三菱地所・サイモン株式会社が運営する国内6番目のアウトレット施設として2007年7月にオープンした、神戸三田プレミアム・アウトレット。開業から2回の増設を経て成長を続け、2023年度のアウトレット施設売上において、同社旗艦店である御殿場プレミアム・アウトレットに次ぐ第2位の実績をあげています。(繊研新聞社調べ)。
開業から17年を迎える2024年度には過去最高売上を見込んでいる中、これまで大切にしてきた“ファッション”を軸にさらなる体験価値の向上を目指して行ってきた施策が評価され、繊維・ファッション業界紙『繊研新聞』のデベロッパー大賞で、首都圏・京阪神圏での敢闘賞を受賞しました。
本STORYでは、2024年4月より支配人を務める松本泰氏が語る、開業当初を振り返りながら、現在の成長に至るまでの軌跡について紹介します。
「難しさが、面白さでもある」~開業当初の想い~
まず、私が神戸三田のオペレーションマネージャーとして入社した2007年の開業当初を振り返ると、まだアウトレット施設の数が今の半数以下と少ない時代でした。立地としても、有馬温泉やゴルフ場、道の駅「神戸フルーツ・フラワーパーク大沢」(当時は観光施設「神戸フルーツ・フラワーパーク」)などの観光資源にも囲まれており、開業当初から県内の方を中心に西日本のさまざまなエリアからご来場いただいていましたが、今では海外からのお客さまも増えています。
開業当時は、まだまだ受け入れ側としての対応が追いついておらず、当時主流だった百貨店などの屋内施設と比べ、屋外の施設ならではのお客さまニーズがあり、それにお応えしていく中で苦労しながら、日々学ばせていただきました。
また、前職ではテナント側の業種だったのでお客さまへのサービスに重きを置いてきましたが、デベロッパー側になるとお客さまだけでなく、施設全体やブランドそれぞれの個性を生かしながら大切にしていくということも同時に考えていかなければなりません。それが難しさでもありつつ、面白さを感じていた部分でもありました。
原点回帰を課題解決へつなげる
私が施設運営をするうえで大切にしていることは大きく3つあります。
1つ目は、本来の強み、コンセプトを認識して磨き上げることと、都度あらわになる課題を解決・軽減させるということ。
われわれの本来の強みは、ずばりブランド力です。約210店舗を有し、40以上のラグジュアリーブランドが出店していること。なかなかアウトレットでは出店の少ないブランドもそろっています。
当社が運営する御殿場プレミアム・アウトレットは、プレミアム・アウトレットのフラッグシップとして、首都圏からの適度な距離感、恵まれた観光資源を土台とした圧倒的な集客力から、ブランド各社からも重要な拠点として支持を得ています。神戸三田プレミアム・アウトレットは現在では西のフラッグシップとして、関西エリアでの新たな顧客開拓などの拠点としてテナントの皆さまに支持をいただいています。
そういった強みに原点回帰して、“ファッション”に勝負をかけてお買い物体験を磨いていくということに取り組んできました。
最近、商業施設ではファッション以外の部分で差別化をはかろうとする傾向がありますが、神戸三田プレミアム・アウトレットでは本当にブランドの方々のご協力のおかげで、強みとオリジナリティをさらに高めていくことにつなげられていると感じています。
さらに、「ロサンゼルス市郊外の高級住宅地パサディナをモデルとした、開放感のあるプレミアムな大人の街」というコンセプトを体現し続けるべく、シンボルタワーの塗り直しや看板、設備の修繕など、施設のシンボルエリア、場内環境の美観維持にも努めました。
国内の人口減少や少子化の影響でヤングファミリー層が減少傾向にあり、また滞在時間も若干短くなっている課題もあることから、お子さま向けの体験施策や屋外スペースを活用したイベントなど、お買い物以外の体験価値、滞在機会を増やすなどの施策を実施しています。
▼ハイブランドが数多く立ち並ぶ神戸三田プレミアム・アウトレット
支配人という立場においては、お客さまだけでなく従業員の意見や想いも大切にしています。特に意識しているのが、従業員の方々のお声をしっかり聞く、意見を集める努力をするということと、1人でも多くの従業員に気を配るということ。
テナントの営業報告書類は全店舗全て目を通すようにし、特に対お客さまに関する意見には、できるできない問わず全てオフィススタッフでフィードバックすることを徹底しています。また、なるべく1人でも多くの従業員に満足いただけるような施策として、2024年度は全従業員が応募できる抽選会なども実施しました。
それから、お客さまに「また来たい」と思っていただくためには、根幹である「接遇を含めた良いお買い物体験」が重要だということについても、われわれのスタンスとしてしっかり伝えていくことも大事にしています。
