結婚指輪のつけ心地を良くするために、30年間指輪の内側の形状の開発にこだわり続けたストーリー

2024.08.20 14:00
株式会社GNHの代表渡部博行は、結婚指輪に40年近く関わり、様々な新しい風を結婚指輪に吹き込むことが出来ました。そのメインは、一目でわかる斬新なデザインやダイヤモンドのアレンジでしたが、目に見えない結婚指輪の内側の進化にも深く関わっていたのです。


このストーリーでは、結婚指輪のつけ心地を良くするために、指輪の内側の形状を「内甲丸(うちこうまる)」として完成させるまでの経緯について振り返ります。結婚指輪は外から見えない内側にも幸せが詰まっているのです。
株式会社GNH代表渡部博行
日本の結婚指輪は30年前に大きく変化した
株式会社GNH代表の渡部博行は、1989年から結婚指輪に関わるようになりました。当時勤務していた住友金属鉱山が新規事業としてジュエリービジネスに進出することになり、そこに配属されることになったからです。


バブル期だったので、重厚長大の大手企業が本業とはあまり関連のない、見た目に華やかな事業を展開するのが流行していて、そのひとつの例だったと言えるでしょう。しかし全くノウハウを持たない新規分野の商売だったので、現在では考えられないくらい高額のジュエリーが売れていた時代だったにも関わらず、業績は低迷を極めました。銀座に大きな店舗を出したのに、まさに閑古鳥が鳴く状況です。そのため、渡部は打開策としてジュエリーの素人でも比較的取り組みやすく、競合各社が興味を示していなかった結婚指輪に活路を求めました。


当時の結婚指輪は、万年筆メーカーが圧倒的なシェアーを占めていて、ティファニーやカルティエ等の海外ブランドは結婚指輪をほとんど扱っていませんでした。高額のジュエリーが売れていた時代なので、ジュエリー業界の中で、ペアで5万円前後という低単価だった結婚指輪は全く注目されていなかったのです。その中で渡部は偶然知り会ったジュエリー製造メーカー、株式会社香輝の黒岩聰と共に、新しい結婚指輪の開発に没頭しました。渡部がジュエリーの素人であったことが逆に幸いして、結果として日本の結婚指輪に全く新しい風を吹き込むことになります。
国際的デザインコンテストで入賞。立体的デザインが結婚指輪の潮流を変える
この頃の結婚指輪メーカーは万年筆や時計バンド等の部品を作るのが本業で、結婚指輪も万年筆のペン先や時計バンドのパーツを作るように、機械で金属加工をして大量生産(製造方法としては鍛造)していました。その指輪の形状は平べったく薄い帯状の輪っかで、重量はペアで5グラム程度です。薄くても硬くて丈夫な指輪だったのですが、平面的でデザイン性に乏しく、そのつけ心地は角があたり固い感触のものでした。


黒岩と開発した結婚指輪は、製造方法が一般的なジュエリーで採用されていた鋳造。中でも立体的なフォルムで作られた結婚指輪(重量はペアで約10グラム)は、当時としては画期的なデザインで、1994年の国際的デザインコンテストに入賞しました。この結婚指輪は若いカップルから大きな支持を受け、渡部の店舗の業績は一気に向上します。翌年にはそのコピー品が同じデザインコンテストに大量にエントリーされたそうですが、いずれにせよこれがきっかけになり、日本の結婚指輪は鋳造が主流となり
、各社の努力により大きく進化発展していくことになります。
コンテスト入賞の立体的デザイン結婚指輪
指輪の外側だけでなく、内側の形状にも着目してつけ心地を快適に
鋳造の結婚指輪が普及するにつれ、デザインの自由度は大きく広がりました。形状も様々になりましたし、ダイヤモンドを複数セットしたデザインも増えました。それに伴い単価が上昇したのと、バブル崩壊で高額のジュエリーが売れなくなってきたので、国内外の多くのジュエリーブランドが結婚指輪に注力するようになりました。
渡部と黒岩は今まで使われていなかった素材(ホワイトゴールド)や材料(ピンクダイヤモンドや、四角いダイヤモンド)を使った、斬新な結婚指輪を相次いで発表し、日本の結婚指輪マーケットをリードしていきました。


その中で黒岩は、結婚指輪の見た目のデザインだけではなく、外からは見えない指輪の内側にも着目しました。


従来の鍛造の結婚指輪はサイズ直しが出来ないし、つけ心地も良くないため、結婚後数年で着けなくなってしまうことが多かったのですが、鋳造の結婚指輪はサイズ直しが可能で、丁寧に使えばまさに一生ものです。ずっと着けっぱなしにすることも珍しくない結婚指輪は、デザインが優れているだけではなく、快適でストレスのないつけ心地であるために内側も大切だと考えたのです。これも結婚指輪に関する全く新しい視点でした。






黒岩の工房ではその当時、ファッションジュエリーの指輪を内側の角を丸く磨いて(指に接する面はフラット)、指通りを滑らかにする仕立てにしていました。黒岩はこれを一歩進めたものを考えました。指輪の形状で外側がフラットなものを平打ち、ドーム状に曲線になったものを甲丸(こうまる)と呼びます。黒岩は指輪の内側もフラットではなく、曲線に仕上げればつけ心地が大きく向上すると確信したのです。そして、その指輪を「内甲丸(うちこうまる)」と名付けました。
内甲丸(うちこうまる)開発を支えた高野章の挑戦
黒岩は卓越したアイデアマンでしたが、そのアイデアを実際に指輪の形に落とし込むことは容易ではありません。鋳造の結婚指輪の場合、銀でデザインの原型を製作する工程があり、その原型の出来不出来が、実際の製品の完成度を左右してしまいます。


