日本との戦争に勝利した」という中国共産党の存在意義、すなわち正統性を内外に示すために欠かせないことです。

しかし、トップの習主席は、この7月7日に首都・北京を離れて地方を視察することで、日中関係において敏感な場所である盧溝橋に行かない理由を作ったのではないでしょうか。

むしろ、習主席は国内に目を向け、引き締めを優先しているように感じます。先ほどのスピーチも、共産党という国民を統治していく上での支柱への結束力を、次の世代を担う若者に向け、「民族復興」「強国建設」という言葉で強調しているように見えます。
米中関係の不透明さが日本への「軟」に繋がる
「日本との戦争に勝利してから80年という節目の夏」は、中国にとって歴史問題を振りかざし、日本へ圧力をかけるチャンスとも思えます。それなのに、なぜ強硬姿勢を控えているのでしょうか。

最大の理由は、やはりトランプ大統領のアメリカとの外交が先行き不透明であることが挙げられます。最大の懸念である関税交渉は、米中双方が24%分の高い関税を止める期間をさらに90日間延長することで、7月29日に合意しました。

そんな中で、中国は日本に対して関係安定化に向けて様々なメッセージを送り続けています。習近平主席の側近として知られる何立峰副首相が7月に来日しましたが、これは大阪・関西万博での中国ナショナルデーのイベントに参加するためでした。

何副首相はアメリカとの関税協議の中国側代表も務めており、アメリカ、中国、日本のトライアングル関係と関連付けて人選し、日本に要人を送り込んでいるのではないでしょうか。

また、福島第1原発の処理水海洋放出に伴い、中国が停止していた日本産水産物の輸入も、約1年10か月ぶりに再開されました。日中間の「トゲ」の一つだった、大手製薬会社の日本人男性社員が「スパイ行為をした」として長期にわたり身柄を拘束されていた事件も、男性が懲役3年6か月の判決を受けた後に控訴しなかったことで、今後は釈放に向けて水面下の交渉が行われていくでしょう。

不本意な事件ではありますが、控訴しなかったのは、刑期満了前に釈放という「実」を取るためでしょう。そうなれば、関係改善の一歩になるはずです。
国民レベルでの反日感情という懸念
これら日中間の様々な動きの中で、「戦後80年の8月」を迎えたわけですが、一方で、国民レベルでは反日感情が高まる懸念もあります。

観光地として知られる中国の蘇州市で7月31日、子どもを連れた日本人女性が突然、石のようなもので殴られ、頭部を怪我する事件がありました。中国人とみられる容疑者は身柄を確保されましたが、背景は不明です。中国当局が日本に対し関係安定化を目指す動きに出ても、国民レベルでの感情は異なる可能性があります。

中国でも「終戦80年」という緊張の8月が巡ってきました。このシリーズでは、今後も周辺国にとっての「戦後80年」をテーマに、様々な視点から国際情勢を考えていきたいと思います。
◎飯田和郎(いいだ・かずお)
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。
田畑竜介 Grooooow Up放送局:RKBラジオ放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分出演者:田畑竜介、橋本由紀、飯田和郎
このポッドキャストをラジコで聴く
出演番組をラジコで聴く
田畑竜介橋本由紀飯田 和郎
※放送情報は変更となる場合があります。

あわせて読みたい

80年前の惨劇を13歳少女が証言…福岡大空襲のリアル
radiko news
コロンビア、「一帯一路」参加で中国と合意
AFPBB News オススメ
豊かな森林資源を次世代へ!「経木」の端材を活用したドライフラワーの花器「紙木と花」を販売開始
PR TIMES Topics
トランプの黄金時代を実現するための「ハーバード叩き」と「日本製鉄の新たな利用方法」
Wedge[国内+ライフ]
インドネシアはトランプ関税と歳出削減で高成長路線に暗雲、政府への不信感がルピア相場の足かせに
ダイヤモンド・オンライン
見た目のインパクトと実用性を兼ね備えたタオル「かまぼこタオル」登場
PR TIMES Topics
戦後80年シリーズ②103歳・台湾の男性が今も「日本人」であり続ける理由
radiko news
戦後80年…台湾への対応で分かれる広島と長崎の原爆忌
radiko news
初コラボ!日本酒「AKABU×UNITED ARROWS 別注 純米大吟醸 2025」発売
PR TIMES Topics
ダライ・ラマ後継問題…90歳を前に重大発表!?ウォッチャーが解説
radiko news
台湾政界で「火遊び」!?…日本の参院選の裏で激化するリコール戦の行方
radiko news
ぶどうの皮を活用したアップサイクルブランド「ぶどうのワンピース」が発売
PR TIMES Topics
長嶋茂雄が福岡を変えた? "ミスター"とプロ野球の"もし"
radiko news
〈「残留孤児」を育てた中国〉戦後80年に日本人が見つめるべき歴史的事実、未来の日中関係に必要な視点
Wedge[国際]
【Brooks Brothers × BRIEFING】限定コラボバッグ第2弾発売
PR TIMES Topics
米財務長官、中国との貿易交渉「やや停滞」
AFPBB News オススメ
旧日本軍の「731部隊」を題材にした中国映画が公開延期になったのはなぜ?中国で高まる社会への不満と反日感情、9月18日の公開日はどんな日になるのか
Wedge[国際]
「大玉まるごとメロンショート」を7月の3日間限定で販売
PR TIMES Topics
「あの戦争」はいつ始まったのか… 答えるのが意外と難しい理由 | 「大東亜戦争」と「日中戦争」のつながり
COURRiER Japon
米中首脳が電話会談、関税とレアアースめぐり協議で合意
AFPBB News オススメ
【ゴールデンコンセプト】旅先でも、視線を奪うゴールドの輝き
PR TIMES Topics