創業95年の老舗家具店が生き残りをかけて大改革。業界の逆風、ベテラン社員の退職——。変化の裏側で起きた壮絶なストーリー

2025.02.18 10:00
創業95年の老舗家具店「大阪マルキン家具」が、長年親しまれていた大手ECモールからの撤退を決断。新たに暮らしをプロデュースするブランド『SENSO de VITA(センソデヴィータ)』として再出発しました。


この大改革の裏には、家具業界を取り巻く大きな逆風と様々な困難、それに必死で立ち向かう金谷社長の深き想いがあります。


老舗家具店になにが起こったのか。絶望と葛藤、そして変化を支える信念が織りなすストーリーを、インタビューも含め余すことなくお伝えしていきます。
▲大阪マルキン家具 金谷光憲 社長


[プロフィール]
大阪マルキン家具 三代目 代表取締役。事業承継した当時、長年に渡り赤字体質だった経営状況を鋭い感性で立て直し黒字化。自身も店頭に立ち、お客様にサービスを提供している。 好きな言葉は『徳は孤ならず。必ず鄰(となり)有り』『過ぎたるは猶及ばざるが如し』『逆境にくたぶるるものは役に立たざるなり』
大阪マルキン家具とは
大阪市浪速区にある1928年創業の大阪マルキン家具は、地域の皆様に愛され続けてきた老舗家具店です。長い歴史の中で質の高い家具と誠実なサービスを提供し続け、多くのお客様との深い絆を築いてきました。
▲1964年 新社屋を建設した時のマルキン家具


なぜ95年もの長い間、お客様に支持されてきたのか。その理由を金谷社長はこのように語ります。


金谷社長
「手前味噌かもしれませんが、とにかく全ての従業員が本心でお客様を思いやって動いてきたこと。それがここまでご支持をいただいてこれた理由だと思っています。


実際にどのようなことを社員に伝えてきたのかというと、『良いことも悪いことも人から人に、そして社会や子どもに伝播していく。だからこそ私たちは良いことを伝播させる人であろう』と。その想いを社員の方が汲み取って体現してくれたからこそ、今の私たちがあるのだと思っています」


大切なのは、人として本心からの思いやり。マニュアルめいた形だけのホスピタリティではなく、本心の思いやりがあるからこそ居心地の良い接客ができる。
▲大阪マルキン家具のGoogleマップ評価。接客に関する高評価が多く目立つ


つまり大阪マルキン家具は、思いやりをもった接客力を武器に、変化の荒波を生き抜いてきた企業なのです。
いち早くECモールでの家具販売に乗り出し、風を捉える
▲楽天市場の出店ページ


2000年代初頭、金谷社長はインターネットの可能性にいち早く気付き、ECモールでの家具販売をスタートしました。当時はまだインターネットでの家具販売が珍しかった中で、この取り組みは時代の先端を行くもの。歴史の長い企業として、非常に勇気のある判断だったように思えます。


金谷社長
「歴史が長いと聞くと変化を嫌うイメージがあるかもしれませんが、実は私たちは世の中にない新しいことや変化に挑戦してきたからこそ、生き残ってこれた企業なんです。ルーツを辿っても、大阪マルキン家具は創業時、建具屋だった。


しかし建具だけ作ってても面白くないと、自分たちで家具を作ってみたらそれが売れて、家具屋になったという経緯があります。工夫や変化を好むという点は、今でも変わりません」


しかし、知見も成功例もほとんどない中で、ECでの販売に挑戦するのは大変だったのではないでしょうか。そう問うと、金谷社長はこのように語ります。


金谷社長
「インターネットでの家具販売に挑戦し始めた頃は、周囲の同業者からも『またよくわからないものを始めた』と思われている感じでした。しかしいざ始めてみると、すぐに売れて人員が追いつかなくなって。


それからEC事業のための従業員を雇い、さらに『安い家具を大量に売る』という方向性から『高品質な家具を適正な価格で売る』という方針に変えました。すると、一気に売上が増えていきました。その結果、赤字体質だった家業がやっと黒字に転換しました」


ECモールの中でも『良い行いを伝播させていく』という大阪マルキン家具の精神は発揮され、顧客対応の面で非常に高い評価を得ました。


その流れを受けて2011年から実店舗も段階的に改装を行い、より高品質にこだわった商品のみを扱う形に変化させていきました。
▲当時の実店舗ショールーム。大型から小型まで多様な家具を扱っていることがわかる


金谷社長
「ネットで家具を買うということはすなわち、自宅に搬入できないトラブルと紙一重の部分があるということ。特にお客様は家具のご購入に慣れていないので、搬入路の採寸などわからなくて当然なのです。しかし私たちは難しいお宅でも無下に断りたくなかった。


だからこそメールで何度もやりとりしたり、時には図面に起こして段ボールで搬入できるか実験したりなど、できることはとにかく柔軟に対応しました。このように『人として思いやる』『安易に断らずできるサービスを増やしていく』を各社員が行ってくれた結果として、高い評価をいただくことに繋がったのだと思います」


