この記事をまとめると
■自動車メーカーは二酸化炭素を排出しない動力源の普及を目指している
■カーボンニュートラルはクルマだけに限れは理論上可能だ
■電力や燃料を確保する過程が課題となっている
二酸化炭素の排出をゼロにする動きは自動車業界でも進んでいる
炭素成分が含まれた化石燃料(石油)を燃焼して動力に変える。これは、ガソリン、ディーゼルといった自動車のエンジン、すなわち内燃機関の基本原理だが、炭素成分が含まれた燃料を燃やすからCO2(二酸化炭素)が発生し、それを大気中に放出する。
現在、地球温暖化にかかわる大きな原因として、いい換えれば温暖化ガスとして問題視されているのが二酸化炭素で、間近に迫った電気モーターによるEV化への切り替えは、化石燃料の燃焼を動力源とせず、電気エネルギーによるモーター駆動とすることで、一切二酸化炭素を排出しない自動車動力システムの普及を目指すものだ。
ただ、自動車のEV化は、燃料補給の代わりにバッテリーの充電作業が必要不可欠となり、その電力をどこから得るか、という大問題がつきまとうことになる。単相、三相と供給電力の種別は別にして、社会インフラとして供給される電力は、すべて発電所で作られたものである。では、発電所ではどうやって発電しているか、という話になるが、日本の場合は、火力発電(化石燃料の燃焼、天然ガスの燃焼)が主体となっている。逆のいい方をすれば、日本で発電を行おうとすれば、化石燃料の燃焼による二酸化炭素の排出は避けがたい、ということになる。
充電電力を供給する発電による二酸化炭素の発生については別の機会に言及することにして、ここでは、人間の移動や物流を担う自動車の動力システムに関する二酸化炭素の排出について考えてみることにしたい。
まずEVだが、自動車のモーター動力と見た場合、介在するのは電力源、つまり充放電可能なバッテリーということになる。フル充電のバッテリーから走行用エネルギーとして電気モーターに電力を供給。モーターが消費する電力はバッテリー容量が最大値で、バッテリーが空(放電状態)になれば、外部電源につないで充電することになる。当然ながら、この過程で二酸化炭素が発生することはない。つまりゼロエミッションといえる。
では、これまでの内燃機関はどうなのか。ガソリン機関、ディーゼル(軽油)機関とも燃焼室内で炭素が含まれた燃料を燃焼する。当然ながら、排出ガスのなかに二酸化炭素(わずかだが、厳密にいえば炭化水素、一酸化炭素も含まれる)が生じるわけで、これが排出ガスとなって地球温暖化に悪影響をおよぼすことになる。ゆえに内燃機関の使用に待ったがかかるわけだが、もし、化石燃料を使わぬ内燃機関だったらどうなるのだろうか。
まだまだ問題が山積みだ
この素朴な発想に応えた内燃機関が現状、ふたつばかり考えられている。ひとつは、トヨタが積極的に開発を推し進めている水素燃料だ。水素の化学式はH。炭素が含まれないので燃焼によって炭素化合物(二酸化炭素、一酸化炭素、炭化水素)が発生することはない。厳密にいえば、大気によって水素を燃焼させるため、吸い込んだ二酸化炭素をそのまま排出することになるが、これにより大気中の二酸化炭素は増えも減りもしない。ゼロカーボンというか、燃焼によって炭素化合物が増えることはない。カーボンニュートラルといういい方をしてもよいだろうか。
ただし、水素燃料という考え方は、電気モーターを動力源とするEVの電源として使われる燃料電池の存在もある。電池内に収蔵された酸化剤に水素を補給することで化学反応を起こし、この反応によって電気を起こし(発電)、モーターの電力として供給するシステムである。フューエル・セル、燃料電池車とも呼ばれるが、じつは大型商業車などで実用化が進められている方式で、現在、ゼロエミッション車のひとつの柱になりつつある方式だ。大ざっぱにいえばEVの一形態で、電力供給源となるバッテリーが充放電式なのか、それとも水素を補給しその化学反応で電力を供給する方式なのか、の違いである。
もうひとつが合成燃料だ。英語でe-fuelと表記される合成燃料は、大気中の二酸化炭素と水素を合成し、化石燃料と同種の燃料を作り出そうとしたものだ。合成燃料については、2023年3月ドイツの国会でその使用が承認された燃料である。ドイツ自動車メーカーの強い申し入れにより、EV以外にその使用が認められた方式である。
合成燃料は、大気中の二酸化炭素と水素を合成して作られる。燃料を燃焼して排出される二酸化炭素は、もともと大気中にあったものであるため、大気中の二酸化炭素量はプラスマイナスゼロ、カーボンニュートラルという考え方が成立することになる。
EVはバッテリーに充電する電気をどうやって発電するか、水素燃料はその取り扱いと生産・供給方法、合成燃料は水素にさらに二酸化炭素を合成しなければならず、その生産施設、生産量をどうやって確保するかといった現実的な問題が厳然として存在する。
自動車の走行方式として、どの方式も理論的には確立されつつあるが、問題は電気モーターの電力、あるいは内燃機関の燃料を、どうやって必要量確保するかにあるようだ。