全人代でも議論に?最高裁がわざわざ通達した「中国の結婚トラブル事情」

2025.03.10 12:20
2025.03.10 up提供:RKBラジオ
中国の国会にあたる全人代(全国人民代表大会)が北京で開催されています。大きな議題となっているのは、低迷する中国経済をどのように回復させるか。アメリカのトランプ政権が課した追加関税によって、中国経済は厳しさを増す中で開かれている全人代について、中国ウォッチャーでもある、飯田和郎・元RKB解説委員長が3月10日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で解説しました。
最高人民法院の通達
中国政府は、今年の経済成長率の目標を去年と同じ「5パーセント前後」に据え置きました。テコ入れ策の一つとして1兆3000億元(日本円で約27兆円)の特別国債を発行します。財政出動を通じて内需の刺激を図る狙いですが、景気浮揚につながるかは見通せません。

経済が減速すると、多くの社会問題も影響を受けることになります。今日は中国の最高人民法院(日本の最高裁に相当)が最近出した「ある通達」について紹介します。

その通達とは結納金についてです。最高裁が司法解釈を付け加えたうえで、わざわざ通達を出すというのは、それだけ結納金に関するトラブルが中国社会で頻発しているからです。いくつかの具体例を紹介します。

ケース1: 高額な結納金を繰り返し受け取る
2020年10月、男性は女性と知り合い、同じ10月に婚姻届を提出。男性は女性に8万6000元(日本円でおよそ180万円)の結納金を贈りました。しかし、子供ができる兆しがなかったため、男性は翌年6月に「財産を奪い取る目的で結婚した」として妻を提訴。離婚とともに、結納金の全額返還を求めました。
女性は過去4年間で3回、それぞれ別の男性と結婚し、合わせて26万元(日本円で530万円)の結納金を受け取っていました。裁判所は女性が名ばかりの結婚を繰り返していると認定し、男性に結納金を全額返済するよう命じました。
ケース2: 対話アプリを利用した詐欺
2023年6月、男性は中国の対話アプリを通じて女性と出会い、結婚を約束。知り合った直後から女性は家賃など生活費として12万元(日本円でおよそ250万円)を求め、男性はこれに応じました。しかし、女性は金銭を要求するばかりで、実際に会うことはなく、婚姻届を出そうとする男性をはぐらかし続けました。業を煮やした男性は婚約の解消と12万元の返還を要求し、裁判所は女性に対し全額返還を命じました。
中国の最高人民法院は、このような詐欺や詐欺まがいの行為について詳しく事例を紹介しながら取り締まりを強化しています。中国では共産党が政府を指導し、毎年政策文書を発令します。年明け早々に発令される「中央1号文件」には、5年連続で高額の結納金の問題が書き込まれています。今年の「中央1号文件」でも「結婚詐欺などの違法行為の取り締まりを強化する」と強調しています。

「結婚は愛情によって始まり、結婚に必要な費用は礼儀に帰する」と最高裁は訴えています。都市でも農村でも莫大な費用がかかる現在の中国では、住宅を所有していない男性は結婚が難しいとされ、農村部では「嫁不足」という問題も解決できないままです。このような背景から、中国での婚姻が減少しています。
習近平指導部の家族観と国家観
中国政府が発表した2024年の結婚届け出件数は610万組で、前年比で2割少なく、過去10年で半分以下に減りました。専門家は2025年の出生数が前年より2割前後の大幅マイナスになると予測しています。

習近平指導部は「家族の将来と運命は国家、民族の将来と運命に密接に結びついている」と位置付けています。「家族は、最も小さな国家であり、国家は何百万という家族によって構成されている。それぞれの家庭を健全に築くことは、強大な国家を築くことに貢献する」と共産党中央の公式文献に明確に記載しています。

このように、中国には健全な家族が強大な国家を築くという考え方が根底にあります。しかし、核家族化やネット社会の浸透に伴って、結婚難に付け込んだ犯罪が横行するのが現状です。中国の一断面を垣間見ることができます。

現在開催中の全人代では、減速する中国経済が議論の中心となっています。経済が減速すると、若者の収入に影響し、結婚もままならなくなります。結婚にまつわるトラブルという視点から全人代を、また今の中国をウォッチすることは非常に意義深いことです。

中国の最高人民法院が結納金に関するトラブルについて通達を出すという背景には、中国社会での結婚トラブルの頻発があります。経済減速や社会変化が結婚難や詐欺行為を助長している現状を踏まえ、政策的な対応が求められています。全人代での議論がどのように進展し、結婚トラブルや経済問題がどのように解決されるのか、今後も注視していく必要があります。
◎飯田和郎(いいだ・かずお)
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。
田畑竜介 Grooooow Up放送局:RKBラジオ放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分出演者:田畑竜介、山下拓見、飯田和郎
出演番組をラジコで聴く
田畑 竜介飯田 和郎山下拓見
※放送情報は変更となる場合があります。

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