全店の認知症サポーターは1万人超。担当者の本気が社員の行動を変えた「認知症になっても安心してお買い物できるお店」実現に向けた取り組み

2024.09.03 16:30
株式会社平和堂は1957年に滋賀県彦根市で創業以来、滋賀県を中心に関西、北陸、東海の2府7県でスーパーを展開。地域の皆様のあらゆるライフスタイルに関わる「地域密着ライフスタイル総合(創造)企業」を目指しています。


現在、「健康」「子育て」「高齢者」をキーワードに、様々な取り組みを進めており、その一環として、2022年11月からは「社員の認知症サポーター取得」をスタート。2023年11月には目標の1万人を突破しました。


また2024年3月には、平和堂が運営する店舗「アル・プラザ京田辺(以下、京田辺)」の認知症サポーター養成などを通じた誰もが利用しやすい店舗づくりの取り組みが認められ、「令和5年度京田辺市地域貢献企業」の表彰を受けました。
(左から、京田辺市長 上村崇様、アル・プラザ京田辺 山﨑克裕、企画マネージャー 八木佐智子、京田辺市副市⾧ 辻村徳夫様)


このように京田辺の事例をはじめ、社内の認知症に対する理解や取り組みは急速に社内に広まりつつあります。今回は、なぜ、平和堂が認知症サポーター養成に取り組んでいるのか、またどのように社員一人ひとりに浸透していったのかをご紹介します。
「地域の健康」のために、平和堂ができることを一つずつ
教育人事部 ダイバーシティ推進課 課長 谷田 奈美江


平和堂は「地域密着ライフスタイル総合(創造)企業」を目指し、地域の抱える課題について地域と一緒に取り組むことで明るく元気で健康な地域を創っていくという「地域共創」という考えのもと、地域の持続的な成⾧に貢献し、地域経済が活性化することで社会がより良くなっていく「地域の健康」のために様々な取り組みを進めています。


特に高齢化が進む日本において、健康寿命の延伸は本格的に取り組むべき課題となっています。当社では健康寿命≒平均寿命となることが地域の元気を支えることにつながると考え、平和堂ホーム・サポートサービスサービスの展開や、健康教室、野菜摂取促進啓発活動など、地域の皆様の暮らしと健康を幅広く支える取り組みを行っています。


しかし、ハード面のサポートを進めるなかで、それだけでは行き届かないサポートがあると感じていました。特に、認知症は誰しもなる可能性のある身近な病でありながら、適切な対応方法に関する知識などは意外と持ち合わせていない方が多いのが現状。当社でも、認知症のお客様に安心してお買い物をしていただけるサポート体制は十分ではありませんでした。


そこでソフト面の取り組みとして、全社的に社員の認知症サポーターを育成することにしました。社員の総合的なレベルアップをはかることができれば、認知症のお客様にも適切に応対することができ、安心してお買い物をしていただけるようになると考えたのです。
全社員を巻き込んだ大きな取り組みであるだけに、目的や目標を明確にしなければ社内の理解や協力は得られないと考え、認知症サポーターを育成するにあたり2つの目標を設定しました。

認知症に対する理解を深めて、基本的な応対を学び、地域や家族との関わりも含めて、広い視野を持つ人材を育成する。

認知症サポーター養成講座を学ぶことで「おもてなし」「助け合い」の風土を醸成し、認知症以外の配慮が必要な方への気づきや応対などの派生効果も期待する。




そして具体的な数値目標として2024年度末までに、全社では社員1万人、各店舗においては社員の3割以上が認知症サポーターを取得している状態を目標として設定しました。


1万人は全社員のおよそ4割強にあたり、とても高い目標値です。正直、事務局として達成できるか不安もありましたが、あえてこの目標をニュースリリースとして外部に発信することで取り組みを宣言。何としてもやり切るという強い思いでスタートさせました。
地道な社内啓発が、店舗の取り組みを後押し
教育人事部 ダイバーシティ推進課 高橋 美里


当社では厚生労働省の「認知症サポーターキャラバン」の主旨に賛同し、2010年より認知症サポーター養成講座を開催していましたが、対象者は本社主催の会議に参加した店長など一部の管理者に限られていました。


本来は実際に接客するパート社員・アルバイト社員も含めた全従業員を対象に育成してこそ、総合的な効果が高まるもの。とはいえ一度に全員が取得することは物理的に難しいため、店舗・部門それぞれの運営責任者や食品チェッカー・サービス、接客部門の担当者を優先的に育成することに決めました。


しかし、店舗業務の合間を縫っての養成講座開催の調整は想像以上に店舗の負担が大きく、当初は思い通りに計画が進まなくて…。本当に1万人育成は可能なのかと不安になることもありました。

事務局としては、まずは店長や部門責任者に養成講座を受講してもらい、認知症について学ぶことの大切さを実感してもらうとともに、サポーター育成の目的を地道に説明し続けました。


