この記事をまとめると
■ランボルギーニが新型スーパースポーツとなる「テメラリオ」を発表した
■テメラリオはV8エンジンに3基のエレクトリックモーターを組み合わせたPHEVだ
■テメラリオにはサーキット走行用の「アレジェリータ(軽量化)パック」が用意される
ランボルギーニ第3の電動化モデル
1875年、ある一頭のファイティングブル(闘牛)が、戦いの場へと導かれた。獰猛で、また勇敢な性格から、「テメラリオ」と命名されたこのブルは、その名のとおり闘牛史に残る死闘を演じ、後世にその名を残すことになった。そのテメラリオの名が2024年に復活を遂げることになった。今度はランボルギーニの新型スーパースポーツの名前として、そしてまたランボルギーニの歴史において大きな節目となる1台のニューモデルの名前として。
テメラリオに秘められたトピックスはきわめて豊富だ。まず、V型8気筒エンジンをリヤミッドに搭載するランボルギーニ製のモデルとしては、それは1988年まで生産が継続された「ジャルパ」以来の作であるということ。テメラリオの前身である2014年発表の「ウラカン」、さらに歴史をさかのぼるならば2003年発表の「ガヤルド」は、いずれも自然吸気のV型10気筒エンジンを搭載するモデルだったが、そのメカニズムを一新する決断を下したこともまたテメラリオでは最大の注目点といえる。
ランボルギーニはここ数年、「コル・タウリ戦略」の名のもと、将来モデルにおいての脱炭素化を目指してきたが、それは製品の電動化プロセスにおいても、ランボルギーニの真の伝統である最高のパフォーマンスとドライビングダイナミクスを保証できる技術ソリューションを探ることに常に焦点があてられてきた。
今回発表されたテメラリオは、Vバンク内にレイアウトされるツインターボによる過給を受けるV型8気筒エンジンに、3基のエレクトリックモーターを組み合わせたPHEV(これをHPEV=ハイパフォーマンスEVとランボルギーニは呼ぶ)。これは先に登場し、すでに3年分のオーダーを受けているというレヴエルトに続くHPEVモデルであり、同じくハイブリッドのウルスSEを加えて、ランボルギーニはフルラインアップでハイブリッド化を実現したことになる。コル・タウリ戦略はここにひとつの大きな節目を迎えたのだ。
モントレー・カー・ウィーク2024で行われたイベントのひとつ、カーメルのクエイル・ロッジが会場となったモータースポーツ・ギャザリングでワールド・プレミアされたテメラリオはきわめて美しく、そしてランボルギーニ車らしい個性に包まれた斬新なボディスタイルをもつモデルだった。
古くは1960年代から見られる六角形のシンボルは、このテメラリオにおいても重要なデザイン要素のひとつ。メインボディやサイドエアインテーク、デイタイムランニングライト、エグゾーストパイプといったパートには、この六角形のディテールが採用されており、さらに航空技術の要素を融合させることで、均整のとれたアスレチックなシルエットが生み出されている。
もちろんデザインのみならず、このボディはエアロダイナミクスにおいても優秀な造形で、デザイナーとエンジニアの密接な関係によって、高速走行時の安定性、冷却性能の向上と効率の最大化という主要な設計目標を達成。じっさいの性能は、リヤのダウンフォースが前作ウラカンの最終進化型ともいえるEVOと比較して103%増加したほか、機械部品の冷却効率も大幅にそれが向上している。
中央部分に溝を設けたルーフのデザインも、エアロダイナミクスを向上させるためのひとつの策だ。この溝を通り抜けたエアは、ボディに一体化されるリヤスポイラーに導かれ、ダウンフォースの向上に貢献。エンジンフードの側面が湾曲していることもまた同様の効果を生み出す。
アンダーボディの設計も、もちろんテメラリオのエアロダイナミクスには大きな効果をもたらしている。ボルテックス・ジェネレーターの装備でエアストリームを最適化しているほか、リヤデフューザーもウラカンEVOと比較して表面積で70%増、角度も4%拡大している。また、フロントセクションでは、ブレーキの冷却効率を最適化するためにロワアームに固定されたディフレクターを組み込むなど、こちらもさまざまな新技術が見られる。
テメラリオにはサーキット走行に特化した軽量化パックを用意
一方インテリアにおいても、このエクステリアデザインのグラフィックコンセプトが受け継がれていることは簡単に理解できるところだろう。低いシートポジションやスリムで軽量なダッシュボード、そしてステアリングホイールの完璧な傾きは、ドライバーに最上級のドライビングファン=走る歓びを提供してくれるほか、キャビンで使用される最高品質の素材は高級感を高め、ドライバーとパッセンジャーにより快適でエレガントなドライブ体験を演出してくれるのは間違いない。
