ジープ・ラングラー/グランドチェロキー/レネゲード4xe(PHEV=プラグインハイブリッド)に試乗しました。
PHEVという「付加価値」
CO2削減に端を発する自動車のパワートレイン電動化の流れは、そこに最も縁遠いブランドだと思われていたジープとて例外ではない。
昨年秋に発表した中期計画ではこのような方針が掲げられている。
【画像】一気乗りした! ジープ・ラングラー/グランドチェロキー/レネゲード4xe【ディテール】 全43枚
・北米と欧州で2025年までにZEVを4モデル導入
・ワゴニア4xeを含め、アメリカで販売している全モデルに電動化モデルを導入
・2030年までにアメリカの新車販売の50%を、そして欧州で販売する100%の製品をBEVに移行
と、極限環境での用途を無視できないモデルを擁するブランドでさえ、それなりの目標を立てなければならないほど電動化対応の圧力は厳しいものなのになっているのだろう。
でも、ジープとしてはこの状況下を逆手に取って、むしろ新しい付加価値を生みだそうとしているようにも窺える。
内燃機からモーターへの置き換えによって得られるまったく異なるトルク特性と、それに伴う緻密な駆動制御とが、悪路走行時のトラクションにプラスに活かせるようになるのではと、それはわれわれドライバー側にとっても新たな四駆体験となるはずだ。
それを称して4×4ならぬ4xeと。そんなジープの電動化パワートレインのラインナップは、日本市場においてはレネゲード、グランドチェロキーそしてラングラーの3種類になる。いずれも普通充電のみに対応したプラグインハイブリッドだ。
ラングラー4xe
このうち、最も新しいモデルとなるのがラングラー4xeだ。電動化というキーワードとは最も結びつきにくいブランドのアイコンにそれを投じてくる辺りに、ジープの本気ぶりが透けてみえる。
搭載エンジンは現在のJL型ラングラーのスタンダードともいえる2L4気筒直噴ターボで、そのアウトプットは272ps/400Nmと変わりはない。
そのエンジンと8速ATとの間に145ps/255Nmの駆動用モーターを組み込み、クラッチ制御によって独立や協調、回生などエンジンとの連携をコントロールする。
また、エンジン側には始動や発電用のモーターも組み込まれており、ドライブモードに応じてエンジン稼働中の発電も担っている。
駆動用のリチウムイオンバッテリーは後席下部に収められ、その容量は15.5kWh。BEV走行の可能距離はWLTCモードで最長42kmと発表されている。急速充電には非対応、200V普通充電での所要時間は5時間程度といったところだろう。
ラングラー4xeの日本仕様の展開はルビコンのみ。副変速機はもちろん、スウェイバーのディスコネクトなど悪路走破想定の装備もそのまま、装着タイヤもマッドテレインとなる。モノが電気でもやることはやると言わんがばかりのグレードというわけだ。
そもそもがクロスカントリー的出自のクルマにして、グレード的に履いているタイヤの特殊性も相まってか、ラングラー4xeでのBEV走行は重機でも操っているかのようなノイズ感が印象的だ。
特にエンジンの稼働である程度マスクされていた細かなギア鳴りや足回りの作動音などが際立ってしまうのは致し方ないところだろう。もちろん相対的に静かであることは間違いなく、特に発進〜50km/hくらいの街中で多用する速度域でのキャビンの快適さはラングラーらしからぬところだ。
大出力のスタータージェネレーターも採用していることもあって、エンジンの始動は素早く滑らかだが、ハイブリッドモードで多用されるモーターとの協調時にはクラッチコントロールの限界か、力の繋がりに段差も感じられる。
但し、双方が稼働してのパワフルさは4×4が積むペンタスターV6にも比肩、もしくはそれ以上の迫力を感じさせるほどだ。高速ダートやサンドなど、パワーを要する場面でのパフォーマンスにどのような効果があるのか、或いはロックやモーグルといった場面でモーターのトラクション能力がどのように活かされるのか、ラングラー4xeの興味は尽きない。
