麻布十番の“リンゴの木” フランス人ケーキ屋と故郷の記憶

2025.01.28 16:41
目抜き通りから伸びる一本のわき道。不意の出会いに心を引かれ、思わず“道を曲がった”経験はあるだろうか? 首都「東京」の街をぶらぶらと散歩すると、どんな出会いがあるのか。今回は六本木駅で電車を降りた。(BRUDER編集部・合田拓斗)麻布十番「パティスリー・ル・ポミエ」
オトナになっても? と思われるかもしれないが、わたしはサンタクロースを信じている。どこか氷に閉じられた世界の果てに「サンタの街」があって、普段は子どもたちの夢を見たり、髭を蓄えたり、トナカイとトレーニングをしたりしている。そして聖なる夜には、プレゼントでいっぱいの袋を抱え、ソリの発着所から飛び立つのだ。
25日の朝にツリーの足元に駆け込まなくなったいまも、この時季になると胸が高揚する。子どものころの思い出が残るのかもしれない。実家ではサンタクロースに宛てた手紙と、ミルクとクッキーを用意するのが習慣だった。小さな食卓に立ち込めるガスストーブと、ケーキの甘い匂いを覚えている。
どうせならムードを存分に味わいたいと思い、六本木に出向いた。日が暮れた街にビル看板が灯り、列を作った車のテールランプがぼやけて霞む。オフィスワーカーたちの歩みは小さく、仕事を終えた解放感が漂っていた。黒いコート姿でゆったり歩く人々は、なんだか夜行性の遊牧民みたいに見える。
都内有数のイルミネーションスポットだ。駅を出て六本木ヒルズ66プラザを通り、外苑東通りに沿って道を下る。鮮やかな電飾をまとった木々が、見る人を誘惑するように並んでいた。夜空のような青、モミジのような赤、エメラルドのような緑…。人工灯ってこんなに種類があるのかと純粋に驚く。
けやき坂通りの雪を被ったような木々のイルミネーションは壮観だった。光の下では人々が白い息を吐きながら、まるで遊園地にいるみたいな顔でスマホを構えている。カップルが顔を寄せ合い、女子高生たちはTikTokを踊る。歩行者信号が青になるたびに東京タワーを写そうと道路の真ん中に人だかりができ、交通警備の笛が鋭く響く。
たしかに、イルミネーションはきれいだ。クリスマス気分も味わえる。しかし通りはあまりに華やかで、全身黒ずくめの“ほぼ空き巣ルック”ではそう長くいられない。
逃げるように路地を折れると、光は急速に闇に取って代わられた。ひとけはなく、ぽつぽつと等間隔に並んだ街灯が最小限に道を照らす。建物の向こうから喧噪が響いていたが、水中で聞こえる音のようにぼやけていた。夜の陰をどんどん歩く。
六本木さくら坂を抜けて麻布十番大通りを進み、雑式通りの端まで行ったところで気になる店を見つけた。2005年に北沢でオープンしたパティスリー「ル・ポミエ」の2号店。『ポミエ』はフランス語でリンゴの木を意味する。寝静まった商店街のなかで、お菓子の家のような外観が非現実的に映えていた。
アップルソースのような光に満ちた店内は居心地が良い。ショーケースにはフランスのクラシカルなケーキ、壁際には焼き菓子が並ぶ。印象的なのは床に敷き詰められた六角形のテラコッタだ。まるで外国の路地にいるような気がしてくる。小さなブティックには、フランス ノルマンディー出身のシェフ、フレデリック・マドレーヌさんの故郷への愛が詰まっている。
マドレーヌさんの子ども時代、家では母や祖母がよくケーキを焼いてくれた。物心ついたころから、夢はケーキ屋になること。14歳のときにパティシエの世界に飛び込み、今年で45年目になった。日本で店を開いたのは、「日本人と一緒に働くのが楽しかったから」。故郷から遠く離れた地で夢をかなえた。
こだわりは素材の味を活かすこと。パティシエになってしばらくは、世界の高級ホテルや3つ星レストランなどを渡り歩いた。「(高級店では)なにより素材が大切にされる。スズキを使った料理ならスズキそのものを味わうのであって、ソースやドレッシングではない」。究極の味を探求し、無駄のないクラシックなケーキに行き着いた。
創業以来のスペシャリテ(おすすめの品)が六角形の『ポミエ』だ。青森から届く新鮮なリンゴを採用。食べる前から果実の甘いにおいが漂う。ムースの内部に焼きリンゴが入っており、ケーキの甘みに、まるで果物をかじっているようなさわやかさが混ざり合う。
この時季になると思い出す風景がある。「故郷では、24日の夜にパーティをした。23時から教会に行って、1時間くらいミサに参加する。そして僕らが寝ているあいだにサンタクロースが来て、ツリーの足元にプレゼントを置いていく。朝になると箱の入った靴がいくつかあって、『きっとこの靴はフレデリックのだよ!』とか言いながら、みんなで開けていく。サンタクロースが来たよ! ってね」
結局、サンタクロースはいないかもしれないが、いるかも分からない。信じるか信じないかなのであれば、わたしはひっそり信じていきたい。
  COOPERATION
パティスリー・ル・ポミエ 麻布十番店
〒106-0045 東京都港区麻布十番3-9-2
Instagram東京の道を曲がる
ムダを愛する美学 蔵前の文房具屋が思い出させるもの【蔵前】
麻布十番の“リンゴの木” フランス人ケーキ屋と故郷の記憶【麻布】
ロマン的読書体験 上野の工務店が作る“産地直送”型本屋【上野】
背筋の伸びる街で“猫背”になれる場所 有楽町に潜む路地裏公園【有楽町】
真夏のタイムスリップ ジャズ喫茶のアイスコーヒーに昭和を思う【新宿】
Edit & Text & Photo : Hiroto Goda

