2025.05.18 up
2024年radikoで在京エリアにおいて一番聴かれたラジオ番組にTBSラジオ『安住紳一郎の日曜天国』が輝きました。パーソナリティを務めるTBSアナウンサー安住紳一郎さんに放送1000回を迎えた番組やリスナーへの思い、饒舌な“愚痴” が人気を集めるサラリーマンラジオの流儀について聞きました。
生放送NGな方も…マニアックすぎる愛好家が多数ゲスト出演
たまたま空いた一枠でラジオ初レギュラースタート
――20年前の2005年4月に番組がスタートしました。どんな経緯で始まったのでしょうか。
『安住紳一郎の日曜天国』(以下、にち10)が始まったのは、平日午後の生放送の帯番組『ジャスト』(1998~2005)が終わった直後でした。『ジャスト』のようなテレビの生放送を当時希望していましたが、ドラマの再放送を増やしていた時期でアナウンサーの求人(笑)はありませんでした。ちょうどその時に当時のプロデューサーから生放送のラジオが一枠空くけど、と声をかけてもらってスタートしました。それまで単発もののラジオはやっていましたけど、レギュラーは初めてでしたね。
職人気質のラジオDJの方がたくさん評価されていますが、私はそんなにテレビとラジオとではやり方を変えているほうではなく、テレビのやり方をラジオに流用した感じだと思います。テレビの現場でも本番が始まる前など映っていないところでは、ラジオとほぼ同じような愚痴みたいなものを言っています。『THE TIME,』(2021~)も打ち合わせから放送したらラジオのような愚痴トークになると思います。『THE TIME,』は情報ニュース番組ですからね。
『にち10』を11時からの、ゲストコーナー、あるいは中継コーナーから始まる番組と考えると比較的まともな情報バラエティー番組になっているはずです。10時からの1時間は、私の楽屋での世の中や自分の仕事に対する愚痴みたいなものですね。
「一番饒舌になる分野が愚痴だった」
――安住さんが時折こぼす“愚痴”が多くのリスナーを惹きつけているようですが。
会社勤めとか組織で働いている人たちと同じ経験をしていると思われているのが大きいと思います。実際サラリーマンですし…。そして基本的にあまり成績のいい放送局じゃないので、働いているとただ愚痴しか出ない感じはありつつですけど。もっとイケてる分野で働いていたら…と思うことはあります(笑)。
私は、『にち10』を始めた当初は会社の役職的に係長でした。リスナーたちの私の呼び方も当時は係長。そこから徐々にサラリーマンとして会社の中での立場が変わっていきました。人事情報的な話も伝えていましたから、リスナーは私の人生に“サラリーマンすごろく”的なものを見て楽しんでくれていました。
――安住さんのベースになっているラジオパーソナリティや番組を教えてください。
TBSラジオでは大沢悠里さん、久米宏さん、他局では辛坊治郎さん、スポーツアナでは松下賢次さん、初田啓介さんです。北海道で学生の頃に聴いていたSTVラジオの深夜放送『アタックヤング』。当時札幌テレビのアナウンサーだった木村洋二さんがパーソナリティを務めていました。この番組のリスナー体験も大きいと思います。
木村さんは放送局のアナウンサーという型から出ないで話すスタイルでした。芸人さんやタレントさんと違う立場を面白がっていて、社会やサラリーマンとしての悲哀が当時の自分はとても魅力的に聴こえました。私もサラリーマンの枠の中で話しをしています。サラリーマン家庭で育ちましたし、勤め人の美意識や、ユーモア、言葉の選び方が根っから好きなんだと思います。
なんでも経験したがる気質が傑作エピソードを生む
――独特の観察眼で切り取った光景を臨場感たっぷりに語る体験エピソードも人気です。ゲストでいらした星野源さんも安住さんの成人式の話(「ハレの日の孤独」2009年1月11日放送)を絶賛していました。
成人式の話を放送したのは16年くらい前で、放送直後のリアクションは「相当かわった拗らせ案件」というだけでした(笑)。ただ16年経ち世の中が変わって受け止め方が変わったらしく、動画サイトで聴いた人たちからはすごく好意的な受け止め方をされました。当時は相当ぶっ飛んだエピソードだったはずなんですが…。知り合いもいない街の成人式に午前と午後(当時の与野市と浦和市)で2回も出席するなんておかしいですよね。
もともとなんでも経験したがる、自分でやってみたがるところがあって。たとえばテレビを買い替えたりする時に量販店の引き取りをお願いせず、東京・豊洲にある処理センターに自分で持って行って処分したりとか。ホームセンターではなく、砕石場に砂を買いに行ったり…なるべく過程を自分で見てみたいという欲がある… “変わってる”というんでしょうね。これでもだいぶまともになってきましたけども(笑)
