日本酒の香りとは?日本酒の香り成分とその由来を詳しく学ぼう

2024.04.19 11:50
清酒のラベルを見ると、原材料に米、米麹、または醸造アルコールと書かれているだけ。基本的に米と麹と水で造られる清酒ですが、実際には様々な香りを持っています。日本酒にはどんな香りがあるの?それは何故?そんな疑問に答えていきたいと思います。
日本酒の香りの種類
日本酒の香り成分は100種類以上あり、それらのバランスによって人間が感じる香りが決まってきます。麹菌、酵母、発酵経路によって生まれる香り。香りの種類を知ることで一歩踏み込んだ飲み方が出来、知識が増えることで更に日本酒を好きになれるのではないでしょうか。お酒を嗅いだ時に感じる基本的な香りを分類していきます。
フルーティーな吟醸酒
まずは吟醸酒でよく感じる、一番知られている香りについて解説していきましょう。
「吟醸造り(ぎんじょうづくり)」とはよく精米した米を使用して低温でゆっくりと発酵させた醸造方法のこと。吟醸酒用の麹(こうじ)を造ることは非常に重要ですが、第一に吟醸と記載するには精米歩合が60%以下と決まっています。ここまで削った米は脂質が少なく、それこそが香りの合成に影響するのです。そして醪(もろみ)を低温で管理することで酵母の活動を一般酒より抑え、醪日数が伸び、酵母や酵素の働きが変化し吟醸香(ぎんじょうこう)が出てきます。
リンゴのような香り「カプロン酸エチル」
2大吟醸香のひとつ、カプロン酸エチル。日本酒好きなら耳にしたことがある言葉なのではないでしょうか。
カプロン酸エチルは脂肪の一種であるカプロン酸とエタノールが反応して合成されます。吟醸麹に加え、カプロン酸エチル高生産酵母によってこのカプロン酸を多く生成しますが、何より低温で発酵させることが重要。
低温で発酵させると、一般酒に比べて酵母の生成系や酵素の働きに作用し、より生成されるカプロン酸エチルの量が増加すると考えられています。また醪での揮発を抑えられ、お酒に残るカプロン酸エチルの量が多くなるというわけです。リンゴやパイナップルに例えられる甘い香りは多くの吟醸酒で感じられます。
バナナのような香り「酢酸イソアミル」
もうひとつの吟醸香は酢酸イソアミル。イソアミルアルコールとアセチルCoA(アセチルコエー)がAATFase(アルコールアセチルトランスフェラーゼ)によって結合して生まれる香りです。このAATFaseは不飽和脂肪酸によって発現を阻害されてしまうため、脂肪を取り除いた高精白の米を使う必要があります。
また、酢酸イソアミルは全ての酵母でアミノ酸代謝が起こるため、吟醸造りをしているお酒には、濃度の違いはありますが酢酸イソアミルを感じることが出来ます。バナナやメロンに例えられ、こういった果実の香りのするお酒は、米を磨き、低温で丁寧に造られていると言えるでしょう。
マジックのような「イソアミルアルコール」
利き酒で高級アルコールと呼ばれているイソアミルアルコール。単体ではマジックインキのようなアルコール感のある香りですが、ケト酸から生まれる香気成分です。サプリメントでも知られるロイシンというアミノ酸。このロイシンは醪の中で分解と合成が両方行われていて、中間生成にケト酸があります。酵母菌体内におけるロイシンなどのアミノ酸代謝に関連して生成されるイソアミルアルコールが、アセチルCoAと反応して酢酸イソアミルになるのです。マジックインキと言うと印象はあまり良くないのですが、吟醸香の合成に大きく関わっているのです。
まるでソーヴィニヨンブラン「4MMP」
ここ数年注目されている4MMP(4-メルカプト-4メチルペンタン-2-オン)はライチやマスカットを連想させる香りで、白ワインやクラフトビールのホップの一種に含まれています。消化されやすいタンパク質であるグルテリンの含有量が低い、いわゆる低グルテリン米で仕込む事により日本酒でもこの香りが出せる可能性があり、醪の中のアミノ酸が少ない事で代謝異常を起こした結果、4MMPが生成されるのではないかと言われています。
複雑な香りの熟成酒
時間の経過によって物質が変化して出てくる香りがあります。近年では特に熟成酒への注目度は高く、10年や20年以上といった長期熟成の日本酒も目にすることが多くなりました。奥深く重厚な香りの成分を紐解きましょう。
カラメルやドライフルーツ「ソトロン」
熟成香の主要成分といえばメイラード反応によって生成されるソトロン。
