動物病院向け電子カルテシステム『iVet』に、生成AIを導入。医療現場の業務負担軽減を実現した開発秘話に迫る!

2025.04.15 13:00
国内の動物医療や動物飼育・研究分野を、デジタル技術で支えている株式会社アスクジャパン。アスクジャパンが動物医療に特化して開発したのが、動物病院向け電子カルテ『iVet』です。今では数多くの動物病院に導入されている『iVet』が、生成AIによるドキュメント生成機能を追加して2025年にリニューアルしました。生成AIの導入を手がけたのは、徹底したユーザー目線によるデジタル活用で大手企業のビジネスを加速させてきたネットイヤーグループ株式会社。


業界の共通課題である“現場スタッフの業務負担軽減”を目指した本プロジェクトについて、『iVet』を提供するアスクジャパンと、生成AIの導入を担当したネットイヤーグループのキーマン3名にインタビューを実施。生成AI導入の成功事例として注目される、本プロジェクトの実施背景や開発秘話に迫ります。
(左)アスクジャパン 坂口氏、(中央)アスクジャパン 落合氏、(右)ネットイヤーグループ 大西氏


【プロフィール】
落合 伸行(株式会社アスクジャパン)
大学卒業後、建設会社のシステム部門から独立した会社で建設業向けシステム開発に従事。現在はアスクジャパンで動物医療関連のシステム開発を統括。同時に営業やマネジメント業務も担当。


坂口 尚輝(株式会社アスクジャパン)
新卒でアスクジャパンに入社し、システム開発から営業の両方を担当。今回のプロジェクトでは、主に開発環境の構築やシステムの受入検査などを担当。


大西 健太郎(ネットイヤーグループ株式会社)
コンテンツプロバイダに企画担当として入社し、その後制作会社を経てネットイヤーグループに参画。データ分析・サービス企画・UXデザインワーク・システム開発の実績を重ね、現在はカスタマーエクスペリエンス事業部の事業部長を勤める。本プロジェクトではネットイヤーグループの統括責任者。
動物医療現場の課題と生成AIの導入で『iVet』が目指す姿
──最初に、動物病院向けシステム『iVet』に生成AIを導入しようと考えた理由や目的を教えてください


落合氏:現在の動物医療現場で、一般的に最も課題とされるのが「人手不足」です。現場ではひとりの獣医師がほぼ全ての診察を行うなど、獣医師や看護師が少人数で業務を回す必要があり、作業負荷が大きいことが問題になっています。弊社では業界に先駆けて開発した電子カルテシステム『iVet』を開発・提供することで、これまでも現場スタッフの業務負担軽減とDX化を推進してきました。
昨今では動物病院の数が増加傾向にある一方で、獣医師と看護師の数はどんどん減少しています。さらに動物医療の高度化が進み、獣医師をはじめとした医療現場スタッフの業務負担がさらに高まっています。


坂口氏:特に、診療後に獣医師が報告書や紹介状を作成する負担が大きく、業務の効率化を妨げていました。弊社は電子カルテシステムを常に進化させてきましたので、現場のさらなる課題解決とDX化促進のためにも生成AIを導入するアイデアが出ました。具体的には弊社の『iVet』に生成AIを導入することで、これまで蓄積してきた膨大な診療データを活用し、AIが適切な報告書や招待状を自動生成することができないかと考えました。


──生成AI導入の不安や課題もあったと思います。課題がありながらも導入に踏み切った理由と、開発パートナーとしてネットイヤーグループを選んだ理由を教えてください


落合氏:正直、当初は生成AIの導入に多くの不安や課題がありました。そんな時に弊社の社長のご縁で、生成AI導入について知見のあるネットイヤーグループさんを紹介していただきました。オンラインでの初顔合わせでは、さまざまな課題や要件について相談しました。その際、「できますよ!」という心強い回答と一緒に、生成AI導入に伴うメリットとリスクについて、丁寧に解説していただきました。最も懸念していたのは電子カルテの個人情報が外部漏洩することでした。このようなリスク対策を含めて、何度も打ち合わせを重ねて不安や課題を洗い出し、ネットイヤーグループさんが適切な提案をしてくれたことで、徐々に安心して導入を進めることができました。