公式YouTubeにある「魔性の館内放送」(2022年1月17日放送分)、「免許センターの話」(2022年2月6日放送分)など街で見かけた気になる人たちの話もよく聴かれているようですね。ちょっと私自身が組織の中でうまく生きられないタイプなので、他の人が見逃すようなところが目に入ってくるのかなと思いますね。
生放送NGな方も…マニアックすぎる愛好家が多数ゲスト出演
――ゲスト出演される方が個性的というかマニアックな方が多いような気がします。
ゲストの方は毎週印象が強いですね。回数的に代表的なゲストは、みうらじゅんさん、ヤマザキマリさん、磯田道史さん、教養もユーモアもあるちょっとマニアックな文化人が多いです。またこれまでには換気扇が好き、石が好き、デパートのエレベーターが好きなど、当時は日の当たらなかった愛好家の方々にも大勢出演いただきました。
最初の頃は手探りで、どこまで突っこんでいいのか…「そんなことありますか?」の相槌の技術がまだ上達していなくて、放送が始まって話をしているうちに機嫌を悪くさせてしまって、私がずっとしゃべり続けたこともありました。申し訳ないことをしました。
『マツコの知らない世界』(2011年~)とゲストがカブることが多いです(笑)。
――『にち10』は今年2月に1000回を迎え、この4月で20年という長寿番組になりました。
これまで自分が担当してきた番組は長く続けてきたものが多いので、意外というよりは目標どおりにやってこれたという喜びです。それは目に見えるもの、見えないもの含めてたくさんの方のご支援があってということです。20年ラジオで働いてきて気づいたことの一つとして「ラジオを聴いてください」と勧誘しても、はい聴いてみます!と言って次の日から聴いてくれるものではありません。よほど信頼している人から薦められるとか、山小屋でラジオしか入らなかったとか。
自分が疲れている日、環境が変わって戸惑っている状態の時に波長が合ったというきっかけが多いようです。風が吹いて上手に偶然が合えば…という感じです。同じことを続けるだけだと思います。1000回、20年といった節目だからといって、これからやってみたいことや挑戦したいことが特にないんです。変わらずに同じ時間に同じメンバーで放送することです。
“地元”が一緒のリスナーと年を重ねていきたい
――『にち10』リスナーの方から毎週メールが多数寄せられるそうですね。
すごく優秀なリスナーがついていると思います。教養もあるし、届いているメールを見たらびっくりすると思いますけど…誤字脱字がまずありません。もちろんおかしな人もいますけど(笑)。当初の狙いどおり、会社員や公務員が多いです。お客さんは、そのうち演者に似てくると言いますが、自分に似ていると感じることもありますね。そんな私もリスナーの人に教えてもらった情報をTVで使っていることがあります。ありがたいです。
リスナーへは一緒に変わらず年を重ねていきましょうと言いたいですよね。地元が一緒という感じのつき合いで。みんなも人生があって、自分も人生があって。お互いのいい所を褒め合い、ダメなところを笑い、こんなこと前にあったよねーという話がしたいです。
ラジオ業界全体が上向きになれば
――放送局の社員として、現在のラジオ業界について思うことはありますか。
今、AMラジオの放送局が47局、FMラジオが約380局あって全部で430ぐらいのラジオ局がありますが、なかなか利益を出すのが厳しい状況なんですね。最近はradikoさんの力もあって、ずいぶんと皆さんに聴いてもらえる機会に恵まれつつあります。ですが、ラジオ業界全体ではかなりきついと思います。自分も責任を感じています。
スタッフのラジオへの思いを利用してなんとか持ちこたえています。やる気搾取の現場です(笑)。せめて、ネットやSNSでスタッフやパーソナリティーのモチベーションの下がる言動はこらえて欲しい。アメリカとかではDJってすごい給料が高くて憧れの職業なんですよ。せっかくradikoで一番聴かれたラジオ番組と言って取材して貰ったのに、「SNSでイヤな書き込みやめろって…」。なんか…夢がないよね。結局愚痴になっちゃった(笑)。
安住紳一郎の日曜天国放送局:TBSラジオ放送日時:毎週日曜 10時00分~11時55分
ハッシュタグは「#nichiten」この番組をラジコで調べる
出演番組をラジコで聴く
安住 紳一郎
※放送情報は変更となる場合があります。profile
高田りぶれ(たかだ・りぶれ)
山形県生まれ。ライターなど。放送作家のキャリアを生かし、テレビ・ラジオ番組のおもしろさを伝える解説文を年間150本以上執筆。趣味は観ること(プロレス、サッカー、相撲、ドラマ、お笑い、演劇)、遠征、料理。
ラジコプレミアムに登録して全国のラジオを時間制限なしで聴く!
radiko2023ランキング在京エリア首位!『ニッポン放送ショウアップナイター』煙山光紀アナ&真中満インタビュー
2024.05.31 up