アメリカ・中国・ロシア…「領土」は大国垂涎の的か?ウォッチャーが解説

2025.01.27 09:00
2025.01.27 up提供:RKBラジオ
アメリカのトランプ大統領就任から1週間になる。次々と飛び出すトランプ流の新たな指針に、驚愕と落胆が世界で広がっていないか。権力を再び手にしたトランプ旋風はますます、大きく吹き荒れている。1月27日にRKBラジオ『田畑竜介 Groooooow Up』に出演した、飯田和郎・元RKB解説委員長は「領土への野心をあらわにする3人が揃った」とコメントした。その3人とは?
「領土」拡大に意欲的なトランプ大統領
領土への野心を強く持つ大国リーダーは他にも
領土を決めた協定から80年後に揃った3国のトップ
就任演説で語った「不可能を可能にする」とは?
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「領土」拡大に意欲的なトランプ大統領
トランプ大統領は、隣国カナダ、メキシコ、それに中国からの輸入品に新たに関税を課すとぶち上げた。不法移民を阻止するために、メキシコとの国境に国家非常事態を宣言し、軍の動員も決定した。WHO(世界保健機構)からの脱退。そして、就任演説ではこんなフレーズもあった。「掘って、掘って、掘りまくれ!」

バイデン政権の政策を転換し、化石燃料の生産を推進すると言った。「パリ協定」(=温暖化対策の国際的枠組み)から再び離脱する大統領令に署名した。ほかにも、メキシコ湾の名称を「アメリカ湾」に改める。そして、偉大な大統領ウィリアム・マッキンリーの名前を冠したアラスカにある山の名称を「マッキンリー山」に戻す大統領令に署名した。

マッキンリー山は北米最高峰。冒険家の植村直己さんが41年前に行方不明になった山として知られる。2015年に当時のオバマ大統領が、アラスカ先住民の伝統的な呼称「デナリ」に変更していた。「マッキンリー」はアメリカの第25代大統領の名前で、ほかの国に高い関税をかけたことから、トランプ氏が敬愛している。

山の名称復活は、自分の好きな過去の大統領に敬意を示そう、ということなのかもしれないが、一方、メキシコ湾の名称を「アメリカ湾」に改めるというのは、「あの湾は俺たちのものだ」という意味かも。それに関連して、私はこの部分が就任演説で特に気になった。

「アメリカ人は再び、自らを『成長する国』と見なすようになるだろう。富を増やし、領土を拡大し、都市を築き、期待を高める。新しく美しい地平線に、国旗を掲げていくのだ」
「領土を拡大し」。現在の国境線を外へ変えていくことなのだろうか。トランプ大統領は、デンマーク領グリーンランドの領有を求めている。デンマークでは困惑と反発が広がっている。また、トランプ氏は、カナダを「アメリカの51番目の州」扱いにしているし、パナマ運河を「取り戻す」と繰り返している。

太平洋と大西洋を結ぶパナマ運河。アメリカが運河建設の大部分を担い、完成後には管理権を握っていたが、パナマに全面返還して四半世紀が経過する。
領土への野心を強く持つ大国リーダーは他にも
「領土」の話だが、中国、ロシアという、現在、そして今後の世界情勢に不安をもたらす大国のリーダー、習近平主席、プーチン大統領は共に、領土への野心を強く持っている。そして、新たにトランプ大統領がそこに加わった、という構図だ。

ロシアのウクライナ侵攻から2月で、丸3年になる。同じくウクライナ領のクリミアを、ロシアが併合したのは2014年のこと。国際社会はそれを認めていないが、ロシアは現在も実効支配を続けている。プーチン大統領は、そのクリミアと、ウクライナ東部の4つの州を、自分たちのものだと主張している。

