この記事をまとめると
■BYDのラインアップに新たにコンパクトEVの「ドルフィン」が追加された
■車高を20mm低めるアンテナやウインカーレバーの右側移設などローカライズも抜かりなし
■走行性能や装備内容も含めてドルフィンは日本市場でも十分に成功の可能性を秘めた一台だ
ただ日本に持ってきて売るだけじゃないBYDのホンキ
1995年にバッテリーメーカーとして設立された中国のBYD。2008年にはその技術力を最大の強みとして、電気自動車(BEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)を生産する自動車メーカーに転身。昨2022年には世界の6大陸、70超の国と地域で186万台を記録している。その急成長ぶりを知らないのは、これまでBYDの存在がほとんど知られていなかった、この日本だけなのかもしれない。
そのBYDが、日本での乗用車セールスに本格的に進出することを発表したのも2022年のことだった。BYDはそれまでにも2021年には日本市場向けの量産型大型EVバス、「K8」のセールスをスタートしており、それ以前にも沖縄県に観光仕様の大型EVバス「C9」を納入するなど、日本市場への取り組みにはすでに十分な実績があった。
乗用車ではすでにミドルサイズe-SUVの「ATTO 3」が導入済みで、今回新たにラインアップに追加設定されたコンパクトEVの「ドルフィン」、そして将来的にはハイエンドEVセダンの「シール」による3モデル展開で、日本国内に100店舗以上のディーラーネットワークを構築する予定であるという。ちなみにそのなかで47店舗はすでに開業が決定しているというから、これはまさに日本のEV市場においてはビッグニュースといえる。
ドルフィンは、ATTO 3と同様に同社の最新世代プラットフォーム「e-Platform 3.0」をベースとするモデルだ。ボディサイズは全長×全幅×全高で4290×1770×1550mm。これはヨーロッパ車で比較するのならばBセグメントとCセグメントの中間に位置するサイズであり、ルーフ上のアンテナを日本仕様独自のデザインにローカライズすることで、立体駐車場へのアプローチを容易にする1550mmの全高を実現するなど、コンパクトカーとしての使い勝手を第一に考えたサイズ設定、そしてパッケージングを意識したデザインを施しているのが大きな魅力だ。
エクステリアでのアイキャッチは、やはりボディサイドを鋭利に流れるキャラクターラインで、ドルフィンのネーミングからも想像できるとおり、生き生きとした、そしてアクティブな印象を抱くボディデザインは、幅広い年齢層のユーザーから好まれる可能性を秘めている。
BYD第2のモデルは日本市場でも十分に成功の可能性を秘めている
インテリアも大胆な曲線を使うことで、あたかも自分が海の中にいるかのような印象を抱かせてくれる。ウインカーレバーを国産車ユーザーが使い慣れた右側とするなど、こちらも日本仕様へのローカライズは万全。
センターの大型ディスプレイは使用する目的によって、スイッチ操作で横方向にも縦方向にも回転。たとえばナビゲーション画面などは圧倒的に縦方向で使用した方が使い勝手には優れるだろう。
ドルフィンに用意されるグレードは、スタンダードな「ドルフィン」と、「ドルフィン・ロングレンジ」の2タイプ。前者には44.9kWhの、後者には58.56kWhの容量を持つBYD製のリン酸鉄リチウムイオンバッテリーが搭載され、最大航続距離はそれぞれ400km、476km(WLTCモード、BYD調べ)。急速充電はCHAdeMOに対応する。
今回試乗したモデルは、最高出力で95馬力、最大トルクで180Nmを発揮するスタンダードなドルフィンだったが、市街地レベルでの走りではそのパフォーマンスに不満を感じることはほとんどなかった。
加速フィールもナチュラルなもので、EVらしい強烈な加速を楽しみたいカスタマーには、それはやや物足りないのかもしれないが、必要なときには発進時でも中間加速時でも、十分満足できる加速が得られるのはうれしい。最高出力が204馬力とされるロングレンジは、さらに走りにスパルタンな印象が加わるのだろう。
BYDのブレードバッテリー、そしてスタンダードモデルに使用されるトーションビームサスペンションの恩恵で、走行中の剛性感はこれも相当に高い。
唯一残念なのはここまで魅力的なモデルを作ったのだから、装着されるタイヤからのロードノイズをもう少し上手く処理してほしかったという点。
ともあれ、その装備内容も含め、新たに加わったBYD第2のモデルは、日本市場でも十分に成功の可能性を秘めた一台、と結論づけてもよいだろう。