あわせて読みたい

蔵前・両国のコーヒーがうまい名店7選。インバウンドでもにぎわう東京ローカルのコーヒータウンへようこそ
さんたつ by 散歩の達人
【パティスリー&カフェデリーモ】2025バレンタインコレクション販売開始
PR TIMES
今年も「よーじやの日」開催!生まれ変わった新よーじや”よじこ“をお披露目
PR TIMES Topics
セリアがまたやってくれた!持ち運びはちょっと注意…!?雑貨屋さんレベルの繊細なインテリア
michill
【ホテルニューグランド】春限定!「お部屋で優雅にティータイム~春のケーキセット付き宿泊プラン2025~」
PR TIMES
1⽇1組限定の宿泊施設「ヴィラ・センス・九十九里」オープン
PR TIMES Topics
ムダを愛する美学 蔵前の文房具屋が思い出させるもの
BRUDER
下北沢の“洋館のアトリエ”は喫茶店 物語に宿る居心地
BRUDER
美しいマーブル模様とふんわり食感「いちごミルク食パン」4月限定販売
PR TIMES Topics
クラシックの聴ける喫茶店でたどる 渋谷の“若者たち”の足跡
BRUDER
成宮寛貴主演ドラマ『死ぬほど愛して』、片桐仁・松井玲奈ら個性豊かな第三弾キャストが発表
エンタメNEXT
定山渓 鹿の湯・花もみじにて「願掛け鯉のぼり」を初開催
PR TIMES Topics
カロリーはご褒美です! 胃も心も満たされる王道スイーツ3選【大阪・京都】
関西をもっと楽しむanna(アンナ)
上野にピンク色パンダが出現!上野駅構内の「KURAMAE CANNELE エキュート上野店」にて、春限定でパンダがピンク色に変身した『パンダいちごソフトクリーム』を発売
PR TIMES
【STEAMCREAM】汗や皮脂による不快さから心地よく肌を守るサマーアイテム登場
PR TIMES Topics
【DEAN & DELUCA】数量限定 PÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGI がDEAN & DELUCA とコラボレーションしてつくる「アイスクリームケーキ 桜餅」
PR TIMES
MIXup (ミックスアップ) W大阪
MORE
【KUROSHIRO × NOUSPROJECTS】 コラボレーションインテリア「CUSHIONED STOOL」誕生
PR TIMES Topics
アメ横から蔵前へ、1979年創業の老舗雑貨店「ガラクタ貿易」の46年間変わらないアメリカ雑貨へのこだわり
Fashion Tech News
君はどこに住んでいたのですか?~吉田拓郎「高円寺」「リンゴ」の面影をさがして【街の歌が聴こえる/高円寺編】
さんたつ by 散歩の達人
「ご褒美Baum⁺」に春らしい「いちご」を使用したスイーツ登場
PR TIMES Topics