そして、中国だ。中国は、沖縄県の尖閣諸島の領有を主張しているほか、南シナ海の島々を、歴史的にも自国の領土だと言っている。

中国はかつて、国際法上の裁定(決定)文書を「紙くず」と言い放ったことがある。中国は、南シナ海のほぼ全域の主権を今も主張している。一方、国連海洋法条約(=海洋に関する権利・義務などを包括的に規定した多国間条約)に基づく仲裁裁判所は2016年、中国の主張には「法的な根拠がない」と否定する判決を出した。その際に、仲裁裁判所の裁定文書を「紙くずに過ぎない」と切って捨てている。

その5年後の2021年にも、中国外務省は、南シナ海をめぐる仲裁判断について「違法、無効な紙くずだ。中国は受け入れない」と再び言っている。

南シナ海では今も、重火器を装備した中国船が、フィリピンやベトナムの船に、妨害活動を繰り返している。国は実効支配した島々を、急ピッチで要塞のように整備している。
領土を決めた協定から80年後に揃った3国のトップ
そんな現状の中で、トランプ政権が再び登場した。つまり、「領土」をキーワードにすると、自国の領土を広げた、また、広げようとしているリーダーが、ロシア、中国、アメリカという、極めて大きな影響力を持つ大国に揃ったわけだ。

そのトランプ大統領は、習近平主席、それにプーチン大統領とも「自分なら、話ができる」と言っている。

トランプ氏が好んで使うフレーズは「ディール」(=取り引き)だ。法外な要求を持ち出して、交渉し、落としどころを迫る、と思うのが一般的だが、だれもが「あり得ない」と思うことだって、取り引きの材料にされかねない。私は、どうしても第二次世界大戦後の世界地図を決めたといわれる会談を連想してしまう。

それは、日本の敗戦の半年前、1945年2月、当時のソビエト連邦のヤルタ近郊で開催された、ヤルタ会談だ。イギリスのチャーチル首相、アメリカのルーズベルト大統領、それにソ連のスターリン書記長の連合国3首脳が会した。

そこで結んだヤルタ協定によって、ドイツの分割統治、バルト三国の帰属などヨーロッパの戦後処理が決まった。アメリカとソ連は、これとは別に秘密協定を締結し、北方領土、朝鮮半島な台湾など日本の領土の取り扱いも決まった。今日の北方領土問題の始まりと言ってよい。

80年前、3人の首脳が大戦後の領土を決めた。そして80年後の今日、領土への野心をあらわにする3人が揃った。領土のために「取り引き」が行われかねないわけだ。

習近平主席が、自国の領土として執着するのが、台湾だ。中国は「台湾問題は中国の核心的利益の核心だ」と位置付けている。トランプ政権誕生によって、台湾では「台湾が大国のディールの材料になるかもしれない」という論調が出ている。アメリカがグリーンランドを得る=「力による現状変更」をしたら、中国が台湾に侵攻しても、アメリカは文句を言う資格がなくなる。

ヤルタ会談から80年、戦後80年ということで、今年は国連の創設から80周年でもある。パレスチナ問題、ウクライナ問題など、国連の機能低下・機能不全が指摘されている。

アメリカ、中国、ロシアは国連の常任理事国。その3カ国の首脳が、周囲に忠誠心を求め、独裁色を強めている。そして、5つの常任理事国の残り2つ、イギリス、フランスは政権が不安定で、内向きになりがちだ。2つの世界大戦を反省した20世紀が終わり、平和を希求していくべきはずの21世紀に、国際的な秩序を維持できない状態だ。
就任演説で語った「不可能を可能にする」とは?
最後に、トランプ大統領の就任演説に戻ろう。トランプ氏は昨年7月、遊説中に銃撃された。命が救われたこと。そして、大統領に返り咲いたことを並べ、こう語っていた。

「私はアメリカを再び偉大にするために神に救われた。だからこそ、愛国者による政権の下、尊厳と権力、強さをもってあらゆる危機に対処するために日々努めていく」
「アメリカでは不可能なことなど何もないこと――。私は今、それを証明するためにここに立っている。アメリカは不可能を可能にするのが最も得意だ」
「不可能を可能にすることが最も得意」。それには世界地図の塗り替えも含まれているのだろうか。
◎飯田和郎(いいだ・かずお)
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。
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