【試乗】電動化してもアルファはアルファ! 賛否両論の「顔」も意外にアリ! 改名騒動で話題のアルファロメオ・ジュニアはファンを裏切らない走りだった

2024.07.30 17:00
この記事をまとめると
■アルファロメオ・ジュニアに海外で試乗
■EVとMHEVをラインアップする
■内外装や走りについて詳しく解説
写真で見るよりカッコいい!
  アルファロメオって幸せなブランドだよな……と感じるのは、ニューモデルがデビューすると必ずクルマ好きの間で大きな話題になるからだ。もちろんほかのブランドのニューモデルだって話題にはなるが、アルファの場合は頭ひとつ飛び出しているように感じられる。とりわけSNSの時代となってからは、写真とニュースで知った新型の良し悪しについての議論を、かなり頻繁に見かけるようになった。
  そして、アルファって幸せなことなのかそうじゃないのか、たぶん幸せなことなのだろうけど、大抵の場合その議論の初期段階では、否定的だったりする。アルファ愛が狂人だったり自分の好きなモデルへのこだわりが強かったりして、新しいモノをスッと受け入れることができない傾向があるからだ。
  けれど、これはアルファにとって幸せなこと、というよりアルファロメオの歴代デザイナーの実力というべきなのだろうが、そうしたモデルたちも時間の経過とともに“今いまになって見ると結構いいよね”みたいに、次第に認められるようになることがほとんどだ。たとえば “醜いジュリア”と呼ばれた初代のジュリア・ベルリーナや“イル・モストロ(=怪物)”とニックネームされた2代目SZなどは、いまでは歴史的な名車と呼ばれている。
  今年の4月に“ミラノ”という名前でデビューしたこの“ジュニア”も、当初は散々ないわれようだった。写真や動画で見るスタイリングが、まるで長い歴史の流れをブツッと断ち切ったかのような挑戦的に感じられるモノだったこと。そして、ラインアップがバッテリーEVをメインとしたMHEVとの2本立てになったこと。そのふたつを嘆く声をずいぶんと耳にしたし目にもした。それも世界中で、だ。
  アルファロメオのファンに多い純内燃エンジンのクルマがラインアップにないのは時代の流れ、それは仕方のないことだと思う。アルファがモーター駆動であってもドライビングプレジャーの大きいクルマを作ることはトナーレで確認できているから、ちょっとした期待感もあった。ただし、スタイリングデザインに関しては、嘆く気もちがわからないでもない。ボク自身も最初に写真で見たときに、軽く戸惑ったからだ。
  けれど、実車はなかなか悪くなかった。パッと見て思わず “写真で見るよりカッコいいじゃん”とクチにしたくらいだ。美醜でいうなら、まぁたしかに美ではない。でも、何だか目が惹き付けられちゃう吸引力がある。姉にあたるステルヴィオやトナーレのフォルムを継承しつつ進化させたようなその姿は、低いルーフと豊かなフェンダー、フロントからリヤにかけてを滑らかに上下しながらつなぐショルダーラインなどで構成されていて、何だかスポーティなハッチバックのよう。見る角度によっては、日本の環境にもちょうどいいジュリエッタよりほんのわずかであっても全長と全幅が小さいとは思えないほどグラマラスに感じられる。
  ほとんど糾弾に近いくらいのいわれようすらされていたフロントのスクデット(=盾の部分)も、意外やそう悪くはなかった。アルファロメオの紋章のなかにも刻まれる大きな十字とビシォーネが透かし彫りのようになった新しい意匠のスクデットは、“プログレッソ”と呼ばれる高性能モデルと上級仕様のためのもの。おそらくアルファロメオが獲得を狙っている、若く新しいユーザー層に向けたアプローチなのだろうが、それが古くからの熱心なファンには違和感となったのだろう。発表のときには照明などで故意に浮き立たせていたのか、自然光の下で見た実物はブラックの色調や光沢感が巧みに抑えられている感じで、思いのほかすんなり受けとめることができた。
  おまけにしばらくクルマを眺めていたら、“結構カッコいいじゃん”という気もちがジワジワ膨らんでくる。2代目SZが発表されたあとも、そんな感じだった。アルファロメオはどういう魔術を使っているのだろう……?
