「この会社がある限り、青春は続く」株式会社サンギ会長が語る、50周年を迎えた会社への思い 後編

2025.02.03 10:01
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株式会社サンギ(以下、サンギ)は2024年、創業50年の節目を迎えました。貿易商社として始動し、NASAの技術をヒントにハイドロキシアパタイト配合歯みがき剤を発売。以来デンタル領域でたしかな存在感を発揮し、90年代には「芸能人は歯が命」と謳うTVCMで一大ブームを巻き起こしました。ブームの終焉から現在に至るまでの間、サンギにはどのようなことが起こったのでしょうか。また、創業50年を迎えた、会社を作り上げた創業メンバーの胸に去来する思いとは。


今回、サンギの50年史を巡るインタビュー企画の後編として、前編に引き続き、代表取締役会長の佐久間周治、代表取締役社長のロズリン・ヘイマン、執行役員 アパタイト事業部担当の斉藤宗輝、サンギOBで元品質保証部 部長の藤田恵二郎へのインタビューを通して深堀していきます。
弾けた「芸能人は歯が命」バブル…1年で売上が前年の半分以下に激減
「芸能人は歯が命」をキャッチコピーに据えたTVCMを打った途端、「アパガード」は元々備わっていた製品力の高さも相まって、飛ぶように売れました。CMを放送した年の売り上げは、約140億円となり(前年は約30億円)、金額をベースにすると、歯みがき市場の約20%を占めました。佐久間は「これで成功したと思いましたね。長年の苦労が報われて『いよいよ俺もビル・ゲイツだな』と。もう天下を取ったような気でいましたよ」と振り返ります。会社の利益は当然ながら社員にも還元され、斉藤は「あの頃は年俸が毎年バカみたいに上がってました」といい、佐久間は今では考えられない給与額の決定法を明かしました。
サンギ創業者 代表取締役会長 佐久間周治


しかし、サンギのバブルは長くは続きません。「アパガード」の大ヒットを競合他社が黙って見過ごすわけがなく、低価格の類似品を次々と発売し価格競争に。資金力に優れた大手の攻勢になすすべがなく、売上高は前年の半分以下となってしまいました。この時期に大学へ出向中だった斉藤は、ある日掛かってきた一本の電話で会社の窮状を知ったと言います。


斉藤:会社から「さっさと戻って来い。戻らなかったらクビだ!」という連絡があって。それで戻ることになりました。その直後、上がり切っていた年俸を4割もカットされまして。もう、笑いましたね。どうやって生活していけばいいんだと思いましたよ(笑)。


アパガード特需を背景にサンギは240人の大所帯になっていましたが、大幅な売上減で疲弊した会社に、膨れ上がった人件費を払えるだけの体力はありませんでした。藤田は「リストラがどんどん始まりました。身近にいる仲間がどんどん辞めていき、『次は俺だな…』と覚悟していたら、運よく残してもらって。でも、周りがいなくなることが一番つらかったです」と苦い思い出を回顧します。むろん、リストラを決行したのは経営者である佐久間ですが、容易にこの判断を下したわけではありません。銀行から個人補償まで要求され、あらゆる手を尽くした末に至った苦渋の決断でした。


佐久間:それはもう嫌でしたね。ノイローゼみたいになってしまいました。そんな時、友人の公認会計士に「リストラがつらくて。誰をクビにして誰を残すかなんて見当もつかないよ」と打ち明けたら、「お前、何を言ってるんだ。リストラっていうのは、倒産なんだよ。お前はもう倒産したんだよ」と言われたんです。その言葉ではっと目が覚めて。「倒産したんだ俺。それならば、またゼロからやり直そう」と覚悟が決まりました。それからは少し気持ちが落ち着きましたね。


腹を括った佐久間は、大規模な人員削減および事業縮小に踏み切りますが、一度傾いてしまった会社を立て直すことは容易ではありません。なおも売上は下がり続け、銀行から借り入れた巨大な資金の返済も迫り、いよいよ「倒産」の二文字が現実味を帯びてきます。そんな佐久間の窮状を救うべく立ち上がったのが、妻のロズリンでした。
佐久間の妻・ロズリンの入社が転機に
1945年オーストラリア生まれのロズリンは、日本語を学ぶために1972年に来日し、1977年に東京大学大学院を修了。1978年にサンギを創業して間もない佐久間と結婚してからは、「夫婦として別のキャリアを持っていたほうがいい」との判断から会社に入ることはせず、共同通信社の記者→ジャーディン・フレミング証券の証券アナリストと、独自のキャリアを歩んでいました。サンギが倒産の危機に瀕し、佐久間から「力を貸してほしい」と言われた時、ロズリンは獣医師を目指して麻布大学で学業に励んでいました。しかし、常々「人生は冒険」と考える彼女に迷いはありませんでした。
サンギ代表取締役社長 ロズリン・ヘイマン


