安達太良山は100回以上登っても未だに飽きない山 〜山登りは知らないことを知るための手段、ライフワークとしての山登りの魅力〜<建築家・安齋好太郎>

2024.11.13 09:00
何千年、何万年という長い年月で形成されてきた自然界のデザイン力には到底叶わない。そう語るのは建築家の安齋好太郎さんです。安齋さんは福島県・二本松市で自然と共生するサスティナブルな建築を目指し、2006年に自身の会社であるADXを設立。森を豊かにするための手段として建築をしつつ、山登りをライフワークとする安齋さんに山の魅力を聞きました。
山は、自分にとっての“整え場所”なんです
──安齋さんにとって、山はどんな存在ですか。
当たり前ですけど、山って大きいですよね。なんせ大きいです。あと山は平等だと思っていて、僕の奥さんでも、子どもでも、だれでも登った分だけそれぞれ景色が変わります。必ずしも山頂を目指さなくてもいいと思うんです。自分の足でどこまで登れたとか、山道で移り変わる風景がきれいだとか、そういった感性をだれもが自分で自由に見つけられる場所です。そういう意味で山って大きい存在だと思います。
加えて、仕事で忙しい時や大変なときに、自分をコントロールするための存在でもあります。私の場合はシーズン中、月に1、2回は山に行きます。自分の“整え場所”なんです。登っている時はすごく大変で、汗もかきますし、心臓もバクバクで、何も考えられない状態。無我夢中で登って、気がつくとすばらしい景色が広がっている。山にいくことで自分をリセットできたり、原点回帰させてくれます。
人間の豊かさは、もともと自然の恵みをいただきながら保ってきたと思うんですが、いつの間にか自然の恵みから離れて、生活の利便性だけ追求してしまっているという側面もあると思うんです。本来あるべき姿から少しずれてきてしまった。自然と戯れることによって、頭が整理され、豊かさの本質を取り戻すことができます。
ただ、山登りって結構怖いんです。安全な柵があるわけでもないですし、道が舗装されているわけでもない。倒木があったり、落石があったり、急に雨が降ってきたり、強風に煽られることもあります。都市にある整備された公園や屋内の遊具施設のように、安全が確保されているわけではありません。
だからこそ、山登りでは事前の準備も重要ですし、感覚が研ぎ澄まされていきます。山道の脇に平らな切り株や大きな石があると、不思議とそこに座りたくなるんです。オフィスの椅子に座るのとは全く違う感覚です。そういった感覚は誰かに教わっているわけではなくて、本能的なものです。
あと山登りって、健康な体じゃないとなかなかできないと思うんです。絶えず挑戦するもので、年齢を重ねていくと、どうしても息が上がりやすくなったり、歩けなくなったりするかもしれない。山の高さや難易度によらず、自分で挑戦すると決めたら、あとはそこに向かって体をチューニングする。気がつけば健康な体になっていると思います。
圧倒的に素晴らしい能力が、自然界にはあると思っています
──知識や情報、仕事のヒントも山から得ていると伺いました。
まずは興味を持って知りたいと思うことが重要だと思っています。山登りは知らないことを知るための手段で、知らないことを知ると、その瞬間に「ワオ」となる。「ワオ」の数だけ僕は幸せになれると思っているので、その数をたくさん集めています。
それに、自分よりも圧倒的に素晴らしい能力が自然界にはあると思っています。例えばユニークな形をしている松ぼっくり。松ぼっくりの形は5年や10年で決められたものではなくて、何千年、何万年という長い年月の中で自然環境に耐えられるようなデザインになっている。20年、30年で学んできた僕の建築知識では、自然界のデザイン力には到底叶わない。その技術を盗まない手はないんです。真似をするだけでももしかしたら豊かになるかもしれないっていう思いでヒントを探しに山へ行っています。
秋になると、栗も不思議だなあと思うんです。ウニみたいな形をしているけども、誰から身を守ってるのかと(笑)。身を守っているのかと思っていたら、パカッと開いて栗が出てくる。あれも自然界の法則みたいなもので、「まだ中は熟してないから食べちゃいけないよ。開いたときに食べてね。食べた人は、ここよりも遠くに運んでね。種もよろしくね」と、栗にとっては子孫を反映するための作戦なんですよね。自然界の原理原則は自分たちの生活にも役に立つことが多いと思います。
