ウォルト・ディズニー創立100年・松尾潔が「その功罪」を語る

2023.10.16 15:30
2023.10.16 up提供:RKBラジオ
今や世界中で愛される巨大エンターテイメント企業「ウォルト・ディズニー・カンパニー」が10月16日で創立100年を迎えた。しかしその歴史は光と影の両方がある。同日朝、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演した音楽プロデューサー・松尾潔さんが、まばゆいだけではないその功罪と、ディズニーが生み出した名曲たちを紹介した。
前編を聴く
ウォルト・ディズニー・カンパニー創立100年
ウォルト・ディズニー・カンパニーが、まさに今日10月16日、創業100年です。創業者ウォルト・ディズニー氏の顔は覚えていますが? これは僕の持論ですが、ウォルト・ディズニーと、「ケンタッキーフライドチキン」のカーネル・サンダースの2人は、われわれが日常的に接しているものを作り出した人で、名前もよく知られていますが「動いているところ見たことがない」アメリカ人の筆頭だと思います。

1901年生まれのウォルト・ディズニー氏の人生は、20世紀の始まりとともにあったといえます。そして、亡くなったのは1966年です。僕は1968年生まれですが、子供の頃見たディズニー映画では、ディズニーさん自らが登場し、いろんな話をするシーンが入っていたのを記憶しています。考えてみると、没後の方が長くなっているんですよね。

ウォルト・ディズニー氏が亡くなった後に、この会社を引っ張ったのは、実兄のロイ・O・ディズニーです。さらにその家族や子供の配偶者とかがどんどん大きくしていきました。今われわれが認識しているような「一大エンタメ企業」という存在は1980年代以降に確立されていったと考えてよいでしょう。
文化系も体育会系も、あらゆるエンターテイメントを牛耳る巨大グループに
創業から100年経った今、われわれが「ディズニー」と呼んでいるものは、大きく分けて3つあります。ひとつは、みんな大好きなディズニーランド、いわゆるテーマパークです。ディズニーの名前を使ったホテルやリゾートはハワイや日本にもありますが、これを運営したりライセンスしたりしているのはディズニー・パークス・エクスペリエンス・アンド・プロダクツという会社。

あとはディズニー・エンターテイメント。映画を作ったり、配給したりするところですが、そもそもの成り立ちはこの会社からですね。

さらに、ESPNというスポーツ専門のテレビチャンネルもディズニーのグループ企業です。フットボールやアイスホッケーはもちろん、野球、バスケットボールといった、アメリカで人気のスポーツの試合を放送しているのがESPNです。

ディズニーって、どうしても日本ではミッキーマウスを始めとするキャラクターのイメージ、そしてテーマパークという感じかもしれませんが、文化系のホビーだけではなく、スポーツも牛耳っています。つまり、文化部と運動部のどちらも仕切っているという言い方もできますね。

ほかにも、アメリカの3大民間放送ネットワークの一つに数えられるABCもディズニー傘下ですし、あとはピクサー、マーベル、最近でいうとHuluも傘下になっていますね。映画会社の20世紀フォックスもそう。そもそもはウォルト・ディズニーさんが手作業でミッキーマウスを始めとするキャラクターを生み出したところから始まりました。それが、エンターテイメントって、こんなに拡大して事業を大きくできるんだという実例を作ったわけですね。
プロパガンダ映画で国威発揚
実はウォルト・ディズニー氏の人物像は、われわれ日本人からすると、要注意人物でもありました。政治的には共和党を支持していて、第二次世界大戦中には、国威を発揚するようなプロパガンダ映画も撮っています。

中でも有名なのは『空軍力の勝利』という作品ですが、これは「日本本土への攻撃を今こそやりましょう」と、爆撃を煽るような内容です。これは1943年に制作されました。日本への攻撃はその翌年1944年に本格化したわけですから、この映画の影響は今、歴史的にジャッジされるべきじゃないかという声もあります。

エンターテイメントを作る人の思想が、どれぐらい社会に影響を与えるのかと問われる話ですが、ディズニーがプロパガンダ映画を作ったということは、記憶しておいていいでしょう。
会社としては時代にフィットさせていく
政治的な姿勢だけに限らず、人種やジェンダーに対する姿勢も、今の価値観で言うと「いかがなものか」と首をかしげるものがありますね。黒人の描き方に関して、彼は人種差別主義者と言われても仕方がないような姿勢でした。

だけど会社としてのディズニー・カンパニーは時代に対してフィットさせていく努力を行っています。わかりやすいところでいうと、今年の実写版『リトル・マーメイド』ですね。主人公アリエルをアフリカンアメリカンが演じるということで新しいディズニーを打ち出そうとしています。

僕のような、エンターテイメント業界の端っこにいる人間としては、たった1人で「こんなコンテンツがあれば面白いな」と思って作ったミッキーマウスが、ここまで事業として拡大できるんだということに驚きます。しかも、1980年代以降どんどん本格化していきました。

僕も青春時代と重なっていますし、ディズニーのアルバムをプロデュースしたこともあります。改めてディズニーとともに生きる時代というものを、今日考える1日にしてもいいんじゃないかなと思います。
後編を聴く
ここからは、ディズニー映画が生み出した名曲をいくつか紹介します。まずは「星に願いを」。これは1940年の映画『ピノキオ』の主題歌ですね。戦前ですよ! 日本の映画で、戦前の作品の主題歌はぱっと思い浮かばないと思います。しかも映画を離れてクリスマスソングとしても定番化しています。その年のアカデミー賞の作曲賞、歌曲賞も受賞して、もう掛け値なしにスタンダードと言ってもいいと思います。