  一方でインテリアは、コンサバといえばコンサバだ。ただし、アルファロメオならではの、という但し書きがつく。2眼に盛り上がるメーターナセルは、初代ジュリアの1750GTVあたりの時代に生まれたトラディショナルな意匠。156の時代以降は、ほとんどのモデルに採用されている。無駄な派手さや奇をてらったようなところがひとつもないのも、アルファロメオの公式だ。
  インフォティメントシステム用の10.25インチ・タッチモニターがコンソールの内側にレイアウトされるのは新しいが、雰囲気としてはステルヴィオやトナーレの流れを汲んだものといえるだろう。装備類に不足はなく、使われているマテリアルにも安っぽさはなく、全体的にBセグメントSUVとしてはプレミアム感の高い仕立てになっていると思う。
アルファならではのハンドリングを実現
  期待していた走りはどうだったか。
  ジュニアの基本骨格は、ジープ・アベンジャーやフィアット600eにも使われている、eCMPというステランティスのモジュラー型プラットフォームだ。が、今回の試乗車だったラインアップのなかのハイパフォーマンス・バージョン、ジュニア・エレットリカ280ヴェローチェには、アルファロメオらしいドライビングダイナミクスを作り上げるためのさまざまな趣向がこらされていた。ブランド違いの姉妹車たちとはもちろん大きく異なるし、同じジュニアのなかでもヴェローチェのみ特別な仕様になってもいるようだ。
  どんなところかといえば、アップライトを専用設計とし、前マクファーソンストラット+後トーションビームのサスペンションのジオメトリーと構造の一部を変更、油圧ストッパー付きのダンパーを採用、ステアリングギヤ比をBEVとしてはクイックな14.6対1に設定、フロントブレーキにφ380の大径ディスクを選択、さらにはトルセンDという機械式LSDを新開発、と多岐に渡っている。
  トルセンDは、2006年に147ではじめて導入したQ2システムの、トルク感応型機械式LSDの働きを電子制御する仕組みを大幅に進化させてきたもの。ステルヴィオでは11.8:1のスーパークイックなステアリングギヤレシオ、トナーレでは前下がりのロール軸と、ハンドリングを彩るための“飛び道具”のようなものがあったわけだが、ジュニア・ヴェローチェではこれがそれにあたるのだろう。
  その土台に搭載されるパワーユニットは、前輪を駆動する最新のM4+モーターと54kWの高エネルギー密度バッテリーの組み合わせ。280馬力の最高出力と345Nmの最大トルクを発揮し、5.9秒という0-100km/h加速、200km/hの最高速度、そしてWLTPサイクル334kmの航続距離を可能にしているという。
  今回の国際試乗会は、1962年にアルファロメオのレーシングカー開発のためのテストコースとして誕生した、いわばアルファロメオの聖地。そして現在はステランティス・グループ全体のプルービンググラウンドになっているバロッコの地。いつもの高速主体のサーキットだけじゃなく、さまざまな曲率のコーナーもアップダウンもいろいろなタイプの路面もそれらの複合技もある、一般道を模した20kmほどのサーキットも走ることができた。その直前に立ち話をしたダイナミクス担当のチーフエンジニアは、“このクルマはレーシングカーじゃなくて、ファミリーカーだからね”なんて笑っていたが、たしかにそうなのかもしれないけど、いや、そんなもんじゃないということは走りはじめて3分もしないうちに嫌でもわかった。ちっとも嫌じゃなかったけど。
  最初に心が動かされたのは、滑らかなフィーリングだった。モーター駆動のクルマは加速が滑らであって当然と言われるけれど、ジュニアのそれはクラスでもっとも上質といえるほどの気もちよさ。最新のM4+というモーターの賜物だろうか? パワーステアリングのフィールもそう。切り込んでいくときの感触が何ともいえず心地いい。乗り心地も同じく。サスペンションはどちらかといえば硬めではあるのだけど、それを受けとめる車体がかなり強固で脚がよく働くから、伝わってくるのはしなやかさと滑らかさ。ピッチングやロールも適度に抑えられていて快適だ。これもまたクラスを越えた上質な乗り味といっていいだろう。
  アクセルペダルを奥まで踏み込むと、その滑らかさをたっぷりと感じさせながら、結構な力強さでダッシュを開始する。車重が1590kgと同クラスのライバルたちよりおよそ200kg軽いことも手伝って、数値以上に強力だ。その爽快さに、思わずニヤリとしてしまう。鳥肌が立つほど速いわけじゃないが、BセグのSUVであることを考えたら十分以上。いや、普段使いのクルマであるなら、むしろこのくらいのほうがちょうどいい。
  最大の喜びは、いうまでもなくハンドリングだった。アルファロメオは環境問題がクローズアップされて個性的な内燃エンジンを作りにくい時代になってから、とくにここにこだわっている。スポーツセダンのジュリアはいうに及ばず、SUVの姉貴分であるステルヴィオやトナーレも、素晴らしいハンドリングでドライバーを魅了してくれる。末妹にあたるジュニアも、ここに一点の曇りもない出来映えだった。
  スッとステアリングを操作すると、その瞬間に前輪と後輪が同調するように俊敏に反応し、旋回を開始、ドライバーが望んだラインをピタリとなぞっていく。進入時のオーバーステアもない。脱出時のアンダーステアもない。タイヤは常にしっかり路面をとらえ、蹴り出し、姿勢を乱すことなく、コーナーをクリアしようとする。トルセンDの効き目が顕れているわけだ。しかもかなりの速さでグイグイ曲がっていくわりに、伝わってくるフィーリングに不自然さはない。楽しい。気もちいい。病みつきになる。ステルヴィオほど初期反応は鋭くないし、トナーレみたいに抉り込むような曲がり方はしないけれど、“曲がる”ことにまつわる印象は、むしろジュニア・ヴェローチェのほうが鮮烈といえるかもしれない。
  そこにはバッテリーEVならではの低重心と重量バランスのよさも好影響を与えているわけだが、さらに車重が1590kgとライバルたちより200kgほど軽いことも効いている。その軽さは当然ながら発進加速にも中間加速にもいい作用を与えていて、ジュニア・ヴェローチェのスタートダッシュもコーナーからの立ち上がり加速も、軽快にして爽快だ。0-100km/h加速5.9秒、最高速度200k/hと、BセグメントのSUVとしてはかなり俊足な部類に入るだろう。
  カタチは好きずき──きっと見慣れて好きになっていく人が多いはず──だが、なかなか悪くない。乗り心地がいい。感触は上質。胸がすくぐらいの速さはある。ハンドリングは絶品。何よりサイズが日本にもマッチする。ほかに何が必要? と思った。
  たしかに昔ながらのアルフィスティが望むような快いサウンドはない。心にシンクロするような心地よい振動もない。けれど、それらを補えるだけの楽しさと気もちよさが、ジュニア・ヴェローチェにはある。
  この電動アルファは、誰もが想像していたよりも、遙かに“アルファロメオ”だったのだ。

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