大西氏:どの企業様も生成AIをビジネス活用するには、大きな不安や課題を抱えていると思います。
一般的に生成AI導入のメリットは2つあります。そのひとつは「コストリダクション(費用削減)」です。これまで人間が行っていた業務を生成AIが肩代わりすることで、時間的コストを削減できるという大きなメリットが生まれます。もうひとつが「発散」、つまり新たな発想を生み出すことです。生成AIは膨大なデータを学習しており、人間には思いつかないようなアイデアを提供できる可能性があります。


一方、デメリットとして挙げられるのが「セキュリティ」と「ハルシネーション(AIの誤った情報生成)」です。AIは誤った情報をもっともらしく生成する事があります。つまりAIは嘘をつくのです。いわゆる「責任あるAI」という倫理に基づいて、信頼性・安全性・公平性を担保するためにも、ベンダー側には生成AIの運用技術だけではなく、適切なリスク管理も求められると考えています。
生成AI導入により業務効率化を実現
──生成AIを導入することで『iVet』がどのようにアップデートできたのか、具体的に教えてください


坂口氏:『iVet』に生成AIを導入したことで、獣医師が入力したカルテ情報をAIが適切に認識して、報告書と紹介状の2種類のドキュメントを自動出力できるようになりました。


今回は生成AIを使い様々な形式で連携されてくるカルテ情報に対して、適切な情報整理を生成AIに行わせることもポイントでした。現場では獣医師さんごとにカルテの書き方が異なり、形式や記述の順序がバラバラだったりします。これを生成AI側で情報を正しく判別して、さらに報告書と紹介状というフォーマットの異なる2種類の文書に出力する必要がありました。
結果、獣医師をはじめ現場スタッフの業務効率化と、生産性の向上に大きく貢献し、『iVet』の役割も「インプットしてデータを蓄積する」から、「アウトプットして有効活用する」方向に広がりました。生成AIの導入によって、蓄積されたデータをもとに有益な情報をアウトプットできるように進化したと思います。


大西氏:システムの変更点としては、従来の『iVet』は、基本的にスタンドアローンで動作するシステムでしたが、今回、生成AIエンジンを外部に設置し、インターネット経由でAPI接続する方式へと進化しました。これにより、生成AIがより多様なデータや技術と連携できるようになり、その活用の幅が広がりました。今後は、スタンドアローンの枠を超えて、外部リソースとの連携を強化することで、さらなる可能性が生まれると考えています。


また、生成AIではプロンプト(AIへの指示)の設定が重要です。獣医師さんによって求めるものが異なるため、アスクジャパンさんがプロンプトルールを管理できる仕組みを導入し、当社がその都度関与しなくても、アスクジャパンさん社内で柔軟な拡張が可能になりました。
従来の『iVet』と比較すると、高いメンテナンス性と拡張性を兼ね備えたシステムにアップデートできたと思います。


──一方で生成AI導入のリスクや課題に対して、どのような対策でそれを解決しましたか?


大西氏:セキュリティリスクを軽減するために、AWSの活用を提案しました。
AWSは早期から、「責任あるAI」に積極的に取り組んでおり、その方針に基づいたサービスを提供しています。今回は、このAWSが提供する生成AIサービスなどを採用し、学習データを保存しない設計や、生成AI処理を特定のコンテナ環境内で実行する仕組みを構築することで、医療情報を安全に取り扱う環境を構築しました。


また、ハルシネーション(AIの誤った情報生成)のリスクについては、AIに事実に基づいた変換を行うよう入念なチューニング作業を重ね、そのリスクを軽減していきました。


──ネットイヤーグループとして、今回のAI技術を他企業のDX推進やマーケティングにいかに応用できそうか?今後の展望を踏まえて教えてください


大西氏:インプットされた情報を生成AIが要約し、適切なドキュメントを生成する技術は、さまざまな分野に応用できると考えています。


例えば、プロジェクトマネジメントでは、定期的な報告書作成の効率化ができると思います。プロジェクトの進捗状況を把握するためには、多くの情報を収集する必要がありますが、プロジェクトが大規模であるほど、そのコストは増大します。ここで生成AIを活用し、課題管理システムやタスク管理システムなどに蓄積された情報を自動的に集約・分析し、報告書を生成することが可能です。


