積水化学グループ【世界初】「割れない採血管」を生み出し、次なる挑戦へ

2024.07.04 10:00
人間ドックなどの採血時、針を刺したまま採血管を何本も変えていく様子を見た人は多いだろう。採血管を入れ替えるたびに、自然に血液が吸い上げられていくのは採血管内外の圧力の差を利用して吸引しているからだ。そして何本も変えるのは検査内容に合わせて、採血管に入っている薬剤などが異なるためである。現在の採血管はプラスチック製がほとんどだが、これを世界で初めて実用化したのが積水化学グループだ。
感染リスクから医療従事者を守る「割れない採血管」
「1979年から、積水化学グループの基盤技術である高分子配合技術をベースに、新たに臨床検査薬分野の製品開発に取り組むメディカル・プロジェクトが発足しました。当時、採血はすべてガラス製の採血管で行われていました」


そう話すのは、積水化学グループで長らく真空採血管の開発をしてきた、積水メディカル  徳山工場の五十川浩信だ。主流だったガラス管は検査中の落下などで破損し、血液が飛散することによる感染リスクの問題などがあり、強度に優れた「割れない採血管」のニーズが高まっていたのだという。
積水メディカル 徳山工場 五十川浩信


それにしても、なぜ採血管はガラス製だったのだろうか。実は真空採血管の性質上、真空の維持、血液凝固が早いなどの機能が求められるが、ガラス製はその作用が強いのだという。


「当時、プラスチックでは真空の維持が難しかったり、血液が付着してしまったり問題が山積みでした。しかし、社会課題である以上、新しい採血管を世に出そうという思いで向き合っていったのです」


採血管に適した素材はどこにあるのか? メンバーが探し続けた結果、見つけたのがPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂だった。今ではいわゆるペットボトルに使われている身近な存在だ。透明性がよく、耐薬品性に優れている。


「素材は見つかった。しかし、血液が付着しやすい問題は解決していない。そこで内側にガラスと同じような特性を持たせるコーティングをしていくわけです」


これには、積水化学グループが培ってきた、プラスチックを細長い形へ成型する技術、そして成膜技術が活かされた。


メディカル・プロジェクトの立ち上げ当初は、社内に血液関連の専門家がいなかったため、開発は試行錯誤だったという。


「その結果、独自に開発した血液凝固促進剤等の併用で血液を早く凝固させることに成功しました。また採血管の重要な構成部材として血清分離剤があります」


実際に見せてもらった真空採血管の底には白濁したものがあった。これが血清分離剤だ。採血後に遠心分離を行うと、血液は比重の小さい血清成分と比重の大きい血餅(けっぺい)成分に分かれる。このとき、血清分離剤が血清成分と血餅成分の間に入り込んで障壁をつくることで、血液検査に必要な血清成分を安定して採取できるというわけだ。


分離剤の条件として、普段は固まっているが、遠心分離を行うと柔らかくなることが求められる。高レベルの配合技術と生産技術が必要とされた。
血清分離剤


こうして世界初の割れないプラスチック製真空採血管「インセパック」が誕生した。1985年のことだった。普及が進み、今やプラスチック製の真空採血管が主流となった。1990年にはその功績が認められ、科学技術庁長官賞を受賞した。
次世代採血管はもう一つの社会課題を解決
インセパックの発売以来、積水化学グループのメディカル事業は事業領域を拡げていったが、インセパックの研究開発も同時に続いていた。


「以前は血液検査をすると『結果は来週に分かるので来てください』と言われた方もいるのではないでしょうか。これは血液凝固などで検査に時間がかかるためです」


そう話すのは、積水メディカル 基盤領域開発センター PAS開発グループ長の井上智雅だ。
積水メディカル 基盤領域開発センター PAS開発グループ長 井上智雅


「このタイムラグを減らすために血液凝固を早められないか。そこで研究を行い独自の高速凝固促進剤を生み出しました。遠心分離を行うためには、血液凝固してからとなるのですが、この待ち時間を減らせます」


これが1997年に登場した高速凝固タイプ採血管「インセパック-SQ/SQHシリーズ」だ。


「今では一部の検査は当日結果が出るようになりました」


医療機関側としても検査結果は1秒でも早く出して、問題があればすぐ対応したいというニーズはあった。患者側もその日のうちに分かれば満足度は必然的に上がる。当初はガラス管からプラスチックへの移行を目的としてきたが、高速凝固促進剤によって別の課題解決(検査の時短化)にも寄与できた。


現在「インセパック-SQ/SQHシリーズ」は「インセパックⅡ-SQ/SQHシリーズ」へと進化し、通常の凝固促進タイプの「インセパックⅡ-CGシリーズ」(「インセパック」の後継品)と比べて3分の1まで時間を短縮できているという。
そして今、新たな領域への挑戦
高速凝固タイプを世に出した積水化学グループは、新領域でチャレンジを続けている。井上は話す。