続いては「ア・ホール・ニュー・ワールド」、『アラジン』の主題歌ですね。1980年代以降のディズニーの大躍進ぶりを象徴する90年代の名曲ですが、ピーポ・ブライソン&レジーナ・ベルのデュエットで、ビルボードのNo.1になっています。今日本でも、ヒットチャートの上位をアニメ映画やテレビアニメの主題歌が占めることは珍しくありません。

この曲に関していうと、われわれが一般的にイメージするアニメの主題歌である「子供たちが夢中になるものね」ではなく、「大人が聴く曲」ですよね。

そしてポップスの世界で「ジャイアンツ」と呼ばれる大物アーティストたちも、ディズニーの呼びかけに応じていろんな名曲を提供しています。エルトン・ジョンさんの「愛を感じて」。『ライオンキング』の主題歌です。1994年、もう30年近く前です。これもアカデミー歌曲賞を受賞しています。

『ライオンキング』は映画史上最も観客動員数が多かったアニメ長編映画といわれています。この映画、手塚治虫の『ジャングル大帝』のパクリじゃないかと言われています。ディズニーって功罪あって、こういうダークな噂もずっとついて回るんですが、その圧倒的なエンタメ力で、世界中のいろんな童話や伝承されてきた物語をディズニー流儀で作り直してきました。

アダプテーションしてディズニー仕様に作り直すことで、それがグローバルな人気を獲得する、ということを繰り返していました。そして、仕上げに使われるのはいつも圧倒的な名曲。音楽って怖い気もするんですが、ただやっぱりこういう名曲を前に抗うのは相当難しいと思います。

僕も10年ぐらい前、ディズニーの企画のアルバムをプロデュースしました。「ディズニーやるんだけど、曲貸してくれないかな?」とか、「一緒に歌ってくれないかな」って、平井堅さんとか東方神起とかMay J.さんとか、いろんな人たちに声かけたんですけど、みんな引き受けてくれますね。

そこまでディズニーに思い入れがないアーティストでも、「ディズニーの仕事やると家族が喜ぶんです」みたいなことおっしゃる方もいました。日本でも矢沢永吉さんのようなビッグネームもディズニーの仕事やっていますね。

ディズニーの作品で、日本語で歌われたものとして近年最も評判になったのは「Let It Go」ではないでしょうか。松たか子さんは有名な梨園のご出身であるということから、ある人は「この曲を介してウォルト・ディズニーと日本の梨園、歌舞伎が繋がった歴史的な瞬間だ」と言いました。

古き伝統、新しき伝統、新しい革新。いろんなことを考えるヒントを与えてくれるのがディズニーの文化だと思います。人を幸せにしてくれる企業であり、一方でその裏にはいろんなドラマ、美しいだけではない過去もあったという、ディズニー自体に対しても意識を傾けてみるのもいいと思います。もちろんそうすることによって、エンターテイメントの価値が薄れることはないでしょう。
田畑竜介 Grooooow Up放送局:RKBラジオ放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分出演者:田畑竜介、橋本由紀、松尾潔
出演番組をラジコで聴く
田畑 竜介橋本 由紀松尾 潔
※放送情報は変更となる場合があります。

あわせて読みたい

【海外ディズニー】世界で7番目のテーマパーク&リゾート計画を発表!アブダビのミラル社とタッグ
cinemacafe.net
【ディズニーの世界観で楽しむカフェ】「Disney HARVEST MARKET」でミッキー&ミニーマウスの春限定のスペシャルメニューがスタート
PR TIMES
フルーツや野菜の自然の甘みを活かしたスムージー2種発売
PR TIMES Topics
【昭和レトロに心躍る】福岡市南区の骨董店Katsuで時を旅する
radiko news
HKT48坂本愛玲菜・グループ卒業を前にリスナーから送られた一曲とは?
radiko news
Cycle.meより新商品「食物繊維がとれる水」販売開始
PR TIMES Topics
日本人の睡眠不足の実態と改善法…健康リスクを防ぐ快眠の秘訣とは?
radiko news
ミャンマー拠点の特殊詐欺集団、日本を結ぶもう一つの「点と線」
radiko news
【F CHOCOLAT】ストロベリー味のショコラタブレット新発売
PR TIMES Topics
絶景と人々が織りなす山物語…TBSドキュメンタリー映画祭で上映『小屋番』の魅力
radiko news
米中関税戦争の行方…中国は「正義の味方」となり得るか?
radiko news
中台で情報戦激化の様相…中国が台湾のサイバー部隊を名指し非難
radiko news
ウクライナ戦線に現れた中国人傭兵、その衝撃と中国の複雑な立場
radiko news
「学校を管理せよ」――中国“教育強国”の行方をウォッチャーが解説
radiko news
米ウ首脳会談が決裂…レアアースをめぐり、ほくそ笑む国はどこ?
radiko news
日中外相会談「いかなる時でも顔を合わせる」ことの難しさ
radiko news
全人代でも議論に?最高裁がわざわざ通達した「中国の結婚トラブル事情」
radiko news