この記事をまとめると
■2024年4月より日本でもライドシェアサービスがスタート
■トラブルが予見されていたライドシェアだが日本よりも海外のほうが圧倒的にトラブルが多い
■日本でライドシェアを広げる前にタクシー業界とのバランスをいま一度見直す必要がある
ライドシェアが日本でもスタートして3カ月
日本国内では、地域や稼働時間などを限定し、さらにタクシー事業者が運営管理する「日本型ライドシェア」が2024年4月からスタートしている。政府は2024年6月に、海外で展開されているような、タクシー事業者以外による本格的なライドシェアサービス解禁について結論を出すとしていたのだが、結論は先送りとなった。
ライドシェアサービスの拡大については、犯罪、とくにレイプ犯罪増加の温床になるのではないかとの懸念がメディアでたびたび取り上げられている。たしかに筆者がアメリカを訪れ、現地のテレビ放送を見ていると、過去には「交通事故の示談交渉請け負います」がキャッチコピーだった弁護士事務所のコマーシャルが、「ライドシェア利用時のトラブルを解決します」にここ数年変わりつつあることに注目していた。
日本型ライドシェアのように限定的に稼働しているものとは異なり、実際に本格導入している国では、まさに庶民の足となっているのがライドシェアサービス。実際にトラブルに遭った人にとってはまことに申し訳ない話にもなるが、サービス利用の活発な地域ほど、トラブルも目立ってしまっているようにも見える。
他人同士が交わり、そして複雑な現代社会ではトラブルを根絶することはなかなか難しい。世界一サービスが行き届いているとされる日本のタクシーサービスですら、運転士と乗客とのトラブルは絶えない(原因がどちらにあるのかを問わず)。そして筆者も、本格的なライドシェアサービスを日本で導入した結果、懸念されているトラブルが絶対起きないとは口が裂けてもいえない。ただ、筆者の少ない経験からいえるのは、日本と世界とでの公共交通機関利用時の危険頻度とそのレベルの違いは大きい(諸外国のほうがはるかにリスクは高い)。
遠い昔、筆者が大学生の頃に初めてアメリカを訪れたとき、ロサンゼルス地域でハリウッドからダウンタウン(長距離)まで路線バスに乗ったことがある。そのとき乗り合わせたヒスパニック系と思われる若者の集団のなかのひとりがおもむろに車内でナイフを見せてきた。また、サンフランシスコで路線バスに乗ったときには、運転士に「自分の近くに座っていろ」といわれたことがある。後に聞いた話だが、アメリカがいまよりも人種差別が激しかった頃には、バスの後部座席は「黒人(有色人種)専用」となっていたとのこと。そして、その名残りもあり、その後は犯罪集団に入っているような、危ない人が座る場所となっているとのこと。
確かにアメリカで路線バスに乗ると、中扉から後ろにはあまり座ろうとする人がいないことにその後に気がついた。
タクシーについては、アメリカではそれほど危険な目にあったことはなく、かえってフレンドリーな運転士にあたることが多く、目的地まで会話が弾むことが多かった。しかしアジア圏では、外国人とわかると料金メーターを入れずに価格交渉(もちろんメーター料金より高い)されることは当たり前であったし、ロシアではマフィアが経営する白タクに乗って殺されかけたこともあった。日本でもそれなりにタクシー運転士は危険が伴う仕事なのだが、諸外国ではその比ではなく常に危険と隣り合わせとなっているので、運転士が銃やナイフなど武器を携帯して乗務しているのも半ば当たり前といっていいだろう。
諸外国では「公共交通機関=危ない乗り物」というのが定説的な見方となっている。アメリカでは、よほどの事情がないかぎりは日常生活で公共交通機関を利用する人は限定的だ。そのなかでもニューヨーク市は東京に近いぐらい地下鉄やバスの利用が一般的ともされているが、ここ数年は移民が大量流入したこともあって治安がかなり悪化。とても日本のように安全に利用できる環境にはなっていないようである。