例えば、内装がキレイで、美容師さんもかっこよくて、話も面白い美容室があったとしても、カットやパーマが雑だったら二度と行かないですよね。本質的価値って、髪をキレイにしてくれる、格好よくしてくれるというところにあると思うんです。商業施設に置き換えるとどうか?そういった話をミーティングでもよく話しています。
社員やテナント従業員だけでなく、警備や設備、清掃、インフォメーションといったパートナーの方々も、単に業務に従事するだけでなく、業務内容がお客さまにとってどのような体験価値につながるのかということを意識して取り組んでいただけるようになったと感じます。
需要ごとのターゲットに合わせた施策で体験価値の向上を
施設運営の上で大切にしていることの2つ目は、お買い物体験を主軸にした体験価値の向上に取り組むこと。さらに3つ目が、多様性に配慮し、さまざまな需要に寄り添った取り組みを丁寧に積み重ねることです。
具体的には、車来場の方、ペット連れの方、小さなお子さまがいるファミリー層などといった、お客さまの需要ごとに区切って施策を打っています。
例えば、お誕生月の方を優遇するバースデー企画。施設で使えるクーポンをプレゼントし、テナントの皆さまにもご協力を募りお買い物特典を提供していただいています。ファミリー層へ向けてはお子さま向けサービスを拡充させたり、お車で来られる方には今年度からお買い物中に洗車をするサービスを導入するなどの施策を実施しました。
2024年度は、これまでテナントの皆さまとわれわれが共に培ってきたことを土台に、このような取り組みがお客さまに受け入れられて緩やかな成長軌道に乗せられたことと、訪日外国人のご来場が増えたことも相まって、開業以来の年商記録更新へつながったと考えています。
SLにサウナバス?!話題性と体験価値を生む新たな取り組みも
特に印象に残っている施策は、お子さま連れのお客さま向けプロモーションです。週末のみ場内でミニSLを走らせたのですが、予想を上回る大反響があり、1日平均400名弱の乗車がありました。もう1つはボートプールといって、プールを簡易的に用意してボート遊びができるスペースを提供したのですが、こちらも想定以上にファミリーの方々に喜んでいただきました。
いずれも施設内の広場内で実施しているので、その場で見て体験したいというお子さまや、体験しなくても写真や動画で撮ってSNSに発信される親御さまも多くいらっしゃいます。特にママインフルエンサーの方々の発信によって、お子さまでも楽しめる施設だというイメージをさらに加速できたのではないかと考えています。
これらのプロモーションをしっかりと実施してきたことは、お客さまだけでなくテナントの方々にも評判が良く、施設全体が1つになって盛り上げることができたと感じています。
他には、お客さまアンケートでご要望の多かったビアガーデンを夏に開催したり、直近の3月上旬には移動型のサウナ「サバス」を誘致したりなど、新たな取り組みもご好評をいただきました。
「サバス」は引退した路線バスの車両をサウナに改造し、どこでも本格的な薪サウナが体験できるというものなのですが、周りに“ととのい”場所やブースも用意したところ、事前の予約率は86%に達し過去平均を大きく上回る結果となりました。周りでお買い物をしている人たちがいる中でサウナが体験できるということ、また、施設の中に路線バスが停まっているという光景など、非日常な面白さと特別感にご興味を持っていただけたのだと思います。
特にアウトレット施設は立地が都市部から離れていることもあり、さまざまな商業施設やECがある中で、お出かけやお買い物をしようと思った時に選択肢にあがりにくい。まず選択肢に入れていただくために、広報部にも、販促関連以外のことでもニュースバリューがありそうなことは積極的に発信してもらっています。また、特に施策を発信する際には、点ではなくその背景にあるストーリーとともに”線”で伝えていくということを、今年度は特に強く意識しながら行ってきました。
「危機感もエンジンに」あらゆる世代の“本命”を目指して
今後の展望としては、年々国内の人口が減少し少子高齢化していく中で、商業としては将来的に厳しい現実はあります。ただ、そうした社会現象は一個人レベルで解決できる話ではないので、危機感を持って競合激化を乗り越えるためのエンジンとして前向きに捉えていきたいと考えています。
そのために、2025年度も引き続きご来場いただくお客さまを大切にするとともに、中長期も見据えて若い世代にとってもお買い物、お出かけ先の本命となるべく、あらゆる年代、ライフスタイルに丁寧に寄り添った取り組みを精力的に行っていきます。
さらに、芯は大切にしつつも、時代とともに変化に対応しながら施設を進化させていきたいと考えています。理想としては、あらゆる年代の幅広い層のお客さまに支持される、西日本最大級のアウトレットであり続けることが目標です。