フェラーリ250GTOを作った伝説のエンジニア! ビッザリーニの名を冠した「ビッザリーニ・ジョット」の驚くべき中身

2024.07.20 17:30
この記事をまとめると
■アルファロメオやフェラーリのエンジニアとして活躍したジョット・ビッザリーニ
■ビッザリーニは1961年に独立すると1965年から1968年にかけて5300GTストラダーレを製作販売
■2018年に復活したビッザリーニ社は2023年にニューモデルの「ビッザリーニ・ジョット」を発表した
世界最高額で取引されるフェラーリ250GTOを作ったエンジニア
  ジョット・ビッザリーニ(Giotto Bizzarrini)。昨2023年に96歳で他界した、この優秀な自動車エンジニアの名前は、イタリア車のマニアには広く知られているところだろう。
  彼は1950年代にピサ大学に進学するが、そこでの卒業論文のテーマは、フィアット・トポリーノを完全に再設計し、より魅力的な小型車として生まれ変わらせること。エンジンのさらなるチューニングはもちろんのこと、それをシャシーの内部に移設してハンドリングを向上させるなど、その効果はきわめて大きなものだったという。
  ピサ大学を卒業したビッザリーニは、わずかな期間ではあるが同所で教鞭をとったのち、アルファロメオのシャシー開発部門に職を得る。だがそれは、エンジンエンジニアを目指していた彼にとっては、必ずしも満足できる配属ではなく、幸運にも実験部門に移動できたことで、テストドライバーとしての技術を身に着けることも可能になった。
  そして1957年、ビッザリーニはあのフェラーリに移籍。彼を待っていたのは開発責任者としてのポストだった。フェラーリ時代のビッザリーニが、いかに優秀な仕事を残したのかは、その時代に担当したモデルを振り返れば一目瞭然となる。250GT SWBやその進化型といささか無理な論理でホモロゲーションを取得した250GTOなどはその代表例で、とりわけ250GTOは、ル・マン24時間レースでの無残な敗退を繰り返さぬようにというエンツォ・フェラーリの絶対的な命令を背負って開発された、エアロダイナミクスに富むモデル。
  ビッザリーニはフロントの投影面積を縮小し、ボンネットを長めに設計。V型12気筒エンジンを可能なかぎりシャシーの後方に移動させ、かつドライサンプの潤滑方式の採用で重心の低下にも挑戦した。その250GTOがレースシーンでどれだけの活躍を見せたのかは、改めて解説するまでもないだろう。
新生ビッザリーニが船出するも本人の姿はなし
  だが、ビッザリーニがフェラーリに在職した期間は決して長いものではなかった。1961年、エンツォ・フェラーリとの確執を理由に、フェラーリから一気に5人もの有名なエンジニアが退職。俗に「フェラーリ・ナイト・オブ・ザ・ロングナイブズ(長いナイフの夜)」と呼ばれるこの事件によって、ビッザリーニはカルロ・キティなどほかのエンジニアとともにATS(アウトモビリ・トゥーリズモ・エ・スポルト)社を設立。さらに1963年にはフリーランスのエンジニアとして、創立直後のランボルギーニのために新型のV型12気筒エンジンを設計している。
  ビッザリーニはその後、自らの名を掲げたイソ・アウトヴェイコリ社を創立し、ここでリヴォルタIR300やグリフォなどのニューモデルを開発。1965年から1968年にかけてシンプルに社名を変えたビッザリーニ社からリリースされた5300GTストラダーレなども、近年さらにマニアからの注目度を高めているモデルの一台だ。
  そのビッザリーニが復活するというニュースがイタリアから届いたのは2018年のことだった。コンセプトカーの「ビッザリーニ・5300GTリバイバル・コルサ」とともに復活の狼煙をあげたビッザリーニは、2023年にはニューモデルの「ビッザリーニ・ジョット」を発表。
  そのスポーティなボディデザインは、ジョルジョット・ジウジアーロと、その息子であるファブリッツィオ・ジウジアーロの手によるもので、かつての5300GTストラダーレで用いられたディテール、たとえばフロントマスクの細いスリットや三角形のBピラー、ホイールアーチと巧みに連なるリヤウインドウ・スクリーンなどは、その象徴的な部分だ。
  搭載されるエンジンは、コスワースとの共同開発によるV型12気筒で、その排気量は6626cc。それはビッザリーニの誕生日である1926年6月6日に由来する数字だ。カーボンファイバーを積極的に用いた軽量なボディ構造は、剛性面でも他車に対して大きなアドバンテージをもち、もちろん空力面でもF1マシンから継承したディヘドラル・フロントスプリッターやリヤデフューザー、そして固定式ヘッドライトなどが、強力なダウンフォースを生み出すために機能する。
  ビッザリーニ・ジョットは、ただ単に有名なエンジニアの名をリバイバルしただけの作ではないのだ。そしていまでも悔やまれるのは、ジョット・ビッザリーニ自身が、このモデルのプロモーションに加わることができなかったことだろうか。
  我々はまた、ひとりの歴史的エンジニアを最新モデルのデビューと引き換えに失ったということになる。

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