メイラード反応とは、アミノ酸と糖、水が酵素を介さずに褐色物質を合成する反応。ゆっくりと玉ねぎを炒めると徐々に茶色へ変わっていく現象がそれです。大吟醸といったアミノ酸が少ないお酒は色の変化が少なく、保管温度、例えば氷温で熟成させても色の変化が遅くなり、逆に保管温度が高いほど早く茶色に色付いていきます。
また、アミノ酸の分解生成物のαケト酪酸と、発酵中に生成するアセトアルデヒドが結合することでも生成されます。
焦げたような「イソバレルアルデヒド」
メイラード反応の副反応としてアルデヒドを生成するストレッカー分解があります。これにより熟成中に様々なアルデヒドが生成され、特にアミノ酸の一種であるロイシンのストレッカー分解によって生じます。
イソアミルアルコールの前駆物質で、生酒を常温に置いておくとイソアミルアルコールがイソバレルアルデヒドに変化する反応を酵素が進めてしまうため、生老香の主要成分。ナッツや焦げたような香りですが、強いと全体のバランスを崩すので生酒の長期保存の場合は温度管理が重要と言えるでしょう。
その他の熟成による香り
他にもほうじ茶のような香ばしい香りのするピラジン類、エステル結合によって生成される蜂蜜に似た香りのコハク酸ジエチル。これら熟成によって生成された香りは年数によっても濃度が変わるため、ライトなカラメルっぽいお酒から、干し椎茸やスパイスのような香りがするお酒まで様々。樽で熟成させた場合は、バニラやチョコレートに例えられる樽香も加わるため、更に複雑になっていきます。
よくない香りとされるオフフレーバー
オフフレーバーとは、本来持つべきでない香りのこと。日本酒でも、その品質を評価するためにオフフレーバーの定義をしてきました。しかし、最近は今までオフフレーバーとされてきた香りも個性と捉える傾向にあります。人がどの程度感じるかで、味の深みに繋がったり不快な臭いとなったりするのです。
漬物のような「DMTS」
醪を搾った後の酸化、貯蔵中の化学変化、流通時の温度変化によって生まれる代表的なオフフレーバー。漬物を連想させるDMTS(ジメチルトリスルフィド)、にんにく様のDMDS(ジメチルジスルフィド)という物質で、硫黄化合物系の香りです。
スモーキー「4VG」
ワイン酵母やビール酵母にはこの生成活性がありますが、清酒酵母には4VG(4-ビニルグアイアコール)を作る遺伝子が無いため、麹造りの過程などで他の雑菌が混入した場合に発生すると考えられています。燻製のようなスモーキーな香りが特徴で、絆創膏や段ボールといった表現をされることもあります。
ヨーグルトやバター「ジアセチル」
「つわり香」とも呼ばれている乳酸菌飲料系の香り。発酵中の醪ではこの香りはせず、上槽のタイミングが早いと残存α-アセト乳酸が酸化されジアセチルが発生します。また、貯蔵においては火入れが十分ではない場合などに発生する火落ち菌という細菌によっても生成されます。
清涼感がある「アセトアルデヒド」
アルコール発酵の中間代謝物のピルビン酸が関係して増加するアセトアルデヒド。醪にアルコール添加した場合に生成されやすく、ピルビン酸が多く残存している状態の醪を上槽した場合も香りが強く感じられます。木香や草木、青竹にも似ており濃度が高い場合は刺激的で不快と感じますが、ごく少量の場合は青りんごを連想させ爽やかで清涼感と捉えられる事もあります。
その他のオフフレーバー
酒造りに必要な資材の臭いが移ってしまう事も。例えば掃除の時に殺菌剤を使用したり、新しい搾り袋で上槽したりすることで、樹脂臭、カビ臭、ゴム臭といった意図しない香りが出てしまう場合もあります。
香りの種類と成分を知って、日本酒への理解を深めよう
美味しいと感じる感覚は味だけではなく、香りの要素が非常に重要です。
日本酒も、実際には多くの香りを発していて、今回挙げた香りはほんの一部分。そして、フルーティーで華やかなカプロン酸エチルも濃度が高ければ重たくなり、オフフレーバーも場合によっては熟成させることで奥深くなり、香りというのは複合的で良い香りと取るか不快だと感じるかは全体のバランスによるものが大きいと思います。
これらの香りを嗅ぎ分け、どのようにお酒が醸されたのかを考えることで、今まで以上に幅広く、深く味わうことが出来ることでしょう。
まゆみ
酒匠、料理研究家。 1日も欠かすことなく酒を呑み続ける驚胃の持ち主。酒と蕎麦と音楽を愛する。著書「うち飲みレシピ」「スバラ式弁当」。viawww.instagram.com

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