スマートフォンを介したサービスはメリットだらけ
このようななか、スマホアプリによるマッチングサービスとなる「ライドシェア」は、筆者個人としては諸外国において「安全な移動手段」を開拓したものと考えている。スマホを介して車両と利用者をマッチングさせ、スマホに目的地入力もするので、乗車時に運転士との会話でのやりとりがまずなくなった。そして、ライドシェアは事前に運賃が確定するので、明朗会計となり料金のぼったくりにもまず遭わなくなった。
雨天時の夕方など、繁忙時間帯の中国の大都市でタクシーに乗ると、乗ってきたのが外国人だとわかった運転士は、まずメーターは入れてくれず料金交渉となる。ようやく交渉に妥結して出発しても、渋滞がひどくなると「予想外に時間がかかるのでさらに料金を追加してくれ」といいだしてくることがほとんどであった。とにかくこのような面倒な料金交渉から解放されたのは、とにもかくにもライドシェアアプリのおかげである。
また、スマホを介してマッチングさせて利用すると、乗車後には運転士の評価をしたり、スマホ上でチップを料金に上乗せしたりするので、運転士の対応もみるみる改善された(よくなった)。指定時間にまずやってこなかったインドでは、時間どおりにとりあえず車両に乗ることができるようになった。どの車両にいつ乗ったのかという履歴が残ることもメリットとしては大きい。記録が残るし、評価次第では身入り(チップ)もよくなる。このような環境下で進んで犯罪に走ろうとする運転士はそれほど多くないものと考えている。
アジア圏ではアプリ配車による「バイクタクシー」も多く走っている。見ていると若い女性の利用も目立っている。年間を通じて日本の真夏のような天気の地域なので、そのなか薄着の女性がバイクの後席に座るのだから、ライダーにしがみつくなどライダーとの密着度も結構高いように見える。
そのような状況下、犯罪が極端に目立つ(とくに女性をねらった)サービスならば、ここまで若い女性が積極的に利用しないのではないかなどと考えながら、いつもその様子を見ている(筆者は事故の側面でのリスクを考えてバイクタクシーの利用を控えている)。
ちなみに2019年比でレイプ犯罪件数を比較すると、日本はアメリカの約4.4%となっている。プラットフォーマーも、運転士の犯罪を放置しようとは考えていないのは当たり前の話。そして抑止のためにさまざまな「仕掛け」をしているのもまた否定できない事実だろう。
さらに、「ライドシェアを解禁したら女性が犯罪に巻き込まれる」とのことだが、令和のいまであっても日本のタクシーでそれがまったくないというわけではない。
タクシーではいまだに「ワンメーター」ともいわれる短距離利用だとわかると運転士に舌打ちされたり、とたんに態度が豹変するという、犯罪ではないけど嫌な思いをすることがある。しかし、空いている時間(非常に限られた時間)を利用した副業ともいえるライドシェアでは、長距離移動よりも短距離で稼働時間内に回数を稼げるほうが歓迎される。事実、諸外国では余裕で徒歩圏の移動で利用しても、筆者は文句をいわれる経験をしたことはない。
それでも気になる人は、よりリスク回避できるタクシーを利用すればいいだけで、ライドシェアを全面解禁したからといってタクシーがなくなるわけでもない。
しかし、日本でライドシェアサービス導入の論議が行われ始めたときとは、タクシーを取り巻く環境は大きく変わった。それはタクシーの稼働台数が増えており、さらにタクシー配車アプリの普及もあり、そのようなサービスに加盟している事業者か否かも手伝い、運転士の収入も格差が広がってきているのである。今回、本格的なライドシェア導入への結論が先送りになったのだから、いまいちどタクシーの現状を再確認して、解禁するかどうかを議論して欲しい。
どうするか悩む前に、「とりあえずやってみよう」と考えると同時に、「問題が生じたらすぐとりやめよう」という英断ができなければ、ライドシェアに限らず、時代に即した新しいものを採り入れることは難しいものとも考えている。