#アップサイクル #開発ストーリー #誕生秘話
株式会社80&Companyは、“ゼロから無限大をつくる”をミッションとし、共創型新規事業開発を行う企業です。「新しいことに挑戦したいけど、どんな新規事業を始めれば良いかわからない」などの悩みを持った企業と伴走して新規事業開発を行っています。今回は、有限会社画箋堂さんとの新製品開発のストーリーについてお話します。
大正2年からお客様の「つくる」を支え続けている有限会社画箋堂
当社と一緒に今回の商品開発を進めてくださったのは、美術の都として栄えた京都にて大正2年に創業して以来、100年余りお客様の「つくる」 を支えてきた画材・額縁の専門店画箋堂です。ただの画材販売店として作品づくりの素材や道具を売るだけではなく、額縁オーダーや美術教室の運営、作品の展示に関するサポートなど、表現活動を支える「学ぶ」「つくる」「見せる」全てのプロセスに必要なサービスに対応しています。
毎月20kgが廃棄されていた額装マット紙。廃棄を減らしたい思いでアップサイクルを模索した
80&Companyと画箋堂は、以前より新規事業共創の話を進めていました。そのヒアリングのなかで出た「額装マット紙の廃棄を減らしたい」という一言。それがこのプロダクト開発のはじまりでした。
額装マット紙とは、額縁オーダーの際に必ず使用する絵画の保護を目的とした厚紙です。額縁のガラス面と作品が接触することを防ぎ、作品の保存性を高める役割があります。額縁、額装マット紙、作品の順に重ね、額装マット紙は作品が見えるように作品の形にあわせて切り抜かれています。そのため、その切り抜かれた端材は使い道がなく廃棄されていました。その数、なんと毎月の受注で使用するぶんの約3割、重量にして約20kgにも及んでいました。
額装マット紙は作品を守る役割のため、品質の安定した中性紙で耐久性もあります。そんな良質な資源を廃棄してしまっているという問題を解決するため、私たちは「額装マット紙」を新たに再利用するためのアイデアを模索することにしました。
まずはアイデアをたくさん出そうと、紙で作れるものをとにかくたくさん出しました。ホテルのドアプレートやファイル、しおり、アロマディフューザー、モビール...。幅広いアイデアが出ました。
そのアイデアのなかから絞る際に着目したのが、額装マット紙の“硬くて耐久性がある”という特性です。その特性とアイデアを掛け合わせて考えた時に、最も相性が良さそうだと感じたのがアロマディフューザーでした。試しに、額装マット紙を小さく切ってアロマを垂らし、1週間ほど様子を見たところ、香りは持続し紙が破れるようなこともなかったので、「これはいける!」と確信しました。
紙で作るアロマ製品にも様々な種類がありますが、多くの人に使ってもらいやすいという理由から、紙製のディフューザーを使ったルームフレグランスを作ることになりました。
リードディフューザーのデザインは町で愛される画材屋らしく学生公募で
ルームフレグランスを作るには、ディフューザーの他に、容器とアロマが必要です。まずはメインであるディフューザーの製作に取り掛かりました。素材はすでにあるので、必要なのはデザインです。そこで、美術系の学生との繋がりがある画箋堂らしく、学生向けのデザインコンペを開催することにしました。
制作期間が4ヶ月しかないので、公募期間も3週間と短い中でしたが、SNSや京都美術工芸大学の授業での宣伝のおかげで、20件ほどの募集を獲得することができました。審査には京都美術工芸大学の先生にも加わっていただき、審議の結果、最優秀賞を受賞したのは、日本の伝統文様「立涌(たてわく)」をイメージした作品です。
立涌は、香りが立ち上る様子を表現した伝統文様で、縁起のいい模様とされています。シンプルでありながら飽きが来ないデザインで、長く楽しんでもらうことができるので、香りを嗅覚だけでなく、視覚的にも楽しめるように、という思いも込めてこのデザインを選ばせてもらいました。また、この形状にカットする際に、刃に40度の角度をつけることで波上のデザインを立体的に見せるなど様々な工夫を取り入れています。
アロマポット、アロマも京都産でこだわりをもって制作
画箋堂も80&Companyも京都の企業なので、せっかくならということでアロマポットとアロマも京都の会社に協力してもらいました。アロマポットは、京都の伝統工芸である清水焼で「fuuu」ブランドを展開している奥村企画さんにご相談。画箋堂は創業以来ずっと京都の河原町五条にお店を構えていることもあり、生産地が近いということで清水焼を採用しました。私たちの要望も丁寧に聞いていただき、和にも洋にも馴染むデザインとなっています。
アロマは、ミュウセレクトさんにお願いしました。京都は林業が盛んなので、香りを作るなら自然環境を表現したい、ということでリクエストしました。ブレンドする香りとの相性やバランスも考えて、金木犀には柚子を、黒文字には黒文字を、スミレには杉の香りをアクセントとして加えてもらい、京都の要素も入ったアロマオイルが仕上がりました。
こうして、ディフューザー、アロマポット、そしてアロマオイルが仕上がり、ルームフレグランスが完成しました。
額装マット紙をアップサイクルしたルームフレグランスartme
こうした過程を経て、制作期間わずか4ヶ月で完成したのが、ルームフレグランス「artme-アトメ-」です。
<コンセプト>
アートの“余白”が、“香り”をまとい生まれ変わるーー。
artme - アトメ - は、アートを飾る過程において、
本来は捨てられていたはずの端材に
“arome”(香り)をまとわせた新しい“art”(アート)です。
まさに唯一無二。
生産地である京都の街並や自然を連想させる嗅覚体験が
あなたに豊かな時間をもたらします。
今までは、額装マット紙はアートを「飾る」ものでしたが、「香る」ものへ。アロマは「嗅覚」だけでなく「視覚」でも楽しめるものに変化させました。本来、アートには香りがありません。しかし、今回は香りがメインのアートです。せっかくなのでそれを活かした名前にしたいという想いから、“arome”(香り)をまとわせた新しい“art”(アート)として「artme-アトメ-」と名付けました。
実は、画箋堂ではもともとフランス留学する作家・画家との関わりが強く、美術教室「creer」やオンラインショップ「materie」の名前はフランス語からきています。そのため、今回もフランス語であるaromeにちなんだ名前にしました。
今後はエシカルなプロダクトとして活動の幅を広げたい
2023年4月に先行販売としてクラウドファンディングにて販売開始したところ、目標の2倍以上の売り上げを達成。さらに、テレビでも取り上げていただいたりと順調なスタートを切ることができました。その後は、京都市で開催されている「リユース」をテーマにした循環フェスへの出展や、ただいま開催中の大丸東京店の明日見世というショールームスペースへの出展など、エシカルなプロダクトとして活躍の幅を広げています。
artmeは、本来なら捨てていたはずの端材から誕生したプロダクトです。世の中にはまだ使えるけど捨ててしまっているものは探せばたくさんあるのではないかと考えています。「捨てるのがもったいなくて何かに使えないかな」と考えている人のもとへartmeが届き、少しでも何かのきっかけとなることができるようにこれからも活動を続けていきます。
また、今後はアップサイクルを軸にアートの新しい楽しみ方を伝えて行きたいと考えています。誰でも使えるアロマ製品だからこそ、今まで画材に関心のなかった人にも画箋堂のことを知ってもらうきっかけになれば嬉しいです。
<artme商品情報>
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