研究開発の現場で生まれた革新的な技術やアイデアの約6割が、事業化されることなく消えていくーーー。
この課題に挑むべく、事業共創カンパニーRelicは、新規事業開発を支援する企業として、ディープテック領域の事業化を加速する「ディープテックイノベーションセンター(DTIC)」を2025年1月に設立しました。そのチームを率いるのが、R&D、VC、事業開発と、「技術の事業化」を一貫して歩んできた金子です。
なぜ、数多くの技術が市場に届くことなく消滅してしまうのか?
その背景とともに、Relicが取り組む 「ビジネス」「エンジニアリング」「投資」を融合させた総合的な支援の全貌を紐解きます。
――金子所長のこれまでのキャリアについて教えてください。
私は、研究開発から事業企画、ベンチャーキャピタル(VC)、起業と、一貫して「技術の事業化」に携わってきました。大学院で工学と経営学の二つの修士号を取得し、大手電機メーカーに入社。パワーエレクトロニクスやIoT技術の開発を手がける中で、技術が事業として適切に評価される仕組みの重要性を実感しました。
新規事業開発コンテストへの参加をきっかけに経営企画部門に異動し、事業視点を学びましたが、よりスピーディな事業創出を求めて独立系VC(ベンチャーキャピタル)へ転職。シード期のスタートアップ支援を通じ、企業規模を問わず事業化の課題に向き合いました。
その後、独立系コンサルティングファーム、上場スタートアップの新規事業責任者を経て、Y2 Incubate LLCと一般社団法人ディープテック・スタートアップ・サポーターズ協会を設立しました。国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) 研究開発型スタートアップ支援人材としてDeepTechスタートアップへのアドバイザリー業務や大手企業向けの戦略支援を展開してきました。
2024年にRelicに参画し、滋賀拠点とDTICを設立。技術を社会実装するための実行力を活かし、ディープテック領域の事業化を推進しています。
――DTIC設立の背景や活動概要を教えてください。
研究技術を活かした新規事業開発の重要性は、今や多くの企業や大学、研究機関が認識しています。しかし、大学や企業が開発した革新的な技術が、十分に事業化に結びついていないのが現状です。
内閣府の調査によれば、日本企業が研究開発した技術の約6割が事業化されずに消滅しているとされています(※1)。また、特許の過半数が実際には活用されていない実態もあり(※2)、極めて有望な技術シーズが市場に届かずに埋もれてしまうケースが後を絶ちません。
こうした課題の背景には、「事業視点の欠如」「事業化プロセスの複雑さ」「専門リソースの不足」という3つの大きなボトルネックがあります。これらの構造的な課題を打破するため 、Relicは新規事業開発のノウハウと組織力を結集し、 ディープテックイノベーションセンター(DTIC) を立ち上げました。
DTICでは、大学・研究機関・企業のR&D部門に向けて、技術シーズの探索から特許戦略の設計、プロダクト開発、マーケティング、資金調達支援までを一貫して行い、「技術の塊」を「事業の魂」へと昇華させることを使命としています。
※1 内閣府,「平成30年度 年次経済財政報告(経済財政政策担当大臣報告)」, P253 第3章 第2節 2 イノベーションの基礎力:人的資本、知識、技術力、研究開発の課題,
※2 文部科学省,「平成30年版 科学技術白書」,
――ディープテック領域の事業化において、Relicの強みはどこにありますか?
ディープテック事業化において最も重要なのは「エグゼキューション(実行力)」です。世の中には多くのブティックファームや大手コンサルティングファームが存在しますが、ブティックファームは人材・スキル不足で「実行支援」まで踏み込めないことが多く、大手ファームは戦略設計には強いものの、事業としての実装までは手が回らないケースが見受けられます。
その点、Relicは全国16都道府県に拠点を持ち、約350名(2025年3月時点)のメンバーが在籍しています。ビジネス、テクノロジー、クリエイティブのすべての領域に強みを持つチーム体制を構築しており、新規事業開発や起業を経験しているメンバーが中心となっているため、単発のアドバイザリーにとどまらず、実際に「事業を形にしていくプロセスそのもの」に対して伴走・支援できるのが特徴です。
また、投資機能も備えているので、「ヒト・モノ・カネ」すべてを投入できる総合力を持っている点も大きな強みです。実際、新規事業開発支援を本業としているRelicだからこそ、「単なるコンサル」以上の実行力でディープテックの事業化を推進できるのです。
――研究者のキャリアパスやディープテック支援の可能性について、どう考えますか?
日本はディープテック領域で世界に誇る研究成果を多く生み出しているものの、「事業化のプロセス」をいかに構築するかが大きな課題とされています。実際、「優れた研究成果が市場に出る手前で埋もれてしまう」ケースは少なくありません。
また、研究者のキャリアの選択肢が限られていることも大きな問題です。特に30〜40代の研究者の方々は、「このまま研究を続けて、将来どうなるのか?」という漠然とした不安を抱えていることが少なくありません。
Relicでは、研究者が新規事業の実装に深く関与できる場を提供し、研究者自身が社会にインパクトを与える経験をを積める環境を創出することで、研究者のキャリアの可能性を広げ、日本のディープテックを前進させることを目指しています。
――ディープテックの事業化において、根本的な問題はどこにあるのでしょうか?
最たる課題は「産業構造の理解不足」だと考えています。革新的な技術シーズがあったとしても、「どの産業分野に、どのように位置付けるべきか」が見極められていないケースが多い。
たとえば、5~10年かけて技術開発を進めたのに、「想定したバリューチェーンに参画できない」「市場への導入ルートが見えない」という状況に陥ることも少なくありません。さらに、ディープテックの場合は研究開発期間が長く資金調達規模も大きいため、長期的な成長戦略と資金計画を描く視点が欠かせません。
Relicは単発の投資だけでなく、「ヒト・モノ・カネ」すべてを投じた事業化の実行支援までを包括的に担うことで、研究シーズを社会実装まで確実に導く体制を整えています。
――最後に、今後の展望をお聞かせください。
私たちの目標は、「ディープテック支援といえばRelic」と言っていただけるような存在感を確立することです。確かにディープテック支援企業は徐々に増えていますが、ほとんどはコンサルティングに終始しているのが現状。しかしディープテック領域で真に価値を生み出すには、技術の実装と事業化のプロセスにまで踏み込む実行力が不可欠だと思います。
Relicは、単なる「アドバイザー」ではなく「実行パートナー」として事業化を支援することにこだわり、DTICをさらに拡大し、大規模なイノベーションを創出することを目指しています。「技術を、事業に。未来に活かす。」という信念のもと、ディープテックの可能性を最大限に引き出し、日本のイノベーションを牽引していきます。
<参考>
ディープテックイノベーションセンター発表プレスリリース
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000352.000016318.html