東光商事株式会社が独自開発した生地素材「TERAX」は、体のケアや温活、夏場の暑さ対策ができる新しい生地素材です。
近年では、高い保温機能に着目し、女性の冷え性や生理痛問題を解決するという、フェムテック分野における商品開発に注力しており、和装業界に向けてTERAXを使用した女性向けの和装インナースリップを開発しました。
伝統的なものが好まれてきた和装業界で、いち早くフェムテックという考え方を取り入れた商品開発は、どのような経緯で行われたのでしょうか。
今回は、東光商事株式会社の太田圭祐さん、TERAX開発者の1人である佐藤有美香さん、マーケティング・販売を担当している、和装メーカーである株式会社AMO代表の羽納典さんにお話を伺いました。
―新しい技術であるTERAXを、伝統的な和装という分野に持ち込んだ背景について教えて下さい。
羽納:弊社は元々、和装メーカーや、オンライン販売のコンサルティングをしています。TERAXを広めるためのコンサルティング業務で東光商事さんと出会いまして、和装にもTERAXが使えるんじゃないかというところからスタートしましたね。
太田:そうですね。TERAXが和装業界の中でヒットする可能性があるんじゃないかと羽納さんと話が盛り上がりまして、そこから商品開発を一緒に始めました。私たちは素材を開発するのがメインで、羽納さんはマーケティングと販売がメイン。お互いの良いところをクロスできたと思っています。
―和装の中でも、インナーという商品を選んだ理由について教えて下さい。
羽納:自社商品のブランディングを考えたときに、TERAXのインナーとしての保温機能が凄く魅力的に見えました。これまで、温熱機能のある商品はあったんですが、女性の体を守るという機能を全面に押し出したものは、和装の世界では新しいものだったんです。今まで和装の世界になかったものを一番最初に開発できるんじゃないか。ブランディングとして材料になると思ったのが、インナーを作ろうと思ったきっかけです。
―和装インナーを作ろうと言われたとき、どう思われましたか?
太田:正直なところ、周りにも着物を着る人は少なく、最初は本当に売れるかわかりませんでした。それに和装というと着物のイメージで、「インナー?」と不思議に思いました。ですが実際には、お祭りなどで着物や浴衣を着る人も多く、インナーの需要もあり売上が良かったんです。リピーターのお客様もおり、驚いたというのが正直なところですね。
―リピーターの方もいるということですが、お客様からはどのような反応がありましたか?
羽納:和装業界は白色の商品が多いので、ベージュ・ピンク・ブラウン・ブラックの4色で展開したところ、「こんなにたくさん色があるんだ」という驚いた反応があったのが印象的ですね。
和装は女性メインの世界ではあるんですが、視覚的にパッと目を惹く可愛らしいデザインのものが少なく、商品パッケージも筆書きのような古いデザインが多いんです。もともと古いものを取っ払って和装業界に変化をもたらしたいと考えていたので、和装インナースリップは、着心地はもちろん、パッケージもシンプルに洗練されたデザインにしています。
太田:実際に購入される方はどの年齢層が多いんですか?
羽納:着物を着る人が対象になるので、60代以上が多いですね。若い人はあまりいません。
太田:そうなんですか。若い人が多いと思っていました。
羽納:夏物の商品になると、逆に若い人が多くなるんですよね。浴衣の下に着る夏用インナーなどがよく売れるんです。
ーお客様には驚きとともに受け入れられたということですが、和装業界ではどのような立ち位置にあるのでしょうか?
羽納:市場の動向にそこまでとらわれないという点が、独自の立ち位置になっていると思います。新型コロナウイルスが流行っていたとき、和装業界全体の売上が前年の1割に落ち込んでしまいました。
暫くしてコロナが収束し、去年の浴衣シーズンは浴衣が飛ぶように売れました。ただ、売れすぎてしまって今年は飽和状態になってしまいました。浴衣は頻繁に買い替えるものではないですからね。一方で和装インナースリップは、去年とあまり変わらず売れています。
―去年と変わらずに売れている理由については、どうお考えですか?
羽納:先ほども少し触れましたが、これまで和装業界になかった商品ですし、着物を着たときのことを徹底的に考えて作ったのが売れている理由かなと思います。
和装インナースリップは着物にあった丈感になるように設計しました。着物の衿や袖から出ず、丈のギリギリまで温かいんです。他にも、和服はすり足で歩くのが奇麗とされていますから、すり足でも動きやすいようにスリットを入れるなど、工夫して作りました。こうした工夫が着用したときの心地よさに繋がって、もう一着買っておこうと思っていただける商品になったのではと思います。
―インバウンド需要もありそうですが、いかがですか?