同様に、マーケティング分野にも応用できます。マーケティング施策に関連する数値データやコンテンツなどの情報を自動的に収集・分析し、状況に応じたレポートを生成することで、マーケティング担当者の業務を効率化できます。
今回のプロジェクトで感じた、さらなる生成AI活用のビジョン
──アスクジャパンさんにお尋ねします。今後『iVet』はどう進化して、どのように動物医療の現場を変えていくのか?展望も含めて教えてください


落合氏:蓄積された診療データをもとに病気の診断を支援することや、処置や処方のアドバイスをAIにしてもらうことが考えられます。ただしAIは嘘をつくこともあるため、あくまでも診断支援や処置・処方のアドバイスとして活用し、生成AIが出力したデータが間違っていないかどうかを判断する学習機能が必要になるでしょう。膨大な診断データをもとにAIが学習し、病気の診断を支援し、適切な処置や薬の提案をする方向で活用が進められたらと考えています。また今後は『iVet』だけでなく、弊社の動物園・水族館向けシステム『iVetZoo』にも取り入れて、カルテや飼育日報のデータより報告書等を生成できるようにしていきたいと考えています。


坂口氏:様々なAI技術を組み合わせることで、将来的には獣医師さんの“診断支援”に繋げることができると考えています。また飼い主様の待ち時間の短縮や、不安の解消にも役立つ仕組みづくりにも、生成AIの技術を活用できると思います。


──大西さんにお尋ねします。今後『iVet』の展望と、ネットイヤーグループとしてのAI事業の位置付けやビジョンを教えてください


大西氏:まずアスクジャパンさんとの取り組みについてですが、今回はまだ一歩目にすぎないと考えています。生成AIをどのように活用していくかについては、非常に多くの可能性が眠っています。将来的にアスクジャパンさんが「動物医療業界における生成AI診療サポートの先駆者」となるための支援ができればと考えています。


また弊社では現在、デザインワークやリサーチ業務の一部を生成AIで代替する取り組みを進めています。例えば、ユーザーの深層心理を引き出すデプスインタビューの一部を生成AIで代替する試みを行っています。生成AIはあくまで手段であり、目的ではありません。今回のアスクジャパンさんとの取り組みでは、獣医師の業務負担を軽減することが目的であり、そのために生成AIを活用するという順番が重要でした。私たちは、ユーザーの課題解決に向き合いながら、全力でAIを活用していくつもりです。
生成AI導入の不安や課題を相談する事で、ビジネス活用のビジョンを広げる
──「生成AI導入を検討しているがどこに相談すればよいか分からない」という事業者も多いと思います。そんな方々の背中を押すようなアドバイスをいただけますか?


落合氏:今回のようなインタビュー記事を通して、ネットイヤーグループさんのように実績がある企業や専門家に「まずは相談してみよう」と考える方が増えればいいですね。実際、ネットイヤーグループさんに相談したことで、生成AI導入のメリットやリスクについて理解が深まりました。実際『iVet』への生成AI導入についても、コストを抑えながら想定よりも早く形にできて、とても満足しています。


坂口氏:プロジェクトを進める中で、『iVet』に蓄積される診療データを獣医師の診察サポートに活用する、という新たな目標ができました。個人的には動物福祉の観点からも、様々な用途に発展させていきたいと考えています。最初はAIの知識がなくても、プロジェクトを進めていく中で理解が深まります。さらに、私たちのように将来的なAI活用についても、ビジョンを広げることができると思います。


大西氏:生成AIの導入に不安を感じたり、判断基準が分からないという企業様は多いと思います。そのような場合は、ぜひ私たちに声をかけください。発想段階から一緒に考え、サポートいたします。私たちは実際のサンプルや概念を迅速にご提示し、企業がAI導入の可能性を判断できるよう支援しています。いまAI技術を提供する企業は多くありますが、弊社は生成AIをマーケティングに活用することで、目的を達成するための会社です。「生成AIをどのようにビジネスに活用するか」については、ぜひご相談ください。


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本記事でご紹介した取り組みについては、こちらの導入事例で詳しくご覧いただけます。


アスクジャパン様 導入事例:

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