ウィズダイバーシティ有限責任事業組合
【イベント業界でも活用できる障害者雇用と雇用創出】ケータリング、グリーン装飾、アート装飾など60以上のラインナップから発注可能。ハードルが高い中小企業の障害者雇用に、「チームで雇用する」選択肢が増えた
左:株式会社ホットスケープ代表取締役・前野 伸幸 中央:ウィズダイバーシティ有限責任事業組合(LLP)発起人・福寿満希(株式会社ローランズ代表取締役) 右:株式会社ありがとうファーム パートナーシップ推進室取締役副社長・馬場拓郎(写真提供:BACKSTAGE実行委員会)
2024年8月29日(木)、ウィズダイバーシティ有限責任事業組合(LLP)(東京都渋谷区、以下「ウィズダイバーシティ」)発起人の福寿満希は、体験型マーケティングカンファレンス「BACKSTAGE」(主催:BACKSTAGE 実行委員会(イベントレジスト株式会社・月刊イベントマーケティング・株式会社ホットスケープ))のセッションに、ウィズダイバーシティ参加企業である株式会社ホットスケープ代表取締役、前野伸幸氏と株式会社ありがとうファームパートナーシップ推進室取締役副社長、馬場拓郎氏とともに、「イベント業界でも活用できる障害者雇用と雇用創出」と題したセッションに登壇しました。
本レポートでは、当日お話した内容を抜粋してお伝えします。
BACKSTAGEの詳細はこちら
前野(司会):皆さんこんにちは。このセッションでは「イベント業界でも活用できる障害者雇用と雇用創出」と題していますが、「かなり難しいテーマだ」と感じた方も多いのではないでしょうか。
特に我々イベント業界は、サステナビリティへ配慮したイベント運営が重視されていることもありますが、障害者雇用はまだまだ遅れている業界だと思いますので、今回セッションの題目として取り上げた次第です。
では、お二人から自己紹介をお願いします。
ウィズダイバーシティ有限責任事業組合(LLP)発起人 福寿満希(株式会社ローランズ代表取締役)
福寿:ウィズダイバーシティ有限責任事業組合(LLP)発起人で、原宿にある花屋を運営している株式会社ローランズの代表をしております、福寿満希です。
株式会社ローランズは従業員約80人のうち、障害者当事者の方が約7割いらっしゃいます。ローランズはフラワー事業を中心に、就労継続支援A型事業所のほか、一般企業への就職を目指す就労移行支援事業所の運営などを行っています。
ローランズを拠点として活動を広めるなかで、中小企業から「障害者雇用を進めたいけれど、環境整備などハードルが高く難しい」という声を多く聞きました。さらに、個々の障害福祉事業者では営業にリソースを割けないことが多く、生み出せる雇用にも限界があることがわかりました。
そこで、東京都の戦略特区制度を利用し、異業種の複数の中小企業が障害者を共同雇用する仕組みとして2019年に全国で初めて立ち上げたのが、ウィズダイバーシティです。本LLPの実績が認められ、2023年には特例が全国にも適用され、2024年7月現在、ウィズダイバーシティの参加企業は14企業です。
株式会社ありがとうファーム パートナーシップ推進室取締役副社長 馬場拓郎
馬場:株式会社ありがとうファーム パートナーシップ推進室取締役副社長の馬場拓郎です。弊社は岡山市の表町にある商店街で活動している就労継続支援A型事業所です。今80人の障害があるメンバーとともに活動しておりまして、そのうち約30人はハンディキャップアーティストとしての活動をしています。
アーティストの中には、週刊誌で連載を持っていた経験がある漫画家や、大手企業とコラボTシャツをつくったメンバーもおります。弊社のレンタルアート事業は月額レンタル料の70%がアーティストにはいる仕組みです。
弊社には「グリーンハーツ」というロックバンドグループもおります。有名なバンド「THE BLUE HEARTS」をもじったグループ名で、バンドといっても歌い手だけで15人くらいいます。来年の大阪万博でステージに立つ予定です。
前野:ありがとうファームさんは、障害当事者の方との接点をたくさんつくっている会社さん、という理解であっていますか?