羽納:実はインバウンドの需要とはあまりマッチしていないんです。着物のレンタル店も運営しているのですが、着物を着て写真を撮って終わりというのが今の流行りですね。その場で済んでしまうので、インナーの出番がありません。もし、ドレスでも使えるというインナーがあれば、需要が広がるのかなとは考えています。
―羽納さんにとって、TERAXを使った衣服の販売は初めてのことだったと思います。実際に素材を使ってみての感想は何かありますか?
羽納:しっかり1から生地のことを考えて作っているなと感心しています。この良い生地について、お客様に価値を感じてもらえるようにはどう伝えるべきか、日々考えています。特殊な鉱石を使っているんですとだけ伝えても、お客様にはわかっていただけない。しっかり商品や素材の価値を伝え広めていきたいですね。
佐藤:そう思っていただけて、本当に嬉しいです。私たちがTERAXに込めている思いを伝えることの大切さをしっかり理解していただいている。ありがたい限りです。
―和装インナースリップは、市場に精通している人にしかわからないアイディアを盛り込んだ意欲的な商品だと思います。商品開発のプロセスをお伺いしてもよろしいですか?
羽納:そうですね。まずは一般的なインナーの価格相場を調べるなど、マーケティング調査を行いました。そして、女性社員を中心に、着物を着る女性の視点で商品開発を行いました。特に、丈の長さやデザイン性にはこだわりましたね。
太田:弊社はTERAXの提供、サンプル作成、商品の値段やクオリティの調整を行いました。そして完成したデザインをもとに、商品を作成し納品しています。
―開発中や販売するなかで、困難だったことなどはありますか?
太田:これまで取り扱ってきた商材は洋服がメインだったので、和装の世界は全くわかっていませんでした。型紙の作成を弊社で担当させていただきましたが、丈の長さなどをミリ単位で何度も調整したのが大変でしたね。
また、羽納さんと相談をしているなかで、着用すると静電気が発生するのを改善できないかと依頼され、温かい・冷たいだけの話ではなく、商品としてのクオリティアップにもこだわりました。
羽納:TERAXもそうですが、アパレル業界では化学繊維が一般的ですよね。ですが、和装は綿が一般的で、化学繊維は殆ど使われない業界です。なので、お客様に化学繊維でできたインナーが受け入れられるのか。製品が完成するまではそこが心配でした。
しかし実際にお客様に着用してもらうと、良いものだと受け入れてもらいました。今では、木村実業株式会社さんという和装小物の卸売最大手の企業に取り扱っていただいて、何百社という呉服屋や着物屋に商品を展開しています。
―今後作ってみたい商品や目標はありますか?
羽納:和装業界は女性がメインの世界です。女性を守るというフェムテックの考え方とマッチした業界ですので、積極的にTERAXを使った商品を開発していきたいです。
今考えているのは、着物に合う新しいインナーの開発や、カラーバリエーションの拡充、足袋や男性向けの甚平なども面白そうですね。ブランドの商品を増やして、和装の世界で「TERAXといえば」と思われるブランディングをしていきたいと考えています。
太田:TERAXは私たちが思いを込めて作ってきた素材です。思いに共感してくださった人と、一緒にものづくりをしていきたいと考えています。そして、最終的にはTERAXを世界に広げていき、様々な人が抱えている悩みやストレス、問題の解決に繋がったら嬉しいです。そのためにも業界全体を盛り上げていきたいですね。
佐藤:素材を開発した私たち以外にも、TERAXを大切に思ってくれている羽納さんのお話を聞くことができて良かったです。より良い製品を作っていくためにも、頑張ろうと思いました。
【東光商事株式会社】
1936年の創業以来、80有余年にわたり今日まで歩んできた繊維専門商社。
これまでの歴史と伝統を受け継ぎ新たな時代を拓くため、前例や慣習にとらわれることなく組織や制度の刷新を始めさまざまな改革を推進しています。
時代に即した事業構造を確立するため従来の業界・業種の枠組みを超えて価値観を共有するお取引先様と相互信頼に基づくパートナーシップを築き、既存事業のさらなる強化とともに、高機能素材の開発、新領域の商品企画など新規事業の育成に努めグローバルな事業展開を構築しています。
HP:
【株式会社AMO】
2016年創立。インターネット販売、コンサルティング事業、商品企画立案など多岐にわたる事業を行っています。
「企画→製造→販売まで世界が興味を持つ商品を集めて販売したい。」
「着物のお店ではなく、キッチン用品のお店ではないトータルコーディネートされた
和のお店、商品 で世界の人達に知ってもらいたい」
そんな思いで出来た会社です。
HP: