MSC漁業認証において“世界的な成功事例”となった岡山県邑久町漁協の「海を守り、地域を発展させる漁業」への挑戦。

2023.08.24 10:00
瀬戸内海に面する小さな町、岡山県邑久町(おくちょう)。筏に縄を吊るして育てる「垂下式(すいかしき)漁法」で牡蠣の養殖を行っており、その生産量は岡山県内の半分ほどを占めています。2019年、牡蠣の加工・販売を手がける株式会社マルト水産主導のもと、提携する邑久町漁業協同組合とともにMSC漁業認証(※1)取得に向けたプロジェクトがスタート。UMITO Partnersの協力を得ながら、同年12月に牡蠣の垂下式漁において世界初となる「MSC漁業認証」を取得しました。


MSC漁業認証の審査は独立した機関によって行われ、認証取得後も審査機関による年次監査が実施されます。2023年に邑久町漁協は3年目となる年次監査を完了し、本年の年次監査では、サステナブルな漁業における世界的な成功事例の基準とされる「条件なしのMSC漁業認証」として認定されました。
認証漁業者の数も取得の翌年にあたる2020年には13人から30人へ増加。そんな邑久町漁協がMSC漁業認証を取得するに至るまで、そこから生まれた変化と、今後への思いについて、
代表理事組合長の松本正樹さん、
科学・調査分析部 森麻緒博士に伺いました。
認証取得までの道のり——次世代を担う若手メンバーでMSCチームを結成
松本組合長は生まれながらの漁師ではなく、実は元々商社勤めのサラリーマン。営業職で長らく働いていましたが、妻の家業である牡蠣養殖で後継がいなかったことから、40代で未経験の牡蠣養殖の道へ。それから20年間、牡蠣の養殖を続けてきました。組合長に就任後、しばらくは漁業と両立していたものの、やがて組合長の仕事に専念。


「私が牡蠣養殖を始めた頃、組合には80軒を超える漁家が所属していました。ところが現在の登録軒数は57軒。この軒数は今後も後継者不足により減少を続けることが見込まれています。牡蠣の消費量も年々減っており、頭を悩ませていた頃に出会ったのがMSC漁業認証。世界的な基準であるMSC漁業認証を取得することで、邑久町の牡蠣を知ってもらい、私たちの強みにできれば。そんな思いから、認証取得を目指すことになりました。


邑久町のMSC牡蠣は地種のみを使った完全な自然養殖。いい作物を育てるために豊かな土地を育てるのと同じように、いい牡蠣を育てるためには海の環境を豊かにすることが不可欠です。そんな思いもあり、MSC漁業認証に向き合うことにしました。」(邑久町漁業協同組合 松本組合長)
認証取得を目指すにあたり、若手漁家を中心に20名弱でチームを結成しました。


「若手を中心メンバーにした理由は二つあります。一つ目はこれから持続的な漁業を行なっていく上で、一番の担い手となるのが若い生産者たちだから。仮に認証が取得できなかったとしても、若手たちに海を大切にする意識が残ればいいという思いがありました。二つ目は、彼らに邑久町を誇りに思ってもらいたかったから。邑久町は西に「日生カキオコ」のグルメで知られる日生(ひなせ)、東に「日本のエーゲ海」と呼ばれる牛窓に挟まれています。ところが間に位置する邑久町は、県外ではほとんど名を知られていない。自分達の産地の知名度がない、そんな不満を持つ若手たちに、MSC漁業認証を強みに邑久町をもっと知ってもらおうと呼びかけ、チームを結成しました。」


2019年よりマルト水産が主導となり、邑久町漁協と共同でMSC漁業認証取得に向けたプロジェクトを開始。予備審査では、本審査に必要なデータを収集するための定性調査の方法をUMITO Partnersが指導し、マルト水産など関連企業にて調査を実施するなど認証取得に向けた準備を行いました。
「MSC漁業認証を取得するためには、さまざまな調査や書類の提出を求められます。生態系や絶滅危惧種に影響を与えていないか、法律を遵守しているか、など。何を証明するにも数字や証拠が必要になるので、とても難しい作業です。本業とは直接関係のないデータも数多く、協力的な方ばかりではないのが一般的。ところが邑久町漁協では、松本組合長のお声がけで組合員やステークホルダーの皆様からたくさんの協力を得ることができました。その結果、平均18ヶ月かかると言われる認証取得を、7ヶ月で成功させたんです。長らく営業の仕事をされてきた、ある意味『異端児』な松本組合長ならではだなと、驚きました。」(UMITO Partners 科学・調査分析部 森麻緒博士)
メンバーに主体性が生まれ、いつしかMSC漁業認証のプロ集団に
認証取得後はたくさんの変化がありました。邑久町の牡蠣は全国のスーパーや売り場で販売されるようになり、渋谷
。全国的に名の知られる産地になったことは、漁師たちにとって大きな喜びでした。認証取得の実績ができたことで、邑久町の牡蠣が一つのブランドとなり、対外的にも話がしやすくなったといいます。そして何よりも大きく変わったのが、主体となった若手メンバーたちの意識でした。


「MSC漁業認証取得のプロセスを通して、チームメンバーに主体性が生まれたのが一番の変化です。例えばこれまで海岸清掃は漁協が決めた日に全員一斉に行なっていました。中にはいやいや参加する人、早く終わらせたいなと思う人たちもいます。ところが今では、自主的に清掃を行うチームが出てきました。いつも以上にゴミもたくさん拾ってくるし、何より楽しそうに取り組んでいる姿が印象的でしたね。認証取得に向けてさまざまな勉強をする中で、海の大切さ、そのために海岸清掃をする必要性に自分達で気づいた結果です。」(松本組合長)
外部パートナーであるUMITO Partnersの森博士もその変化に目をみはりました。


「MSC漁業認証は取得後も年次監査という審査が毎年行われます。そのため、絶滅危惧種の観測や、筏の設置場所の底質調査など、漁業の本業にプラスアルファで実施しなければならない調査がたくさんあるんです。邑久町漁協のように漁師が自ら調査を行うことは例外的で、当初は、なぜ自分達がこんなことをするのか?と懐疑的な漁師の方もいました。ところが先日行われた審査機関によるインタビューでは、漁師の方自らが調査の必要性を説明できるまでに。漁師が専門的な知識も兼ね備える、プロ集団になっている。これからの邑久町では、そうした漁師の在り方がスタンダードになっていくんだろうなと思います。」(森博士)
未来に向け、さらなる取り組みに挑戦中
昨年から、UMITO Partners協力の元で勉強会を開催。牡蠣や漁業についてのみならず、MSC漁業認証や他の認証マークについて、その違いや強みなど、幅広く学べる機会を作っています。漁師にとって、養殖については家業として代々受け継がれるものの、その背景にある海のこと、漁業権や漁場計画などの知識は受け継がれることはほとんどありません。邑久町では勉強会を通して漁師の教育を行い、新しい風を取り入れることを目指しています。


「僕らは牡蠣のことしか分かりません。MSC漁業認証の監査においても、県の水産課と話す時も、専門的な話をされると通じないことが多々ある。UMITO Partnersは通訳のような役割で間に立ってくれ、さらに基礎知識もつけてくれるので、今ではなくてはならないパートナーです。」(松本組合長)


邑久町漁協ではMSC漁業認証以外にも未来のために取り組んでいることが二つあります。一つ目が脱炭素に向けた取り組み。今年4月、環境省が実施する「
」に瀬戸内市が選ばれ、邑久町漁協は共同提案者として名を連ねました。具体的な取り組み内容として、これまで焼却処分されていた廃棄筏をチップ化し、地場産業設備の燃料として再利用する計画が上がっています。


二つ目が市場環境の改善。近年の冷凍牡蠣の需要増加に伴い、過去から比べ、現在は2ヶ月以上も出荷時期が長引いています。そこで市場に冷蔵施設を新設し、温度管理ができる市場にすることで、さらに長期間の出荷を可能にし、出荷量と売上向上に貢献することを目指します。


「今の漁業者は2世、3世として養殖業を受け継いできた人が多く、次の世代につなげたい、という意識が強い。ところが後継者不足は深刻で、試算では10年後には漁家数は42軒、20年後には32軒まで減ってしまうという結果が出ています。一方で牡蠣養殖は、ゼロから参入するには初期投資があまりに大きく、ハードルの高い業種です。そこで私たちは、少しでも新規の就業者を増やし、後継者がいない事業の継承者として参入してもらえたら、と考えています。そこで現在県や市とも相談しながら、一般の方に向けたシンポジウムを開催したり、漁業関係の就職イベントにも出展し、少しでも興味を持ってもらえるような取り組みをする予定です。


昔は漁師は牡蠣のことだけ考えていればよかったけど、今の時代、もうそれだけでは生き残っていけない。地場産業がなくなれば人も減ってしまうので、地域にとっても産業を守ることは何より大事なことです。MSC漁業認証も一度取得したら終わりではなく、継続していくことが必要。そのために、気持ちを絶やさず、これからも新しい取り組みや挑戦を続けていきます。」(松本組合長)
※1:MSC漁業認証
MSC漁業認証を取得した漁業は、持続可能な漁業という点において、国際的に最良な漁業基準を満たしていると証明されます。認証を取得した漁業で獲られた水産物で、MSC漁業認証、CoC認証に則り管理された水産物には、消費者への目印としてMSC「海のエコラベル」を付けることができます。漁業が認証を取得するためには、独立した審査機関による厳格な審査が必要となります。

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