ロズリン:ある日の夜、主人から「サンギはもう倒産する」と告げられました。実は倒産の危機はサンギ立ち上げ初期のころを含めこれまで2回ほどありましたが、今回は私たちが住んでいる家で個人補償までしなければならないとのことでした。私はいつも「人生は冒険」と思っています。この時、大学で獣医師になるための勉強をしていたのですが、これほど危機的状況なのであれば、大学は卒業と資格取得までにして、彼と一緒にとにかく頑張ろうと決めたのです。


こうしてロズリンは1999年にサンギに入社します。はじめに数人のコンサルタントを起用して会社や市場の実態把握を行った上で取り組んだ重要課題が、アパガードブランドの立て直しです。この時アパガードは14種類に増えており、パッケージデザインはバラバラで、統一感は皆無でした。
そこで2002年、定番の「アパガード M プラス」、喫煙者向けの「スモーキンアパガード」、キシリトールを配合した「アパガードキシリミント」、子ども用の「アパガードキッズ」の4種類にまで製品を絞りました。これがアパガードの最初のリニューアルとなりました。なお、整理したのは製品だけではなかったと、ロズリンは語ります。


ロズリン:主人のすべてのクレジットカードにハサミを入れました。彼は借金をする名人(笑)。どこからお金が流れているかわかりませんから、製品同様に整理する必要があったんですね。


2004年から歯科ルートを開拓し、一般流通への対応を強化しました。そして、2010年に海外進出を本格化すると、2011年にはロシアへ「アパデント」を展開したことを皮切りに、次々と外国の代理店と契約を結んで、現在では約30か国に製品を輸出するに至っています。この2011年は、ピーク時に70億円あった負債がついに完済となり、創業以降初の無借金経営を達成したのでした。サンギの再建が完成した瞬間です。


佐久間は、サンギが復活した要因について、製品が持つブランド力はもちろんのこと、市場規模の適切な見積もりと、その規模感に合った堅実な事業展開にあるとした上で「それは僕ではなく、ロズリンだからできたことだと思います。僕はすぐ走っちゃうから。自制が効かないところがあるんでね」と妻の功績を讃えます。
日本企業で初となる宇宙技術殿堂入りの快挙!
2024年、50周年を迎えたサンギに、海の向こうからうれしいニュースが舞い込んできました。その知らせとは、米国宇宙財団が主宰する宇宙技術に関する優れた開発を表彰するアワード「Space Technology Hall of Fame®(宇宙技術の殿堂)」にて、日本企業として初めて殿堂入りを果たしたというもの。×


サンギは2023年末、NASAの研究開発した技術から生まれた優れた製品・サービスを紹介するオンラインジャーナル「NASA Spinoff」の記者から取材を受けました。NASAの技術は、医療機器やセンサーなどハードウェアに流用されることが大半です。そんな中で、薬用ハイドロキシアパタイト<mHAP>配合の歯みがき剤を開発したことがユニークに映ったらしく、取材した記者からの推薦を受けてエントリーした結果、受賞に至りました。


ハイドロキシアパタイト配合歯みがき剤「アパデント」発売開始から44年。栄誉ある国際的な賞を獲得したことに、創業メンバーの喜びはひとしおです。


佐久間:それはもう、うれしかったですね。僕らはずっと「これはNASAの技術をヒントにしたものなんだ」と言い続けてきたけど、なかなかわかってもらえなかった。TVCMを大々的に打ってた頃なんて、歯科医から「再石灰化なんて嘘八百だろ」と言われたことさえありましたからね(笑)。それが今回、NASA Spinoffの記者さんの推薦がきっかけで国際的な栄誉がある賞をいただけたわけですから、感慨深いですよね。


斉藤:授賞式に出席して表彰されたことで、ようやく「ほんとにNASAの技術なんだ」と実感がわきました。今までどこかしらで「違うんじゃないかな」と思っていたんですけど(笑)。