馬場:その通りです。多種多様なメンバーで一緒に仕事を生み出しています。
前野:今日はイベントに携わっている方が大勢だと思いますが、自分たちでも接点をたくさん作れるんだ、ということが今のお二人のご説明でわかっていただけたのではないでしょうか。今日はそのようなチャンスを広げていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
障害者雇用の法定雇用率は2.5%(40人に1人)、2026年7月からは2.7%(37.5人に1人)に
福寿:今日、参加されている方で、従業員数が40人以上だという会社さんは、どれくらいいらっしゃいますでしょうか……。けっこういらっしゃいますね。
企業は一定の従業員数以上ですと障害者雇用をしなければならないという決まりになっています。現在は2.5%(40人に1人)で、3月までは2.3%でした。この法定雇用率は2026年7月から2.7%(37.5人に1人以上)に改定される予定です。
これは東京の数字ですが、従業員数が少なくなればなるほど、雇用率も少なくなっています。大手企業だとダイバーシティ推進室など、専門の部署が担当していることがありますが、中小企業で専門人材を配置することは難しいと思います。
日本の企業数のうち99%が中小企業と言われれていますので、中小企業の雇用率をあげていくことが重要だと思います。
前野:我々ホットスケープも従業員数は50人です。そうすると1人から2人雇用することになります。ただ、50人の弊社のような会社で、たった1人雇用することはハードルが高いんですよね。50人のうち1人2人というと、お互いハッピーでないこともあるのではと思って、ずっと悩んでいました。
そこであるイベントをきっかけに福寿さんと出会いまして、今年の4月にウィズダイバーシティに参加しました。
障害者雇用におけるハードルは「仕事を作り出すこと」
福寿:ありがとうございます。まさに同じような課題を抱えている企業さんは多いと思います。中小企業の障害者雇用における課題は、切り出す仕事が社内にないということです。社内のリソースが限られているなかで、どんな仕事を切り出せばよいのか、切り出し方がわからないというお声をよく伺います。
もし切り出せたとしても、労働管理をどうすればいいのかわからないという点もありますし、切り出した仕事が雇用した方に本当にマッチしているのか、というケースもあります。担当の方もたった一人で、どう推進していいかわからない、相談できる人がいないということもあります。
前野:ホットスケープもまさにそうでした。もし雇用できたとしても、たった1人のためにルールをつくるというのは、中小企業にとってはなかなか難しい。
福寿:ウィズダイバーシティは、中小企業が1社だけで障害者雇用をしていくという形を変えていこう、という仕組みです。
障害福祉団体は、障害者の雇用・育成や配慮のある環境整備に強みがあります。一方、販路確保が課題になることが多い。そこで、販路や仕事の確保はできるけれども、反対に環境整備に弱みがある中小企業がチームになって障害者雇用を進めていくということが、ウィズダイバーシティの仕組みです。
ホットスケープさんは上図の緑色の枠で、定期的に一定量の発注をいただきます。そこで組合に参加している障害福祉団体、赤枠の会社ですが、こちらは配慮ある環境を維持し、スタッフの雇用育成に取り組みながら、経済活動に必要なサービス・商品を提供します。
先ほど中小企業は「仕事の切り出しが課題」とお伝えしましたが、この赤枠の中にはいっている障害福祉団体が持っているサービスの中から、定期的に発注できるお仕事を選んでいただいて、その発注額に応じて法定雇用率の計算に算定できるという仕組みになっています。
ウィズダイバーシティで提供しているサービス事例。60以上の項目から選定できる。
イベント業界で活用できる例~ノベルティ、グリーン装飾、ケータリング、バックオフィス
前野:我々イベント業界の企業が活用できそうなサービスには、どんなものがありますか?
