ともに、未来を描く ― PAINTOMO

2025.06.06 14:00
「藻」と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか?池に漂う緑色の物体、あるいは昆布やワカメといったお馴染みの海藻?今、そんな藻類(そうるい)が、未来の暮らしを支える素材として注目されています。2025年大阪・関西万博の日本館では、パビリオン全体の3分の1が藻類をテーマとした展示で構成されており、ちとせグループが主導するバイオエコノミー推進プロジェクト「MATSURI」も一部展示を手がけています。


MATSURIは、バイオを基点とした社会の実現を追求する産業横断型の共創プロジェクトであり、その一環として藻類産業の構築にも取り組んでいます。そんなMATSURIがプロデュースしたのが「『藻』のもの by MATSURI」。藻類を素材にしたアパレル、化粧品、食品、塗料など、さまざまな「藻の物」が一堂に並びます。
左から、切江(ちとせ 万博担当)、大嶋 (ちとせ 用途開発)、清水さん(武蔵塗料HD 開発技術本部)、金子さん(武蔵塗料 チーフデザイナー)、秋元さん(武蔵塗料HD 開発技術本部 副本部長)、今野(ちとせ 広報担当)
今回お話を伺った方
金子友睦さん(武蔵塗料 チーフデザイナー)
秋元哲也さん(武蔵塗料ホールディングス 開発技術本部 副本部長)
清水里帆さん(武蔵塗料ホールディングス 開発技術本部)
未来を塗る
私たちの身の回りは色で溢れています。スマホ、家具、車、建物、日用品、塗装されていないものを探す方が、難しいかもしれません。そんな塗料の“もと”が、もし藻から作られたものだったら、きっと誰もが驚くはず。そんな驚きを形にしたのが、日本館で公開されている「PAINTOMO(ペイントモ)」です。今回は、塗料の開発を担当した武蔵塗料HDの秋元さん、清水さん、展示デザインを手がけた金子さんに、ちとせメンバーが話を伺いました。
藻から塗料をつくるって、どういうこと? 
――最初に「藻で塗料をつくる」と聞いたとき、どう思われましたか?


秋元さん(武蔵塗料HD 開発技術本部 副本部長):
正直、最初は藻で何をするんだろう?と戸惑いました。ですが特徴などを色々聞いていくと、その優れた特性が私たちの目指す持続可能な社会の実現に貢献できる塗料の開発において大きな可能性を秘めていると確信したので、開発に挑戦しない理由はないなと思いました。
秋元哲也さん(武蔵塗料HD 開発技術本部 副本部長)


――そもそも藻って何をどうしたら塗料になるんですか?


大嶋(ちとせ 用途開発):
塗料って、簡単に言うと「ものの表面に定着する、うす〜いプラスチック(=樹脂)」なんです。主に、こんな4つの成分でできています:
① 樹脂(=ベースになる膜をつくる)
② 顔料(=色をつける)
③ 添加剤(=機能性を加える)
④ 溶剤(=塗りやすくする)


私たちは、このうちの①樹脂を藻からつくることに挑戦しました。ざっくり説明すると、藻の油を取り出して、加工し、塗料に使える樹脂に変えていきます。その藻由来の樹脂を、武蔵塗料さんが他の材料とうまく組み合わせ、「バイオペイント」として仕上げてくれました。
――藻が塗料になるまでには、やっぱり複雑な工程がいるんですね!


秋元さん(武蔵塗料HD 開発技術本部 副本部長):
そうなんです。でも料理に例えるとイメージしやすいかもしれません。 食材を集めて合わせるだけじゃなくて、素材選び、レシピ、見せ方まで考える。例えば「もっと硬くしたい」「薬品への耐性を上げたい」といった要望に合わせて、素材も調整してもらいます。 納得できるものができたら、次にそれらをどう組み合わせるか。何度も試作と改良を重ねて、ようやく一つの塗料が完成します。


―― 素材選びからこだわるところもシェフみたいです!では、石油由来、藻類以外の植物由来、それと藻類由来の樹脂ってどんな違いがあるんですか?


秋元さん(武蔵塗料HD 開発技術本部 副本部長):
一番の違いは、コストです。藻類由来の樹脂は、石油由来と比べればまだまだ供給量は少なく、その分、コストも高いという点ですね。ですが藻類がたくさん作られるようになれば自然に下がってくるものだと思います。クオリティーの観点でいえば、これまでの植物由来の塗料とほぼ同じものが出来ています。


大嶋(ちとせ 用途開発):
武蔵塗料さんは、限られた藻の樹脂をうまく使いこなし、顔料など他の材料との配合を細かく調整して、展示に耐える塗料に仕上げてくれました。バイオ素材はただ入れればいいという話ではない。武蔵塗料さんの配合技術は、本当に職人技です。
右:大嶋(ちとせ 用途開発)


――藻類由来塗料を作る際に、大変だったことや意外だったことはありますか?


秋元さん(武蔵塗料HD 開発技術本部 副本部長):
一番大変だったのは、どの藻類の、どんな成分を取り出せば塗料に使えるかを見極めることでした。その設計を考える所から始めて、2022年くらいからずっと試行錯誤してきました。


大嶋(ちとせ 用途開発):
だからこそ、この挑戦を一緒に進めてくれた武蔵塗料さんや、樹脂原料メーカーの築野グループさんはじめ、協力会社様の存在が本当に大きかったんです。MATSURIに関わるひとりひとりが「なんとか応援したい」という熱いものを持って動いてくださっていて、本当にありがたいと思っています。


社会実装のプロセスは、当然ながら経済合理性も無視できません。でも一方で、動いているのはひとりひとりの人であって、そこにはやっぱり心の熱さがある。その両方があったからこそ、これだけ難しいことを実現できたのかなと感じます。
飛び出す未来の塗料
――清水さんは、普段は秋元さんと一緒に開発をされていますが、今回、PAINTOMOの塗装も担当されました。つまり「世界で一番最初に藻類の塗料を使った人」ということになりますね!実際に使ってみて、何か違いはありましたか?
清水さん(武蔵塗料HD 開発技術本部):
そうですね(笑)塗装の段階では、普通の塗料と変わらない状態に仕上がっていると感じました。


――かなり複雑な形状かと思いますが、このデザインを初めて見たときどんな感想でしたか?


清水さん(武蔵塗料HD 開発技術本部):
正直、これを塗るのか・・・となりました(笑)ここまで躍動感のあるものだと思っていなかったので見た当初は驚きましたが、完成してからはここまできれいになるとは驚きでした。裏から見ても接着面も見えませんし、自分が塗った部品からここまでなったのはうれしかったです。
清水里帆さん(武蔵塗料HD 開発技術本部)


――金子さんがこの作品のデザインをご担当されたと伺っています。このインパクトのある造形は、いったいどんなイメージで作られたんでしょうか?


金子さん(武蔵塗料 チーフデザイナー):
「新しいものが飛び出すイメージ」でデザインしました。最初は、大きな塗料缶をポンと置くだけの案だったようなんですが、面白味がないかなと。「もう少し動きがあったほうが良いんじゃないですか?」なんて、ちとせの方々とも話していたら、いつの間にか自分がデザインすることになっちゃいました(笑)


ただ物を置いただけでは、なかなか目立たないし見てもらえない。立ち止まって見てもらえるように、キャッチーさが欲しいと思いました。実は塗料缶の色も、弊社のマニュアルでは銀と赤が基本なんですが、今回は思い切って緑にしてみたんです。「やっちゃえ!」と(笑)
金子友睦さん(武蔵塗料 チーフデザイナー)


――制作にあたって苦労した点はありますか?


金子さん(武蔵塗料 チーフデザイナー):
実ははじめ、組み立てるところは外注でお願いしようかと思ったんです。いざ外注で見積もりをとったら驚きの金額でこれは社内でも通らないだろうと思い、その時点で全て手作りでやると腹を決めました(笑)丸い部品の組み立ても、垂れている台座を削るのも・・・
――実際にこれが出来上がってこみ上げたのは達成感ですか?それとも安堵感でしょうか?


金子さん(武蔵塗料 チーフデザイナー):
達成感が大きいですね。デザインをして、形にするまでの時間が本当に短かくて、周りからも「逆算しても絶対間に合わないけど、金子さんどうすんの?」と言われている状況だったんです(笑)


秋元さん(武蔵塗料HD 開発技術本部 副本部長):
実は、2月の段階では塗料の配合も決まってなかったんです。そこからデザイン通りの色ができるよう原色を組み合わせて調色し、ツヤを出しすぎると傷が目立ちやすくなるので、さらに質感も調整して・・・


金子さん(武蔵塗料 チーフデザイナー):
かなりひやひやするスケジュールでした。出来上がったときは感動でしたね!
――万博という場で展示することについて、武蔵塗料さんにとってどんな意味合いがありますか?


秋元さん(武蔵塗料HD 開発技術本部 副本部長):
万博に出展するって、世界中の人に知ってもらえるチャンスなんですよね。弊社は海外にも拠点があるので、グローバルに広げていく上でもすごく意味があると感じています。


PAINTOMOの「TOMO」には“仲間とともに”という意味が込められていますが、このプロジェクトは、パートナー企業の協力があって初めて成り立つもの。だからこそ、まずは知ってもらうことが大事で、その点で万博はぴったりです。


――最後に、藻類由来の塗料が今後の社会や未来にどんな変化をもたらすと期待していますか?


秋元さん(武蔵塗料HD 開発技術本部 副本部長):
まずは「藻類が素材になる」ということが当たり前になってほしいですね。環境負荷は減らしつつ、今あるものを当たり前に自然由来のものに置き換えていくことが、持続可能な社会に近づく第一歩だと思うので。


大嶋(ちとせ 用途開発):
塗料のバイオ化って、実はすごく意味があるんです。プラスチックなら回収してリサイクルできても、塗料は一度塗ったら基本的に回収できないからです。だから石油由来だと、使い終わった後は燃やすしかなくて、どうしてもCO₂が出てしまう。でもバイオ由来の塗料であれば、カーボンニュートラルにできる可能性がある。藻類をはじめとしたバイオ素材が、もっと当たり前に選ばれる時代になってほしいと思っています。


――藻という新しい素材が、たくさんの仲間と社会の色を変えていく。そんな未来が少しずつ、現実になっていくのだと思います。PAINTOMOがその第一歩になったのだとしたら、こんなにうれしいことはありません。これからも、武蔵塗料の皆さんとともに、藻で彩られた未来を描いていけたらと思います! 

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