大阪マルキン家具は、ECモールという変化に自ら突き進んだことで、過去最高売上の年商5億円という大きな成功を収めました。


しかし、その成功は大きな逆風へと繋がっていきます。
家具業界に吹き始めた、壮絶な逆風
成功とは裏腹に、家具業界全体に逆風が吹き始めます。それは、いくつもの要因が重なった、とてつもなく大きな逆風でした。


家具メーカーの直販拡大、工務店などの異業種による家具販売、さらには安価な大量生産品の台頭——。従来の家具店はジワジワと厳しい経営環境に立たされることになります。金谷社長もまた、これらの試練に直面することとなったのです。


金谷社長
「家具を生産しているメーカーから『ECサイトで直販するから取引停止で』という話が多くなってきたときに、このままじゃいつか売るものが無くなってしまうのではという強い危機感がありました。


なんとかしなければならないと思っていたタイミングで出会ったのが、今主力商品になっているタイのオリジナル家具です。他社が扱っていない自社独自のアウトドア家具やリゾート家具などをラインナップに加えることで、逆風を乗り越えようとしたのです」
▲タイ政府商務部DITPと協力して催したタイの家具&雑貨フェアの様子


金谷社長
「しかしそれ以上に、逆風が強かった。どんどんライバルは増え、毎年のように売上の大きい家具メーカーから直販で取引停止の通達があって。『なんとかしないと』とは思っていたんですが、体調不良が重なって、手を打てないままにECモールでの売上が下降していきました」


2021年最高の年商5億円を達成した売上が2022年には4.6億円ほどに。この数字だけを見ると売上が低下しているとはいっても、まだまだ危機感を覚えるレベルではないかと問うと、金谷社長はこのように語ります。


金谷社長
「見た目の売上数値としてはあまり下がっているように見えないかもしれませんが、とにかくその中身がどんどん悪くなっていました。売上の多くを占めている売れ筋商品が『自社で直販をやる』という理由で突然販売停止になることもしばしば。


さらには売るために必要な広告費がどんどん増え、送料も値上がりしていて。そして気付けば利益幅が著しく縮小し、事業として危険水域の水準に陥る兆候が出てきていました」


起死回生の一手だったECモールが、反転して自社の巨大な足かせに。さらに追い打ちをかけるように、これまで順調だった人材面でも綻びが生じはじめます。
信頼していた店長が思わぬタイミングで退職。決断を迫られる中でさらなる苦境に
ECモールに暗雲が立ち込め始めたタイミングで、次は社内にまで荒波の影響が出てきました。特に辛かったのが、信頼していた店長が退職したことだといいます。
金谷社長
「売上が急激に低下し悩んでいたタイミングで、実店舗の店長を信頼して任せていた従業員から退職の相談がありました。当時の私にとってはまさに青天の霹靂。


実店舗を担当できる人間が、私ともう1人だけという緊急事態に陥りました。これまで低い離職率を保ってきていただけに、ショックがとても大きかったです」


そのような渦中で、金谷社長は非常に大きな決断を下すことになります。
数億円規模の売上があったECモールから撤退を決断。止まらぬ社員の離職
このままでは、大阪マルキン家具が廃業に追い込まれてしまうのではという危機感から、金谷社長は大胆な決断を下しました。それが、ECモールからの撤退です。


金谷社長
「売上はあるように見えても、事業として赤字なら続けることができません。だからこそ、ECモールからの撤退を決断しました。


状況としては、2023年1月ぐらいからさらに売上が下がってきていた。将来性などを見据えて考えた時、私自身にとってはもはや迷いのない直感に近い感覚での決断でした」


大阪マルキン家具にとってそれは売上の7割を捨てることになる、非常に苦しい決断。そして決断の結果によって生まれた大きなうねりが、立て続く社員の離職という形で現れることになります。


金谷社長
「ECモール撤退の判断をしてから、店長を含む7人の従業員が退職しました。さらに翌年には2人の従業員から辞めたいと。正直、途中で心が折れそうになるほど、信頼していた従業員が離れていくのは苦しかったです。


しかし現実的に、ECモールの仕事を担当してくれていた従業員は、どうしても手が余ってしまう。なんとか配置転換しようにも実店舗とECでは、あまりにも求められる能力が違いすぎる。それはわかっていながらも、やはり一緒にやってきた従業員の退職というのは、非常に悲しかったです」


自身の判断を要因とする、社員の退職。経営面でも多くの課題に直面しながらも、金谷社長自身に大きな変化が訪れます。
苦しい中で繰り返した『自分はどう在りたいか』という問い
様々な経営面での課題に直面する中で、心の状態がどのようなものだったかを訊くと、金谷社長はこのように語ります。


金谷社長
「様々な苦しい出来事があった中で、『自分は何を大切にしたいのか』『自分自身がやりたいこととは?』というような本質的な問いをずっと繰り返していました。そこで理解したのが、経営者である自分自身の状態を良いコンディションで保つことがとても大切だということ。


良いコンディションで行った決断は、良い結果につながることが多いのです。苦しい時期だからこそ、コンディションを保って直感を信じ決断する。それがすごく大事なことなのだと学びました」