「五十川らと共に、これまで培ってきた分離剤配合技術を活かした遺伝子検査領域のプラスチック製真空採血管を昨年、発売しました。これをまずは国内で普及させていきたい」


遺伝子検査はゲノム・遺伝子の構成を解析して特定の遺伝子に何らかの変異が起こっていないかを確かめたり、その人の体質や特定の病気(遺伝性疾患等)へのかかりやすさ(発症リスク)を解析したりする検査だ。


積水化学グループのメディカル事業は、臨床検査薬、自動分析装置の開発製造販売を主に行う「検査事業」、医薬品原薬等の受託製造を行う「医薬事業」、製薬企業の研究開発支援を行う「創薬支援事業」、検査薬原料製造や組み換えタンパク質の受託製造を行う「酵素事業」からで構成されている。売り上げは海外が半分を占めるという。だからこそ、海外のトレンドも目に入る。


「欧米ではがん検査などで遺伝子検査は活発に行われています。ただ、この検査では採血管はガラス管が主流です。そこで新市場へ挑戦するために、新しい真空採血管を開発、発売したのです」


検査はどのように行われるのだろう。例えば早期のがんリスクやがんの状態・治療方針、および染色体異常による疾患リスク判定を行う検査 (新型出生前診断)として、血中のセルフリーDNA(以下cfDNA)の濃度測定検査や遺伝子配列を分析する検査がある。一般的に健康な人の場合には血中のcfDNA濃度が一定の範囲を超えることはまれだ。ところががん患者の場合、cfDNA濃度が一定の範囲を超えて高まる傾向がある。また、遺伝子配列の情報から患者にとって有益な治療法を探すことができる。そのためこの測定は、有用であると考えられている。


「この血漿(けっしょう)中にあるcfDNAを安定したまま分離させるためには、新たな分離剤が必要になります。また、安定させるための薬液も変えなければならない」


検査内容によって求められる血液の状態は変わる。遺伝子検査においてもそれは同様であり、その検査内容に沿って血液を分離させていく必要が出てくる。積水化学グループは他社がこの薬液中心の開発であるのに対し、この薬液と分離剤の両方を開発している珍しい企業だ。分離剤は他社にOEMとして販売もしている。両方のノウハウを持っているからこそ、新市場へのチャレンジができる。
研究開発と製造が一丸となって「検査の入口=真空採血管」を社会に届ける
世界初のプラスチック製真空採血管「インセパック」シリーズは、山口県の徳山工場で作られている。五十川や井上らも、ここで研究開発をしている。


「品種は500種類以上あり、製品の種類に応じて複数の製造ラインを使い分けます。現在、フル稼働で対応しています」


徳山工場の製造部で主任を務める澄川徹也が話す。
積水メディカル 徳山工場 製造部 澄川徹也


工場ではプラスチックの管に血液を付着させないコーティングや、血液を凝固させる促進剤の付着、分離剤を充塡(じゅうてん)している様子を見せてもらった。
工場の様子


「特許となっている配合技術でインセパックを作ります。需要が伸びているので、品質を維持したまま製造数を増やすために『ムリ・ムダ・ムラ』をなくす取り組みを現場主導で進めています」


自身も製造ラインの責任者を務めた経験のある澄川は、現場担当らと共にグループ改善をし続ける。同席した上司の徳山工場長 兼 製造部長の内山博信は次のように話す。
積水メディカル 徳山工場長 内山博信


「真空採血管はいわば検査の入口のようなものです。社会に非常に役に立つ上に、ニーズも高まり続けている以上、私たちも汗をかかなければいけません」


だからこそ、苦労もあったという。


「ある年末、新配合の分離剤を充塡(じゅうてん)した採血管を横にしたら分離剤が流れてしまったのです。本来、分離剤は遠心分離時に柔らかくなるようになっており、この段階では固まっているはず。これはおかしい。しかし、工場側で何度チェックしても同じことになる。そこで五十川や井上らに話をして、分析をし、改善をしていった。気が付けば年が明けていたような気がします」
本来であればこのように傾けても分離剤は動かない


4人が口をそろえて話すのは「研究開発と製造が同じ事業場内で一緒に作っている」ことの強みだという。「研究開発側がこうだと思って作っても、現実の製造現場に落とし込むと予期せぬことは起きます。それを製造側と話し合い、研究開発側が改善するなど迅速に対応できます」。


4人は遺伝子検査の真空採血管を社会に広めるために、さまざまな取り組みも行っているという。五十川、内山、井上は遺伝子検査関連の学会にも入り、検査の標準化の動きをキャッチアップしながら開発・製造へ落とし込むようにしている。


「国内の遺伝子検査はまだ検査の標準化、規格化もこれからの状態なので、その段階から入って、ニーズを受け止め、製品開発に生かしたい」と井上は意気込む。人々の健康と未来に続く安心のために奮闘する彼らの挑戦の先には、次の世界初も見えてきそうだ。
*「インセパック」は積水メディカル株式会社の日本における登録商標です。


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