──東京と福島の二拠点生活を送っていますね。
はい。基本的には自然の中に身を置くことが大好きです。ただ、自然の中にいるだけだと、なかなか情報をインストールできないことがあるんです。都市や都会も大好きで、スピード感や「時間軸」が全然違います。その時間軸を僕は結構大切にしていて、自然界では時間軸が長く、とてもゆっくりですが、一方都市では時間軸が短くて速い。消費されるもの、情報、流行、人の行き来などが、ものすごいスピードで、めまぐるしく変化していきます。
その両方の時間軸に身を置くことで、新しいことが生まれたり、自分が本当に心地いいと感じる場所がわかったりしてくる。時間軸のグラデーションがすごく重要で、ずっと都市にいると疲れてしまいますし、自然界にいると便利さを求めたくなる。そのバランスをみながら自分の居場所を選択していくというのは、人間本来の生き方だと思うんです。
安達太良山は100回以上登っても未だに飽きない山です。
会社名の由来にもするくらい愛してしまった山で、初めて安達太良山に登ったときに一目で美しいなと思いました。こんなに景色が変わり、いろんな木が生えている場所もあれば、少し険しい場所もある。いろんなアクションがあって、遊具があるわけではありませんが、まるで壮大なアスレチックで僕は遊んでるんだなって思います。僕にとっては本当の裏庭です。
あとは僕自身の、その時の状態やマインドで感じ方も変わります。めちゃめちゃ元気で、すごい良いことがあった時は頂上がいつもよりも美しく見える。逆に落ち込んでたり、悩みごとがあるときは、そこに生えてる草花や鉱山植物を見て、こんなに小さいけどお前は何年も生きてるんだなと感じ取り、愛おしく思うこともある。天気にも左右され、そのときどきで見る景色や考えることが変化する楽しみがあります。
実証実験を繰り返しながら、森を豊かにする方法を見つけていきたいです
──最後に展望について、建築の仕事は森を豊かにするための手段と伺いました。今後は具体的にどういった取り組みをしていくんでしょうか。
安達太良山は僕の原風景です。身近な存在で、当たり前にあるもの。ただ、当たり前にあるものって、いずれ当たり前じゃなくなることがあると思うんです。自分の親や友人もそうですし、自然の風景や景色だってそうです。当たり前にあるものを維持するには、結構努力が必要だということに改めて気がつきました。
日本は国土の7割が森林資源で、放置されている森もたくさんあります。森を守るために、目の前に当たり前にあるこの自然環境をブラッシュアップするだけで価値が高まると思うんです。元気のなくなった森からちゃんと適正な木を間伐するとか、適正なやり方で木を購入するとか。そういった森の新陳代謝を促してあげる。そうすることによって、元気がなくなっていた森が元気になっていく。そういった型を作っていき、未来にちゃんと残せるような自然を我々はつくりたいなと思ってます。
ほかにも会社として考えていることは、2030年までに約500ヘクタールの森を購入しようとしています。どうすれば豊かな森になるのかを、言葉ではなく実証実験を通して、豊かさを守り、ブラッシュアップしていくための方法を見つけていきたいです。
▲ADXがデザインを手がけたキャビン「SANU CABIN MOSS」
PROFILE
安齋 好太郎
1977年福島県二本松市にて、祖父の代から続く安齋建設工業の3代目として生まれる。自然と共生するサスティナブルな建築を目指し、2006年にADX(旧Life style工房)を創業。木の特色を生かし、木の新しい可能性を追求したダイナミックな建築を得意とする。幼いころから木に触れて育ったことから木材・木造建築に造詣が深いことで知られ、Wood Creatorとして国内外の大学や企業で講演活動を行う。登山がライフワーク。
Text:Nobuo Yoshioka
Photos:Matthew Jones

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