精神的に苦しい時期の中でも、自身に本質的な問いを繰り返し続けた金谷社長。さらなる未来を歩むためには、自身にとって本当に大切なことを事業の中心へ据えていかなければならない。試練によって磨かれた想いは、大きな原動力に繋がっていきました。
荒波を乗り越え、新しい風を掴む
荒波を乗り越えた時には従業員の数も減少し、13年ぶりの赤字を記録。単純に手が足りなくなったことから、店舗の営業時間も縮小することに。まるで大変な航海で満身創痍の大阪マルキン家具に、新しい風が吹き始めます。


金谷社長
「とにかく『自分が大切にしたいことをやる』と決めて、これまでの戦略的な経営スタイルは全て手放しました。その結果、自分では想像もできないような話が舞い込んでくるようになりました。


特に大きかったのが、デザイナーやコーディネーターとの協業です。弊社のショールームは4フロア1,200平米ほどあるのですが、これまで自店のお客様のご案内が主な利用用途でした。そのショールームを、デザイナーおよびコーディネーターの方のご案内用にも開放するようにしたのです」


自店以外の販売者にショールームの利用を開放したことで、協業での売上が増加。なんと13年ぶりの赤字を記録した翌年に、往年の利益幅まで業績が急回復したのです。


あらゆる困難を乗り越え、輝かしい未来へ旅立つ大阪マルキン家具。そんな彼らの物語は、大きな転換点を迎えています。
家具屋から、人生を通して付き合っていく”暮らし”のプロデュースへ
▲タイ国政府との繋がりから独自仕入れしている自然素材を使用したインテリアを多数取り扱う


大阪マルキン家具はこれまでのスタイルを一新し、事業内容を大きく変化させました。その変化とは、『家具屋』から『暮らしのプロデュース』を事業の中心に据えていくこと。


もともと自社のオリジナル商品に付けていた『SENSO de VITA(センソデヴィータ)』を、ブランド全体の名称へ。その背景にはどのような想いがあるのでしょうか。


金谷社長
「苦しい時期に自身と向き合ったことで、『お客様の人生をより豊かなものにするお手伝いがしたい』という、心から湧き上がる信念に気付けました。単に家具を売るのではなく、1つ1つのアイテムに秘められた職人の真摯な想いや自然素材の彩り、そしてそこに暮らす”人”が調和する。そうすることで豊かな暮らしは実現できると考えたのです。


SENSO de VITAには、『人生の意義』『官能的な暮らし』といった意味があります。官能的とは、いわば自身の五感を満たしている状態。そんな暮らしがお客様の人生を豊かにし、さらには社会全体をも豊かにすることへ繋がっていくのではないか。そんな想いを込めて、SENSO de VITAをブランド全体の名称にいたしました」
▲新サービスを利用したお客様と話す金谷社長。お客様の表情からも満足感が溢れる


金谷社長が熱い想いを込めて展開するSENSO de VITAのサービスは、以下のとおり。
【Coordinate & Renovation】
お客様の五感を満たす暮らしをより添いながら共に作っていくサービス。家具だけでなく暮らしを豊かにするために大切な装飾品やアートも含め、トータルコーディネートを行う。


リノベーションでは間取りの変更やリフォーム工事など、大胆な仕様変更に対応。むやみやたらに新しくするのではなく、『いまあるものの良さを活かすコーディネート』をご提案。
【Chair Labo】
理想の椅子と出会えるサービス。高品質なイスを常時100脚以上展示しているショールームで、プロがお客様の寸法を測定。


お客様の体型に合わせて脚をカットし、ピッタリの椅子をコーディネート。椅子から毎日の姿勢やくつろぎを創り、より豊かな暮らしを。
お客様の暮らしをより良くするために挑戦し続ける
これから出会うお客様に向け、金谷社長はメッセージを届けます。
金谷社長
「SENSO de VITAは、お客様の暮らしをより豊かなものにするため、新たな挑戦を続けます。私たちがまず豊かな暮らしを体現し、それをお客様にも伝えていきたいと思っています。私たちと共に、お客様らしい暮らしを作り上げてみませんか。皆さまのご来店をお待ちしています」


いくつもの苦難を乗り越えながらも貫く信念。大阪マルキン家具の長い歴史を経て研ぎ澄まされた『SENSO de VITA』が、多くの方の人生を彩ることを願ってやまない。
【Showroom】
▲300㎡以上の広いフロアが4つあるショールーム。約500点の様々な家具が展示されている
【Coordinate】
▲和室の良さを活かしつつ、暮らしに調和する家具を配置した事例。固定概念に囚われることのない、調和力が光る
【Renovation】
▲築40年の古民家をフルリノベーション。全ての家具を暮らしにあわせて調和させている
【Chair Labo】
▲常時100脚以上の椅子を展示しているChair Laboスペース。様々なブランドや材質の椅子が体感できる
店舗情報
[店舗名]
SENSO de VITA / 大阪マルキン家具


[住所]
〒556-0005
大阪府大阪市浪速区日本橋5丁目11-3


[営業時間]
平日:11:00〜18:30、土日祝日:10:00〜18:30


[定休日]
水曜日・木曜日
※予約優先制
文、聞き手:政所 温也

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