この記事をまとめると
■中古車市場には「金融車」なるものが存在する
■ローンが払えなくなった人から差し押さえたクルマが金融車になる
■金融車は名義変更ができないどころか購入すると罪に問われる可能性もある
闇深き「金融車」とは
みなさんは「金融車」というカテゴリーのクルマがあるのをご存じでしょうか?
まったく知らなくても「金融」という字面を見ればなにやら怪しい雰囲気が感じられるので距離を置きたくなります。実際に筆者もこの記事の作成にかかわらなければ、このあとも知らないで過ごしたことでしょう。
ここでは、その「金融車」というのはどんな素性のクルマなのか? 遭遇した場合にどう対応したらいいのかについて、ごくカンタンに紹介してみたいと思います。
■ザックリいうと、借金の返済が残っている車両を「金融車」という
「金融車」というのは、まあ読んで字のごとく金融に絡んでいる車両です。
簡単に説明すると、ローンの返済途中で売却されてしまった車両のことを指すことがほとんどのようです。 クルマを購入するときの支払い方法は、一括払い、ローン(分割払い)、残価設定型ローン、リースといろいろあります。
それぞれの割合を見てみると、意外なことに一括払いが過半数で60%弱、ローンと残価設定型ローンがそれぞれ20%となっています。これは少し前の2019年のデータなので、今はもう少し残価設定型ローンの割合が伸びているでしょう。
その20%を占めるローンのなかで、借入金額を完済する前に売却するケースは少なくありません。
返済の途中で車両を手放す場合の正式な手続きは、「ローン残金の返済→車両の所有権獲得→売却」 となりますが、売却時の手元に一括返済の現金があるとは限りません。その場合は車両の売却代金を返済に充てることになるでしょう。まずはその車両がいくらになるのかを査定してもらうために買取業者に赴きます。
業者は「金融車」ということを踏まえた上で査定額を算出し、代金を支払えば売却手続きが完了です。このときに注意しなければならないのは、「金融車」の所有者はローン会社だという点です。
買取業者から支払われる代金のうち、ローンの未返済金額がローン会社に支払われ、残りがあればオーナーに支払われます。
この場合、車両には何ら後ろ暗いところはありません。売却以前は「所有者=ローン会社」「使用者=オーナー」だったのが、売却によって「所有者=買取業者」「使用者=未定」となるだけです。
■「金融車」が怪しくなるのはここから
上記のように正式な手続きを踏めば「金融車」はまっとうに売買されて“普通の”中古車になります。
しかし、オーナーが借金で首がまわらない人の場合はその例に当てはまらないケースがあるようです。 ローンは返せないけどクルマは乗り続けたい……という状況を考えてみましょう。
起こすアクションは「さらに別のところから借金してローンを(とりあえず)返済する」というパターンが想定できます。
それが続くと“別のところ”への借金が増え続けて、気がついたときにはもう車両を売却しても返済にはとても追い付かない状況になっています。
最終的には“別のところ”のいいなりで車両が差し押さえられてしまいます。ここでいう“別のところ”というのは、多くの場合「ナニワ金融道」に出てくるようなジャンルの会社なので、非合法な手段も行いながら車両をコロがして多くのお金を得ようとするでしょう。
その過程でグレーな業者に流れていった車両が怪しい「金融車」というわけです。
■所有者が認めなければ名義変更ができない
その怪しい「金融車」の最大のポイントは「所有者」がローン会社のままという部分です。
自分で名義変更手続きを行ったことがある人なら知っていると思いますが、車両の登録には「所有者」と「使用者」という2つの名義を記す必要があります。
所有者=使う人ならどちらの項目にもオーナーの名義が入りますが、たとえば会社だったりの場合は所有者は会社で、使用者は従業員の名前になるでしょう。
これがローンで購入した場合、所有者の欄はローン会社の名義になります。つまり所有の権利はオーナーにはない状態です。この状態で名義変更するには、所有者であるローン会社の承認が必要です。
上記の怪しい「金融車」の場合はどうでしょう?
“別のところ”は所有者に無断で車両を転がしているので、当然ですが名義変更はできません。車両には必ず所有者の名義がローン会社の車検証が付属します。
普通に考えればそんな車両は中古車市場に出まわっても買い手が付かないと思いますが、そこはグレーな世界。グレーな手段でチョロまかして売り抜くケースがあるようなんです。
そんな怪しい「金融車」を購入してしまったオーナーは災難です。法的に所有権はローン会社から移っておらず、その後に売買をおこなった業者たちは無断で違法な売買をおこなっていることになりますので、ローン会社が訴訟でも起こせば出るところに出なくてはならないでしょう。
ただし、そうと知らずに購入したオーナーは非を問われないことがほとんどだそうです。
とはいえ、怪しい「金融車」の多くは相場よりも安く価格設定されていることが多く、それに疑問をもたずに購入するのは不自然という見方もできますので、必ずしも無罪放免とは行かないでしょう。
そして、非を問われないまでも車両の権利の主張が通るとは限らないので、結果として少なくない勉強代を払うことになる可能性もあるでしょう。
■今どきはグレーなリスクは侵さない?
実際、昭和の時代はそういった怪しい「金融車」が多く出まわっていたというウワサもちょくちょく聞こえてきましたが、今ではグレーな業者も余計なリスクを冒さない傾向にあるそうなのので、ムチャな方法で中古車として売却するのではなく、バラして部品として売却したり、海外に流すなどの名義の変更が必要ない方法で処分しているという話も聞きます。
いずれにしても、まともな生活で生涯を終えたいと考えている人は、クルマの購入時にグレーな臭いを嗅ぎ取れるようにアンテナをしっかり張って近寄らないようにしましょう。