ちなみにこのテメラリオの基本骨格となるのはアルミニウム製のスペースフレームだが、そのデザインが完全に見直されたことにより、室内空間もウラカン比でヘッドルームが34mm、レッグルームも46mm拡大した。フロントフード下のラゲッジルームには飛行機内持ち込み可能サイズのスーツケースが2個収納できる112リットルの容量が用意されるほか、シート背後にも日用品を収納できるスペースが生み出されている。
ミッドに搭載されるクロスプレーン型のV型8気筒ツインターボエンジンの排気量は4リッター。最高出力は800馬力を9000~9750rpmで発揮する高回転型で、レブリミットはじつに10000rpm。ターボの最大過給圧は2.5バールだ。これに3基のエレクトリックモーターを組み合わせるのは前で触れたとおりだが、実際にはそのうち1基はV8エンジンと、それに組み合わされるデュアルクラッチ式の8速ギヤボックスの間にレイアウト。ギヤチェンジを経てもレスポンスを一貫させるトルク・ギャップ・フィラーとしての機能ももち合わせる。サウンドへの強いこだわりも、このV型8気筒ユニットでは見逃せないポイントだ。
残りの2基のエレクトリックモーターは、左右それぞれのフロントアクスルに組み合わされ、前輪を駆動する役割を担う。これらのモーターによるサポートを受けたシステム全体の最高出力は920馬力。12気筒モデルのレヴエルトが1015馬力の最高出力であるから、乾燥重量の差(レヴエルトは1772kg、テメラリオは1690kg)や、テメラリオのコンパクトなボディサイズ(全長×全幅×全高で4706×1996×1201mm)を考えれば、両車の運動性能、そしてスーパースポーツとしての刺激は、あるいはかなり近い水準にあるのではと想像することも可能だろう。
エレクトリックモーターが前輪の駆動を担うため、テメラリオは基本的には4WDの駆動方式をもつことになるが、ゼロエミッション走行を可能にする「チッタ」モードで、かつハイブリッドモードを選択するとエンジンはスタートしないため、モーター駆動のみによるFWD走行が実現することになる。
ランボルギーニはほかに「ストラーダ」、「スポルト」、「コルサ」、「コルサ・プラス」の各走行モードをテメラリオに設定。バッテリーの充電モードには「リチャージ、ハイブリッド、パフォーマンス」の3つが用意されているが、これと走行モードの組み合わせによって、ドライバーはテメラリオの走りの変化を、敏感に自身の身体で感じることができるという。
参考までにタイヤはブリヂストン製のポテンザ・スポーツで、サイズはフロントが255/35ZR20、リヤが325/30ZR21の設定となる。
テメラリオに搭載されるバッテリーパックは、長さが1550mm、幅と高さはそれぞれ301mm、240mmというもので、総容量は3.8kWh。走行中の回生ブレーキやV型8気筒エンジンからの充電のほか、家庭用電源などから最速30分でゼロから満充電までを可能にするのも特長だ。
装備面ではほかに、新しいヒューマン・マシン・インターフェイスであるパイロットインタラクションの採用や、助手席側にスリムな情報ディスプレイがレイアウトされたことなども見逃せないところ。インストゥルメントパネルもデザインが一新され、より視認性の高い機能的なものに。テレメトリーによりサーキットでのパフォーマンスを記録して走りを改善できるランボルギーニ・ビジョンユニット(LAVU)が搭載されたことも、サーキット走行を楽しむ機会の多いカスタマーには歓迎すべきポイントだろう。
そして、このようなカスタマーにもうひとつ気になる存在といえるのが、今回ランボルギーニが初めて設定した、よりサーキット走行にフォーカスした仕様となる、「アレジェリータ(軽量化)パック」。ボディコンポーネントだけで12.65kg、ほかに軽量インテリアエレメントやカーボンリム、チタン製のエグゾーストシステムなどを組み合わせれば、車重はスタンダードなテメラリオ比で25kg以上に達するという。エアロダイナミクスがさらに改善されるのも、このモデルの大きな魅力である。
テメラリオの誕生で、コル・タウリ戦略下でのひとつの節目を迎えたランボルギーニ。続く第4のモデルの誕生、そして完全ゼロエミッション車の登場と、ステファン・ヴィンケルマン率いるランボルギーニからは、これからもまだまだ多くのトピックスが発信されそうだ。