“せたおん” 子どものための企画
2007年に世田谷区民をはじめ、多くの方々に身近な地域で様々な音楽に親しんでいただくために、せたがや文化財団に音楽事業部が発足。「せたおん」の愛称で活動しています。
その事業の一つがクラシック音楽の公演である「室内楽シリーズ」。これまで国際的にも活躍する一流の演奏家が数多く出演してきました。
このストーリーでは、「せたおん」が手掛ける子ども向け企画について、これまでの取り組みとともに、2025年4月4日(金)開催の特別公演がどのように誕生したのか、その裏側をお伝えします。
photo:2023年7月〈室内楽シリーズ〉小菅優 & ベネディクト・クレックナー
<音楽を好きになる種を蒔く>
せたおんの「室内楽シリーズ」は、上質の音楽が身近なホールで聴けるとあって好評をいただいています。長年のクラシック音楽ファンが多くご来場されます。そういう方々に加え、今後は一層、若い方々にもその素晴らしさを味わっていただきたいという思いもあります。若い世代の音楽愛好家を増やすことはできないかと取り組んでいるのが、子どものための企画づくりです。子どもの頃に、ほんの少しでも素晴らしい演奏家と出会う機会があれば、あの時楽しかった、すごかったという音楽好きの種が蒔かれて、きっと大人になるまでに、大きな木となって育つことでしょう。
photo:2023年8月〈こども向け特別企画〉黒田亜樹 一回きりの音楽授業
〈クラシック音楽と触れ合う。「室内楽シリーズ」出演の演奏家による子ども向け企画〉
現在、せたおんでは、子どものための企画を、さまざまな形で開催しています。その中には、「室内楽シリーズ」に出演の演奏家に担っていただくものもあります。彼らの出演の本公演の前後の日程に、追加として子どものための企画をしていただけないかと持ちかけるのです。若い世代を対象とした企画に興味を持つ演奏家も少なくないですが、もし、賛同していただいても、毎日のように忙しく活躍中の演奏家ですから、日程や場所の調整が難しいこともよくあります。
ですが幸運なことに、2022年度は、ピアノの三舩優子さんとドラムの堀越彰さんによる「体験ワークショップ」、2023年度にはピアニストの小菅優さん、黒田亜樹さん、2024年度にはヴァイオリニストの金川真弓さんによって、「〈こども向け特別企画〉一回きりの音楽授業」と銘打って、企画を実現することができました。
photo:2024年6月〈こども向け特別企画〉金川真弓 一回きりの音楽授業
この企画では、超一流の演奏家が、学校の音楽授業のように、目の前で楽器や、作品の背景、音楽の特徴などについて説明をしてくださり、ご自身が子ども時代のお話を交えながら演奏もしてくださいました。ステージでの演奏とはまた異なるその迫力に、私たちスタッフも度肝を抜かれました。子どもたちにも、必ずやその本物の強さが伝わったと信じています。
<演奏家による発案から実現した新しい企画>
そして、今回、4月4日に開催するのが、3月20日に室内楽シリーズに出演するチェロの上野通明さんとピアノの北村朋幹さんのお二人の発案によるもの。子どものために作曲された、『語り手とアンサンブルのための《遠くから来たきみの友だち》』の公演です。
「子どものためのコンサートを企画するにあたり、大人が子どもに与えるようなものにはしたくありませんでした。」と語る北村朋幹さん。彼は、現代を代表する国際的な作曲家・細川俊夫さんによる子どものための作品に着目したのです。
photo:(左)北村朋幹/(右)上野通明
『語り手とアンサンブルのための《遠くからきた友だち》』は、細川さんにとっての初めての子どものための作品です。細川さんは、作曲委嘱を受けた時に、子どものための作品だからと言って、単にわかりやすくする、ということではなく子どもの柔軟な感性で新しい音楽を受け止めてほしいという委嘱側の姿勢に共感。現代音楽作曲家としての自分の作風をそのまま生かしながら、子どもたちにとってわかりやすい音楽作りに取り組んだとのこと。そして、ルクセンブルクで2021年に初演されています。
<言葉のプロ、作家 多和田葉子、ドイツ文学者 山口裕之も参加>
この作品は、「語り手」と書かれているとおり、一つの物語を音楽とともに進行するという形式です。
物語は、ベルリン在住の作家である多和田葉子さんが「浦島太郎」を題材にしてドイツ語で書き下ろしたもので、今回の日本公演のために新たにドイツ文学者・山口裕之さんに日本語翻訳をお願いしました。
また、上野さんは「この演目は、細川さんの横の流れを大切にした“線の音楽”と、ドイツ語の響きとのコントラストがおもしろい作品です。これが日本語上演ではどうなっていくのか楽しみです」と今回の作品を取り上げた想いを話してくださいました。
日本初演に参加する演奏者は、北村さん、上野さんのお二人が、細川さんとも相談して決めたという、若手実力派ばかりの8人。演奏家同士が信頼して、この新しい作品に臨める精鋭が揃いました。そのひとり、ソプラノの藤井玲南さんは、この作品の語りを担当してくださいます。
<充実した作品、精鋭の演奏家がそろった、贅沢な企画の誕生>
こうして、当初は、例年通りクラシック演奏の本公演の言わば、サブ公演、副次的な公演であった子どものための企画は、今回は演奏家からの思わぬ素晴らしい提案により、本公演と同じ規模の立派なコンサートとなったのです。公演の前半には、語りの藤井玲南さんと、北村さんとで、シューベルトの有名な歌曲を披露することなり、これ以上のない贅沢な企画として実現します!
photo:(上段左より)毛利文香/田原綾子/上野通明/上野由恵
(下段左より)西川智也/西久保友広/北村朋幹/藤井玲南
春爛漫の4月の始め。春休みの小学生、そして、かつて子どもだった大人の方たちにも十分楽しんでいただけるものと確信しております。ご来場の皆さんが充実の笑顔を見せてくださるのを楽しみにしています。
▼公演詳細・チケット取扱いは公式HPより
春休み特別企画
―子どもと大人に贈る語りと音楽―
遠くから来たきみの友だち
2025年4月4日(金)15:00 開演 会場:成城ホール
【出演】
毛利文香(ヴァイオリン)
田原綾子(ヴィオラ)
上野通明(チェロ)
上野由恵(フルート)
西川智也(クラリネット)
西久保友広(打楽器)
北村朋幹(ピアノ)
藤井玲南(ソプラノ/語り)
【料金】
小・中・高校生1,000円(当日要証明書提示)
一般 4,000円
せたがやアーツカード・世田谷パブリックシアター友の会 3,600円(前売のみ)
【チケット取扱い】
世田谷パブリックシアターチケットセンター 03-5432-1515(10:00~19:00)
オンラインチケット
【音楽監督】池辺晋一郎
【主催・お問合せ】公益財団法人せたがや文化財団 音楽事業部
03-5432-1535(平日10:00~18:00)
info@setagayamusic-pd.com