藤田:びっくりしたというのが率直な感想です。また今回受賞できた要因は、サンギがここ10数年の間に海外進出を積極的に行ったからだと思います。特にロズリン社長になってからは、製品を輸出するのはもちろん、海外の学会に出席し、英語で発表を行うようになりました。日本国内の論文だけではどうしても、日本の人たちにしか届きません。でも、海外の学会であれば、国外の人の目にもつきやすい。こうした地道な努力がやっと結実したと思いましたね。


ロズリン:サンギの50周年に歯科ルート開拓20周年、そして宇宙技術殿堂入りと、今年は色んなことが重なりました。受賞の知らせを受けた時「えーっ!」と驚きましたね。めでたいことが重なり、うれしい気持ちでいっぱいになりました。


サンギが歩んだ半世紀は失敗と成功の連続でした。売り上げが低迷した時期も、開発が思うように進まなかった時期もあります。決して平坦ではありませんが、起伏と刺激に富んだ道を50年間、立ち止まることなく邁進してきました。ではもし起業前、入社前にタイムスリップしたとしたら、経営者・社員としてサンギで働きたいと思うのでしょうか?


佐久間:今だったら、当然できません。もう体力が残ってなくて何をするにも億劫で、エネルギーが沸いてこないですからね。ただ起業した33歳の時はやはり、気力・体力が違いますよ。失敗も恐れないし。だからまた会社を興すような気がします。


藤田:たぶん入社してますね。40年前と同じように会長から「まずはハイドロキシアパタイトの研究をして、その後に固定化酵素の研究をしてくれないか?」と口説かれたら、研究が好きだから応じると思います。


斉藤:僕は逆でおそらく入社しません。現在無事にサンギで定年を迎えましたが、もしも新卒前の大学生に戻って違う会社に入り40年間仕事を続けてきたとしたら、今とは違う結果が得られるじゃないですか。それを見たいような気がします。どちらの人生がいいか比較したいです。


ロズリン:その時になってみないとわからないですね。ただ、後悔はしていません。私は迷い道でここまで来ました。社会に出てからも様々な職業を経験しましたが、周さん(佐久間)も同じように迷い道を歩んできたと思います。周さんは出会った時は「僧侶になりたい」と言い、小説も書いていました。私の両親に会った時に「詩人です」と名乗っていたこともありましたね(笑)。そんなふうに2人とも色々なことにトライしながら、結果としてお互い歯みがき売りとなったわけです。まぁ、サンギの事業はそれだけではないのですが。とにかく、ハイドロキシアパタイトの可能性は無限ですし、会社では色々なことができて、毎日チャレンジの連続で。全く飽きることがありません。なので、最終的にこの道を選んで本当に良かったと思っています。
「サンギは僕にとっての青春」
サンギとは自身にとってどんな存在か――。そんな質問をしたところ、四者四様の答えが返ってきました。
斉藤:狂気の集まり…といったところでしょうか。会長を筆頭に(笑)。会長は昔から「狂気、蛮勇、執念」とよく言っていましたよね。そういうところに惹かれて、私たち創業メンバーは入社しました。今の子たちはわからないでしょうけど、この言葉がまずベースになっていて、この言葉があったからこそ色々なことをやれたように思います。


藤田:「お世話になった」というくらいしか言えないです。会長と社長。特に会長にはやりたい放題させてもらったので、「ありがとうございます」という言葉しか出てきません。


ロズリン:私はメンバーズクラブだと捉えています。サンギは素晴らしい人たちに恵まれていますし、私たち夫婦に子どもはいませんが、いつも若い人たちに囲まれた環境で働くことができるのは最高の恵みだと思います。サンギに入社することはそう簡単ではありません。けれど社員になれば、サンギのメンバーとして心から大事にしていきます。


佐久間:サンギは僕にとっての青春です。身体は弱ってきましたけど、この会社がある限り、青春は続けられると思いますね。


50年にわたる歩みは、決して平坦な道のりではありませんでした。しかし、ハイドロキシアパタイトとの出会いをきっかけに、独自のむし歯予防成分『薬用ハイドロキシアパタイト』の研究開発に挑み、アパタイト研究を重ねて築き上げた成果は、サンギの誇りであり、未来への確かな礎となっています。
これからもサンギは『アパタイトカンパニー』として挑戦し続けることで、新たな物語を紡いでいきます。

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