福寿:例えばホットスケープさんだと、本社のグリーン装飾を発注いただいています。今日のこのステージの両端にあるグリーン装飾も、ウィズダイバーシティ参加企業が用意したものです。
60以上あるサービスのなかの組み合わせは自由です。1つのサービスで1人分雇用相当になる金額を発注いただくこともできますし、AとBとCであわせて1人分相当、ということもできます。
何か一つの仕事だけではなく、自分たちの会社に必要なものを少しずつ選びながら企業活動に活かしていただき、発注した分の成果を受け取っていただくことで、持続可能な関係づくりを行えるように設計しています。
ホットスケープ社新オフィスのフリースペース ウィズダイバーシティで植栽管理を受注
福寿:現在、LLP全体で必要な障害者雇用数は68人ですが、約3倍の206人、実雇用率として7.51%の雇用を組合で作り出しています。
※数字は2024年7月1日現在
前野:ありがとうございます。国が定めているからやるのではなく、みなさんと一緒に、仕事の幅を広げていくことが、私も大事だと思ってウィズダイバーシティに参加しています。イベント業界の会社が活用できそうなサービスとしてはなにがありますか?
馬場:これまでもありがとうファームでは、企業とコラボしてアート作品を活用した事業を進めてきました。イベント業界のみなさまに向けては、ノベルティとしてフルーツコラーゲンゼリー、手帳のNOLTYさんとのコラボ商品で、アートノートなどがご提供できます。
株式会社ディエスジャパン(本社:大阪府東大阪市)とのコラボ商品、アートのはらまきリユーストナー。
馬場:また、どの会社もプリンターがあると思います。こちらはウィズダイバーシティ参加企業である株式会社ディエスジャパン(本社:大阪府東大阪市)とのコラボで、「アートのはらまきリユーストナー」です。
リユーストナーとはリサイクルを活用したトナーでして、環境に配慮しつつ、社会にも配慮した商品ということで開発しました。リユーストナーのパッケージにありがとうファーム所属のアーティストの作品をプリントして、トナーのパッケージに巻いて納品するというものです。このアートのはらまきリユーストナーをきっかけに、ハンディキャップアーティストへの関心を高めていただくことが狙いです。アーティストから直筆のメッセージカードもいれる予定です。
福寿:私が代表を務めるローランズからは、今日のようなイベントでのグリーン装飾や装花をご提供できます。また、ローランズは原宿の店舗にカフェも併設しているので、ケータリングのご提供もできます。イベント開催ではデータ整備や郵便の封入といった事務もあると思いますがそちらもご支援できます。
ウィズダイバーシティに参加することで、障害者雇用に関わる選択肢が増えた
前野:ありがとうございます。本当に我々ホットスケープも、福寿さんに会うまでは、障害者雇用ってどうしたらいいのか、正直いって困っていたんです。どう関わればいいのか、つまりは選択肢がなかった。ウィズダイバーシティという仕組みに出会ったことで、その選択肢ができたこと、社会課題に取り組んでいくと私のなかでも気持ちが変わったことが大きいですね。
ウィズダイバーシティに参加することで、障害者雇用に関わる選択肢が増えたと話す、ホットスケープ代表の前野氏。(写真提供:BACKSTAGE実行委員会)
先ほどご紹介いただいたラインナップを見たら、「普段から発注しているよね」という商品サービスがあったと思うんです。私たちのようなイベント業界としても入り込みやすかったですね。
福寿:私たちも、今回ホットスケープさんをきっかけに、イベント業界の皆様に知っていただく機会をいただけるのはとても貴重だと思っています。ありがとうございます。今日ご紹介したラインナップにないものも一緒につくっていけますので、こんなことできませんか?とぜひ気になる方はお問い合わせいただけると嬉しいです。
馬場:今日はありがとうございました。ありがとうファームとしては、雇用をつくっていくことももちろんですが、これまでイベントに障害がある方、そのご家族の方も参加できるようなイベントを、プロのみなさんと一緒につくっていきたいと思います。
前野:今日はお話いただき、ありがとうございました!
トーク内容がまとめられたグラレコ(グラフィックレコーディング)(写真提供:BACKSTAGE実行委員会)
BACKSTAGE会場で展示を行った、ウィズダイバーシティの説明パネル