幸いなことに黒岩の工房には、気鋭の若い原型職人高野章がいました。黒岩が結婚指輪で次々と新機軸を打ち出すことが出来たのも、高野の存在があったからこそです。黒岩は高野に「内側が甲丸になった結婚指輪を開発しよう」と打診しました。
  原型職人高野章


最初は高野も面くらいました。斬新な形状をした結婚指輪をたくさん開発してきましたが、指輪の内側までは考えたことがなかったからです。それに小さな指輪の外側ではなく、内側を磨いて形を整えるのは簡単なことではありません。


それでも高野は試作に取りかかりました。おそらくこれは世界でも初めてのチャレンジなので、それを実現させるのはやりがいのある仕事だったのです。試作を重ねるうちに、内甲丸の結婚指輪を作るには、指輪にある程度の幅と厚みが不可欠であること、外側のデザインとのバランスの最適化が難しいこと等、多くの知見を得ることが出来ました。






その頃渡部は、新たなデザインの結婚指輪を発表して、結婚情報誌ゼクシィに広告を出すたびに、コピー品が大量に発生することに心を痛めていました。当時の日本の宝飾業界は、意匠の権利関係が野放し状態だったのです。いささか腹を立てていた渡部は、開発中の内甲丸を利用して、簡単にコピー出来ない結婚指輪を考えました。


それは指輪を切った断面の、上部が尖っていて下部が丸くなっている「たまねぎ」の形をしたデザインのもの。高野は苦労の末これを開発、渡部は「幸福のたまねぎ」の名前を着けてこれを売り出し、ヒット商品になりました。広告の写真を撮影する際に、たまねぎの形の指輪の断面図も加えましたが、長年ジュエリーを撮影している巨匠のカメラマンが「指輪を切って、断面を撮影するなんて聞いたことがない」と驚いていました。
「幸福のたまねぎ」断面図イメージ
30年に20回以上も改作を重ねてたどりついた内甲丸結婚指輪の到達点「Moimoi(モイモイ)」
内甲丸の結婚指輪が誕生してから、30年近い年月が経過しました。様々なデザインの結婚指輪がマーケット全体に広がっていったように、内甲丸を自称する結婚指輪もあちこちに見られるようになりました。そのこと自体はユーザーにとっても喜ばしいことですが、実態として現在の内甲丸結婚指輪には、内容に差があるようです。指輪の内側の角を丸めただけで、指に接する面はフラットのものも内甲丸として販売されています。






2007年に黒岩が病に倒れた後も、渡部と高野は内甲丸の結婚指輪をブラッシュアップさせていきます。様々な試行錯誤により、外側のデザインを考えずに内甲丸のレベルだけを向上させるには、まっすぐのシンプルでプレーンな結婚指輪が最適とわかりました。一見するとごく平凡な、何の変哲もないデザインの結婚指輪です。渡部と高野は、このデザインの結婚指輪の改良を重ねました。外側はプレーンなデザインの指輪の、内側の形状にこだわり続けたのです。その指輪の内側は、見た目はほぼ同じでも、指を通すとつけ心地が微妙に変化するのです。




よく町工場の金属加工の神業として紹介されるような、まさにミクロン単位の仕上げの違いがポイントだったのでしょう。


一方で、結婚指輪のつけ心地の良さを顧客に伝えるには、文章や画像で見せるだけでは不十分で、指輪を実際に指に通して実感してもらう必要があります。


渡部は2007年に独立して結婚指輪の会社を立ち上げましたが、内甲丸の結婚指輪の魅力をPRするために、銀で製作した結婚指輪を自宅に送って試着してもらう、新しいサービスを開発しました。高野の作った結婚指輪の魅力を伝えるための最適の方法と考えたのです。このサービスも業界全体に広がり、今では一般的になりましたが、指輪の内側にとことんこだわったブランドは、他に例を見ないようです。






渡部と高野はその後も毎年のようにプレーンでシンプルな結婚指輪の改作を続け、その回数は30年で20回にも及びました。


そしてたどり着いたのが、現在Marriaged marriage(マリッジド・マリッジ)というブランドで「Moimoi(モイモイ)」という名前で販売されている結婚指輪です。その指輪を指に通すと、ぬめっとした吸い付くような不思議な感触で、何とも表現出来ない、なめらかなつけ心地です。まさに内甲丸の結婚指輪の到達点と言えるでしょう。


この指輪が発売されてから4年以上経ちますが、現在のところ新たに改良する必要性は感じられないのです。黒岩、高野、渡部の30年にわたる結婚指輪に対する思いが集約されたのが、この「Moimoi(モイモイ)」という指輪です。その結婚指輪は外見はまったく平凡なのですが、内側が幸せな暮らしを約束してくれるようです。
内甲丸の結婚指輪Moimoi
Moimoiの側面


結婚指輪を選ぶ際に、一番重視されているのは見た目のデザインでしょう。その外観のデザインは、30年の間にバラエティー豊かになり、劇的に進化しました。それと同時に、指輪の内側の形状も着々と進化していたのです。それはとても地味な変化で、一般のユーザーはもちろん、ジュエリー業界内ですら、気づいている人はほとんどいないかもしれません。それでも、毎日着用する結婚指輪のつけ心地が向上したことには、とても大きな意義がありました。そこには、内甲丸の結婚指輪を考案したアイデアマンの黒岩とそれを形にした高野、そして世の中に普及させた渡部の3人の人知れない奮闘がありました。


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