グランドチェロキー4xe
と、それほどの局地的な性能は要さずとも、日常性や快適性をもっと重視したいという向きにはグランドチェロキーの4xeという選択肢がある。
パワートレインの構成はラングラー4xeと同じ2Lユニットをベースとしたもので、モーターの出力も同じ。
バッテリー容量は若干低い14.9kWhと表記されるが、実質的には同じだという。WLTCモードでのBEV走行可能距離は最長53kmと、ラングラー4xeより2割ほど長い。各種フリクションや空力など走行抵抗の違いが現れているのだろう。
グランドチェロキーはさすがにBEV走行の長所を走りにおいてぐっと引き上げる。音/振動の類でモーターの特性を阻害する要素はなく、タウンライドでの快適性は折り紙付きだ。
丁寧に乗れば高速巡航に至るまでエンジンの稼働は抑えることが出来るし、エンジン稼働時の音振の侵入もラングラーよりは小さい。
四駆システムや駆動制御も内燃機モデルと同等のものを備えており、悪路でのフールプルーフぶりもそのままだ。街中での涼しい顔をそのままに、唖然とするほどの難所まで分け入ることが出来る。グランドチェロキーのダイナミックレンジを一層引き上げることもPHEV化の利といえるだろう。
レネゲード4xe
ジープブランドで最も早く電動化を果たしたのがレネゲード4xe。横置きエンジンのFF系パッケージを軸とする同車の後輪側に128ps/250Nmの駆動用モーターを配し、ドライブシャフトを廃した四駆を実現している。
搭載バッテリーの容量は11.4kWh。最高速130km/hまでのBEV走行を可能とし、WLTCモードでのBEV走行可能距離は最長52kmと、実用的な性能を有している。
レネゲード4xeでは雪上を走ったことがあるが、後輪のモーター駆動による蹴り出しの穏やかさや、エンジンが稼働しての四駆走行の駆動連携の巧さに感心させられた。
もとよりレネゲードは内燃機モデルでも横置きFFベースにして望外の走破性を備えている。街乗りベストにみえて相当走れるクチという、そこに現れるのは悪路に向き合ってきた経験値の違い、それを反映した駆動制御ノウハウということだろう。
アベンジャーやリーコンも
残念ながらラングラーとグランドチェロキーでは悪路環境を試せていないが、ジープの4xeの一番のポイントはまさにそこ、すなわち悪路適応力を毀損しないことにある。
ジープは来年以降、日本においてもBEV展開を開始、その計画の中には既に欧州で発売されている「アベンジャー」に加えて、純然たるモーター四駆オフローダーの「リーコン」も含まれている。まったく新しいメカニズムであれジープはジープ。
FCAジャパン(株)マーケティング本部ジープ・コミュニケーション・マネージャーの新海宏樹氏。ジープの現状と戦略を語った。
記事に関わった人々
執筆:渡辺敏史
1967年生まれ。企画室ネコにて二輪・四輪誌の編集に携わった後、自動車ライターとしてフリーに。車歴の90%以上は中古車で、今までに購入した新車はJA11型スズキ・ジムニー(フルメタルドア)、NHW10型トヨタ・プリウス(人生唯一のミズテン買い)、FD3S型マツダRX-7の3台。現在はそのRX−7と中古の996型ポルシェ911を愛用中。
撮影:宮澤佳久
1963年生まれ。日大芸術学部写真学科を卒業後、スタジオ、個人写真家の助手を経て、1989年に独立。人物撮影を中心に、雑誌/広告/カタログ/ウェブ媒体などで撮影。大のクルマ好きでありながら、仕事柄、荷物が多く積める実用車ばかり乗り継いできた。遅咲きデビューの自動車専門誌。多様な被写体を撮ってきた経験を活かしつつ、老体に鞭を打ち日々奮闘中。
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