次第にこうした思いが伝わり、年に数回ある店の休業日を利用して講座を設定したり、近隣店舗へ声をかけてエリア全体で講座受講を推進したり、それぞれの店舗が工夫して講座を開催してくれたおかげで、1カ月に全店で100講座以上開催された月もありました。


このような社内の協力もあって、2023年11月に目標の認知症サポーター取得者1万人を達成することが出来ました。社員はもとより、各自治体の皆様が快く依頼を受け、多数の講座開催にご協力くださったからこそ達成できたと心から感謝しています。
企画マネージャーとして、地域の人に「八木さん」と呼んでもらえる身近な存在に
アル・プラザ京田辺 企画マネージャー 八木 佐智子


私たち企画マネージャーの役割は、イベント開催などを通じて地域とのつながりをつくること。着任当初から色々と構想を練り、コロナを経て開催したイベントなどを通じて、お客様に顔を覚えてもらったり、商工会の催しやご高齢者向けの体操教室に参加したり、地域との接点を積極的に増やしてきました。次第に「何かあったら八木さんに相談してみたら?」と名前と顔を覚えてくださる方が増えていきました。
地域と関わる企画マネージャーだからこそ実現した、認知症サポーター育成の取り組み
実は、京田辺では全社で取り組む以前から、認知症サポーター養成講座を実施していました。日々、京田辺で働いて感じることは、ご高齢のお客様が多いということ。私自身の両親も高齢で、認知症を身近に感じる機会が増えていました。

お店で働く私たちは、認知症ではなくてもご高齢の方など色んな方に接する機会も多い。しかし、お一人おひとりに合わせた応対は、慣れない社員には難しいこともあり、そんな人の不安を少しでも取り払ってあげられたらもっと楽しく働けるのではと考えました。


このことを交流のある包括センターの方に相談したところ、認知症サポーター養成講座を紹介していただき、京田辺で働く社員向けに養成講座を実施しました。
社員向けの養成講座の様子。シフトを調整して、多くの社員が参加した


さらに、そんな私の姿を見た包括センターの方が「キャラバン・メイト(講師)の講習に行ってみない?」と声をかけてくださいました。そこで資格が取れるなら一石二鳥だと思い、キャラバン・メイトの資格を取得。


現在、月に2回程度、私自身が講師となり養成講座を京田辺の社員向けに実施し、講座修了者は50%以上をキープできています。

今後、お店で働く皆がたとえ平和堂を辞めたとしても、一度得た知識は生きる。これからのその人の人生で覚えたことが生かされていればいいですし、社会のなかで認知症に対する知識を持つ人が一人でも増えればいいなと思っています。
地域貢献企業表彰は地域に認めてもらった証。これからもお客様を思う気持ちが伝わる接客で、“なくてはならない存在”へ
令和5年度 京田辺市地域貢献企業表彰式にて


表彰していただけたのは、皆でがんばったおかげ。私たちのやってきたことが地域に認めてもらえたということだと思うのでとても嬉しかったです。これからも、お店の皆と力を合わせて常にアンテナをはってあらゆるお客様に接していきたいです。


その際、大切にしたいのは、他人事ではなく自分事として考えること。その気持ちはきっとお客様に伝わります。お客様との距離が近づいていけば、京田辺が地域にとって“なくてはならない存在”になれると思っています。
予想を上回る社員の変化・反応に驚き
京田辺だけではなく全店で見ても、今までは認知症と思われるお客様にどう接してよいかわからなかった社員が、講座受講後は「もしかしたら認知症の方かもしれない」と見守り、余裕をもって応対できるようになり、行動が変わりました。


また、地域包括支援センター等とのネットワークが出来たことで、高齢のお客様の応対に困った際に相談しやすくなり、実際に認知症の方の支援につながった事例も多数あります。


そして、講座で学ぶ認知症の方への応対の基本は認知症に限らず全てのお客様に通じるもの。認知症への理解が進んだことは、あらゆるお客様への柔軟な応対にもつながっています。


また、意外だったのは「家族が認知症なのでとても役に立った」「もっと早くに受講していたら、認知症の家族にもっと寄り添えたかもしれない」といった社員の声が驚くほど多かったこと。認知症の方の多さを実感するとともに、職場だけではなく、家庭・地域で役立つ学びになっていると感じます。
安心してお買い物ができる、働くことができる環境づくりのために
今後の課題は、大きく2つ。認知症サポーターとして学んだ基礎をいかに定着・活用していくか、そして高齢化に伴う社員自身の認知症発症の可能性や、介護しながら働く社員、そして認知症になった社員が働き続けることができる接し方や環境の整備です。


そのためにまず大切なのは、認知症への対応を学んで終わらせるのではなく、実践できる社員をひとりでも多く増やしていくこと。そのために、今年5月には「キャラバン・メイト養成研修」による社内キャラバン・メイト(講師)の養成を開始しました。

これからも、認知症であることがバリアにならず、あらゆるお客様が安心して日々のお買い物を楽しむことができる、すべての従業員が自分らしく働くことができる、そんなお店を全店・全社員で目指していきたいと思います。

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